陽炎
ー/ー 自由に羽を動かして、柔らかく飛ぶそれらに想いを馳せていると、公園の入口から虫採り網を持った少年と、虫籠を持った少女が入ってきた。
「あっ! 蝶々だ」
そう言いながら、自由に飛び回る青条揚羽に網を被せようとする。しかし、二匹の青条揚羽は、ひらりとそれを躱して、事もなげに、何処へともなく姿を消した。
「ちぇっ。逃げちゃった」
口を尖らせる少年に、少女は「お兄ちゃん、あっち。団地の方に行こう!」と声を掛けて、去って行った。
「蝶は、止まった時でないと捕まえるのは難しいんだけどな」
僕はこっそりと呟いて、苦笑いした。
あの少年少女は、虫採りは初心者なのだろうか。僕自身も、初めて虫採り網をこの手に持った時には、自由に飛び回る蝶や蜻蛉を追いかけ回して、往生していたことを思い出した。
幼い元気な兄妹に微笑ましさを覚えながら、僕もベンチを立った。
時間は穏やかに経過していたのであろう。公園に入る前よりも、太陽は高いところで輝いていた。散水されていたアスファルトの地面は乾いて、ゆらゆらと陽炎が立ちのぼっている。
「暑いなぁ……」
僕の口からは、ぼんやりとその言葉が溢れる。夏のお昼間近になると、本当に暑い。毎年のように、過去最高の気温データが更新されており、僕が子供の頃よりは確実に暑くなっている。
それは、温暖化が進行して、地球が壊れ始めている所為なのだけれど……それでも、先程、公園で見た風景や青条揚羽、そして虫を追いかける少年達の姿は昔から変わらない。そのことに、僕はそこはかとない安堵を覚えた。
街路樹には幾匹も蝉が止まっているようで、木の上から鳴き声が、シャワーのように降り注いだ。昔は、町中で鳴く蝉はほとんどが油蝉であったけれども、今ではほとんどが熊蝉となっている。そうした変化も地球温暖化の進行に因るものらしい。
自宅までは徒歩で数分の距離であるのに、ひどく遠くに感じた。それは、一歩一歩、足を動かすことに抵抗を覚えるような、体が言うことを聞かぬような、気怠い感覚であった。青条揚羽はあれほど軽やかに舞い飛んでいたのに……人間は大人になると、逆に体が重くなるようだ。
「あっ! 蝶々だ」
そう言いながら、自由に飛び回る青条揚羽に網を被せようとする。しかし、二匹の青条揚羽は、ひらりとそれを躱して、事もなげに、何処へともなく姿を消した。
「ちぇっ。逃げちゃった」
口を尖らせる少年に、少女は「お兄ちゃん、あっち。団地の方に行こう!」と声を掛けて、去って行った。
「蝶は、止まった時でないと捕まえるのは難しいんだけどな」
僕はこっそりと呟いて、苦笑いした。
あの少年少女は、虫採りは初心者なのだろうか。僕自身も、初めて虫採り網をこの手に持った時には、自由に飛び回る蝶や蜻蛉を追いかけ回して、往生していたことを思い出した。
幼い元気な兄妹に微笑ましさを覚えながら、僕もベンチを立った。
時間は穏やかに経過していたのであろう。公園に入る前よりも、太陽は高いところで輝いていた。散水されていたアスファルトの地面は乾いて、ゆらゆらと陽炎が立ちのぼっている。
「暑いなぁ……」
僕の口からは、ぼんやりとその言葉が溢れる。夏のお昼間近になると、本当に暑い。毎年のように、過去最高の気温データが更新されており、僕が子供の頃よりは確実に暑くなっている。
それは、温暖化が進行して、地球が壊れ始めている所為なのだけれど……それでも、先程、公園で見た風景や青条揚羽、そして虫を追いかける少年達の姿は昔から変わらない。そのことに、僕はそこはかとない安堵を覚えた。
街路樹には幾匹も蝉が止まっているようで、木の上から鳴き声が、シャワーのように降り注いだ。昔は、町中で鳴く蝉はほとんどが油蝉であったけれども、今ではほとんどが熊蝉となっている。そうした変化も地球温暖化の進行に因るものらしい。
自宅までは徒歩で数分の距離であるのに、ひどく遠くに感じた。それは、一歩一歩、足を動かすことに抵抗を覚えるような、体が言うことを聞かぬような、気怠い感覚であった。青条揚羽はあれほど軽やかに舞い飛んでいたのに……人間は大人になると、逆に体が重くなるようだ。
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