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第二話「在り来たりな異世界」

ー/ー



───眩しい。

意識が戻り、目は微かに光を感じるようになっており、静かに瞼を開ける。

腕を枕にしてテーブルに突っ伏していたみたいだ。この眩しさでよく眠れたものだ。顔を上げてみるとそこは古き良きな感じの喫茶店だった。丁度陽の光がよく入る窓側に座っており、空になったコップが目の前に置かれていた。

やっぱり夢だったのか…? でも喫茶店なんか行ったっけ…

それにしても嫌な夢を見た。まだプロボクサーの強烈なパンチをみぞおちに受ける方が数段楽なレベルの衝撃。体が千切れ、捻り取られ、潰される。まだ感覚を鮮明に覚えており、冷や汗が止まらない。

この窓側の席からは外の様子がよく見える。ふと辺りを見渡してみる。そこで見た信じられない光景に息を飲んだ。

普通の人間が見当たらないのだ。歩いている者の大半が動物の耳としっぽの生えた人間。コスプレに見えなくないが、そんなレベルじゃないと悟る。自然すぎるからだ。生まれながらにしてそこに生えているという感じがする。

中には動物の姿のまま二足歩行をしている者もいる。種類は多種多様でオオカミや鳥などが人のような体格で、人のように二足歩行しており、失礼な話だがとても気持ちが悪く、怖い。

あぁ、まだ夢は続いていたのか。それなら納得だ。

少し脳を休めるため目を閉じていたが、ここに居続けても仕方がないと思い、外に出ようとする。だが、店主のおじいさんに止められた。この人は見た感じ普通の人間だ。久しぶりにただの人間の姿を見て安堵する。

「すみません、お会計がまだですよ」

「え? あぁすみません 忘れてました」

とは言ったものの、お金なんて持ってきていない。一応ポケットを漁っては見たが、見覚えのない巾着袋しか入って無かった。

中を開けてみると、黄色いビー玉のようなものが二、三個入っていただけだった。

「あー…これで払えたりしませんよね…?」

ダメ元聞いてみた。こんな所で捕まる事になるとは…

「はい 黄玉(オウギョク)一つ頂戴致します。緑玉(リョクギョク)五つのお返しです」

店主はそう言うとさっきの玉の緑色バージョンを渡してきた。

「…ご馳走様でした」

「またのお越しを」

お会計?をして店を出る。

お金のことについては置いておくとして…

「どっか田舎の方に行ってきままにスローライフでも送ろうかな…」

現実世界に戻れそうにないし。

こんな人の多い場所に居たら良くないことに巻き込まれかねない為、ひとまず大通りを抜けようとした。

すると真横を少女が走り過ぎる。見た目は緑色の髪に赤色の瞳、髪型はツインテール。服はボロボロのTシャツ1枚しか着ておらず、汚れている。そんな見た目なのに、首には高そうなネックレスをつけている。歳は十代前半…ぐらいだろう。

何かから逃げているように見えたので後ろを振り向いてみる。すると騎士のような格好をした人達が二人、この少女を追いかけているみたいだ。こういうのを助けると後々面倒な事に巻き込まれかねないと思い、見て見ぬふりをしようとした。

「邪魔だ!どけッ!」

騎士は意図的に思いっきりぶつかってきた。硬い甲冑で体当たりされたというのに、不思議と痛みを感じなかった。

「…すいません」

少し苛立ちながらも振り返って謝る。が、そこに騎士の姿は無かった。

騎士は数メートル先まで吹き飛び、その場にいた誰もキャッチしてくれる人は居ず、地面に叩きつけられた。

「貴様!何をする!」

もう一人の騎士が壊斗に話しかけてきた。重そうな甲冑を身にまといながら近寄ってくる騎士を宥めるため、軽く体に触れた。触れただけだ。力など微塵も入れていない。

ただ優しく触れただけの筈だが、反発するかのように騎士が建物を破壊しながらぶっ飛んだ。凄まじい風圧に建物が崩れ去る。

店のガラスをぶち破り、遥か彼方へ消えてしまった。さっき体当たりしてきた騎士がすぐさま戦闘態勢に入った。こんな非力そうで武器も持ってない俺に向かって剣を向けてきたのだ。

