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第10話【職場見学】

ー/ー



 入学から約1ヶ月が経った。

 1年2組の教室では休み時間になると、蒼が緋の所へと直行し、椅子に座ったままの緋に後ろから抱きつく様子を見ることができる。一切の例外なく。

 そんな2人の元へ、クラスメイトの女子が訪ねてきた。

「終(つい)さんたち、ちょっといい?」
「なに?」

 蒼に後ろから抱きしめられたままの緋は顔だけあげて聞き返した。

「今度ライブハウスにライブ見に行こうと思ってるんだけど、終さんも一緒にどうかなって」
「何のライブ?」
「『SKYSHIPS(スカイシップス)』ってガールズバンドなの。知ってる?」
「うーん、名前どっかで聞いたことあるくらい。曲は知らないかも」
「メンバー全員高校3年生でね、凄いかっこいいんだよ。あ、故村さんが自己紹介のとき好きって言ってたような」
「碧が……?」

 緋は思い出そうとしてみる。確かに碧がそんなことを言っていたような気はせんでもないが、思い出そうとしても記憶は出てこなかった。

「まぁわかんないけど、でもライブハウスは行ってみたかったしいいか。蒼、SKYSHIPSとやらのライブ行ってみる?」
「そうね。職場見学だと思って、行ってみましょうか」
「ん」

「ありがとう。ライブハウスって一人で行くのはちょっと怖くてさ~」
 緋と蒼を誘った女子は安堵の表情を浮かべた。

「……そういえば、なんで私たち誘ってくれたの?SKYSHIPS好きらしいし(みどり)誘えばよかったのに」
「あ~……故村(こむら)さんね。なんか怖くない?いつも不機嫌そうっていうか、暗い感じ?」
「……そう?」

 緋は斜め左後ろ、蒼の席の更に左横の席を見た。

 1番窓際の1番後ろの席。碧緑色のポニーテールと細い身体だけが見える。彼女はずっと窓の外を向いているだけだった。

「……碧……」

 緋は複雑な気持ちで碧を見て、そして目を離した。



◇◇◇



 後日。緋と蒼は学校終わりにライブハウスに直行することにした。誘ってくれたクラスメイトの少女は、1度家に帰ってから行くらしい。

 駅から電車に乗り、35分ほど。下北沢駅で降車。

「6時オープンのスタートが6時半よね」
「うん。まだ1時間近くあるしどうしよっか。とりあえずぶらぶら歩いてみる?」
「ええ」
「ん」

 緋は手を差し出す。蒼はその手を取り、指の間に指を絡ませて握る。

「……制服デートっ」

 顔を赤らめて幸せそうな顔をする蒼を見て、緋は心臓が熱くなった。

「蒼可愛い」

 公衆の面前。緋は蒼を抱きしめたい思いをぐっと堪えて言葉だけにそれを託した。それを聞いた蒼はギュッと手を握る力を強めただけだった。

「照れてる?」
「……照れてる」
「可愛いなぁもう」
「ひ、緋だって可愛いんだからっ」
「ふふっ、そうだね」

 緋は笑いながら蒼の手を引いた。



◇◇◇



 なんとなく寄った古着屋の店内で、緋は碧緑色のポニーテールを見た。ただ、かなり下の方で結んでいるローポニーテールだった。

「碧(みどり)?」

 緋が名前を呼ぶと、彼女は振り返って緋を見た。緋が思った通り、彼女は碧だった。

「……なんであんたがここに」
「いや、なんとなくなんだけど……古着好きなの?」
「別に。ちょっと暇だったから寄っただけだし」

 そう言うと碧はそっぽを向いて会計の方へと早歩きで行ってしまった。

「余計なことしちゃったかな」
「いいわよ、放っておきましょ」
「……まあ、そっか。私に絡まれるのは嫌か」

 元々碧は中学時代に緋を虐めていたグループの一人だった。自分が虐めていた相手にフレンドリーな対応はしたくないだろうと緋は納得する。

「……服買ってもこの後ライブ見る時邪魔になるしどうしようか」
「アクセサリーだけ見ない?髪纏めとかないといけないかもしれないし」
「確かに」

 緋と蒼はヘアアクセを見に移動。

「蒼は……この白いシュシュとかどう?」
「緋が選んでくれたものならなんでも嬉しい」
「じゃぁまぁ私の直感を信じてこれにしよう。蒼も何か私に合いそうなの選んでよ」
「え……緋は……可愛いからなんでも似合うのよ」
「その中から一番いいと思うのを選ぶの」
「……そうね……じゃあ……この黒のリボン……とか」

 蒼が指さしたのは、細めのベロアリボンのヘアクリップ。2個セット。

「うん。じゃあこれにする。選んでくれてありがと、蒼」
「ええ」

 そしてふたりは髪飾りを購入。

 蒼は髪をシュシュでさっと纏めて前に流した。

「どうかしら」
「可愛い」
「ありがとう」

 緋はというと、小さなヘアクリップでどう纏めようかと考え中だった。

「ごめんなさい、ライブ見る時に人に迷惑かかるかもしれないから髪纏めようって話だったのに……」
「いいよいいよ、蒼は悪くないから!……まあどんだけ乗れるかも分かんないし。私たちは後ろの方で見ようよ」
「そうね、そうしましょうか」
「蒼、携帯内カメラにしてこっち向けて。鏡代わりにしたい」
「ええ」

