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68.破壊と創造、望む未来

ー/ー



「ああ、まぁ、そうなる、か」

 見れた世界も、白い空間と同じように崩れ、徐々に虚無へと変わっていく。
 そこに、魔物も魔族も、人間も……生きている者はすでに存在はしていない。

「なにをどう『作った』かしらねぇが、俺の『破壊』よりも先にやってくれるとはな」

 町に降り立ち、しゃがみ、話しかける。

「行ってきたぜ」

 まだそこは、虚無を避けて残っていた。

「付き合わせて悪かったな、アダルヘルム」

 まだ少し、残された時間がある。隣に腰を下ろし、崩壊していく空を眺めながら話しかけるゼン。

「最後の最後に男と話するなんて色気がねぇよな?綺麗な物語だったなら、美人の女と手を握って、再生を祈るのが定石でな?祈ってくれとまでは思っちゃないが、そんな風に……お前は愛した家族と……」

 ジャリッと地面の土を握る。ふと見た先……イーリカの死体が虚無に消えた。

 途端に湧き上がる、失ってしまったものの大きさ。

「ダメだ」

 それを『破壊』する。

「今更、だよな」

 大きく、ひと息吐いて立ち上がり自分を『破壊』し始めるゼン。

「ファイン、アデル、グリゼルダ」

 魔族でありながら、人間に興味を持ち、その心の在処を知った。

「ソウゴ、フォンゼル、ティオ」

 最初の異物に心を乱され、本来あるべき形をゼンに『破壊』された哀れな勇者たち。

「……っ!」

 パチュッと音を立て、ゼンの片目が破裂した。ジンジンと熱を持つ痛みを感じながらも、名前を口にすることを辞めない。

「イーリカ」

 この世界で最後に触れることができた、人の温もり。

「はっ……!いてぇ……」

 腕がグズグズになり、おびただしい血を地面に流す……その流れの一部は、近づいている虚無に飲まれていた。

「……ミウ」

 ゼンに恋してしまった、ゼンが妹とその姿を重ねてしまっていた可憐なエルフの少女。

「アダルヘルム……ガハッ……ゴホッ」

 親友として寄り添い、お互いに心許した唯一の存在。

「はっ……あ……グッ……ははは……」

 首に深く傷ができ、さらに血を流すゼン。

 自分の体を『破壊』するこの行動は、ただの自己満足……無意味なことだとわかっていても、この世界で意志を持ち生きている者を、自分の目的の為に、自分勝手に『破壊』した事実を刻み込ませ……こうする事でしか、自分がしてきた事を贖罪とする行為にあてるしか、出来ない。

「未来……」

 守りたかった、最愛の女性。守れなかった、共に生きる未来。

「壊すことしか知らない俺は……作ることができる、作られた存在のお前には……どう映っていた……?」

 ふと、気付く。
 アダルヘルムのすぐ横にいたはずのクロエの姿が無い事に。

「……ぐっ……うっ」

 膝を折り、血をひり出しながら無理やり首を動かし、探す。

 勘違いであるのなら、それでいい。
 場所を見誤っていて、虚無に飲まれたのなら、それでいい。

「クロ……エ……」

 内臓以外……すべて作り替えられた見知らぬ女だった。自分への執着心と忠誠心を植え付け、『破壊』の力と相反する力を持たせた。

「……瀬屑善()

