表示設定
表示設定
目次 目次




183,600秒

ー/ー



 蝉が鳴くまだ蒸し暑い日。昼の13時、自室にて幼馴染の葵を呼んで勉強していた。
 部屋にはカリカリと音が響き、カチカチと響く。

「なあ葵さ、夏ってなんだろうな?」

 シャーペンを持つ手をピタリと止め、ふと一つの疑問(テーマ)が頭に浮かんだことを口にした。

「なんだよ急に、哲学的な事言いだして」
「いや、ふと思ったわけよ。夏って言ったら暑いじゃん?」
「ああ、そうだな蒸し暑いな」
「んで、気温が高くなるじゃん?」
「ああ、そうだな夏なんだからな」
「そうすると、冷たい物が口欲しくなるじゃん?」
「ああ、そうだなこんな暑い日にはアイスでも食べたくなるな」
「けど、外でると暑いじゃん?」
「ああ、蒸し暑いな」
「んで、暑いと気温高くなるじゃん?」
「ああ、夏だしな」
「やっぱり、冷たい物を入れたいじゃん?」
「ああ、飲み物でも飲みたいな」
「……」
「……」
「さて、第一の議論はここにて閉廷。しばしの休息に入ります」
「いや、なんの議論だよ! ただの発想のローテーションをしてただけじゃん」

 ゲームをしていた葵はコントローラーを床に置くと、顔だけをこっちに向けた。

「それよりもお前、夏休みの宿題進んだのかよ?」
「いやな、俺さ腐っても鯛のお前に勉強を教えてもらうはずだったよな?」
「お前、それ失礼だからな気を付けろよ。てか、どうしてもと言うから渋々予定空けて来たんだから、感謝してほしいくらいだぜ」

 葵がクイっと指差した先にはカレンダー。
 日付は8月31日で8月の最後の日。そう今日は夏休み最後の一日だ。

「それは感謝している。しているけど、お前なんで俺の部屋でゲームばっかして教えてくれないんだよ。てかお前宿題はどうしたんだ」
「宿題? そんなのとっくに終わらせてるよ」

 ドヤ顔で俺のことを小馬鹿にするような表情を見せやがって。

「お前夏休みの間、宿題やらずに散々遊んでたろ。おばさんから聞いたぞ?」
「いやだって、夏休みじゃん?」
「前もお前に聞いたとき、まだ大丈夫まだ大丈夫と言ってたろ」

 うっ……、痛い所を突きやがる。
 俺は無い眼鏡をあるかのように、指でクイっとあげて見せた。
 さも格好良く、頭の良さそうな風を装って――な!

「では、第二の議論を開廷する!」
「いや、やるのかよ! しかも第二って」
「“何故、大丈夫大丈夫と言いながら俺は宿題をここまでやらなかった”のかと」
「お前がさぼってたからってだけで議論の余地ないだろ。まあいいや言ってみな」

 コホンと咳払いすると、俺はノートに順序よくなにをしていたのかを書いた。

「まずは夏休みの始めとなります。この日の俺は次の日から学校が休みだと喜び浮かれていました」
「まあ、夏休みの始めだし気持ちは分かる」
「そして1週間が過ぎました。その間にやった事と言えば、プールに行き、映画に行き、山へと」
「ああ、この時一緒に行ったわ。面白かったよな」
「ただし、どこ行ってもお前がモテるからイラっとしました」

 ノートに大きく“死”を強調するように書いた。

「いや、怖い怖いって。あの時はお前と優先して遊ぶために断りまくったろ」

 俺は無視して次のページを捲り、再び書き始める。

「そして8月に入り、クラスの皆とお祭りへ。この時、俺の好きな子がいたのでワクワクしました」
「あの時、たまたまクラスの奴がほとんど集まってたからのは驚いたな」
「ただし、お前は俺の好きな子と付き合った。それは許さん! だけどおめでとう!」
「サンキューな」

