66.心のままに、あなたの為に
ー/ー 艷やかにくすみひとつない美しい足先が、ゆっくりとゲートから出てくる。
細くありながら、柔らかさが分かる程よい肉付きのふくらはぎ、ツルンとした膝、むっちりとした太ももをふるりと揺らし、丸みがはっきりと分かる形の整った、思わずかぶりつきたくなる尻を弾ませながら、一歩前に出る。
キュッと引き締まったくびれに、こじんまりとした小さなへそのくぼみが色気にアクセントを加え、片手に収まらない大きくたわわな乳房は、見た者の心を奪い虜にし、薄いピンク色の紅を差したぷるんとした唇は、情欲を刺激する。
ひとたび……その死人のような青白い肌に触れればその真逆の感触に驚くだろう。確かに人間が持つ、温かな体温で優しく包まれることになり、理性をなくし、その体を貪り尽くす、ただのケダモノと化すだろう。
そう、見せつけるように……己を抱き、己が抱いてきたふたりの男の前にクロエは帰ってきた。
「せっかく……私が『作った』というのに」
いつもと変わらない、ゆるく微笑む口元だけを覗かせてクロエは言った。
「確かに淫紋は俺がお前に『作らせ』たもんだ。だけどな、コイツはお前が『作って』良いもんじゃねぇ」
「ゼン……」
「あら……ふふ……随分と優しくなってしまったのね、ゼン」
クスクスと楽しそうに笑うクロエの足を砕き、腹に穴を開ける。地に伏せようとしたのだろう……だが、クロエはすぐさま『作り』治し、しっかりとそこに立っている。
「お前……」
なにかが、違う。
「ひどいわ、ゼン。あなたに喜んでもらうために、たくさん『作って』きたというのに……」
その違和感はゼンだけでなく、身を持ってアダルヘルムも感じていた。
「俺を、喜ばす、だと?」
ゼンの指示で動いていたはずのクロエ。その指示を無視して、自分の意思で『作って』いたと。
「そうよ?ゼン?……私はあなたのモノだもの、どこかおかしいことがあるのかしら?」
「はっ!さすがに笑えねぇな」
「クロエ嬢すまない……私も、ゼンと同意見だ……」
男ふたりは、クロエの行動を否定した。
一瞬、ピクッと口角が不自然に動いたクロエ。そのせいなのか、アダルヘルムの淫紋が再び活動を始めた。
「っ……!ゼン……に……げ…………」
先程までの、意識の支配とはまた別の意識と意志をアダルヘルムの中に『作った』クロエ。
「ヒドい人」
ふうっとクロエが漏らしたのは色気が可視化しそうな程の色っぽい吐息……それを合図に、アダルヘルムは正気を失う。
「ガフッ……ッは!の……やろう……」
背中を大斧でえぐり斬られ、膝をつくゼン。その姿を満足そうに見つめながら、歩み寄り、顔に手を添えるクロエ。
「私……思ったの、ゼン」
「……あ?」
流れる血も、傷も『破壊』しないまま、クロエの話を聞くゼン。
「ふふ……そう、そうやって受け入れる姿……とても素敵……」
「無駄口叩いてないで、はっきり、言え」
「あら、ごめんなさい?そう……こうして『破壊』される痛みを受け入れてこそ……『破壊』する、される痛みをその身に受ける……自分が『破壊神』である以上、知って置かなければならない大事なことなのよね?ゼン?」
愛おしそうに、ゼンの顔を指でゆっくりとなぞり、ゼンの『破壊』の意味を知った喜びを言葉にして伝えるクロエ。
「本当に……優しい人……」
「…………はっ!」
ゼンの顔を両手で包み、その唇に吸い付こうとしたクロエだったが……それは、叶わなかった。
「今のお前の欲に応えてやるほどは、優しかねぇと思うんだが……ま、聞こえちゃねぇか」
熱く飛び跳ね、吹き飛んだ首から噴き出るクロエの血を浴びながら教えてやったゼン。『例外なくすべてを作り、生み出す力』を、もう使わせない為に、思考をさせない為に、頭を『破壊』した。
それと同時に、自分の身に受けた傷の『破壊』をする。
「本当の性悪女になったな」
「ふんっ!!」
大きく振り下ろされた、アダルヘルムの大斧。
横に転がりかわしたゼンは、服の汚れを払い落としながら立ち上がり、アダルヘルムの顔を見る。
