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第11話【ライブハウス】

ー/ー



 緋たちはフロアに足を踏み入れた。

 スモークの匂い。そしてガンガンの冷房のせいで少し寒い。アメリカロックがBGMとして流れていた。

 ホワイトの照明によって僅かに照らし出されているフロアは、人がまだ少ないということもあるが、かなり広い印象を受けた。

 フロア入口のすぐ左側にはカウンター。右側にはお手洗い。

 そしてすこし進めば右側に見えてくるステージ上には、1番目のアクトであるSKYSHIPSの機材が並ぶ。

 中央、Perlのドラムセットの前のスタンドに置かれたホワイトのGibsonレスポールカスタム。
 上手(かみて)にはパープルのアトリエZ(ズィー)。下手(しもて)には台座の上にYAMAHAのキーボードが2台とKONGのシンセサイザー。

「……SKYSHIPSって高校生なんだよね……?」

 緋と蒼もそこそこ良い楽器を使っている自負があったのだが、ステージの上にあるモノを見て少し引き気味になりながらクラスメイトに聞いた。

「そう。今年高3」
「いやいやいや……。あのレスポールだけでうちのジャズマス何本買えると思ってんの……」

 緋は戦慄を覚えながらも、少しの羨望を抱いた。

 そして改めてフロアを見渡してみる。

 縦幅より横幅の方があり、身長次第なところはあるが後ろの方からでもステージが見えそうだと思った。フロアから見てステージの左側の壁にはステージの様子が映るであろうモニターも設置されているので、場所によってはそっちに目線をやることもあるかもしれない。
 そのすぐ近く。フロアの入り口からフロアを挟んで反対側のあたりには、出演バンドの物販コーナーが用意されていた。

 そしてその物販コーナーで何かを眺めるポニーテールがひとり。

「あれ、碧(みどり)だ……」

 緋はあまり近付かないでおこうと思い、フロアの中央より奥に行くのはやめた。

 しかし、碧が振り向いてしまい、緋たちはあっさりと見つかってしまった。

「……なんであんたがいるわけ?」

 案の定、碧は嫌そうな顔をして緋と蒼を睨みつけた。

「いや……誘われて」
「あっそ。最悪」
「なんかごめん」
「ごめんじゃないし。あんたの声ムカつくの」
「話しかけてきたのそっちじゃん……」
「黙れゴミカス。話しかけんな」

 碧はステージの真ん前まで歩いて行き、フェンスに寄り掛かった。

「終さんって故村さんと仲悪いよね……」
「まぁ……碧とは中学一緒でさ。ちょっとね」
「そっかぁ……」

 何も知らないクラスメイトは、軽く流した。



◇◇◇



 ——そして開演の時間になった時には、フロアは人口密度は低いがそれなりに埋まっていた。

 緋と蒼は後ろの壁に背中を預けて鑑賞するつもりでいたのだが、客の中には男性も多く、このまま人が増えて隙間が無くなってしまうと視線がふさがれ、緋と蒼の身長では背伸びをしても見えなくなりそうだった。

「まあ仕方ないか。どのみちこの髪で真ん中行っても迷惑だろうし。優雅に音聴くことにしよ」
「ええ」

 見えなくなりそうでも、見える限りで楽しむことにする。


 ——そしてフロアの照明が落とされ、BGMの音量が上がる。

 ステージが青い光で照らされ、一人がステージに姿を現すと同時にフロアから歓声が上がった。

「きゃ~~~~~っ!!」
「おおおぉぉぉおっ!!」

 黄色い声と野太い声が入り混じっていた。そんな声を受けながらステージに上がる、SKYSHIPSメンバー。

 ドラムス『曇(くもり)紫音(しおん)』。紫色のくせ毛のショートカットの少女。そこそこ長身で、ワイドパンツとオーバーサイズのTシャツを着たボーイッシュ少女だ。
 キーボード『佐倉(さくら)楓花(ふうか)』。朱色のミディアムボブで大人しい暖色のワンピース。身長は緋と同じくらいであまり高くないが上品で大人びた雰囲気の少女。
 ベース『飯野(いいの)(はる)』。桜色の長い髪を揺らしながら持ち場につき、もこもこの上着の袖からちょこっと出した細い指で厳つい紫色のアトリエZ M#265を拾い上げる。
 そしてギターボーカル『才禍(さいか)結衣(ゆい)』。艶のある黒髪ストレートをなびかせながらステージ中央へ立つ。凛々しい表情を見せるが服装はカジュアルな印象のワンピースを軸にしたストリートっぽいスタイルで親しみやすさのようなものを感じさせる。しかしながら、そこには気品が溢れており、確かな“格”があった。

 結衣はスタンドからレスポールを拾い上げ、ストラップを肩にかけ髪を払う。その払った髪でさえ、照明を反射しキラキラと輝く。

 BGMが止む。

 結衣は一回だけ息を吐くと、ギラついた赤紫の瞳でフロアを見渡し、左手をマイクに添えて、後ろにいるドラムス、紫音に視線を送る。

 ——シンバルが4カウント。

「───ッ!行くぞ下北ぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああ~~~~~~ッッ!!!!!」

