【11】④
ー/ー 初めてこの浜を訪れたのは、ここに来て二日目だった。
あのときはまだ、「異物」であると自覚していた自分に身構えて、光の弱まった花火を持つ彼にも心許せていなかった。
あれからたったの一か月。
これほど濃密な時間を過ごしたことが、瑛璃の人生にあっただろうか。
十六年で最も印象的な夏が終わる。永遠に続いて欲しかった、と感じている自分に笑いが込み上げる。
「あの日」は確かに、早く帰りたい気持ちが遥かに勝っていたというのに。
「瑛璃ちゃん、俺次つけるよ。そっちもそろそろ消えそうだな」
あれ程鮮烈だった光の束は、別物のように寂しく瞬いていた。
この花火と同じように、瑛璃の夏は終わって、……航との縁も以前のものに戻るのだろうか。
航も瑛璃と離れたくないと感じてくれているのは、「東京へ行く」といった際の言葉や態度で伝わっていた。それでも──。
「意外と平気だろ? もうちょい派手なのやってみない?」
「……うん。これなら大丈夫そうだし」
何本かを燃え残りの棒にしたあとに渡された花火の先からは、「光の洪水」と表したくなるような華やかな光。
「すごーい! 綺麗〜」
「たぶんこの中ではそれが一番きれいだよ。……あとはもう線香花火だけ」
「一番綺麗」な花火を、瑛璃のために残してくれたのだろう。
もし瑛璃が断っていたら、おそらく航が持って並んで眺めたと容易に描ける。
それだけ航の存在や言動が、瑛璃にとって近しいものになっていた。
あのときはまだ、「異物」であると自覚していた自分に身構えて、光の弱まった花火を持つ彼にも心許せていなかった。
あれからたったの一か月。
これほど濃密な時間を過ごしたことが、瑛璃の人生にあっただろうか。
十六年で最も印象的な夏が終わる。永遠に続いて欲しかった、と感じている自分に笑いが込み上げる。
「あの日」は確かに、早く帰りたい気持ちが遥かに勝っていたというのに。
「瑛璃ちゃん、俺次つけるよ。そっちもそろそろ消えそうだな」
あれ程鮮烈だった光の束は、別物のように寂しく瞬いていた。
この花火と同じように、瑛璃の夏は終わって、……航との縁も以前のものに戻るのだろうか。
航も瑛璃と離れたくないと感じてくれているのは、「東京へ行く」といった際の言葉や態度で伝わっていた。それでも──。
「意外と平気だろ? もうちょい派手なのやってみない?」
「……うん。これなら大丈夫そうだし」
何本かを燃え残りの棒にしたあとに渡された花火の先からは、「光の洪水」と表したくなるような華やかな光。
「すごーい! 綺麗〜」
「たぶんこの中ではそれが一番きれいだよ。……あとはもう線香花火だけ」
「一番綺麗」な花火を、瑛璃のために残してくれたのだろう。
もし瑛璃が断っていたら、おそらく航が持って並んで眺めたと容易に描ける。
それだけ航の存在や言動が、瑛璃にとって近しいものになっていた。
「本当に綺麗だった〜。七色の光の滝って感じで。ありがとう、航くん」
本心から告げた瑛璃に、従兄は照れたように小さく笑う。
「いや、せっかくだし瑛璃ちゃんとこれ見たかったから。じゃあ締めは線香花火だな。やったことある?」
「たぶん。セットには必ず入ってるでしょ?」
おそらく十本組だろう線香花火に巻かれた紙帯を外した航が、まず一本を手渡して来た。
「これはライターより蝋燭がいいらしいんだ。うちには今ないから、花火と一緒に買えばよかったな」
そう言いつつ、彼は花火の先に着火ライターを向けた。
「瑛璃ちゃん、もう少し先を前に、……うん、それでいい」
線香花火は地面と平行でも垂直でもなく、その真中がいいのだという。
ともに火をつけた線香花火の紙縒りを持ち、二人は風上にしゃがんでささやかな光の競演を見守った。
パチパチと音がするような気がする、小規模だが力強さを感じさせる光。
火花が強くなったかと思うと弱まって行き、最後には光の玉となってぽとりと落ちる。
儚く美しいその有様。
──線香花火は「燃え尽きて消えるから綺麗」なのかもしれないけど、『人』は違うよね。航くんともっといたい。別れたきりにはなりたくない。
大学に入れば会える、という彼の言葉の重みを再認識させられた。
本心から告げた瑛璃に、従兄は照れたように小さく笑う。
「いや、せっかくだし瑛璃ちゃんとこれ見たかったから。じゃあ締めは線香花火だな。やったことある?」
「たぶん。セットには必ず入ってるでしょ?」
おそらく十本組だろう線香花火に巻かれた紙帯を外した航が、まず一本を手渡して来た。
「これはライターより蝋燭がいいらしいんだ。うちには今ないから、花火と一緒に買えばよかったな」
そう言いつつ、彼は花火の先に着火ライターを向けた。
「瑛璃ちゃん、もう少し先を前に、……うん、それでいい」
線香花火は地面と平行でも垂直でもなく、その真中がいいのだという。
ともに火をつけた線香花火の紙縒りを持ち、二人は風上にしゃがんでささやかな光の競演を見守った。
パチパチと音がするような気がする、小規模だが力強さを感じさせる光。
火花が強くなったかと思うと弱まって行き、最後には光の玉となってぽとりと落ちる。
儚く美しいその有様。
──線香花火は「燃え尽きて消えるから綺麗」なのかもしれないけど、『人』は違うよね。航くんともっといたい。別れたきりにはなりたくない。
大学に入れば会える、という彼の言葉の重みを再認識させられた。