濃い紫色の、怪しげに揺らめく光が瞳孔を支配している。先程まで、ミウが見ていたまだ柔らかい桃色よりも強い効果を受けているのがわかる、禍々しさ。
「ゼン・セクズ……たとえあなたでも、私の愛した女性を手に掛けたとあらば……許せぬ」
「……それは最初から……『作らされ』たもんなんだよ、アダル」
皮肉に笑いながら、眉をひそめ、自分がアダルヘルムに『作らせ』た偽りを、その思いが呪いであることを吐露した。
「はは……この最後の日を迎える前に、最後に彼女が抱いた男が私だからと、そんな嘘を言って……さそうか、嫉妬をしているのか?」
「嫉妬だぁ?俺がお前にか?……笑わせんなよ」
鋭く刺すような視線。『破壊』を理解している上で感じる恐怖の圧力。アダルヘルムは額から冷たい汗を流し、止まってしまう。
「『作られ』たお前と話すつもりはない。なんて言うと、今までが全部嘘になっちまうが……もう、それも……意味をなさないか」
「よく喋るな?ゼン・セクズ……無駄なこととわかっていても、せめて……せめて!」
「そうか、なら」
意を決して、アダルヘルムはその豪腕を奮う。
「なら……泣いてんじゃねぇよ」
無意味な一撃なことなど、分かっている。なのに、『作ら』れたその感情で支配され、動かざるを得なかった。
バラバラにされる大斧。
砕かれる足。
削ぎ落とされる、下腹部の元凶。
地に伏すアダルヘルム。
「……痛い、な」
「もうとっくに『ダメージ破壊』を外しているからな」
「終わらせる……だから、必要ない……そうだな……それは、正しい」
はぁっと深く……安心した息を吐く。
「どうしたものかな……せっかく『作ら』れた気持ちをもすべて『破壊』してもらったというのに……」
「なんだかんだ、長い時間その思い囚われていたんだ……本物になっていてもおかしくはない。お前は、人間なんだから」
すり込まれた感情は、時を経て本物になってしまっていたこと。元々魅力的に見えるように『作られ』たクロエに触れ、何度も抱いた。ゼンの隣にいながら、最も人間らしいアダルヘルムの中で変わっていてもおかしくないと。
「なら……あなたも……人間である、な……」
「どこをどう見てんなこと言えんだよ……」
「今まで……その『破壊』の為に……思いを募らせていたことだ、ゼン」
「……」
「待っていられるかはわからないが……行ってこい、ゼン」
自力で仰向けになり、ゼンの顔を見つめるアダルヘルム。
「俺は……本当は……お前とグリゼルダと……アデルを……共にしてやりたかった」
「……行って、くれ」
「アダル……」
「すべてを……『破壊』する……私も、選んだのだから……」
ゼンが伝えた言葉は、本心だっただろう。けれど、それを受け入れ、ゼンの歩みを自分が止めてはいけないと……親友として、ゼンが選んだ『破壊神』としての終わりを共にする……アダルヘルムは笑顔を無理やり作り、ゼンを送り出すだけだった。
「じゃあな」
「……ああ」
ゼンはティオから貰った『見る』力を使い、探し……『この世界と神との間の隔たりを破壊』し、先へ。
「……あぁ…………ゼン……」
血が流れ、冷えていく体……視界が暗転し始めていく。途切れ途切れになりながら、アダルヘルムはそれを見てしまった。
「あなた……が……『破壊』の神……ならば……」
暗闇にのまれ消えゆくアダルヘルムの意識。最後に目に映り、焼きついてしまったのは……青白い肌の、未だ温かい、息をする人形。
みんなのリアクション
まだリアクションはありません。最初の一歩を踏み出しましょう!
おすすめ作品を読み込み中です…
作者の他の作品
この作者の他作品はありません。
この作品と似た作品
似た傾向の作品は見つかりませんでした。
この作品を読んだ人が読んでいる作品
読者の傾向からおすすめできる作品がありませんでした。
おすすめ作品は現在準備中です。
おすすめ作品の取得に失敗しました。時間をおいて再度お試しください。