 再びノートには大きく恨みつらみに死のマークを書いてスッキリ。

「中旬に入り、ここで大きなイベントが開始! お盆に3泊4日の家族旅行に行きました」
「確か北海道だっけ? お土産は美味しかったわ」
「その通り、北海道名物白い恋人1200円ぐらいとお手製の熊の木彫り(貯金箱)を渡しました」
「マジかよ!? 確かにちょっと細長い穴が空いてるなと帰ってから気づいたけどさ。しかも何気にクオリティ高いし」
「ありがとう。そしてこの家族旅行では宿題のことをすっかり忘れ、帰ってからも疲れてしばらくやっていません」
「まあ、旅行楽しかっただろうしな。だけどなんでやらないんだよ。8月も下旬だろ」

 指を一本立て左右に揺らし、チッチッチと舌打ちをした。

「まだまだ思考があまいねぇチミは。俺を知るためには108が必要だ」
「何様だよってかそれ煩悩の数だからな。お前欲まみれかよ」
「まだ10日はある。10日間あると言う事は、つまりはまだ余裕があるという意味だ」
「それで遊び惚けてたのか?」
「いや、流石にまずいと思って手を付け始めた」
「お、ついにか偉いじゃん。んで、どこまで出来たんだ?」

 俺は隅っこに置いてある教科書やらノートやらプリントやらを、中央にあるテーブルにドサっと置いた。それを見た瞬間、葵は即座に立ちあがり出て行こうとしたけど、そんな行動俺にはお見通しさ!

「まって……まってくれよぉ! 後生、一生のお願い。これを聞かないと後悔が起きる。いや、頼む話を、話を聞いてくれよぉー!」

 俺は唯一出口のドアの前で必死に食い止めたさ……プライド?
 そんなもんを持ち合わせてたら、頼まねえわ!

「……おい……、まさかこれ全部、と言わないよな?」
「ふっ……心配するな。流石に全部ではないさ」

 葵はホッとしたように元の位置へと戻ってくれた。
 まあ、諦めたというべきだろうけど。
 とりあえず俺は仕分けるように、数冊のノートとプリントを横に置いた。

「これだけだ」

 山のように置かれた宿題の数に対して、隣には1/10ほどの数しか置かれていない仕上がった宿題の数が積みあがっていた。

「おっと、時間だから帰らせてもらうわ」
「待て待て待て待て、流石に俺も鬼じゃないから全部を手伝ってもらうってわけじゃないんだ。せめて、せめてある程度は仕上げれたら言い訳も立つってか、宿題写させてくれよ」

 葵は大きくため息をつくと、持ってきてくれたであろう鞄から数冊のノートを取り出そうとしてくれた。

「一応確認するが、さっき10日あると言ったよな? 本気で頑張れば一応は間に合うだろ」
「いやー、本気で頑張ろうと思ったんよ。ちょっと大変な事があって」

 こいつ、ジトっとした目で俺を見てやがる。
 流石に信用されてないか。
 仕方がないと思い、俺は淡々と話すことにした。

「まずは苦手科目から手を付け始めたんだ」
「へえ、確かに苦手科目から片付けたら、あとは得意科目だけだもんな」
「だけどこれが難解で、手を付けようともさっぱり分からんわけよ。んで、諦めて次に得意科目をしたわけだ」
「まあ確かに難しいわな。手を出そうとしただけでも偉い……のか?」
「疲れたから、休憩しようとしたわけよ」
「うんうん」
「そしたらなんと、見たい番組があったわけよ」
「うんうん……うん?」
「その番組はスペシャルで夜中の22時までやってたんよな。部屋に戻って、さあやるぞって机に向かって広げたわけよ」
「見終わってから寝たとかじゃなく、勉強したわけだな。偉いぞ」
「ただ、勉強するとなると長時間集中しなくちゃいけないし、疲れるじゃん?」
「ん?」
「だから、一度横になったわけよ。先に休息をしてからしっかり取るわけだ」
「で、結果的に起きたら朝になっていたと……どうせ残りも同じような結果だろ」
「せいかーい。パフパフー」

 取り出して見えたノートの一部(宝物)を鞄の奥へと戻しやがった!