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初めてこの浜を訪れたのは、ここに来て二日目だった。
あのときはまだ、「異物」であると自覚していた自分に身構えて、光の弱まった花火を持つ彼にも心許せていなかった。
あれからたったの一か月。
これほど濃密な時間を過ごしたことが、瑛璃の《《人生》》にあっただろうか。
十六年で最も印象的な夏が終わる。永遠に続いて欲しかった、と感じている自分に笑いが込み上げる。
「あの日」は確かに、早く帰りたい気持ちが遥かに勝っていたというのに。
「瑛璃ちゃん、俺次つけるよ。そっちもそろそろ消えそうだな」
あれ程鮮烈だった光の束は、別物のように寂しく瞬いていた。
この花火と同じように、瑛璃の夏は終わって、……航との縁も以前のものに戻るのだろうか。
航も瑛璃と離れたくないと感じてくれているのは、「東京へ行く」といった際の言葉や態度で伝わっていた。それでも──。
「意外と平気だろ? もうちょい派手なのやってみない?」
「……うん。これなら大丈夫そうだし」
何本かを燃え残りの棒にしたあとに渡された花火の先からは、「光の洪水」と表したくなるような華やかな光。
「すごーい! 綺麗〜」
「たぶんこの中ではそれが一番きれいだよ。……あとはもう線香花火だけ」
「一番綺麗」な花火を、瑛璃のために残してくれたのだろう。
もし瑛璃が断っていたら、おそらく航が持って並んで眺めたと容易に描ける。
それだけ航の存在や言動が、瑛璃にとって近しいものになっていた。
あのときはまだ、「異物」であると自覚していた自分に身構えて、光の弱まった花火を持つ彼にも心許せていなかった。
あれからたったの一か月。
これほど濃密な時間を過ごしたことが、瑛璃の《《人生》》にあっただろうか。
十六年で最も印象的な夏が終わる。永遠に続いて欲しかった、と感じている自分に笑いが込み上げる。
「あの日」は確かに、早く帰りたい気持ちが遥かに勝っていたというのに。
「瑛璃ちゃん、俺次つけるよ。そっちもそろそろ消えそうだな」
あれ程鮮烈だった光の束は、別物のように寂しく瞬いていた。
この花火と同じように、瑛璃の夏は終わって、……航との縁も以前のものに戻るのだろうか。
航も瑛璃と離れたくないと感じてくれているのは、「東京へ行く」といった際の言葉や態度で伝わっていた。それでも──。
「意外と平気だろ? もうちょい派手なのやってみない?」
「……うん。これなら大丈夫そうだし」
何本かを燃え残りの棒にしたあとに渡された花火の先からは、「光の洪水」と表したくなるような華やかな光。
「すごーい! 綺麗〜」
「たぶんこの中ではそれが一番きれいだよ。……あとはもう線香花火だけ」
「一番綺麗」な花火を、瑛璃のために残してくれたのだろう。
もし瑛璃が断っていたら、おそらく航が持って並んで眺めたと容易に描ける。
それだけ航の存在や言動が、瑛璃にとって近しいものになっていた。
「本当に綺麗だった〜。七色の光の滝って感じで。ありがとう、航くん」
本心から告げた瑛璃に、従兄は照れたように小さく笑う。
「いや、せっかくだし瑛璃ちゃんとこれ見たかったから。じゃあ締めは線香花火だな。やったことある?」
「たぶん。セットには必ず入ってるでしょ?」
おそらく十本組だろう線香花火に巻かれた紙帯を外した航が、まず一本を手渡して来た。
「これはライターより蝋燭がいいらしいんだ。うちには今ないから、花火と一緒に買えばよかったな」
そう言いつつ、彼は花火の先に着火ライターを向けた。
「瑛璃ちゃん、もう少し先を前に、……うん、それでいい」
線香花火は地面と平行でも垂直でもなく、その真中がいいのだという。
ともに火をつけた線香花火の|紙縒《こよ》りを持ち、二人は風上にしゃがんでささやかな光の競演を見守った。
パチパチと音がするような気がする、小規模だが力強さを感じさせる光。
火花が強くなったかと思うと弱まって行き、最後には光の玉となってぽとりと落ちる。
儚く美しいその有様。
──線香花火は「燃え尽きて消えるから綺麗」なのかもしれないけど、『人』は違うよね。航くんともっといたい。別れたきりにはなりたくない。
大学に入れば会える、という彼の言葉の重みを再認識させられた。
本心から告げた瑛璃に、従兄は照れたように小さく笑う。
「いや、せっかくだし瑛璃ちゃんとこれ見たかったから。じゃあ締めは線香花火だな。やったことある?」
「たぶん。セットには必ず入ってるでしょ?」
おそらく十本組だろう線香花火に巻かれた紙帯を外した航が、まず一本を手渡して来た。
「これはライターより蝋燭がいいらしいんだ。うちには今ないから、花火と一緒に買えばよかったな」
そう言いつつ、彼は花火の先に着火ライターを向けた。
「瑛璃ちゃん、もう少し先を前に、……うん、それでいい」
線香花火は地面と平行でも垂直でもなく、その真中がいいのだという。
ともに火をつけた線香花火の|紙縒《こよ》りを持ち、二人は風上にしゃがんでささやかな光の競演を見守った。
パチパチと音がするような気がする、小規模だが力強さを感じさせる光。
火花が強くなったかと思うと弱まって行き、最後には光の玉となってぽとりと落ちる。
儚く美しいその有様。
──線香花火は「燃え尽きて消えるから綺麗」なのかもしれないけど、『人』は違うよね。航くんともっといたい。別れたきりにはなりたくない。
大学に入れば会える、という彼の言葉の重みを再認識させられた。