【何者か】
ー/ー エルキデスは下を向いてしまったレオールを見て、にっと口の端を持ち上げた。
「儀式のための魔力は、魔力を貯められる魔具を使ったのだろう……魔力を持たず、魔物でも人間でもない、お前は結局何者だ?」
エルキデスに言われ、レオールの体が震える。
そんなレオールの反応を見て、エルキデスは笑うのを止めてため息をついた。
「くだらん事を言ったな……お前が何者かなど、どうでもいいことだ」
そう吐き捨てたエルキデスは、口を閉じた。
「……邪神」
レオールは呟き、顔を上げる。
エルキデスは無言でレオールの方に視線を向けた。
「オレは、神と魔物の間に生まれた、邪神だ」
真っ直ぐにエルキデスを見て、レオールはそう言う。
邪神という言葉を聞いたエルキデスは、少し驚いた様子だった。
「神と魔物の血が嫌い合い、魔力も神力も持たない人間以下の存在になった」
喋り、レオールは唇を噛む。
その様子を見ていたエルキデスは、目を細めた。
「レオール、貴様の年齢は?」
突然エルキデスに聞かれ、レオールは数回まばたきをする。
「お、オレの年齢? えっと、八十五だ」
何故、と思いつつ、レオールが返すと、エルキデスは「なるほど」と、何かを納得した。
「……悔しいだろう、魔力も持たない半端者が主人になって」
レオールが目を伏せて言う。
エルキデスはふん、と鼻を鳴らした。
「どうでもいいことだ」
「へ?」
予想外のエルキデスの言葉に、レオールは目を丸くする。
そしてエルキデスは立ち上がると、レオールに近付いて来た。
レオールのすぐ前に立ち止まり、エルキデスはきょとんとしているレオールを見る。
「それよりも封魔のリュートなど、本来のワシなれば効果を受けることはない。 しかし今の半端なワシでは、簡単に魔力を封じられてしまう」
エルキデスは悔しそうに表情を歪めた。
「そ、そうか、魔力を封じられるのはきついな」
突然話題が変わったことに戸惑いながらも、レオールは返す。
エルキデスはレオールに背中を見せた。
何がしたいのかが分からないレオールがおろおろとする。
「口で縄をほどけ」
エルキデスに言われ、レオールは「は?!」と驚きに目を見開く。
「早くしろ」
「待て魔王、オレはそこまで器用じゃないぞ」
と、レオールが言うと、エルキデスは「やってみろ」と言った。
何故主人である自分が従者という立場のエルキデスに命令されているのか。
もやもやとしつつも、レオールはエルキデスの手首を縛る縄に噛み付いた。
なんとか解けてくれることを信じ、結び目を引っ張ったり左右に動かしたりしてみる。
すると、少しずつ縄が緩み、縄が細いエルキデスの手首から解け落ちた。
「よし」
喜びにレオールが声をもらす。
エルキデスは自分の手首を軽くさすったあと、レオールの後ろに回り込み、レオールの縄を解いた。
「よくやった、魔王」
レオールはにっこり笑い、エルキデスの頭をくしゃりと撫でる。
エルキデスはレオールの手を払い落とし、レオールを睨んだ。
「しかし、封魔のリュートなんて、あいつら何処で手に入れたんだ?」
解けた縄を手もとにたぐり寄せながら、レオールは言う。
「さあな、ワシの知る限り、封魔のリュートは勇者が持っていたはずだ」
「ふーむ、勇者か……もう数百年前に死んでるな」
まとめた縄を横に置き、レオールは悩む。
「あのー、すいません」
と、声を掛けられたレオールとエルキデスは 驚いて振り向く。
振り向いた先には、人間らしき一人の若者がいた。
まだ十代らしきその若者は、頭を下げてからレオール達に近付いて来た。
薄暗い貨物室だが、若者が青い瞳をしていることだけは理解できる。
「……今までの話、聞いていたか?」
レオールが若者を睨む。
「す、少しだけ聞きました」
正直に若者が言うと、レオールは自分の髪飾りに触れる。
すると髪飾りがふわりと形を変え、短剣になった。
「ひぇっ?!」
若者が震え上がり、その場で腰を抜かす。
「お二人のことは、誰にも言いませんから! 命だけは!」
涙目になる若者を見て、レオールは短剣から手を放す。
すると短剣はまた髪飾りに戻り、レオールの髪に戻った。
「お前、名前は?」
怯える若者にレオールが聞くと、若者は震えながらレオールを見上げる。
「ディルです」
涙目になりながら、若者、ディルは名乗った。
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