 言い訳ばかりになることは、わかっている。自分の生まれは選べない事以外は、すべて……自分がそうするように、そうなるように動き、生きた結果。

 それしか知らず、力を得たからこそ、そうすることしかできなかった。

「せめて、」

 自分をこの世界に残さない様に、体を痛みを伴う粉にして『破壊』し、虚無へ食わせていく。

 思い出も記憶も、すべて。

「っ!」

 わずかに残った地面の土が擦れる音がした。
 わずかに残る耳に……間近で囁く声が聞こえてしまった。

「おかえりなさい」

 添えられる手、温もり、吐息、香り……失わせたままにさせまいと。

「愛しているわ、ゼン」
『愛しています、ゼン』

 重なり、思い知る。

「……はっ!性悪女の言うことなんざ、信じるわけねぇ――」

『破壊』しかできない自分が『作って』しまった存在が、これから先もまだ、生き続けることになる事実に。

 ゼンが『破壊』すべきものを『破壊』しなかったのは、できなかったから。

 それを優しさだと、勘違いさせたまま……虚無は全てを飲み込み終える。

 *

 *

 *

 *

 ここを、場所と呼んでいいのかは分からない……虚無の中にひときわ目立つ白く美しい光……黒に飲まれた場所で、ひとり漂う。

「どこにいったの?ゼン」

 なぜこの虚無の中で無事でいられるかなど、愚問だった。クロエの持つ力を使えば、容易い。

「こっち……?こっちなの?」

 虚無に飲まれたゼンを、求め探すクロエ……どこにも存在なぞ、しないのに。

「お願い……」

 手を伸ばしてもそこにはいない。

「その手で……触れて……抱いて……お願い……」

 ぺたりと座り込み、泣き崩れる。

 その姿はもう、作られた人形ではなかった。愛する男を失い心を痛め泣く……ひとりの女。

「私とあなたの力は相反し、そのほとんどが相殺されてしまう……そんなに、嫌だった……?せっかく……やっと……私にも心が『作ら――…………ふふ」

 ピタリと涙が止んだ。

「そうだったわ……あなたがくれたものがあるじゃない……ごめんなさい、泣くなんて……らしくなかったわね、ゼン」

 大きく息を吸い、吐き出す……そこに風が『作られ』た。その風を撫で、虚無を押し流し、白く広がる空間を『作って』いく。

「そう……ここ……私が生まれた場所……」

 まだなにもない、白い床を撫で、懐かしそうに目を細めるクロエ。

「次は――」

 白い空間の外側に、意識を移し、世界を『作った』

「まずはここが無いと……あなたが産まれないわよね……ふふ」

 元のOLの記憶はない。ゼンとの記憶の共有で得た知識と記憶で、地球がそこに出来上がる。時間の加速で、クロエが望んだ時に進ませた。

「あら……うふふ、可愛らしい……」

 産声を上げ、優しく母に抱かれた望んだ命が目の前に産まれた……そこからは、ゼンの生きた時間を共にしていく。ただ見守るだけだったが、それでもクロエの心は満たされていた。

「……」

 やがて、妹の未来が産まれた。
 その時からのゼンの表情に、クロエの心が軋んでいった。

「そんな風に……笑うの?そんな風に……顔をほころばせるの……?未来に、だけ?」

 それは、明らかな嫉妬。自分に向けられたことのない、その表情と声色を向けられた者への、憎悪。

「……そう」

 唇を噛み、血をにじませ……裏腹に、口角が上がっていく。

「いけない……私のゼンは……そうじゃなかったわ……そうよ……私はもう一度あのゼンが……欲しいの」

 顔を隠していた布を剥ぎ取り、その姿を自分の意思で『作り』替えていく。

「そうよ、そう……あなたは『破壊神』としてその身を溶かした……なら、今の私は『創造神』としてあなたと共にあらなければいけないじゃない」

 世界を『作った』。
 ゼンをもう一度『作った』。

「あなたに憎まれるのは、あなたに愛されるのと同義よ……そうよ……きっとそう……」

 神の姿となることに躊躇はなかった。今のクロエにとって、それが最善の選択、最高の結論。

「ふふ、いい感じでしょう?このままクロエのすがたのままだと、違った結果になってしまう……私が成り代わってあげる……私が選ばれた事の借りを返してあげる」

 ゼンへの思い以外を、神としていられるように『作り』替えていくクロエ。

「さあ、始めましょう…………瀬屑善……あなたは同志として……選ばれる運命となったのです……ふふ」

 心を『作った』ことで、心を『破壊』されていく。

 その思いが偽物か本物かなど、神として存在する事になった彼女にはもう、関係ない。

 神らしく、望みを叶え。
 神らしく、自分勝手に。

 数年の時を神として、ゼンがゼンとして成るように環境を整えていく……。
 やがて……その顔からは表情が無くなり、ただ奥底にこべりついた信念でのみ動くだけとなり、成り代わっていたはずの無もなき世界の神へと、変わり果ててしまった。

