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65-②.異彩色の、バージンロード

ー/ー



「あの時、お前が神を否定していたのなら、もしかしたら違ったかもしれねぇな?」

 ちゃんと向き合って話をしたのは、ハーフェンの港での1度きり。それは、なんとなくで話をしに来たわけではなかったこと……ソウゴにとっての分岐点。

「どんなに正しく歩もうと、どんなに誰かを救おうと、この世界ではなににもならない、なにも得られない。だから、せめて、お前にできることを教えてやったのに」
「……なんの、ことを……言って……ぃぐぅっ?!」

 ギュッと今まで以上に強く掴まれ、息が一瞬止まり、意識が飛びそうになるソウゴ。そんな中、聞こえたのはゼンの深いため息だった。

「わかってなかったんだな、『仲間を大事にしろ』っての。残念だよなぁ?ティオ」
「……ほんとに、そうだよ……ソウゴ……君は、仲間の誰ひとりとして……救えない……」

 か細い声だった。もう一度聞かされたその言葉は、深く突き刺さる。

「つうわけだ。俺は俺の仲間に手を出したやつに容赦はしないし、そもそもお前はその腐った女と同じ異物だ、ここらで死んどけ」
「は……そうか……よ」

 目を閉じ、ソウゴは思い出す。
 綺麗な思い出ばかりを、瞼の裏に描き、ゆっくりと目を開ける。

「なぁ、ゼン……」
「あ?」

 ゼンに心臓の形が変わる程握られている。それでも、最後の力を振り絞り口を開く。

「それでも僕は……この世界に選ばれた……神に選ばれてここにいること……忘れんなよなぁ!!」

 走る、蒼き閃光。

「あ……ゼ……――」

 ソウゴの背中越しに見えたのは、ミウの首が落ちていく光景。

「僕だって奪ってやれるんだよ!!ゼン!!僕が誰も救えない、愚かでマヌケなにわか勇者だってんだろ?その逆でお前は誰も彼も救えるんだろ?!なら救ってみろよ!仲間をさぁ!!アハハハハハハハハハァっガッ――っ」

 心臓を引き抜きながら、ソウゴの体の中を『破壊』して脇に投げ捨てたゼン。その一瞬だけは、激怒していたのは確かだ。

「……ミウ」

 涙を流したまま、壊れた人形の様になって静かに転がっているミウの体と、頭。

「……っ?」

 くらりと……ゼンの視界に映るミウと、なにかが重なる。そのせいなのだろうか……戻ることのない、戻すことは許されないミウを集め、そっと抱きしめる。

「そんな顔をさせるつもりはなかったなんて……言い訳だよな……」

 ミウの『破壊』され失われた思いを、再び受け入れる様に、優しく。

「悪いな、ミウ。俺は、こんなやり方しかできないんだ……おやすみ」

 そっと地面に寝かせ、目を閉じさせ……ファインを送った時と同じように淡い光に変えて、世界に溶かした。

「あぁ……きれ……だね」

 ゆっくりと光として消えるミウを、ティオも見ていた。

「ティオ、すまん」
「いい……さ……でも、ちょっと……時間はない……かもしれないね」
「ああ。なぁ、ティオ。俺は――」

 とぎれとぎれに話す、今際の際のティオに近づこうとしたゼンだったが、無理やり手を前に出し、首を横に振るティオに止められる。

「僕は、このままで、いいんだ」
「お前は、俺に使われるだけで本当に、それだけでいいってのか?はっ!おかしなヤツ」
「出会った時から、そうであったと思うのだけれど、ね……ゼクス……いいや、ゼン」

 前に出した手で指さしたのは、ソウゴが来た町の外の方角。

「ゼン……君が行くべきなのは、君がやるべきことは……僕の死を『破壊』する事じゃない、はずさ」

 ニッコリと笑い、ほろっと指の力を抜いたティオは、ゼンに最後の贈り物をした。

「君がする、条件っていうのをしっかりつけてみ……『見える』様にしてある……あぁ、もちろん……君の望む事が出来るように、さ」
「お前ほんとに、そんな役回りしてるからそんなになっちまうんだぞ?」
「その、通りだね……はは……でも、それも……それでも……悪くなかった」