「なに戻してんだよ。早くその薬物を俺に渡してくれ! 搾取させてくれ! キメさせてくれ!」
「何が薬物だよ。せっかくお前がやる気見せると思ったらダメじゃねえか!」
「くそっ……せっかくの特ダネを教えたのに」
「それ特ダネじゃなく、お前のただの怠慢報告を言っただけじゃねえか」
「くっ、やるな……第……二の議論はこれにて閉廷……だっ……」

 くそっ、手強い……。
 どうすれば……どうすればこいつに納得して、俺に夏休みの宿題を貢ぎさせる事ができるのか。
 考えろ、考えろ、俺の潜在的シグナルΣ4.13859。

「ふっふっふっ、よくぞ我が論争についてこれたようだな」

 サングラスを取り出し装着した。
 これはサングラスをかけることによって相手に視線を悟らせないためだ。
 あと、ナンパしたときキョドっているのを察せさせないようにするために購入したものでもある。
 ちなみに成功確率は0%。

「論争って、これまでただ単にお前の自爆じゃねえか。んで今度はどんな言い訳だ?」
「第三の最終議論開廷だ!」
「ほう、最終ときたか。納得できるような言い分を述べてみせるんだな」

 俺は宿題を隅っこに置いた後、俺と葵との間にテーブルをドンっと置いた。

「なるほど、一応討論だからってわけか」

 ふっと、口元をあげて不敵な笑みを見せて座りやがった。
 いや、ただ単にここに鞄を出させた隙に奪うという計画だったが……まあいいや。

「そもそも夏とはなんぞや」
「また夏か、まあ……日本の四季の一つだな」
「そう、春夏秋冬とあり、春の次に夏が来る。秋の前に夏がある。ちなみに気温は高く25℃から夏日と言われているんだ」
「へぇ、知らなかったわ」
「そこから気温が上昇していき、真夏日、猛暑日、酷暑日と言われることがニュースで取り上げられる。ただその後はどうなると思う? Hey you! AOOOOI!」
「なんで、いきなり英語呼び。まあ、暑さは続くわな。猛暑日が続くって聞いたことあるし」
「その通り。つまり、夏というのはまだ続いているわけだ。6月7月8月は夏の季節。だけど9月からは秋がとなるのはどうしてか!」
「知らねえよ。世の中そうなってるんだし」
「そうか、ちなみに俺も知らん!」

 コホンと咳を払い、テーブルに肘を乗せ指を絡ませその上に顎を乗せた。
 どこかの偉いさんはこうすることで、見た目だけは偉く見えるかもと言いました。

「さて、ここで本題だ。俺達の夏休みはまさにその四季の一つである“夏”に行われる学校の長期休み、だ!」
「確かに、春休み冬休みと比べたら長いな」
「ここで俺はこう考えた、夏が暑いんだから9月以降も暑い。つまりはまだ夏は終わっていないんだと」
「いや、さっき9月から秋とお前が言ったじゃん」
「ここで俺はこう考えた、夏が暑いんだから9月以降も暑い。つまりはまだ夏は終わっていないんだと」
「まだ言うんだな」
「残暑日という、まだ暑さが残っているのに9月に入る。これ如何に」
「気温は仕方がないだろ。日にちはそうなっているんだから諦めろ」
「逆にこう考えてみろ。真夏日が続くと実は9月でも夏になるんじゃないかと」
「……ん? つまりはお前の中では夏休みはまだ続いていると?」
「正解。そんなあなたには俺に宿題を見せる権利をあげよう」
「見せねえよ」

 強情な奴だな……仕方がない、あの手でいくか。
 俺は手を擦り、前歯を出すような仕草をした。

「うへへへ。葵さんや葵さんや。今、宿題を見せてくれるならお前さんがやってたゲーム貸してあげなくもないですぜ。特典にはもう複数のゲームも付きますぜ。グヘヘ」
「……っ! 確かに魅力的ではあるけど、まあ……」
「俺もまだ進めてないから、明日には返してもらうけど」
「ならだめだ」

 チッ。揺らぎはしたけど釣られないか……なら次。

「そういや、近所で評判のケーキがあるだろ?」
「ああ、あそこで有名なケーキね」
「実はあそこのケーキ買っていたんだよね。今あるんだ」
「え、マジで? 売り切れ続出で中々買えないのだろ? よく買えたな」
「ああ、たまたま並べて買えたんだ」
「もしかして……」

 期待している目を向けてやがる。
 ふっ、甘党だってことを俺は昔から知っていた。当然こうも予想できた。
 これで交換条件で目的達成だ……って、あれ?