「あぁゼン……愛しています」

 その言葉は、すべての終わりの始まりだった。


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 見れた世界も、白い空間と同じように崩れ、徐々に虚無へと変わっていく。
 そこに、魔物も魔族も、人間も……生きている者はすでに存在はしていない。
「なにをどう『作った』かしらねぇが、俺の『破壊』よりも先にやってくれるとはな」
 町に降り立ち、しゃがみ、話しかける。
「行ってきたぜ」
 まだそこは、虚無を避けて残っていた。
「付き合わせて悪かったな、アダルヘルム」
 まだ少し、残された時間がある。隣に腰を下ろし、崩壊していく空を眺めながら話しかけるゼン。
「最後の最後に男と話するなんて色気がねぇよな?綺麗な物語だったなら、美人の女と手を握って、再生を祈るのが定石でな?祈ってくれとまでは思っちゃないが、そんな風に……お前は愛した家族と……」
 ジャリッと地面の土を握る。ふと見た先……イーリカの死体が虚無に消えた。
 途端に湧き上がる、失ってしまったものの大きさ。
「ダメだ」
 それを『破壊』する。
「今更、だよな」
 大きく、ひと息吐いて立ち上がり自分を『破壊』し始めるゼン。
「ファイン、アデル、グリゼルダ」
 魔族でありながら、人間に興味を持ち、その心の在処を知った。
「ソウゴ、フォンゼル、ティオ」
 最初の異物に心を乱され、本来あるべき形をゼンに『破壊』された哀れな勇者たち。
「……っ!」
 パチュッと音を立て、ゼンの片目が破裂した。ジンジンと熱を持つ痛みを感じながらも、名前を口にすることを辞めない。
「イーリカ」
 この世界で最後に触れることができた、人の温もり。
「はっ……!いてぇ……」
 腕がグズグズになり、おびただしい血を地面に流す……その流れの一部は、近づいている虚無に飲まれていた。
「……ミウ」
 ゼンに恋してしまった、ゼンが妹とその姿を重ねてしまっていた可憐なエルフの少女。
「アダルヘルム……ガハッ……ゴホッ」
 親友として寄り添い、お互いに心許した唯一の存在。
「はっ……あ……グッ……ははは……」
 首に深く傷ができ、さらに血を流すゼン。
 自分の体を『破壊』するこの行動は、ただの自己満足……無意味なことだとわかっていても、この世界で意志を持ち生きている者を、自分の目的の為に、自分勝手に『破壊』した事実を刻み込ませ……こうする事でしか、自分がしてきた事を贖罪とする行為にあてるしか、出来ない。
「未来……」
 守りたかった、最愛の女性。守れなかった、共に生きる未来。
「壊すことしか知らない俺は……作ることができる、作られた存在のお前には……どう映っていた……?」
 ふと、気付く。
 アダルヘルムのすぐ横にいたはずのクロエの姿が無い事に。
「……ぐっ……うっ」
 膝を折り、血をひり出しながら無理やり首を動かし、探す。
 勘違いであるのなら、それでいい。
 場所を見誤っていて、虚無に飲まれたのなら、それでいい。
「クロ……エ……」
 内臓以外……すべて作り替えられた見知らぬ女だった。自分への執着心と忠誠心を植え付け、『破壊』の力と相反する力を持たせた。
「……|瀬屑善《俺》」
 言い訳ばかりになることは、わかっている。自分の生まれは選べない事以外は、すべて……自分がそうするように、そうなるように動き、生きた結果。
 それしか知らず、力を得たからこそ、そうすることしかできなかった。
「せめて、」
 自分をこの世界に残さない様に、体を痛みを伴う粉にして『破壊』し、虚無へ食わせていく。
 思い出も記憶も、すべて。
「っ!」
 わずかに残った地面の土が擦れる音がした。
 わずかに残る耳に……間近で囁く声が聞こえてしまった。
「おかえりなさい」
 添えられる手、温もり、吐息、香り……失わせたままにさせまいと。
「愛しているわ、ゼン」
『愛しています、ゼン』
 重なり、思い知る。
「……はっ!性悪女の言うことなんざ、信じるわけねぇ――」
『破壊』しかできない自分が『作って』しまった存在が、これから先もまだ、生き続けることになる事実に。