「我らに向かってニ度も暴行を加えたな! 国家反逆罪としてお前はこの場で処刑だッ!」

鬼の形相で構えた剣で切りかかってきた。流石に訓練した騎士の攻撃を避けることは不可能だった…が、剣は俺の体に触れた瞬間バキッと音を立て折れた。

「──ッなんだと!?」

騎士は驚いてるようだ。だがこの場で一番驚いているのは俺だ。一体何が起きてるんだ。パニックで動く事さえままならなかった。

「くそッ!覚えてろ!この事は国王に報告させてもらう!貴様がどんな殺され方をされるか…見ものだな!」

騎士は目にも止まらぬ速さで逃げ出した。

がやがやと五月蝿かった音が瞬時に消えた。体を動かすことが出来ない。それに周りの風景や人、塵一つ微動だにしない。

これもまた神の仕業か?

(よく分かったね)

感覚で分かった。脳内に語りかけてくる奴は俺の知る限り一人しかいない。

「こんな事してくるのはアンタしか居ないからな ってそんな事今はどうでもいいんだ この力はなんなんだ!? 異世界転生にありがちな"チート能力"ってやつか…?」

(まぁそう慌てるなよ)

(それはね、チート能力なんて扱い易い力じゃない 君の能力は簡単に言うと超力(スーパーパワー)超守(スーパーディフェンス) 扱いには気をつけなよ? 少し本気を出ししただけでこの世界を簡単に崩壊させる程の力が君にはある でもその力は時が経つにつれ徐々に無くなる)

それはどういう…

(余計な事は考えるなよ。もっと簡単に言うと君が暮らしていた所とこことでは重力が違う それにより生じる力 と考えれば分かるだろう だから重力に体が慣れていく内 徐々に力が薄れていき最終的には無くなる… 体が完全に重力に慣れるからね ただし、その力がいつ無くなるかは僕にも分からない 今日無くなるか 明日無くなるか ある日突然無くなるか はたまた永遠に無くならないか…)

何とも曖昧な説明だ。重量のくだりが何の意味もないじゃないか。それより前から思っていたがこの神、俺の思考を読んでいないか?

(その力をどのように使うかは君自身が決めるんだ)

「…」

(どうした? まだ疑っているの?…これは現実だよ 夢なんかじゃない 君も内心ではもうとっくに気づいているんだろう?)

「やっぱ全部お見通しなんだな まぁ…ここまで来たら信じるしかないよな 異世界…か…未だに実感が湧かない」

"異世界転生"。にしても異世界転生やら転移やらする奴多すぎないか? 数を減らすために殺し合いデスゲームでも開いたら良いのに。

(最後にひとつ もし仮にこの世界で死んでしまったら 今度こそ何にも生まれ変われない 何にもする事が出来ない 魂になるんだよ 考える事だけなら出来るかもね でも動くことさえ出来ないから幾ら頭を働かせたとしても無駄だけどね笑)

何が面白いんだか。

(そこでは五感も感じないよ 知ってる? ヒトは五感を全て封じられると一日で気が狂うらしい 君はどのくらい耐えられるのかな?)

(だからまぁ 死なない方が良いとは思うよ)

「…」

(唐突だけど 僕は今後一切君に干渉出来ない 後は君が 君自身が考え 行動し 上手く生きていかなくてはならない がんばりなよ)

そう言い残し、神は指を鳴らす。すると辺り一体は何事も無かったかのように動き出した。野次馬達もいつの間にか消えていた。

だが、一人だけ壊斗に近寄る者が居た。さっきの通りすがり少女だ。

「貴方凄いね!護衛隊二人を素手で倒しちゃうなんて!」

「まぁな」と返事をした。見栄を張っただけで、本来俺の実力じゃないんだけれど。

「貴方の力を信じて頼み事があるのだけど、いいかな?」

「駄目だ」

「単刀直入に言うと、しばらくの間私のボディガードになって貰えませんか?お願い!」

人の話をまるで聞いていない。最悪だ。危惧していた事の1つがもう起きた。面倒事に巻き込まれた。これに"はい"と答えるとしばらくこの子と行動を共にしなくちゃならない。それは避けたい。