「あっ、悪い。食っちまったわ」
「交渉決裂だ」

 くそー、どうしてこうなる。
 仕方がない、こうなったら正攻法で行くしかない!

「そもそもこの夏休みという学生の特権はなんのためにあるのか。普段学校では味わえない非日常。終わりなき夜更かし。朝寝坊の心配なし! さあ一緒にサボろうではないか。今なら特典の俺が付いてくる相棒!」

 俺はそのまま手を差し出した。
 この誘導に抗えないだろ。さあ、この手を取るんだ。

「嫌だよ。サボるなら一人でサボれよ。それに学生である特権は今日までで、明日は9月1日の平日だぞ」
「嫌だ―嫌だーもっと遊んでいたい~。そして宿題見せろ~」

 テーブルにバンバン叩いて駄々をこねてみた。
 てか、もう他に思い付くことがないからこうするしかない。

「いくら喚こうが、もう間に合わないから諦めろ」

 ふむ、この手もダメか……。
 なら、次なる手はこれだ。

「知っているか葵」
「なんだよ」
「お前は今どこにいる? 何故、俺はドア側にいると思っている?」
「なっ、お前まさか……」
「そうさ。お前がその鞄の中に入っている秘伝のノートを見せてくれるまで帰さないためさ!」

 脅迫? ノンノン、協力さ。
「はぁ……仕方がないな」そう言って葵は諦めたようにノートを一冊、テーブルに置いてくれた。
 綺麗なノート、まるで使われていない新品なような。

「もう時間だし帰るわ」
「ありがとう葵様。流石は恩人様だ!」

 俺が手を付けようとしたその時、葵は「そうだ。コンビニ行かね?」と何かを思いついたように言い出した。当然俺は「行く」と二つ返事をした。
 だけどそれが葵による罠だとハメられたと気づいたのは、帰ってきた後に葵が置いていったノートを開いた時だった。

「で……お前は夏休みの宿題を手に付けなかったと?」

 9月1日の夏休み明け。いや、次の日の2日1時間目から始まる前か?
 俺は壇上の前に立っていた教師に事の成り行きを知らせた。

「いやー、付けなかったというのは語弊ですよ先生。俺は頑張ろうとしたんですよ? ただ、葵の奴が宿題のノートを見せてくれたわけですよ。ページを開いたら何と驚きが。そこにあったのは“真っ白”だったんですよ」
「んで、真っ白のノートをそのまま写して完成と言うわけか……?」

 俺は自信満々に「はいっ! これが俺の夏の集大成です!」と空白の宿題を叩き返事をした。
 まあ結果は火を見るよりも明らか、先生は大激怒。
 地震雷火事親父とどこかで聞いたことあるような、そんな状況。
 そしてその後6時間目が終わった放課後、俺は今反省文を書かされ、俺の前の席に葵が体をこっちに向かい座っていた。

「お前、学年中に噂になっていたぞ? 鬼の教師、大噴火。怒らせた無白の英雄ってな」

 反省文をカリカリと書いていた手を止め俺は葵に問いただした。

「なあ葵、夏ってなんだろうな」
「……また同じ事言ってるのか」
「俺はこの集大成に気づいたんだ(二回目)」
「それ先生に言って怒られてただろ。まあ、言ってみな」
「夏ってのは、宿題をやらない言い訳を探し続ける季節というパンクロードだ」
「それ、独自の道を進んでも行きつく先は宿題をやらず再び怒られるだけだぞ」

 葵は返却された宿題の数々を反省文の上にドカッと置きやがった。

「お前の夏の終わりは山のように積みあがった宿題とともにまだまだ先だな。んでどうする? 議論はまだ続くか?」

 俺は机を数度叩くと「第三の議論はこれにて閉廷、へいてーい!」


スタンプを贈って作者を応援しよう!