 ゼンが『破壊』すべきものを『破壊』しなかったのは、できなかったから。
 それを優しさだと、勘違いさせたまま……虚無は全てを飲み込み終える。
 *
 *
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 ここを、場所と呼んでいいのかは分からない……虚無の中にひときわ目立つ白く美しい光……黒に飲まれた場所で、ひとり漂う。
「どこにいったの?ゼン」
 なぜこの虚無の中で無事でいられるかなど、愚問だった。クロエの持つ力を使えば、容易い。
「こっち……?こっちなの?」
 虚無に飲まれたゼンを、求め探すクロエ……どこにも存在なぞ、しないのに。
「お願い……」
 手を伸ばしてもそこにはいない。
「その手で……触れて……抱いて……お願い……」
 ぺたりと座り込み、泣き崩れる。
 その姿はもう、作られた人形ではなかった。愛する男を失い心を痛め泣く……ひとりの女。
「私とあなたの力は相反し、そのほとんどが相殺されてしまう……そんなに、嫌だった……?せっかく……やっと……私にも心が『作ら――…………ふふ」
 ピタリと涙が止んだ。
「そうだったわ……あなたがくれたものがあるじゃない……ごめんなさい、泣くなんて……らしくなかったわね、ゼン」
 大きく息を吸い、吐き出す……そこに風が『作られ』た。その風を撫で、虚無を押し流し、白く広がる空間を『作って』いく。
「そう……ここ……私が生まれた場所……」
 まだなにもない、白い床を撫で、懐かしそうに目を細めるクロエ。
「次は――」
 白い空間の外側に、意識を移し、世界を『作った』
「まずはここが無いと……あなたが産まれないわよね……ふふ」
 元のOLの記憶はない。ゼンとの記憶の共有で得た知識と記憶で、地球がそこに出来上がる。時間の加速で、クロエが望んだ時に進ませた。
「あら……うふふ、可愛らしい……」
 産声を上げ、優しく母に抱かれた望んだ命が目の前に産まれた……そこからは、ゼンの生きた時間を共にしていく。ただ見守るだけだったが、それでもクロエの心は満たされていた。
「……」
 やがて、妹の未来が産まれた。
 その時からのゼンの表情に、クロエの心が軋んでいった。
「そんな風に……笑うの?そんな風に……顔をほころばせるの……?未来に、だけ?」
 それは、明らかな嫉妬。自分に向けられたことのない、その表情と声色を向けられた者への、憎悪。
「……そう」
 唇を噛み、血をにじませ……裏腹に、口角が上がっていく。
「いけない……私のゼンは……そうじゃなかったわ……そうよ……私はもう一度あのゼンが……欲しいの」
 顔を隠していた布を剥ぎ取り、その姿を自分の意思で『作り』替えていく。
「そうよ、そう……あなたは『破壊神』としてその身を溶かした……なら、今の私は『創造神』としてあなたと共にあらなければいけないじゃない」
 世界を『作った』。
 ゼンをもう一度『作った』。
「あなたに憎まれるのは、あなたに愛されるのと同義よ……そうよ……きっとそう……」
 神の姿となることに躊躇はなかった。今のクロエにとって、それが最善の選択、最高の結論。
「ふふ、いい感じでしょう?このままクロエのすがたのままだと、違った結果になってしまう……私が成り代わってあげる……私が選ばれた事の借りを返してあげる」
 ゼンへの思い以外を、神としていられるように『作り』替えていくクロエ。
「さあ、始めましょう…………瀬屑善……あなたは同志として……選ばれる運命となったのです……ふふ」
 心を『作った』ことで、心を『破壊』されていく。
 その思いが偽物か本物かなど、神として存在する事になった彼女にはもう、関係ない。
 神らしく、望みを叶え。
 神らしく、自分勝手に。
 数年の時を神として、ゼンがゼンとして成るように環境を整えていく……。
 やがて……その顔からは表情が無くなり、ただ奥底にこべりついた信念でのみ動くだけとなり、成り代わっていたはずの無もなき世界の神へと、変わり果ててしまった。
「あぁゼン……愛しています」
 その言葉は、すべての終わりの始まりだった。