俺は地面に頭を擦り付け、自分で思う完璧な土下座をし、「勘弁してください」
そう懇願した。


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───眩しい。
意識が戻り、目は微かに光を感じるようになっており、静かに瞼を開ける。
腕を枕にしてテーブルに突っ伏していたみたいだ。この眩しさでよく眠れたものだ。顔を上げてみるとそこは古き良きな感じの喫茶店だった。丁度陽の光がよく入る窓側に座っており、空になったコップが目の前に置かれていた。
やっぱり夢だったのか…? でも喫茶店なんか行ったっけ…
それにしても嫌な夢を見た。まだプロボクサーの強烈なパンチをみぞおちに受ける方が数段楽なレベルの衝撃。体が千切れ、捻り取られ、潰される。まだ感覚を鮮明に覚えており、冷や汗が止まらない。
この窓側の席からは外の様子がよく見える。ふと辺りを見渡してみる。そこで見た信じられない光景に息を飲んだ。
普通の人間が見当たらないのだ。歩いている者の大半が動物の耳としっぽの生えた人間。コスプレに見えなくないが、そんなレベルじゃないと悟る。自然すぎるからだ。生まれながらにしてそこに生えているという感じがする。
中には動物の姿のまま二足歩行をしている者もいる。種類は多種多様でオオカミや鳥などが人のような体格で、人のように二足歩行しており、失礼な話だがとても気持ちが悪く、怖い。
あぁ、まだ夢は続いていたのか。それなら納得だ。
少し脳を休めるため目を閉じていたが、ここに居続けても仕方がないと思い、外に出ようとする。だが、店主のおじいさんに止められた。この人は見た感じ普通の人間だ。久しぶりにただの人間の姿を見て安堵する。
「すみません、お会計がまだですよ」
「え? あぁすみません 忘れてました」
とは言ったものの、お金なんて持ってきていない。一応ポケットを漁っては見たが、見覚えのない巾着袋しか入って無かった。
中を開けてみると、黄色いビー玉のようなものが二、三個入っていただけだった。
「あー…これで払えたりしませんよね…?」
ダメ元聞いてみた。こんな所で捕まる事になるとは…
「はい |黄玉《オウギョク》一つ頂戴致します。|緑玉《リョクギョク》五つのお返しです」
店主はそう言うとさっきの玉の緑色バージョンを渡してきた。
「…ご馳走様でした」
「またのお越しを」
お会計?をして店を出る。
お金のことについては置いておくとして…
「どっか田舎の方に行ってきままにスローライフでも送ろうかな…」
現実世界に戻れそうにないし。
こんな人の多い場所に居たら良くないことに巻き込まれかねない為、ひとまず大通りを抜けようとした。
すると真横を少女が走り過ぎる。見た目は緑色の髪に赤色の瞳、髪型はツインテール。服はボロボロのTシャツ1枚しか着ておらず、汚れている。そんな見た目なのに、首には高そうなネックレスをつけている。歳は十代前半…ぐらいだろう。
何かから逃げているように見えたので後ろを振り向いてみる。すると騎士のような格好をした人達が二人、この少女を追いかけているみたいだ。こういうのを助けると後々面倒な事に巻き込まれかねないと思い、見て見ぬふりをしようとした。
「邪魔だ!どけッ!」
騎士は意図的に思いっきりぶつかってきた。硬い甲冑で体当たりされたというのに、不思議と痛みを感じなかった。
「…すいません」
少し苛立ちながらも振り返って謝る。が、そこに騎士の姿は無かった。
騎士は数メートル先まで吹き飛び、その場にいた誰もキャッチしてくれる人は居ず、地面に叩きつけられた。
「貴様!何をする!」
もう一人の騎士が壊斗に話しかけてきた。重そうな甲冑を身にまといながら近寄ってくる騎士を宥めるため、軽く体に触れた。触れただけだ。力など微塵も入れていない。
ただ優しく触れただけの筈だが、反発するかのように騎士が建物を破壊しながらぶっ飛んだ。凄まじい風圧に建物が崩れ去る。
店のガラスをぶち破り、遥か彼方へ消えてしまった。さっき体当たりしてきた騎士がすぐさま戦闘態勢に入った。こんな非力そうで武器も持ってない俺に向かって剣を向けてきたのだ。