みんなのリアクション



おすすめ作品を読み込み中です…



 蝉が鳴くまだ蒸し暑い日。昼の13時、自室にて幼馴染の葵を呼んで勉強していた。
 部屋にはカリカリと音が響き、カチカチと響く。
「なあ葵さ、夏ってなんだろうな?」
 シャーペンを持つ手をピタリと止め、ふと一つの|疑問《テーマ》が頭に浮かんだことを口にした。
「なんだよ急に、哲学的な事言いだして」
「いや、ふと思ったわけよ。夏って言ったら暑いじゃん?」
「ああ、そうだな蒸し暑いな」
「んで、気温が高くなるじゃん?」
「ああ、そうだな夏なんだからな」
「そうすると、冷たい物が口欲しくなるじゃん?」
「ああ、そうだなこんな暑い日にはアイスでも食べたくなるな」
「けど、外でると暑いじゃん?」
「ああ、蒸し暑いな」
「んで、暑いと気温高くなるじゃん?」
「ああ、夏だしな」
「やっぱり、冷たい物を入れたいじゃん?」
「ああ、飲み物でも飲みたいな」
「……」
「……」
「さて、第一の議論はここにて閉廷。しばしの休息に入ります」
「いや、なんの議論だよ! ただの発想のローテーションをしてただけじゃん」
 ゲームをしていた葵はコントローラーを床に置くと、顔だけをこっちに向けた。
「それよりもお前、夏休みの宿題進んだのかよ?」
「いやな、俺さ腐っても鯛のお前に勉強を教えてもらうはずだったよな?」
「お前、それ失礼だからな気を付けろよ。てか、どうしてもと言うから渋々予定空けて来たんだから、感謝してほしいくらいだぜ」
 葵がクイっと指差した先にはカレンダー。
 日付は8月31日で8月の最後の日。そう今日は夏休み最後の一日だ。
「それは感謝している。しているけど、お前なんで俺の部屋でゲームばっかして教えてくれないんだよ。てかお前宿題はどうしたんだ」
「宿題? そんなのとっくに終わらせてるよ」
 ドヤ顔で俺のことを小馬鹿にするような表情を見せやがって。
「お前夏休みの間、宿題やらずに散々遊んでたろ。おばさんから聞いたぞ?」
「いやだって、夏休みじゃん?」
「前もお前に聞いたとき、まだ大丈夫まだ大丈夫と言ってたろ」
 うっ……、痛い所を突きやがる。
 俺は無い眼鏡をあるかのように、指でクイっとあげて見せた。
 さも格好良く、頭の良さそうな風を装って――な!
「では、第二の議論を開廷する!」
「いや、やるのかよ! しかも第二って」
「“何故、大丈夫大丈夫と言いながら俺は宿題をここまでやらなかった”のかと」
「お前がさぼってたからってだけで議論の余地ないだろ。まあいいや言ってみな」
 コホンと咳払いすると、俺はノートに順序よくなにをしていたのかを書いた。
「まずは夏休みの始めとなります。この日の俺は次の日から学校が休みだと喜び浮かれていました」
「まあ、夏休みの始めだし気持ちは分かる」
「そして1週間が過ぎました。その間にやった事と言えば、プールに行き、映画に行き、山へと」
「ああ、この時一緒に行ったわ。面白かったよな」
「ただし、どこ行ってもお前がモテるからイラっとしました」
 ノートに大きく“死”を強調するように書いた。
「いや、怖い怖いって。あの時はお前と優先して遊ぶために断りまくったろ」
 俺は無視して次のページを捲り、再び書き始める。
「そして8月に入り、クラスの皆とお祭りへ。この時、俺の好きな子がいたのでワクワクしました」
「あの時、たまたまクラスの奴がほとんど集まってたからのは驚いたな」
「ただし、お前は俺の好きな子と付き合った。それは許さん! だけどおめでとう!」
「サンキューな」
 再びノートには大きく恨みつらみに死のマークを書いてスッキリ。
「中旬に入り、ここで大きなイベントが開始! お盆に3泊4日の家族旅行に行きました」
「確か北海道だっけ? お土産は美味しかったわ」
