第4話 アリバイ・動機・タイムライン②
ー/ー「うん。……でも、鍵は朝まで職員室にあったから……」
「朝まで誰も入れない。あ、職員室の先生とかはどうですか?」
「うーん、どうだろう。図書室の鍵は鍵棚に置くでしょ? あの鍵棚、蓋がついてて、開けるのには別の鍵が必要なんだよね。それを借りるには、先生でもちゃんと理由を言わないといけないらしいし。関係ない人が借りてくのは難しいんじゃないかなあ」
たしかにそうだ。図書室の鍵を閉館後に借りようとするのは不自然だ。そんな人がいたら誰であれ、ほかの先生に伝わっているはずだ。だがそんな話は聞いていない。
「そうなると……やっぱり次に図書室が開いたのは、間宮先輩と君島先輩が来た時……」
僕は呟きながら妙なことに気がついた。あのふたり、なんで朝に図書室に来たんだ?
いや、どちらか片方なら理解できる。図書委員には放課後と同じく朝の当番が存在する。しかしこれは、放課後と違ってひとりだけだ。
確か今朝の当番は……と、僕はカウンターの引き出しに置かれている当番表を眺めた。あった。やっぱり今朝の当番は間宮先輩ひとりだ。
「君島先輩、なんで今朝図書室に来てたんですか?」
「え? ああ、それねぇ……」
一ノ瀬先輩は、急ににまにまと楽しそうな笑みを浮かべた。
「わたしも、気になって聞いてみたんだよねぇ。そしたら、君島君、時々朝早くに図書室に来て、勉強してるみたい」
「ああ、そうだったんですね」
「でもでも、わたし、そんなの知らなかったんだよ? 雛子君は、朝の当番の時、見たことある?」
「え?」
言われて考えてみるが、たしかにそんな姿は見かけたことがなかったかもしれない。時々朝から本を読みに来る姿は見かけたが、別に毎回というわけではない。
「だけど、詩織ちゃんはびっくりしてなかったんだよ! これって事件じゃない?」
事件? どういうことかしばらく考えて……気づいた。僕らは知らなかったが、間宮先輩は知っていた。つまり、間宮先輩の当番の日だけ勉強しに来ていたということだ。
「君島君の気持ちはなんとなく知ってたけどねえ……。詩織ちゃんは全然気づいてないみたい」
なるほど。真面目そうな君島先輩にも、そういう一面があったとは。
だがとにかく、君島先輩が朝早くに図書室に来ていた理由もこれで納得がいった。それでふたりは揃って図書室に入って、あの現場を目撃したというわけか。
「……あ、それがね、ちょっと違うみたい」
「違うって、どういうことですか?」
「えっとね、ふたりで一緒に入ったわけじゃないってこと。先に入ったのは君島くんだったみたいだよ」
朝の当番は本来間宮先輩のはずだ。だから、鍵を開けるのも本来は間宮先輩のほう。だが、今朝起こったことは実際は違ったらしい。
一ノ瀬先輩がふたりから聞いた話をまとめると、こういうことだったそうだ。
まず、間宮先輩が学校にやって来た。彼女は職員室で鍵を受け取り、図書室へと向かう。その途中、君島先輩と出会い、ふたりで図書室へ。だがその前に間宮先輩はトイレへ行きたくなった。そこで彼女は君島先輩に鍵を預けたらしい。鍵開けは当番の仕事だが、君島先輩は同じ図書委員だし問題ないと判断したのだろう。そして君島先輩はひとりで図書室へ。鍵を開けて入ると、展示コーナーがあの惨状になっていた。そしてそこに、間宮先輩がやって来た、という流れだ。
なるほど。ふたり同時ではなかったわけだ。であれば、君島先輩にも荒らすのは可能だったということになる。……だが結局、何のために? 間宮先輩を意識している君島先輩が、わざわざ彼女が力を入れていた展示コーナーを壊す理由などない。それとも事故で壊してしまったのを言い出せなくて黙っているのか。そこまで子供っぽい人には見えないが……。
結局、可能性だけで何の証拠もない。彼を犯人だと断定するにはあまりにも根拠に乏しいだろう。
「うーん、ほんと、なんなんだろうねぇ」
一ノ瀬先輩は唇をとがらせ呟く。まったく同じ感想だ。一体全体、誰が犯人で、かつ何の目的でこんなことをしたのだろう。結局のところ、展示コーナーはすぐに修復され、今は無事に衆目にさらされている。嫌がらせにしても大した効果を発揮していない。
それに、そんな嫌がらせをした人がいるとも思いたくなかった。今この件に関わっている人物はみな、良い人だ。一ノ瀬先輩は明るく愛嬌のある性格で、委員会の仕事でミスをしてもすぐに慰めてくれる。君島先輩は穏やかで優しい性格で、皆の仲を取り持つ委員会に欠かせない人物だ。間宮先輩はちょっと怖いが……それも彼女の持ち前の真面目さゆえだと知っている。
悪意を持っている人がいるとは思えない。けれど事件は起きた。荒れた展示コーナーの写真が脳裏に浮かぶ。散らばった本とブックスタンド。現場の惨状は、僕の知らない誰かの憎悪を象徴しているのか。それともすべて僕の空想に過ぎないのか。
解けない謎がぐるぐると渦巻く。その中心で、それらをあっけなくほどいていく少女の姿が僕の頭には浮かんでいた。
「朝まで誰も入れない。あ、職員室の先生とかはどうですか?」
「うーん、どうだろう。図書室の鍵は鍵棚に置くでしょ? あの鍵棚、蓋がついてて、開けるのには別の鍵が必要なんだよね。それを借りるには、先生でもちゃんと理由を言わないといけないらしいし。関係ない人が借りてくのは難しいんじゃないかなあ」
たしかにそうだ。図書室の鍵を閉館後に借りようとするのは不自然だ。そんな人がいたら誰であれ、ほかの先生に伝わっているはずだ。だがそんな話は聞いていない。
「そうなると……やっぱり次に図書室が開いたのは、間宮先輩と君島先輩が来た時……」
僕は呟きながら妙なことに気がついた。あのふたり、なんで朝に図書室に来たんだ?