「Yeahあああぁぁぁぁぁぁぁあああああッ!!!!!」

 打ち乱されたドラムに続き叫ぶ結衣とオーディエンス、搔き乱されたギターとベース、そしてキーボード。

 結衣はフロアに向かって人差し指を突き出し、全員をターゲットと定めるようにその指先を動かしていく。

「皆さん今日は!歴代最高のSKYSHIPSをお見せします!!どうか全力でぶつかって来てくださ~~~いッ!!!」



 ……To be continued


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 緋たちはフロアに足を踏み入れた。
 スモークの匂い。そしてガンガンの冷房のせいで少し寒い。アメリカロックがBGMとして流れていた。
 ホワイトの照明によって僅かに照らし出されているフロアは、人がまだ少ないということもあるが、かなり広い印象を受けた。
 フロア入口のすぐ左側にはカウンター。右側にはお手洗い。
 そしてすこし進めば右側に見えてくるステージ上には、1番目のアクトであるSKYSHIPSの機材が並ぶ。
 中央、Perlのドラムセットの前のスタンドに置かれたホワイトのGibsonレスポールカスタム。
 上手《かみて》にはパープルのアトリエ|Z《ズィー》。下手《しもて》には台座の上にYAMAHAのキーボードが2台とKONGのシンセサイザー。
「……SKYSHIPSって高校生なんだよね……?」
 緋と蒼もそこそこ良い楽器を使っている自負があったのだが、ステージの上にあるモノを見て少し引き気味になりながらクラスメイトに聞いた。
「そう。今年高3」
「いやいやいや……。あのレスポールだけでうちのジャズマス何本買えると思ってんの……」
 緋は戦慄を覚えながらも、少しの羨望を抱いた。
 そして改めてフロアを見渡してみる。
 縦幅より横幅の方があり、身長次第なところはあるが後ろの方からでもステージが見えそうだと思った。フロアから見てステージの左側の壁にはステージの様子が映るであろうモニターも設置されているので、場所によってはそっちに目線をやることもあるかもしれない。
 そのすぐ近く。フロアの入り口からフロアを挟んで反対側のあたりには、出演バンドの物販コーナーが用意されていた。
 そしてその物販コーナーで何かを眺めるポニーテールがひとり。
「あれ、碧《みどり》だ……」
 緋はあまり近付かないでおこうと思い、フロアの中央より奥に行くのはやめた。
 しかし、碧が振り向いてしまい、緋たちはあっさりと見つかってしまった。
「……なんであんたがいるわけ?」
 案の定、碧は嫌そうな顔をして緋と蒼を睨みつけた。
「いや……誘われて」
「あっそ。最悪」
「なんかごめん」
「ごめんじゃないし。あんたの声ムカつくの」
「話しかけてきたのそっちじゃん……」
「黙れゴミカス。話しかけんな」
 碧はステージの真ん前まで歩いて行き、フェンスに寄り掛かった。
「終さんって故村さんと仲悪いよね……」
「まぁ……碧とは中学一緒でさ。ちょっとね」
「そっかぁ……」
 何も知らないクラスメイトは、軽く流した。
◇◇◇
 ——そして開演の時間になった時には、フロアは人口密度は低いがそれなりに埋まっていた。
 緋と蒼は後ろの壁に背中を預けて鑑賞するつもりでいたのだが、客の中には男性も多く、このまま人が増えて隙間が無くなってしまうと視線がふさがれ、緋と蒼の身長では背伸びをしても見えなくなりそうだった。
「まあ仕方ないか。どのみちこの髪で真ん中行っても迷惑だろうし。優雅に音聴くことにしよ」
「ええ」
 見えなくなりそうでも、見える限りで楽しむことにする。
 ——そしてフロアの照明が落とされ、BGMの音量が上がる。
 ステージが青い光で照らされ、一人がステージに姿を現すと同時にフロアから歓声が上がった。
「きゃ~~~~~っ!!」
「おおおぉぉぉおっ!!」
 黄色い声と野太い声が入り混じっていた。そんな声を受けながらステージに上がる、SKYSHIPSメンバー。
 ドラムス『曇《くもり》紫音《しおん》』。紫色のくせ毛のショートカットの少女。そこそこ長身で、ワイドパンツとオーバーサイズのTシャツを着たボーイッシュ少女だ。
 キーボード『佐倉《さくら》楓花《ふうか》』。朱色のミディアムボブで大人しい暖色のワンピース。身長は緋と同じくらいであまり高くないが上品で大人びた雰囲気の少女。
 ベース『飯野《いいの》春《はる》』。桜色の長い髪を揺らしながら持ち場につき、もこもこの上着の袖からちょこっと出した細い指で厳つい紫色のアトリエZ M#265を拾い上げる。
 そしてギターボーカル『才禍《さいか》結衣《ゆい》』。艶のある黒髪ストレートをなびかせながらステージ中央へ立つ。凛々しい表情を見せるが服装はカジュアルな印象のワンピースを軸にしたストリートっぽいスタイルで親しみやすさのようなものを感じさせる。しかしながら、そこには気品が溢れており、確かな“格”があった。
 結衣はスタンドからレスポールを拾い上げ、ストラップを肩にかけ髪を払う。その払った髪でさえ、照明を反射しキラキラと輝く。
 BGMが止む。
 結衣は一回だけ息を吐くと、ギラついた赤紫の瞳でフロアを見渡し、左手をマイクに添えて、後ろにいるドラムス、紫音に視線を送る。
 ——シンバルが4カウント。
「───ッ!行くぞ下北ぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああ~~~~~~ッッ!!!!!」
「Yeahあああぁぁぁぁぁぁぁあああああッ!!!!!」
 打ち乱されたドラムに続き叫ぶ結衣とオーディエンス、搔き乱されたギターとベース、そしてキーボード。
 結衣はフロアに向かって人差し指を突き出し、全員をターゲットと定めるようにその指先を動かしていく。
「皆さん今日は!歴代最高のSKYSHIPSをお見せします!!どうか全力でぶつかって来てくださ~~~いッ!!!」
 ……To be continued