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【勇者の末裔】

ー/ー




 レオールは怯えるディルに近付く。
 そしてディルのことをよく見てみると、彼の手は縛られていた。

 自分たちと同じように、彼もジョージに捕まったのだろうと推測できる。
 レオールはディルの後ろに回り込み、縄を解いた。

「あ、有難うございます」

 ディルは細い声でそう言うと、レオールの方に向き直って頭を下げる。

「気にするな……ところで、この貨物室にいるのはオレたちだけか? 他に人は?」

 レオールが聞くと、ディルは首を振った。

「他に人はいません」

 ディルはそう答えると、目に涙を貯める。

「本当にすみません」

 突然謝るディルを見て、レオールは目をぱちくりとさせた。

「何を謝ることがある? 話を聞いてしまったのはオレたちに非がある、気にするな」

 レオールが返すと、ディルはぶんぶんと首を振ってからエルキデスの方に振り向く。
 エルキデスはディルを見つめ、首をかしげた。

「ぼ、ボク、勇者の末裔で……あのリュートは父からもらった物なんです……あの魔物たちに捕まった時、奪われてしまって」

 しゅん、と気を落とし、ディルは言う。
 エルキデスのまゆがぴくりと動いた。

「勇者の……末裔」

 ぼそりとエルキデスが呟く。

「リュートのせいで貴方達を苦しめてしまったみたいで、本当にごめんなさい!」

 ディルが頭を下げる。
 レオールは困ったようにまゆをハの字にして、ディルの横を通り、エルキデスのそばに向かう。

 そして、エルキデスの肩に手を置いた。

「気にするな、魔力が封じられなくても、このエルキデスは魔力切れだったからな、どのみち捕まって貨物室行きになっていたさ」

 にっと笑い、レオールは言う。
 ディルは頭を上げ、潤んだ目でレオールを見つめた。

「なんて優しいんだ……」

 声を震わせながらディルが言うと、レオールは苦笑する。

「レオール、この男は処分した方がいい」

 エルキデスは肩に置かれたレオールの手を払い、言った。
 ディルの顔色がさーっと青く変わる。

「え、えっと、魔王エルキデスさんなんですよね?」

 ディルが震えながらエルキデスに問い掛け、エルキデスは眉間に深いシワを作った。

「だったら何だ? 先祖と同じようにワシを殺すか?」

 鋭い眼差しを向けられ、ディルは震え上がる。
 体を剣で貫かれるような、そんな感覚に襲われて息をのんだ。

「やめろ魔王」

 レオールに言われ、エルキデスはじろりとレオールを睨む。

「その節は申し訳ありませんでした!」

 ディルが勢いよく土下座をして、エルキデスは目を丸くする。
 突然の行動に、エルキデスもレオールも驚いて声が出ない。
 ディルは顔を上げ、口を開く。

「先祖たちがあなたを……こんな幼い子を殺して英雄になったなんて、全然知りませんでした! ボクの先祖は鬼畜で、ボクはその鬼畜の血を受け継いだ愚か者です!」

 涙をボロボロとこぼしながら、ディルはやや口早に言う。
 レオールは思わず口を半開きにして、ディルを見つめた。

「な、なんだ、コイツは」

 エルキデスが困惑した様子で呟く。

「この船で出会ったのも何かのご縁、この船から逃げ出しましょう! ボク、全力で頑張りますから!」

 ディルは手をギュッと握りしめた。
 完全に勘違いしているディルに、レオールは「ちょっと落ち着け」と声を掛ける。

 ディルは涙を手で拭い、レオールを見た。

「魔王はその、事故のせいで子どもの姿に……」
「お前の姿勢、悪くないな」

 レオールの言葉を遮り、エルキデスが言う。
 その言葉にレオールは驚いた表情を見せ、エルキデスの方に振り向いた。

「え?」

 ディルはエルキデスを見つめる。

「ディルといったな、お前の先祖がやったことは気に食わないが、お前のことは許してやろう」

 ついさっき、彼を「処分した方がいい」と言っていたはずのエルキデスが、突然そんな事を言ったので、レオールは軽く混乱した。

 ディルの目が輝く。

「本当ですか!? 有難うございます!」

 ディルはエルキデスに駆け寄り、エルキデスの小さな手を両手で包んだ。
 レオールはエルキデスの行動が理解できず、エルキデスに生ぬるい視線を送る。

「ではディル、どうやってここから出る?」

 エルキデスに聞かれたディルは、出入り口の扉を見た。

「抜け道とかは無いので、力技になりますが、あの扉を破壊します」

 ディルは真面目な表情で言うと、扉の方に向かって行く。
 エルキデスとレオールもディルの後に続き、扉の前で立ち止まったディルの後ろで足を止めた。

 ディルが深呼吸をする。

 するとディルの足もとから、金色の光の粒がふわりと立ちのぼった。
 その光を見たエルキデスが少しだけ口角を持ち上げる。

(あの光……術力か?)

