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自由

ー/ー



 生命の光が灯る。静かに、細やかに、しかし懸命に。それは、この季節にしか見ることのない仄かな光。
 火垂る袋はぼんやりと、闇の中に薄紫の灯を醸した。それは小さくて、儚くて、いかにも消えそうだった。
 花の灯火が消えた……そう思った僕達の目には、暗闇の中へと向かう一筋の光が映った。
「逃げたね。蛍……」
「うん……」
「火垂る袋から飛び立つ蛍は、自由になれる。でもね、暗闇に飲まれて、自分の光で必死に輝き続けなければならないのよね」
「…………」
 君の放つ言葉に対して、この口は声を紡ぐことが出来なくて……僕達の間には、不穏な沈黙が訪れた。
 君はこの郷から巣立ち、自由に羽ばたけるようになった。一度はそう、思っていた。
 だがしかし、君が美大に進学して……都会で暮らし始めてから数年で、忌むべき『病』が発症した。そのため、君はこの郷へ戻らざるを得なくなった。
 小刻みに身体を震わせながら、君はぽつりと呟いた。
「もしも、火垂る袋の中で一生を終える蛍がいたとしたら。どんな気持ちなんだろう……」
 その言葉は、僕の心にずっしりとした痛みをもたらした。君にかける言葉が見つからなくて……そんな自分が嫌になった。
 それでも、僕は君のことを支えたかった。たとえ、血の繋がった『兄』ではなかったとしても、それが自分の使命であると感じた。
 蛍の光は、僕の目には儚く映る。しかし、それでも精一杯に、暗闇の中で自らの生命を輝かせていた。


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 生命の光が灯る。静かに、細やかに、しかし懸命に。それは、この季節にしか見ることのない仄かな光。
 火垂る袋はぼんやりと、闇の中に薄紫の灯を醸した。それは小さくて、儚くて、いかにも消えそうだった。
 花の灯火が消えた……そう思った僕達の目には、暗闇の中へと向かう一筋の光が映った。
「逃げたね。蛍……」
「うん……」
「火垂る袋から飛び立つ蛍は、自由になれる。でもね、暗闇に飲まれて、自分の光で必死に輝き続けなければならないのよね」
「…………」
 君の放つ言葉に対して、この口は声を紡ぐことが出来なくて……僕達の間には、不穏な沈黙が訪れた。
 君はこの郷から巣立ち、自由に羽ばたけるようになった。一度はそう、思っていた。
 だがしかし、君が美大に進学して……都会で暮らし始めてから数年で、忌むべき『病』が発症した。そのため、君はこの郷へ戻らざるを得なくなった。
 小刻みに身体を震わせながら、君はぽつりと呟いた。
「もしも、火垂る袋の中で一生を終える蛍がいたとしたら。どんな気持ちなんだろう……」
 その言葉は、僕の心にずっしりとした痛みをもたらした。君にかける言葉が見つからなくて……そんな自分が嫌になった。
 それでも、僕は君のことを支えたかった。たとえ、血の繋がった『兄』ではなかったとしても、それが自分の使命であると感じた。
 蛍の光は、僕の目には儚く映る。しかし、それでも精一杯に、暗闇の中で自らの生命を輝かせていた。