 携帯を向けてもらい、緋は横髪を頭の横で纏め、蒼に選んでもらったクリップで留める。

「ツーサイドアップ。どう?」

 緋は首を(かたむ)け、長い髪と共にリボンが揺れるのを見せびらかす。

「可愛い。凄く似合う」
「ありがと。……それじゃ行こっか」
「ええ」

 緋と蒼は互いの手を恋人繋ぎで握り、歩き出した。



◇◇◇



 ──居酒屋や飲食店も多い下北沢南口。

 緋と蒼は目的地であるライブハウス『下北沢CLUB 9』を目指して歩を進める。

「全時間帯ライス無料だって」
「ラーメン屋よね?」

 中身のない話をしながら、目的地の前までたどり着いた。

「ここだ」

 小洒落た4階建てのビル。ガラス張りの扉の向こうに、確かに『CLUB 9』の文字が書かれた看板が見える。

「お、終さんと霜夜さん!ちょうどだね」

 ちょうど誘ってくれたクラスメイトも到着した。

「じゃーいこっか」

 3人はビルの中へと入った。

 地下へ降りる階段の前に立てられた看板には、今日のライブのフライヤーが貼られていた。『SKYSHIPS』の文字もしっかり書いてある。記念に1枚写真を撮っておいて、階段を下る。