「我らに向かってニ度も暴行を加えたな! 国家反逆罪としてお前はこの場で処刑だッ!」
鬼の形相で構えた剣で切りかかってきた。流石に訓練した騎士の攻撃を避けることは不可能だった…が、剣は俺の体に触れた瞬間バキッと音を立て折れた。
「──ッなんだと!?」
騎士は驚いてるようだ。だがこの場で一番驚いているのは俺だ。一体何が起きてるんだ。パニックで動く事さえままならなかった。
「くそッ!覚えてろ!この事は国王に報告させてもらう!貴様がどんな殺され方をされるか…見ものだな!」
騎士は目にも止まらぬ速さで逃げ出した。
がやがやと五月蝿かった音が瞬時に消えた。体を動かすことが出来ない。それに周りの風景や人、塵一つ微動だにしない。
これもまた神の仕業か?
(よく分かったね)
感覚で分かった。脳内に語りかけてくる奴は俺の知る限り一人しかいない。
「こんな事してくるのはアンタしか居ないからな ってそんな事今はどうでもいいんだ この力はなんなんだ!? 異世界転生にありがちな"チート能力"ってやつか…?」
(まぁそう慌てるなよ)
(それはね、チート能力なんて扱い易い力じゃない 君の能力は簡単に言うと|超力《スーパーパワー》と|超守《スーパーディフェンス》 扱いには気をつけなよ? 少し本気を出ししただけでこの世界を簡単に崩壊させる程の力が君にはある でもその力は時が経つにつれ徐々に無くなる)
それはどういう…
(余計な事は考えるなよ。もっと簡単に言うと君が暮らしていた所とこことでは重力が違う それにより生じる力 と考えれば分かるだろう だから重力に体が慣れていく内 徐々に力が薄れていき最終的には無くなる… 体が完全に重力に慣れるからね ただし、その力がいつ無くなるかは僕にも分からない 今日無くなるか 明日無くなるか ある日突然無くなるか はたまた永遠に無くならないか…)
何とも曖昧な説明だ。重量のくだりが何の意味もないじゃないか。それより前から思っていたがこの神、俺の思考を読んでいないか?
(その力をどのように使うかは君自身が決めるんだ)
「…」
(どうした? まだ疑っているの?…これは現実だよ 夢なんかじゃない 君も内心ではもうとっくに気づいているんだろう?)
「やっぱ全部お見通しなんだな まぁ…ここまで来たら信じるしかないよな 異世界…か…未だに実感が湧かない」
"異世界転生"。にしても異世界転生やら転移やらする奴多すぎないか? 数を減らすために殺し合いデスゲームでも開いたら良いのに。
(最後にひとつ もし仮にこの世界で死んでしまったら 今度こそ何にも生まれ変われない 何にもする事が出来ない 魂になるんだよ 考える事だけなら出来るかもね でも動くことさえ出来ないから幾ら頭を働かせたとしても無駄だけどね笑)
何が面白いんだか。
(そこでは五感も感じないよ 知ってる? ヒトは五感を全て封じられると一日で気が狂うらしい 君はどのくらい耐えられるのかな?)
(だからまぁ 死なない方が良いとは思うよ)
「…」
(唐突だけど 僕は今後一切君に干渉出来ない 後は君が 君自身が考え 行動し 上手く生きていかなくてはならない がんばりなよ)
そう言い残し、神は指を鳴らす。すると辺り一体は何事も無かったかのように動き出した。野次馬達もいつの間にか消えていた。
だが、一人だけ壊斗に近寄る者が居た。さっきの通りすがり少女だ。
「貴方凄いね!護衛隊二人を素手で倒しちゃうなんて!」
「まぁな」と返事をした。見栄を張っただけで、本来俺の実力じゃないんだけれど。
「貴方の力を信じて頼み事があるのだけど、いいかな?」
「駄目だ」
「単刀直入に言うと、しばらくの間私のボディガードになって貰えませんか?お願い!」
人の話をまるで聞いていない。最悪だ。危惧していた事の1つがもう起きた。面倒事に巻き込まれた。これに"はい"と答えるとしばらくこの子と行動を共にしなくちゃならない。それは避けたい。
俺は地面に頭を擦り付け、自分で思う完璧な土下座をし、「勘弁してください」
そう懇願した。