「その通り、北海道名物白い恋人1200円ぐらいとお手製の熊の木彫り(貯金箱)を渡しました」
「マジかよ!? 確かにちょっと細長い穴が空いてるなと帰ってから気づいたけどさ。しかも何気にクオリティ高いし」
「ありがとう。そしてこの家族旅行では宿題のことをすっかり忘れ、帰ってからも疲れてしばらくやっていません」
「まあ、旅行楽しかっただろうしな。だけどなんでやらないんだよ。8月も下旬だろ」
 指を一本立て左右に揺らし、チッチッチと舌打ちをした。
「まだまだ思考があまいねぇチミは。俺を知るためには108が必要だ」
「何様だよってかそれ煩悩の数だからな。お前欲まみれかよ」
「まだ10日はある。10日間あると言う事は、つまりはまだ余裕があるという意味だ」
「それで遊び惚けてたのか?」
「いや、流石にまずいと思って手を付け始めた」
「お、ついにか偉いじゃん。んで、どこまで出来たんだ?」
 俺は隅っこに置いてある教科書やらノートやらプリントやらを、中央にあるテーブルにドサっと置いた。それを見た瞬間、葵は即座に立ちあがり出て行こうとしたけど、そんな行動俺にはお見通しさ!
「まって……まってくれよぉ! 後生、一生のお願い。これを聞かないと後悔が起きる。いや、頼む話を、話を聞いてくれよぉー!」
 俺は唯一出口のドアの前で必死に食い止めたさ……プライド?
 そんなもんを持ち合わせてたら、頼まねえわ!
「……おい……、まさかこれ全部、と言わないよな?」
「ふっ……心配するな。流石に全部ではないさ」
 葵はホッとしたように元の位置へと戻ってくれた。
 まあ、諦めたというべきだろうけど。
 とりあえず俺は仕分けるように、数冊のノートとプリントを横に置いた。
「これだけだ」
 山のように置かれた宿題の数に対して、隣には1/10ほどの数しか置かれていない仕上がった宿題の数が積みあがっていた。
「おっと、時間だから帰らせてもらうわ」
「待て待て待て待て、流石に俺も鬼じゃないから全部を手伝ってもらうってわけじゃないんだ。せめて、せめてある程度は仕上げれたら言い訳も立つってか、宿題写させてくれよ」
 葵は大きくため息をつくと、持ってきてくれたであろう鞄から数冊のノートを取り出そうとしてくれた。
「一応確認するが、さっき10日あると言ったよな? 本気で頑張れば一応は間に合うだろ」
「いやー、本気で頑張ろうと思ったんよ。ちょっと大変な事があって」
 こいつ、ジトっとした目で俺を見てやがる。
 流石に信用されてないか。
 仕方がないと思い、俺は淡々と話すことにした。
「まずは苦手科目から手を付け始めたんだ」
「へえ、確かに苦手科目から片付けたら、あとは得意科目だけだもんな」
「だけどこれが難解で、手を付けようともさっぱり分からんわけよ。んで、諦めて次に得意科目をしたわけだ」
「まあ確かに難しいわな。手を出そうとしただけでも偉い……のか?」
「疲れたから、休憩しようとしたわけよ」
「うんうん」
「そしたらなんと、見たい番組があったわけよ」
「うんうん……うん?」
「その番組はスペシャルで夜中の22時までやってたんよな。部屋に戻って、さあやるぞって机に向かって広げたわけよ」
「見終わってから寝たとかじゃなく、勉強したわけだな。偉いぞ」
「ただ、勉強するとなると長時間集中しなくちゃいけないし、疲れるじゃん?」
「ん?」
「だから、一度横になったわけよ。先に休息をしてからしっかり取るわけだ」
「で、結果的に起きたら朝になっていたと……どうせ残りも同じような結果だろ」
「せいかーい。パフパフー」
 取り出して見えた|ノートの一部《宝物》を鞄の奥へと戻しやがった!
「なに戻してんだよ。早くその薬物を俺に渡してくれ! 搾取させてくれ! キメさせてくれ!」