 術力は人間が宿す力のひとつで、人間が魔法などを使う際に必要とされるエネルギーだ。
 レオールは術力すら使うことのできない自分が情けなくなり、唇を軽く噛む。

 光の粒が空間に溶け消え、ディルは一気に前に踏み出す。

「やあ!」

 ディルの拳が扉に直撃した。
 拳が当たったところに光が爆ぜる。

 しかし。

 扉は壊れなかった。

 それどころか、ディルは扉に当てた拳をかばいながら、その場にしゃがむ。

「い、いってて!」

 ディルが痛みに悶絶している。

 その様子にレオールとエルキデスは、冷ややかな視線を向けた。

「……破壊できないのか」

 エルキデスがディルに言うと、ディルは痛みに顔を赤くしながら、エルキデスを見る。

「ごめんなさい、ボク、力の使い方もよく分からなくて、実戦経験も殆ど無いんです……ジョージに取り上げられた剣さえあれば、少しだけど戦えるんですが……役立たずですみません」

 そう言って泣き出すディルに、レオールはため息をつく。

「仕方ない、オレが何とかする」

 レオールは言うと髪飾りに触れる。
 髪飾りは短剣に姿を変え、レオールの手に握られた。

「魔力も無いお前が短剣ひとつでどうする?」

 エルキデスに聞かれたレオールは、エルキデスの方を見て「見ていろ」と返す。
 そして、レオールは自身の手に短剣を食い込ませた。

「て、手に傷が! 大丈夫ですか?!」

 心配するディルの隣を通り過ぎ、扉に手を触れる。

「燃えろ」

 レオールの声が、静かに響く。
 その瞬間、扉は赤い炎に包まれ、激しく燃え上がった。


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 レオールは怯えるディルに近付く。
 そしてディルのことをよく見てみると、彼の手は縛られていた。
 自分たちと同じように、彼もジョージに捕まったのだろうと推測できる。
 レオールはディルの後ろに回り込み、縄を解いた。
「あ、有難うございます」
 ディルは細い声でそう言うと、レオールの方に向き直って頭を下げる。
「気にするな……ところで、この貨物室にいるのはオレたちだけか? 他に人は?」
 レオールが聞くと、ディルは首を振った。
「他に人はいません」
 ディルはそう答えると、目に涙を貯める。
「本当にすみません」
 突然謝るディルを見て、レオールは目をぱちくりとさせた。
「何を謝ることがある? 話を聞いてしまったのはオレたちに非がある、気にするな」
 レオールが返すと、ディルはぶんぶんと首を振ってからエルキデスの方に振り向く。
 エルキデスはディルを見つめ、首をかしげた。
「ぼ、ボク、勇者の末裔で……あのリュートは父からもらった物なんです……あの魔物たちに捕まった時、奪われてしまって」
 しゅん、と気を落とし、ディルは言う。
 エルキデスのまゆがぴくりと動いた。
「勇者の……末裔」
 ぼそりとエルキデスが呟く。
「リュートのせいで貴方達を苦しめてしまったみたいで、本当にごめんなさい!」
 ディルが頭を下げる。
 レオールは困ったようにまゆをハの字にして、ディルの横を通り、エルキデスのそばに向かう。
 そして、エルキデスの肩に手を置いた。
「気にするな、魔力が封じられなくても、このエルキデスは魔力切れだったからな、どのみち捕まって貨物室行きになっていたさ」
 にっと笑い、レオールは言う。
 ディルは頭を上げ、潤んだ目でレオールを見つめた。
「なんて優しいんだ……」
 声を震わせながらディルが言うと、レオールは苦笑する。
「レオール、この男は処分した方がいい」
 エルキデスは肩に置かれたレオールの手を払い、言った。
 ディルの顔色がさーっと青く変わる。
「え、えっと、魔王エルキデスさんなんですよね?」
 ディルが震えながらエルキデスに問い掛け、エルキデスは眉間に深いシワを作った。
「だったら何だ? 先祖と同じようにワシを殺すか?」
 鋭い眼差しを向けられ、ディルは震え上がる。
