あの夜の風景
ー/ー 幼い頃と同じように、僕の意識はいつの間にか、眠りの海へと吸い込まれていた。いつものことだけれど、それは不思議な感覚だった。
布団にくるまれた僕の意識が、いつまで存在していたのか、定かではない。しかしながら、確かに布団の中で考えを巡らせていたり、回想をしたりしていた記憶はある。
いつの間に、それが空白の時間になったのか……僕はどうしても、思い出すことができなかった。だが、目を覚ました時には、前日には混沌としていた頭がすっきりと整理されたような、得も言われぬ快感に包まれるのだ。
「おはよう」
僕の耳は、真っ先に君の声をとらえた。
「……おはよう」
僕も君に挨拶を返す。しかし、テーブルの上に並べられた沢山の絵を見て、この胸は不安で疼いた。
「なあ。もしかして、一晩中、絵を……」
「見て! これ」
僕の不安の声を遮るように、君は一枚の絵を提示した。其処に描かれていたのは、あの夜の風景……蛍が火垂る袋の群生を幻想的に輝かせる。幾つもの小さな生命の煌めきであった。その絵は束の間、僕の意識を吸い込んだ。
「綺麗……」
不覚にも、その言葉が僕の口をついて漏れ出た。だから、君は隈の刻まれた目をふわりと細めて、得意気な顔をした。
「そうでしょう。一晩かけて描いた、傑作だもの」
君が傑作と言うだけあって、その絵には、僕が見てきたどんな名画も敵わぬほどに、人の心を動かす力があった。そう……絵の中で光る蛍。その全てが、自らの生命を燃やして輝いていた。そしてそれは、君自身が自らの生命を削り、燃やして描いたものにも見えるのだった。
昔から、そうだった。君が描く絵には、人の魂を揺らす力があった。
最初は、僕が好きで描いていた絵の真似事だった。しかし、すぐに僕などが描くものとは比べ物にならぬほど、君は素晴らしい絵を描くようになった。観る者の意識を吸い込んで離さない……そして、心を動かして魂を揺さぶる。君に、美術の道を勧めたのも僕だった。
『両親』は僕が学生の頃、他界した。この郷は、過疎化が進んでいる割には、ある歳以上に年配の者もいなかった。しかし、僕はずっと、君の絵のファンで、君のことを応援していた。いつの日か、君の絵が多くの人の心を掴むことを夢見ていたのだ。
それなのに……。
布団にくるまれた僕の意識が、いつまで存在していたのか、定かではない。しかしながら、確かに布団の中で考えを巡らせていたり、回想をしたりしていた記憶はある。
いつの間に、それが空白の時間になったのか……僕はどうしても、思い出すことができなかった。だが、目を覚ました時には、前日には混沌としていた頭がすっきりと整理されたような、得も言われぬ快感に包まれるのだ。
「おはよう」
僕の耳は、真っ先に君の声をとらえた。
「……おはよう」
僕も君に挨拶を返す。しかし、テーブルの上に並べられた沢山の絵を見て、この胸は不安で疼いた。
「なあ。もしかして、一晩中、絵を……」
「見て! これ」
僕の不安の声を遮るように、君は一枚の絵を提示した。其処に描かれていたのは、あの夜の風景……蛍が火垂る袋の群生を幻想的に輝かせる。幾つもの小さな生命の煌めきであった。その絵は束の間、僕の意識を吸い込んだ。
「綺麗……」
不覚にも、その言葉が僕の口をついて漏れ出た。だから、君は隈の刻まれた目をふわりと細めて、得意気な顔をした。
「そうでしょう。一晩かけて描いた、傑作だもの」
君が傑作と言うだけあって、その絵には、僕が見てきたどんな名画も敵わぬほどに、人の心を動かす力があった。そう……絵の中で光る蛍。その全てが、自らの生命を燃やして輝いていた。そしてそれは、君自身が自らの生命を削り、燃やして描いたものにも見えるのだった。
昔から、そうだった。君が描く絵には、人の魂を揺らす力があった。
最初は、僕が好きで描いていた絵の真似事だった。しかし、すぐに僕などが描くものとは比べ物にならぬほど、君は素晴らしい絵を描くようになった。観る者の意識を吸い込んで離さない……そして、心を動かして魂を揺さぶる。君に、美術の道を勧めたのも僕だった。
『両親』は僕が学生の頃、他界した。この郷は、過疎化が進んでいる割には、ある歳以上に年配の者もいなかった。しかし、僕はずっと、君の絵のファンで、君のことを応援していた。いつの日か、君の絵が多くの人の心を掴むことを夢見ていたのだ。
それなのに……。
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