 目の光が徐々に消えていきながら、それでも最後まで……

「ゼン……行ってあげなきゃ……彼は待ってる……よ……ほら……み――」

 例え死の間際で懇願したとしても、ゼンの歩みを止めることはできない。

「ティオ、もう、なにも見なくていい」

 そっと触れ、そっと瞼を閉じ……離れて行く。彼の指差した先……彼が『見た』ゼンが望むもののひとつを目指し町の外へと。

「ぁんだこれ」

 ソウゴが作った、血塗られたバージンロードを辿り、着いた先は……魔物と人間がグチャグチャの肉片になって散らばる地獄絵図。

「はっ!神に選ばれたってのは嘘じゃねぇみてぇだな」

 肉片の切り口は綺麗な刃物捌かれている様だった。誰がやったかなど、一目瞭然。

 そして、見つけてしまう。

「イ…………はっ……簡単に殺しすぎたな」

 ほんの少しの時間だけだった。ゼンが彼女に触れ、彼女から貰った温かさは、激しく抱き合う夜の営みの快楽よりも、深く心に残り刻まれていたのだと思い知らされた。

「う……」

 少し離れたところから聞き覚えのある男のうめき声が聞こえ、ずっと息を吐き、近づいていく。

「アダルヘルム」
「っ……ふっぅ……ゼン……私は……ぁぁ……」

 幸か不幸か……ソウゴがアダルヘルムを刺した箇所は、淫紋の中心。その紋様は裂かれ、効力を失った。アダルヘルムを一時的に支配し、本来の意識を閉じ込めてしまっていた忌まわしい力を、消してくれていた。

「わ、私は……自分の手で……なんてことを……なせ……なぁゼン……教えてくれ……なぜ私は我が子を殺してしまったんだ……」
「っ!」

 自分の震える手を見つめ、涙を流し続けるアダルヘルムはこの町で自分がしてしまった取り返しのつかない事実を、目の前の『破壊』を望み手を下している男に問いかける。

「わかっているのに……言うことを聞かなかったのだ……自分の体なのに止められない……なのに理解できる衝動と光景と感触……ゼン……『破壊』とは、そういうことなのか……?」

 絶望に満ちているアダルヘルムの瞳に責められる。ゼンは黙って聞くしかできずにいる。

「ミウ……ミウにもあんな……庇ってくれたのに、止めてくれたのに……なんてことを……あ、ミ、ウ……ミウはどこだゼン?」
「……ミウ」
「勇者……いや、ソウゴに連れて行かれるのを見た……助けたか?無事なのか?!」

 嘘をついたところで……

「ミウは死んだ」
「はっ……?」
「ソウゴに首を落とされて死んだ」

 ガクン、と……ゼンを見上げていた視線を落とし、うなだれたアダルヘルム。

「助けられただろう……あなたなら」
「言い訳になる」
「それでもいい……」

 アダルヘルムが納得できる言い訳を口にすることを考えるも、迷い、結局黙ったままなにもいえず……だがそれが、アダルヘルムを納得させてしまう。

「言えないのだな……それほどに……あなたも悔いていると……そういうことなのだろう」
「アダルヘルム……俺は――」
「わかっている……ゼン……お前がやりたかったことじゃないことくらい……」

 血で汚れ、貫かれた腹の淫紋を手でこすると……ジュクジュクと音をさせながらもとに戻ろうとしている。

「これは……私が彼女に恋をしてしまった報いなのだろうか」

少しずつ効果が戻っているのだろうか……淫紋が戻るにつれ、アダルヘルムは嬉しそうに柔らかい笑顔を作っていた。

「心は無いと言っていたくせに、こんな嫉妬をしてくれるなんて……男冥利に尽きるな?ゼン」
「お前はいい男すぎる。もっと責めろ、罵倒しろ、殴れ、俺達を、嫌ってくれていいんだ」
「そんなことできるわけがないことくらい、知っているだろう?……大丈夫だ。まだ、本心が言えている」

