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第18話 「最低だよ」

ー/ー



「この本は、もともと久野巧さんが借りていた本です。間宮先輩はご存じですよね」

 彼女は視線を逸らす。けれど当然知っていたはずだ。督促状は常に彼女のもとに届いているのだから。

「しかしその本を一ノ瀬先輩が持っていた。それは、彼女が久野巧さんから渡されたからでしょう」
「渡されたって……なんで?」

 僕の問いに、泉さんは肩をすくめる。

「返却のため。彼は二年生になって、完全に学校に行かなくなる前にきちんと本を返却した。でも、それを受け取ったカウンター当番の人は返却手続きをしなかった。そしてそのまま自分の手元に置いておいた」
「それが……一ノ瀬先輩?」
「そう。彼女は、間宮先輩と久野巧を会わせたかった。久野巧が本を返却していないなら、督促状が発行される。督促状は同じクラスの間宮先輩に渡り、彼女は久野巧にそれを渡さなければいけなくなる」

 その目的は、『謝ってほしかった』から。でも謝るって、ふたりに何があったのだろう。

「さあ。でも考えてみて。久野巧は一年生の頃は図書委員だった。久野巧と先輩方はその頃仲が良かった。だけど久野巧は二年生になると図書委員にならず、不登校になった」

 そして、謝ってほしいという言葉。だったら、彼の不登校の原因は……

「違う!」

 間宮先輩が叫ぶ。

「私は何もしてない。あんなの、たいしたことじゃ……」
「だったらなんで会わなかったの?」

 一ノ瀬先輩が小馬鹿にしたように問う。今までに見たことがない、嘲る表情だった。

「去年、久野君が学校に来なくなったころにわたし言ったよね。謝った方がいい、一回会ってちゃんと話したほうがいいって。でも詩織ちゃんは何かと理由をつけて会おうとしなかった。怖かったから? 自分が言ったことがひどいことだってわかってたから?」
「ひとは……」

 間宮先輩は小さな子供のように目に涙をためている。
 一方で、責める口調で話す一ノ瀬先輩を君島先輩は口を開けて見つめていた。そうか。彼はやっぱり知らなかったんだ。本を置いたのが一ノ瀬先輩だと。督促状を作っていた彼は、あの本は久野巧が借りていた本だと知っていた。だから彼は、置かれた本を見て久野巧がやったんだと思ったのかもしれない。ずっと学校に来ていなかった彼が、退学の日に、間宮詩織を告発するために来たのだと。

「詩織ちゃんいつも仕事熱心だよね。図書委員の仕事が大好きで、不正が嫌い。延滞した人になんて、怒ってつかみかかったこともあった。悪質な人だったら、違うクラスでも違う学年でも飛び込んでいったよね。……なのになんで久野君には会いに行かなかったの? 連絡先だって知ってたのに」
「それは……」

 間宮先輩が後ずさる。

「最低だよ。詩織ちゃん。いつもは綺麗ごとばっか言ってるくせに……」

 間宮先輩は椅子に座り込んだ。ごめんなさいと、小さな呟きが聞こえる。誰に謝ってるのだろう。久野巧か、それとも一ノ瀬先輩か。

「……本当に些細なことだったんだ」


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「この本は、もともと久野巧さんが借りていた本です。間宮先輩はご存じですよね」
 彼女は視線を逸らす。けれど当然知っていたはずだ。督促状は常に彼女のもとに届いているのだから。
「しかしその本を一ノ瀬先輩が持っていた。それは、彼女が久野巧さんから渡されたからでしょう」
「渡されたって……なんで?」
 僕の問いに、泉さんは肩をすくめる。
「返却のため。彼は二年生になって、完全に学校に行かなくなる前にきちんと本を返却した。でも、それを受け取ったカウンター当番の人は返却手続きをしなかった。そしてそのまま自分の手元に置いておいた」
「それが……一ノ瀬先輩?」
「そう。彼女は、間宮先輩と久野巧を会わせたかった。久野巧が本を返却していないなら、督促状が発行される。督促状は同じクラスの間宮先輩に渡り、彼女は久野巧にそれを渡さなければいけなくなる」
 その目的は、『謝ってほしかった』から。でも謝るって、ふたりに何があったのだろう。
「さあ。でも考えてみて。久野巧は一年生の頃は図書委員だった。久野巧と先輩方はその頃仲が良かった。だけど久野巧は二年生になると図書委員にならず、不登校になった」
 そして、謝ってほしいという言葉。だったら、彼の不登校の原因は……
「違う!」
 間宮先輩が叫ぶ。
「私は何もしてない。あんなの、たいしたことじゃ……」
「だったらなんで会わなかったの?」
 一ノ瀬先輩が小馬鹿にしたように問う。今までに見たことがない、嘲る表情だった。
「去年、久野君が学校に来なくなったころにわたし言ったよね。謝った方がいい、一回会ってちゃんと話したほうがいいって。でも詩織ちゃんは何かと理由をつけて会おうとしなかった。怖かったから? 自分が言ったことがひどいことだってわかってたから?」
「ひとは……」
 間宮先輩は小さな子供のように目に涙をためている。
 一方で、責める口調で話す一ノ瀬先輩を君島先輩は口を開けて見つめていた。そうか。彼はやっぱり知らなかったんだ。本を置いたのが一ノ瀬先輩だと。督促状を作っていた彼は、あの本は久野巧が借りていた本だと知っていた。だから彼は、置かれた本を見て久野巧がやったんだと思ったのかもしれない。ずっと学校に来ていなかった彼が、退学の日に、間宮詩織を告発するために来たのだと。
「詩織ちゃんいつも仕事熱心だよね。図書委員の仕事が大好きで、不正が嫌い。延滞した人になんて、怒ってつかみかかったこともあった。悪質な人だったら、違うクラスでも違う学年でも飛び込んでいったよね。……なのになんで久野君には会いに行かなかったの? 連絡先だって知ってたのに」
「それは……」
 間宮先輩が後ずさる。
「最低だよ。詩織ちゃん。いつもは綺麗ごとばっか言ってるくせに……」
 間宮先輩は椅子に座り込んだ。ごめんなさいと、小さな呟きが聞こえる。誰に謝ってるのだろう。久野巧か、それとも一ノ瀬先輩か。
「……本当に些細なことだったんだ」