 体を剣で貫かれるような、そんな感覚に襲われて息をのんだ。
「やめろ魔王」
 レオールに言われ、エルキデスはじろりとレオールを睨む。
「その節は申し訳ありませんでした!」
 ディルが勢いよく土下座をして、エルキデスは目を丸くする。
 突然の行動に、エルキデスもレオールも驚いて声が出ない。
 ディルは顔を上げ、口を開く。
「先祖たちがあなたを……こんな幼い子を殺して英雄になったなんて、全然知りませんでした! ボクの先祖は鬼畜で、ボクはその鬼畜の血を受け継いだ愚か者です!」
 涙をボロボロとこぼしながら、ディルはやや口早に言う。
 レオールは思わず口を半開きにして、ディルを見つめた。
「な、なんだ、コイツは」
 エルキデスが困惑した様子で呟く。
「この船で出会ったのも何かのご縁、この船から逃げ出しましょう! ボク、全力で頑張りますから!」
 ディルは手をギュッと握りしめた。
 完全に勘違いしているディルに、レオールは「ちょっと落ち着け」と声を掛ける。
 ディルは涙を手で拭い、レオールを見た。
「魔王はその、事故のせいで子どもの姿に……」
「お前の姿勢、悪くないな」
 レオールの言葉を遮り、エルキデスが言う。
 その言葉にレオールは驚いた表情を見せ、エルキデスの方に振り向いた。
「え?」
 ディルはエルキデスを見つめる。
「ディルといったな、お前の先祖がやったことは気に食わないが、お前のことは許してやろう」
 ついさっき、彼を「処分した方がいい」と言っていたはずのエルキデスが、突然そんな事を言ったので、レオールは軽く混乱した。
 ディルの目が輝く。
「本当ですか!? 有難うございます!」
 ディルはエルキデスに駆け寄り、エルキデスの小さな手を両手で包んだ。
 レオールはエルキデスの行動が理解できず、エルキデスに生ぬるい視線を送る。
「ではディル、どうやってここから出る?」
 エルキデスに聞かれたディルは、出入り口の扉を見た。
「抜け道とかは無いので、力技になりますが、あの扉を破壊します」
 ディルは真面目な表情で言うと、扉の方に向かって行く。
 エルキデスとレオールもディルの後に続き、扉の前で立ち止まったディルの後ろで足を止めた。
 ディルが深呼吸をする。
 するとディルの足もとから、金色の光の粒がふわりと立ちのぼった。
 その光を見たエルキデスが少しだけ口角を持ち上げる。
(あの光……術力か?)
 術力は人間が宿す力のひとつで、人間が魔法などを使う際に必要とされるエネルギーだ。
 レオールは術力すら使うことのできない自分が情けなくなり、唇を軽く噛む。
 光の粒が空間に溶け消え、ディルは一気に前に踏み出す。
「やあ!」
 ディルの拳が扉に直撃した。
 拳が当たったところに光が爆ぜる。
 しかし。
 扉は壊れなかった。
 それどころか、ディルは扉に当てた拳をかばいながら、その場にしゃがむ。
「い、いってて!」
 ディルが痛みに悶絶している。
 その様子にレオールとエルキデスは、冷ややかな視線を向けた。
「……破壊できないのか」
 エルキデスがディルに言うと、ディルは痛みに顔を赤くしながら、エルキデスを見る。
「ごめんなさい、ボク、力の使い方もよく分からなくて、実戦経験も殆ど無いんです……ジョージに取り上げられた剣さえあれば、少しだけど戦えるんですが……役立たずですみません」
 そう言って泣き出すディルに、レオールはため息をつく。
「仕方ない、オレが何とかする」
 レオールは言うと髪飾りに触れる。
 髪飾りは短剣に姿を変え、レオールの手に握られた。
「魔力も無いお前が短剣ひとつでどうする?」
 エルキデスに聞かれたレオールは、エルキデスの方を見て「見ていろ」と返す。
 そして、レオールは自身の手に短剣を食い込ませた。
「て、手に傷が! 大丈夫ですか?!」
 心配するディルの隣を通り過ぎ、扉に手を触れる。
「燃えろ」
 レオールの声が、静かに響く。
 その瞬間、扉は赤い炎に包まれ、激しく燃え上がった。