 その声を聞きながら、ゼンはアダルヘルムの淫紋に手を重ねる。そしてその効果を……淫紋そのものを『破壊』しようとした。

「あら……ダメよ、ゼン」

 背後からの声に、すぐさま振り向くゼン。アダルヘルムも顔を上げ、同じ方向を見る。
 空間が歪み、魔界から出たあの時と同じゲートが『作られ』ていくのを、見た。


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「どんなに正しく歩もうと、どんなに誰かを救おうと、この世界ではなににもならない、なにも得られない。だから、せめて、お前にできることを教えてやったのに」
「……なんの、ことを……言って……ぃぐぅっ?!」
 ギュッと今まで以上に強く掴まれ、息が一瞬止まり、意識が飛びそうになるソウゴ。そんな中、聞こえたのはゼンの深いため息だった。
「わかってなかったんだな、『仲間を大事にしろ』っての。残念だよなぁ?ティオ」
「……ほんとに、そうだよ……ソウゴ……君は、仲間の誰ひとりとして……救えない……」
 か細い声だった。もう一度聞かされたその言葉は、深く突き刺さる。
「つうわけだ。俺は俺の仲間に手を出したやつに容赦はしないし、そもそもお前はその腐った女と同じ異物だ、ここらで死んどけ」
「は……そうか……よ」
 目を閉じ、ソウゴは思い出す。
 綺麗な思い出ばかりを、瞼の裏に描き、ゆっくりと目を開ける。
「なぁ、ゼン……」
「あ?」
 ゼンに心臓の形が変わる程握られている。それでも、最後の力を振り絞り口を開く。
「それでも僕は……この世界に選ばれた……神に選ばれてここにいること……忘れんなよなぁ!!」
 走る、蒼き閃光。
「あ……ゼ……――」
 ソウゴの背中越しに見えたのは、ミウの首が落ちていく光景。
「僕だって奪ってやれるんだよ!!ゼン!!僕が誰も救えない、愚かでマヌケなにわか勇者だってんだろ?その逆でお前は誰も彼も救えるんだろ?!なら救ってみろよ!仲間をさぁ!!アハハハハハハハハハァっガッ――っ」
 心臓を引き抜きながら、ソウゴの体の中を『破壊』して脇に投げ捨てたゼン。その一瞬だけは、激怒していたのは確かだ。
「……ミウ」
 涙を流したまま、壊れた人形の様になって静かに転がっているミウの体と、頭。
「……っ?」
 くらりと……ゼンの視界に映るミウと、なにかが重なる。そのせいなのだろうか……戻ることのない、戻すことは許されないミウを集め、そっと抱きしめる。
「そんな顔をさせるつもりはなかったなんて……言い訳だよな……」
 ミウの『破壊』され失われた思いを、再び受け入れる様に、優しく。
「悪いな、ミウ。俺は、こんなやり方しかできないんだ……おやすみ」
 そっと地面に寝かせ、目を閉じさせ……ファインを送った時と同じように淡い光に変えて、世界に溶かした。
「あぁ……きれ……だね」
 ゆっくりと光として消えるミウを、ティオも見ていた。
「ティオ、すまん」
「いい……さ……でも、ちょっと……時間はない……かもしれないね」
「ああ。なぁ、ティオ。俺は――」
 とぎれとぎれに話す、今際の際のティオに近づこうとしたゼンだったが、無理やり手を前に出し、首を横に振るティオに止められる。
「僕は、このままで、いいんだ」
「お前は、俺に使われるだけで本当に、それだけでいいってのか?はっ!おかしなヤツ」
「出会った時から、そうであったと思うのだけれど、ね……ゼクス……いいや、ゼン」
 前に出した手で指さしたのは、ソウゴが来た町の外の方角。
「ゼン……君が行くべきなのは、君がやるべきことは……僕の死を『破壊』する事じゃない、はずさ」
 ニッコリと笑い、ほろっと指の力を抜いたティオは、ゼンに最後の贈り物をした。
「君がする、条件っていうのをしっかりつけてみ……『見える』様にしてある……あぁ、もちろん……君の望む事が出来るように、さ」
「お前ほんとに、そんな役回りしてるからそんなになっちまうんだぞ?」
「その、通りだね……はは……でも、それも……それでも……悪くなかった」