「何が薬物だよ。せっかくお前がやる気見せると思ったらダメじゃねえか!」
「くそっ……せっかくの特ダネを教えたのに」
「それ特ダネじゃなく、お前のただの怠慢報告を言っただけじゃねえか」
「くっ、やるな……第……二の議論はこれにて閉廷……だっ……」
 くそっ、手強い……。
 どうすれば……どうすればこいつに納得して、俺に夏休みの宿題を貢ぎさせる事ができるのか。
 考えろ、考えろ、俺の潜在的シグナルΣ4.13859。
「ふっふっふっ、よくぞ我が論争についてこれたようだな」
 サングラスを取り出し装着した。
 これはサングラスをかけることによって相手に視線を悟らせないためだ。
 あと、ナンパしたときキョドっているのを察せさせないようにするために購入したものでもある。
 ちなみに成功確率は0%。
「論争って、これまでただ単にお前の自爆じゃねえか。んで今度はどんな言い訳だ?」
「第三の最終議論開廷だ!」
「ほう、最終ときたか。納得できるような言い分を述べてみせるんだな」
 俺は宿題を隅っこに置いた後、俺と葵との間にテーブルをドンっと置いた。
「なるほど、一応討論だからってわけか」
 ふっと、口元をあげて不敵な笑みを見せて座りやがった。
 いや、ただ単にここに鞄を出させた隙に奪うという計画だったが……まあいいや。
「そもそも夏とはなんぞや」
「また夏か、まあ……日本の四季の一つだな」
「そう、春夏秋冬とあり、春の次に夏が来る。秋の前に夏がある。ちなみに気温は高く25℃から夏日と言われているんだ」
「へぇ、知らなかったわ」
「そこから気温が上昇していき、真夏日、猛暑日、酷暑日と言われることがニュースで取り上げられる。ただその後はどうなると思う? Hey you! AOOOOI!」
「なんで、いきなり英語呼び。まあ、暑さは続くわな。猛暑日が続くって聞いたことあるし」
「その通り。つまり、夏というのはまだ続いているわけだ。6月7月8月は夏の季節。だけど9月からは秋がとなるのはどうしてか!」
「知らねえよ。世の中そうなってるんだし」
「そうか、ちなみに俺も知らん!」
 コホンと咳を払い、テーブルに肘を乗せ指を絡ませその上に顎を乗せた。
 どこかの偉いさんはこうすることで、見た目だけは偉く見えるかもと言いました。
「さて、ここで本題だ。俺達の夏休みはまさにその四季の一つである“夏”に行われる学校の長期休み、だ!」
「確かに、春休み冬休みと比べたら長いな」
「ここで俺はこう考えた、夏が暑いんだから9月以降も暑い。つまりはまだ夏は終わっていないんだと」
「いや、さっき9月から秋とお前が言ったじゃん」
「ここで俺はこう考えた、夏が暑いんだから9月以降も暑い。つまりはまだ夏は終わっていないんだと」
「まだ言うんだな」
「残暑日という、まだ暑さが残っているのに9月に入る。これ如何に」
「気温は仕方がないだろ。日にちはそうなっているんだから諦めろ」
「逆にこう考えてみろ。真夏日が続くと実は9月でも夏になるんじゃないかと」
「……ん? つまりはお前の中では夏休みはまだ続いていると?」
「正解。そんなあなたには俺に宿題を見せる権利をあげよう」
「見せねえよ」
 強情な奴だな……仕方がない、あの手でいくか。
 俺は手を擦り、前歯を出すような仕草をした。
「うへへへ。葵さんや葵さんや。今、宿題を見せてくれるならお前さんがやってたゲーム貸してあげなくもないですぜ。特典にはもう複数のゲームも付きますぜ。グヘヘ」
「……っ! 確かに魅力的ではあるけど、まあ……」
「俺もまだ進めてないから、明日には返してもらうけど」
「ならだめだ」
 チッ。揺らぎはしたけど釣られないか……なら次。
「そういや、近所で評判のケーキがあるだろ?」
「ああ、あそこで有名なケーキね」
「実はあそこのケーキ買っていたんだよね。今あるんだ」
