8話 午後の部 年長組
ー/ー「佐伯先生?」
意識が遠い空の向こう行ってしまっていた私を、優しく呼び戻してくれる声。いきなり上空から地面に足を付けたことにより、体がピクンと跳ね上がる。
「あ、すみません。片付けですね」
またやってしまった自分の頭に喝を入れて声がする方に意識を向けると、既に他の先生は居なかった。
それは片付けと、次の子が来る準備をしないといけないからだ。
「早く終わらせて、休憩行きましょう。少しでも休まないと、保ちませんよ。……私ぐらいの年になると腰がねー」
ははっと軽快に笑い、腰をトントンと叩くのは筧先生。四十代前半らしく、現在高校生の息子さんが居るベテランの先生。子育て経験があることから子供との関わりが上手く、説得より納得をさせる対応が出来るほんわりとした優しさが滲む先生だ。
「筧先生、体大丈夫ですか?」
腰よりも、顔や腕が気になってしまう。
と言うのも、今日の園庭遊びの時に男の子に叩かれていたのは、この筧先生だったからだ。
「あんなの痛いうちに入りませんよ。それより腰がねー」
目尻に皺を寄せ両肩を回しながら玄関に向かって行く足取りに、私も習って歩いていく。
だけど叩いていた子、健くんは男の子だから力も強く加減を一切しない。実際にお母さんも、痛くて辛いと嘆かれているぐらいに。
健くんは知的障害はなく言語の遅れもないから、相手が何を言っているか、決まりごとも全て分かっている。
だけど衝動性が強い特性ゆえに、思い通りにならないと酷い言葉をぶつけたり。感情のまま友達や先生を叩いたり。視界に入った物を衝動的に追いかけてしまい、道路への飛び出しにより事故に遭いかけたことが何度もあったらしい。
まだ本診断は下っていないけど、おそらく注意欠陥多動性障害だろうと医師より聞いているらしい。ただ、まだ三歳で情緒が安定していないだけかもしれないともう少し様子を見て、就学前の様子から診断すると話がまとまっている。
子供を比較したくないけど、凛ちゃんみたいな子より関わりが難しいとされている。
一言が癇に障って泣き叫んだり。
凛ちゃんは癇癪を起こすキッカケが分かっているから対応しやすいけど、健くんは何がキッカケに起こるか分からないから対応がしにくい。
凛ちゃんはぬいぐるみを取り返すという意図があって他害行為をしてしまい、そこに悪意はない。だけど健くんは、物事の善悪を分かった上でやっている。
さっきの場合だと「遊びの時間は終わり」だと告げられ、納得出来ないから先生を叩いてしまう。怒りを抑える為に地面を叩いて気持ちを言葉に出させ、落ち着いた頃に人を叩くのは悪いことだと話す。個人の性格によるけど健常の子は話をすれば分かり、徐々に辞めていく。
だけど特性がある子はなかなかそれが受け入れられず、「僕は悪くない」と言って話を聞いてくれず繰り返す。
だからこそ関わりには根気がいり、癇癪を起こして話が出来ない状態にならないように言葉を選んで子供を諭す難しさがある。到底、私には対応出来ないだろう。
筧先生みたいなベテランの先生は健くんみたいな関わりが難しい子を担当し、何人も小学校に送り出している。
憧れの先生の一人だ。
意識が遠い空の向こう行ってしまっていた私を、優しく呼び戻してくれる声。いきなり上空から地面に足を付けたことにより、体がピクンと跳ね上がる。
「あ、すみません。片付けですね」
またやってしまった自分の頭に喝を入れて声がする方に意識を向けると、既に他の先生は居なかった。
それは片付けと、次の子が来る準備をしないといけないからだ。
「早く終わらせて、休憩行きましょう。少しでも休まないと、保ちませんよ。……私ぐらいの年になると腰がねー」
ははっと軽快に笑い、腰をトントンと叩くのは筧先生。四十代前半らしく、現在高校生の息子さんが居るベテランの先生。子育て経験があることから子供との関わりが上手く、説得より納得をさせる対応が出来るほんわりとした優しさが滲む先生だ。
「筧先生、体大丈夫ですか?」
腰よりも、顔や腕が気になってしまう。
と言うのも、今日の園庭遊びの時に男の子に叩かれていたのは、この筧先生だったからだ。
「あんなの痛いうちに入りませんよ。それより腰がねー」
目尻に皺を寄せ両肩を回しながら玄関に向かって行く足取りに、私も習って歩いていく。
だけど叩いていた子、健くんは男の子だから力も強く加減を一切しない。実際にお母さんも、痛くて辛いと嘆かれているぐらいに。
健くんは知的障害はなく言語の遅れもないから、相手が何を言っているか、決まりごとも全て分かっている。
だけど衝動性が強い特性ゆえに、思い通りにならないと酷い言葉をぶつけたり。感情のまま友達や先生を叩いたり。視界に入った物を衝動的に追いかけてしまい、道路への飛び出しにより事故に遭いかけたことが何度もあったらしい。
まだ本診断は下っていないけど、おそらく注意欠陥多動性障害だろうと医師より聞いているらしい。ただ、まだ三歳で情緒が安定していないだけかもしれないともう少し様子を見て、就学前の様子から診断すると話がまとまっている。
子供を比較したくないけど、凛ちゃんみたいな子より関わりが難しいとされている。
一言が癇に障って泣き叫んだり。
凛ちゃんは癇癪を起こすキッカケが分かっているから対応しやすいけど、健くんは何がキッカケに起こるか分からないから対応がしにくい。
凛ちゃんはぬいぐるみを取り返すという意図があって他害行為をしてしまい、そこに悪意はない。だけど健くんは、物事の善悪を分かった上でやっている。
さっきの場合だと「遊びの時間は終わり」だと告げられ、納得出来ないから先生を叩いてしまう。怒りを抑える為に地面を叩いて気持ちを言葉に出させ、落ち着いた頃に人を叩くのは悪いことだと話す。個人の性格によるけど健常の子は話をすれば分かり、徐々に辞めていく。
だけど特性がある子はなかなかそれが受け入れられず、「僕は悪くない」と言って話を聞いてくれず繰り返す。
だからこそ関わりには根気がいり、癇癪を起こして話が出来ない状態にならないように言葉を選んで子供を諭す難しさがある。到底、私には対応出来ないだろう。
筧先生みたいなベテランの先生は健くんみたいな関わりが難しい子を担当し、何人も小学校に送り出している。
憧れの先生の一人だ。
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