いや、どちらか片方なら理解できる。図書委員には放課後と同じく朝の当番が存在する。しかしこれは、放課後と違ってひとりだけだ。
確か今朝の当番は……と、僕はカウンターの引き出しに置かれている当番表を眺めた。あった。やっぱり今朝の当番は間宮先輩ひとりだ。
「君島先輩、なんで今朝図書室に来てたんですか?」
「え? ああ、それねぇ……」
一ノ瀬先輩は、急ににまにまと楽しそうな笑みを浮かべた。
「わたしも、気になって聞いてみたんだよねぇ。そしたら、君島君、時々朝早くに図書室に来て、勉強してるみたい」
「ああ、そうだったんですね」
「でもでも、わたし、そんなの知らなかったんだよ? 雛子君は、朝の当番の時、見たことある?」
「え?」
言われて考えてみるが、たしかにそんな姿は見かけたことがなかったかもしれない。時々朝から本を読みに来る姿は見かけたが、別に毎回というわけではない。
「だけど、詩織ちゃんはびっくりしてなかったんだよ! これって事件じゃない?」
事件? どういうことかしばらく考えて……気づいた。僕らは知らなかったが、間宮先輩は知っていた。つまり、間宮先輩の当番の日だけ勉強しに来ていたということだ。
「君島君の気持ちはなんとなく知ってたけどねえ……。詩織ちゃんは全然気づいてないみたい」
なるほど。真面目そうな君島先輩にも、そういう一面があったとは。
だがとにかく、君島先輩が朝早くに図書室に来ていた理由もこれで納得がいった。それでふたりは揃って図書室に入って、あの現場を目撃したというわけか。
「……あ、それがね、ちょっと違うみたい」
「違うって、どういうことですか?」
「えっとね、ふたりで一緒に入ったわけじゃないってこと。先に入ったのは君島くんだったみたいだよ」
朝の当番は本来間宮先輩のはずだ。だから、鍵を開けるのも本来は間宮先輩のほう。だが、今朝起こったことは実際は違ったらしい。
一ノ瀬先輩がふたりから聞いた話をまとめると、こういうことだったそうだ。
まず、間宮先輩が学校にやって来た。彼女は職員室で鍵を受け取り、図書室へと向かう。その途中、君島先輩と出会い、ふたりで図書室へ。だがその前に間宮先輩はトイレへ行きたくなった。そこで彼女は君島先輩に鍵を預けたらしい。鍵開けは当番の仕事だが、君島先輩は同じ図書委員だし問題ないと判断したのだろう。そして君島先輩はひとりで図書室へ。鍵を開けて入ると、展示コーナーがあの惨状になっていた。そしてそこに、間宮先輩がやって来た、という流れだ。
なるほど。ふたり同時ではなかったわけだ。であれば、君島先輩にも荒らすのは可能だったということになる。……だが結局、何のために? 間宮先輩を意識している君島先輩が、わざわざ彼女が力を入れていた展示コーナーを壊す理由などない。それとも事故で壊してしまったのを言い出せなくて黙っているのか。そこまで子供っぽい人には見えないが……。
結局、可能性だけで何の証拠もない。彼を犯人だと断定するにはあまりにも根拠に乏しいだろう。
「うーん、ほんと、なんなんだろうねぇ」
一ノ瀬先輩は唇をとがらせ呟く。まったく同じ感想だ。一体全体、誰が犯人で、かつ何の目的でこんなことをしたのだろう。結局のところ、展示コーナーはすぐに修復され、今は無事に衆目にさらされている。嫌がらせにしても大した効果を発揮していない。
それに、そんな嫌がらせをした人がいるとも思いたくなかった。今この件に関わっている人物はみな、良い人だ。一ノ瀬先輩は明るく愛嬌のある性格で、委員会の仕事でミスをしてもすぐに慰めてくれる。君島先輩は穏やかで優しい性格で、皆の仲を取り持つ委員会に欠かせない人物だ。間宮先輩はちょっと怖いが……それも彼女の持ち前の真面目さゆえだと知っている。
悪意を持っている人がいるとは思えない。けれど事件は起きた。荒れた展示コーナーの写真が脳裏に浮かぶ。散らばった本とブックスタンド。現場の惨状は、僕の知らない誰かの憎悪を象徴しているのか。それともすべて僕の空想に過ぎないのか。
解けない謎がぐるぐると渦巻く。その中心で、それらをあっけなくほどいていく少女の姿が僕の頭には浮かんでいた。
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