「え、マジで? 売り切れ続出で中々買えないのだろ? よく買えたな」
「ああ、たまたま並べて買えたんだ」
「もしかして……」
 期待している目を向けてやがる。
 ふっ、甘党だってことを俺は昔から知っていた。当然こうも予想できた。
 これで交換条件で目的達成だ……って、あれ?
「あっ、悪い。食っちまったわ」
「交渉決裂だ」
 くそー、どうしてこうなる。
 仕方がない、こうなったら正攻法で行くしかない!
「そもそもこの夏休みという学生の特権はなんのためにあるのか。普段学校では味わえない非日常。終わりなき夜更かし。朝寝坊の心配なし! さあ一緒にサボろうではないか。今なら特典の俺が付いてくる相棒!」
 俺はそのまま手を差し出した。
 この誘導に抗えないだろ。さあ、この手を取るんだ。
「嫌だよ。サボるなら一人でサボれよ。それに学生である特権は今日までで、明日は9月1日の平日だぞ」
「嫌だ―嫌だーもっと遊んでいたい~。そして宿題見せろ~」
 テーブルにバンバン叩いて駄々をこねてみた。
 てか、もう他に思い付くことがないからこうするしかない。
「いくら喚こうが、もう間に合わないから諦めろ」
 ふむ、この手もダメか……。
 なら、次なる手はこれだ。
「知っているか葵」
「なんだよ」
「お前は今どこにいる? 何故、俺はドア側にいると思っている?」
「なっ、お前まさか……」
「そうさ。お前がその鞄の中に入っている秘伝のノートを見せてくれるまで帰さないためさ!」
 脅迫? ノンノン、協力さ。
「はぁ……仕方がないな」そう言って葵は諦めたようにノートを一冊、テーブルに置いてくれた。
 綺麗なノート、まるで使われていない新品なような。
「もう時間だし帰るわ」
「ありがとう葵様。流石は恩人様だ!」
 俺が手を付けようとしたその時、葵は「そうだ。コンビニ行かね?」と何かを思いついたように言い出した。当然俺は「行く」と二つ返事をした。
 だけどそれが葵による罠だとハメられたと気づいたのは、帰ってきた後に葵が置いていったノートを開いた時だった。
「で……お前は夏休みの宿題を手に付けなかったと?」
 9月1日の夏休み明け。いや、次の日の2日1時間目から始まる前か?
 俺は壇上の前に立っていた教師に事の成り行きを知らせた。
「いやー、付けなかったというのは語弊ですよ先生。俺は頑張ろうとしたんですよ? ただ、葵の奴が宿題のノートを見せてくれたわけですよ。ページを開いたら何と驚きが。そこにあったのは“真っ白”だったんですよ」
「んで、真っ白のノートをそのまま写して完成と言うわけか……?」
 俺は自信満々に「はいっ! これが俺の夏の集大成です!」と空白の宿題を叩き返事をした。
 まあ結果は火を見るよりも明らか、先生は大激怒。
 地震雷火事親父とどこかで聞いたことあるような、そんな状況。
 そしてその後6時間目が終わった放課後、俺は今反省文を書かされ、俺の前の席に葵が体をこっちに向かい座っていた。
「お前、学年中に噂になっていたぞ? 鬼の教師、大噴火。怒らせた無白の英雄ってな」
 反省文をカリカリと書いていた手を止め俺は葵に問いただした。
「なあ葵、夏ってなんだろうな」
「……また同じ事言ってるのか」
「俺はこの集大成に気づいたんだ(二回目)」
「それ先生に言って怒られてただろ。まあ、言ってみな」
「夏ってのは、宿題をやらない言い訳を探し続ける季節というパンクロードだ」
「それ、独自の道を進んでも行きつく先は宿題をやらず再び怒られるだけだぞ」
 葵は返却された宿題の数々を反省文の上にドカッと置きやがった。
「お前の夏の終わりは山のように積みあがった宿題とともにまだまだ先だな。んでどうする? 議論はまだ続くか?」
 俺は机を数度叩くと「第三の議論はこれにて閉廷、へいてーい!」