 目の光が徐々に消えていきながら、それでも最後まで……
「ゼン……行ってあげなきゃ……彼は待ってる……よ……ほら……み――」
 例え死の間際で懇願したとしても、ゼンの歩みを止めることはできない。
「ティオ、もう、なにも見なくていい」
 そっと触れ、そっと瞼を閉じ……離れて行く。彼の指差した先……彼が『見た』ゼンが望むもののひとつを目指し町の外へと。
「ぁんだこれ」
 ソウゴが作った、血塗られたバージンロードを辿り、着いた先は……魔物と人間がグチャグチャの肉片になって散らばる地獄絵図。
「はっ!神に選ばれたってのは嘘じゃねぇみてぇだな」
 肉片の切り口は綺麗な刃物捌かれている様だった。誰がやったかなど、一目瞭然。
 そして、見つけてしまう。
「イ…………はっ……簡単に殺しすぎたな」
 ほんの少しの時間だけだった。ゼンが彼女に触れ、彼女から貰った温かさは、激しく抱き合う夜の営みの快楽よりも、深く心に残り刻まれていたのだと思い知らされた。
「う……」
 少し離れたところから聞き覚えのある男のうめき声が聞こえ、ずっと息を吐き、近づいていく。
「アダルヘルム」
「っ……ふっぅ……ゼン……私は……ぁぁ……」
 幸か不幸か……ソウゴがアダルヘルムを刺した箇所は、淫紋の中心。その紋様は裂かれ、効力を失った。アダルヘルムを一時的に支配し、本来の意識を閉じ込めてしまっていた忌まわしい力を、消してくれていた。
「わ、私は……自分の手で……なんてことを……なせ……なぁゼン……教えてくれ……なぜ私は我が子を殺してしまったんだ……」
「っ!」
 自分の震える手を見つめ、涙を流し続けるアダルヘルムはこの町で自分がしてしまった取り返しのつかない事実を、目の前の『破壊』を望み手を下している男に問いかける。
「わかっているのに……言うことを聞かなかったのだ……自分の体なのに止められない……なのに理解できる衝動と光景と感触……ゼン……『破壊』とは、そういうことなのか……?」
 絶望に満ちているアダルヘルムの瞳に責められる。ゼンは黙って聞くしかできずにいる。
「ミウ……ミウにもあんな……庇ってくれたのに、止めてくれたのに……なんてことを……あ、ミ、ウ……ミウはどこだゼン?」
「……ミウ」
「勇者……いや、ソウゴに連れて行かれるのを見た……助けたか?無事なのか?!」
 嘘をついたところで……
「ミウは死んだ」
「はっ……?」
「ソウゴに首を落とされて死んだ」
 ガクン、と……ゼンを見上げていた視線を落とし、うなだれたアダルヘルム。
「助けられただろう……あなたなら」
「言い訳になる」
「それでもいい……」
 アダルヘルムが納得できる言い訳を口にすることを考えるも、迷い、結局黙ったままなにもいえず……だがそれが、アダルヘルムを納得させてしまう。
「言えないのだな……それほどに……あなたも悔いていると……そういうことなのだろう」
「アダルヘルム……俺は――」
「わかっている……ゼン……お前がやりたかったことじゃないことくらい……」
 血で汚れ、貫かれた腹の淫紋を手でこすると……ジュクジュクと音をさせながらもとに戻ろうとしている。
「これは……私が彼女に恋をしてしまった報いなのだろうか」
少しずつ効果が戻っているのだろうか……淫紋が戻るにつれ、アダルヘルムは嬉しそうに柔らかい笑顔を作っていた。
「心は無いと言っていたくせに、こんな嫉妬をしてくれるなんて……男冥利に尽きるな?ゼン」
「お前はいい男すぎる。もっと責めろ、罵倒しろ、殴れ、俺達を、嫌ってくれていいんだ」
「そんなことできるわけがないことくらい、知っているだろう?……大丈夫だ。まだ、本心が言えている」
 その声を聞きながら、ゼンはアダルヘルムの淫紋に手を重ねる。そしてその効果を……淫紋そのものを『破壊』しようとした。
「あら……ダメよ、ゼン」
 背後からの声に、すぐさま振り向くゼン。アダルヘルムも顔を上げ、同じ方向を見る。
 空間が歪み、魔界から出たあの時と同じゲートが『作られ』ていくのを、見た。