 階段の両側の壁は、多くのアーティストたちのフライヤーで埋め尽くされていた。

 階段を降りてすぐ右側に受付カウンター。短い髭の男性がそこにいた。彼は唸るような低い声で緋たちに声をかける。

「本日はどのバンドを見に来られましたか?」

 声は低いが、当たりは柔らかかった。

「SKYSHIPSです」
「SKYSHIPSですね……あい、高校生ならチケット2500円とツードリンク500円でひとり3000円です」

 緋は結構いい値段するなと思いながらお金を払う。

「……はい3人とも確かに。んじゃこちらライブのチケットと、ドリンクチケット。楽しんできてください」


 そしてその先、突き当たりの左側に、開け放たれた分厚い扉がある。
 緋たちは、その先にあるフロアへ、足を踏み入れた。



……To be continued


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 入学から約1ヶ月が経った。
 1年2組の教室では休み時間になると、蒼が緋の所へと直行し、椅子に座ったままの緋に後ろから抱きつく様子を見ることができる。一切の例外なく。
 そんな2人の元へ、クラスメイトの女子が訪ねてきた。
「終《つい》さんたち、ちょっといい?」
「なに?」
 蒼に後ろから抱きしめられたままの緋は顔だけあげて聞き返した。
「今度ライブハウスにライブ見に行こうと思ってるんだけど、終さんも一緒にどうかなって」
「何のライブ?」
「『|SKYSHIPS《スカイシップス》』ってガールズバンドなの。知ってる?」
「うーん、名前どっかで聞いたことあるくらい。曲は知らないかも」
「メンバー全員高校3年生でね、凄いかっこいいんだよ。あ、故村さんが自己紹介のとき好きって言ってたような」
「碧が……?」
 緋は思い出そうとしてみる。確かに碧がそんなことを言っていたような気はせんでもないが、思い出そうとしても記憶は出てこなかった。
「まぁわかんないけど、でもライブハウスは行ってみたかったしいいか。蒼、SKYSHIPSとやらのライブ行ってみる?」
「そうね。職場見学だと思って、行ってみましょうか」
「ん」
「ありがとう。ライブハウスって一人で行くのはちょっと怖くてさ~」
 緋と蒼を誘った女子は安堵の表情を浮かべた。
「……そういえば、なんで私たち誘ってくれたの?SKYSHIPS好きらしいし碧《みどり》誘えばよかったのに」
「あ~……故村《こむら》さんね。なんか怖くない?いつも不機嫌そうっていうか、暗い感じ?」
「……そう?」
 緋は斜め左後ろ、蒼の席の更に左横の席を見た。
 1番窓際の1番後ろの席。碧緑色のポニーテールと細い身体だけが見える。彼女はずっと窓の外を向いているだけだった。
「……碧……」
 緋は複雑な気持ちで碧を見て、そして目を離した。
◇◇◇
 後日。緋と蒼は学校終わりにライブハウスに直行することにした。誘ってくれたクラスメイトの少女は、1度家に帰ってから行くらしい。
 駅から電車に乗り、35分ほど。下北沢駅で降車。
「6時オープンのスタートが6時半よね」
「うん。まだ1時間近くあるしどうしよっか。とりあえずぶらぶら歩いてみる?」
「ええ」
「ん」
 緋は手を差し出す。蒼はその手を取り、指の間に指を絡ませて握る。
「……制服デートっ」
 顔を赤らめて幸せそうな顔をする蒼を見て、緋は心臓が熱くなった。
「蒼可愛い」
 公衆の面前。緋は蒼を抱きしめたい思いをぐっと堪えて言葉だけにそれを託した。それを聞いた蒼はギュッと手を握る力を強めただけだった。
「照れてる?」
「……照れてる」
「可愛いなぁもう」
「ひ、緋だって可愛いんだからっ」
「ふふっ、そうだね」
 緋は笑いながら蒼の手を引いた。
◇◇◇
 なんとなく寄った古着屋の店内で、緋は碧緑色のポニーテールを見た。ただ、かなり下の方で結んでいるローポニーテールだった。
「碧《みどり》?」
 緋が名前を呼ぶと、彼女は振り返って緋を見た。緋が思った通り、彼女は碧だった。
「……なんであんたがここに」
「いや、なんとなくなんだけど……古着好きなの?」
「別に。ちょっと暇だったから寄っただけだし」
 そう言うと碧はそっぽを向いて会計の方へと早歩きで行ってしまった。
「余計なことしちゃったかな」
「いいわよ、放っておきましょ」
「……まあ、そっか。私に絡まれるのは嫌か」
 元々碧は中学時代に緋を虐めていたグループの一人だった。自分が虐めていた相手にフレンドリーな対応はしたくないだろうと緋は納得する。
「……服買ってもこの後ライブ見る時邪魔になるしどうしようか」
「アクセサリーだけ見ない?髪纏めとかないといけないかもしれないし」
「確かに」
 緋と蒼はヘアアクセを見に移動。
「蒼は……この白いシュシュとかどう?」
「緋が選んでくれたものならなんでも嬉しい」
「じゃぁまぁ私の直感を信じてこれにしよう。蒼も何か私に合いそうなの選んでよ」
「え……緋は……可愛いからなんでも似合うのよ」
「その中から一番いいと思うのを選ぶの」
「……そうね……じゃあ……この黒のリボン……とか」
 蒼が指さしたのは、細めのベロアリボンのヘアクリップ。2個セット。
「うん。じゃあこれにする。選んでくれてありがと、蒼」
「ええ」
 そしてふたりは髪飾りを購入。
 蒼は髪をシュシュでさっと纏めて前に流した。
「どうかしら」
「可愛い」
「ありがとう」
 緋はというと、小さなヘアクリップでどう纏めようかと考え中だった。
「ごめんなさい、ライブ見る時に人に迷惑かかるかもしれないから髪纏めようって話だったのに……」
「いいよいいよ、蒼は悪くないから!……まあどんだけ乗れるかも分かんないし。私たちは後ろの方で見ようよ」
「そうね、そうしましょうか」
「蒼、携帯内カメラにしてこっち向けて。鏡代わりにしたい」
「ええ」
 携帯を向けてもらい、緋は横髪を頭の横で纏め、蒼に選んでもらったクリップで留める。
「ツーサイドアップ。どう?」
 緋は首を傾《かたむ》け、長い髪と共にリボンが揺れるのを見せびらかす。
「可愛い。凄く似合う」
「ありがと。……それじゃ行こっか」
「ええ」
 緋と蒼は互いの手を恋人繋ぎで握り、歩き出した。
◇◇◇
 ──居酒屋や飲食店も多い下北沢南口。
 緋と蒼は目的地であるライブハウス『下北沢CLUB 9』を目指して歩を進める。
「全時間帯ライス無料だって」
「ラーメン屋よね?」
 中身のない話をしながら、目的地の前までたどり着いた。
「ここだ」
 小洒落た4階建てのビル。ガラス張りの扉の向こうに、確かに『CLUB 9』の文字が書かれた看板が見える。
「お、終さんと霜夜さん!ちょうどだね」
 ちょうど誘ってくれたクラスメイトも到着した。
「じゃーいこっか」
 3人はビルの中へと入った。
 地下へ降りる階段の前に立てられた看板には、今日のライブのフライヤーが貼られていた。『SKYSHIPS』の文字もしっかり書いてある。記念に1枚写真を撮っておいて、階段を下る。
 階段の両側の壁は、多くのアーティストたちのフライヤーで埋め尽くされていた。
 階段を降りてすぐ右側に受付カウンター。短い髭の男性がそこにいた。彼は唸るような低い声で緋たちに声をかける。
「本日はどのバンドを見に来られましたか?」
 声は低いが、当たりは柔らかかった。
「SKYSHIPSです」
「SKYSHIPSですね……あい、高校生ならチケット2500円とツードリンク500円でひとり3000円です」
 緋は結構いい値段するなと思いながらお金を払う。
「……はい3人とも確かに。んじゃこちらライブのチケットと、ドリンクチケット。楽しんできてください」
 そしてその先、突き当たりの左側に、開け放たれた分厚い扉がある。
 緋たちは、その先にあるフロアへ、足を踏み入れた。
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