【11】②
ー/ー ◇ ◇ ◇
最後の夜は、伯母が瑛璃の好みも訊いて作ってくれた心尽くしのご馳走が並ぶ食卓を全員で囲んだ。
美味しかった。本当に美味しかった、けれど、味だけではなく、この家の雰囲気が大きい気がする。
まるで家族の一員であるかのように、団欒の中に交ぜてもらえたことが瑛璃にとってはとても幸せな経験だった。
綺麗に空になった皿を前にした会話の最中に、航が突然立ち上がる。
「父さん、母さん! 俺、東京の大学に行きたいんだ。だから学費だけじゃなくて他にもいろいろお金掛かるけど、俺もバイトしたり奨学金借りたりするから行かせてください!」
彼はそう宣言するなり、深々と頭を下げた。
いきなりどうしたというのか。そういった複雑なことは、家族だけでゆっくり話した方がいいのでは──。
「あんた、何言ってんの!? あたしもお父さんも最初からそういう話してたじゃない。なんかまるであたしたちに反対されてるみたいな言い方よしてよね。お金はちゃんと用意してるから、遊ぶ分だけはバイトして」
現実はドラマのように盛り上がる流れには行かなかった。
伯母の白けた声に、航は一気に脱力したかのように椅子に腰を下ろす。
「もしかして瑛璃ちゃんが来たから? あたしがいくら勧めても無視してたのに──」
続ける伯母に、従兄が勢い良く言葉を被せた。
「母さんは! そうやって何でも口に出すとこが無神経なんだよ! 瑛璃ちゃんにも余計なこと言わなかっただろうな。田舎のおばちゃんの空気読まないジョークなんて下手すりゃイジメだぞ」
航の反応に瑛璃は声を上げそうになり、慌てて唇を引き結んだ。
伯母の台詞の意味はそういうことではない気がする。
単に東京から初めて会う従妹が来て、その瑛璃がごく普通だったことで「東京など畏怖するような場所ではない」と憂えていた気持ちがなくなった、あるいは逆に憧れた、といったことではないのか。
「はあ!? 誰に向かって言ってんのよ。確かにあたしは山育ちで今も『田舎のおばちゃん』だけど、大学は東京だしお父さんと結婚するまでは丸の内のOLだったのよ。受付よ! 会社の顔だったんだから!」
けれど、伯母は伯母で違うポイントに食いついたようだ。どちらも的外れな気はするものの、結果的には話が逸れてよかった、のかもしれない。
「受付は初めて聞いたけど他は知ってるよ! 当たり前だろ。あと『OL』なんて、もう古すぎて誰も使わないから」
母子の掛け合いに思わず頬が緩んだ。
この二人は、本人たちが否定するだろうことは想像に難くないが似ているのだ。外見や血の問題ではなく。
実際に、伯母も航も最初は瑛璃のことを「東京の子は~」と思っていた、しかし違った、と同じようなことを口にしていた。
親子だ。
普通がどういうものを指すのか瑛璃にはよくわからないけれど、伯父と伯母と航は紛れもなく親子だった。瑛璃と父よりよほど心が近いではないか。
そう。だからこそ、瑛璃もこの一家と離れたくはないのだ。
「あの、明日帰る前、でもいつでもいいんですけど。家族みんなで写真撮って欲しいんです」
「もちろんよ! じゃあ明日、家の前で撮ろうか? ねえ、お父さん。いま夜の家の中でよりお陽さまの下がいいよね!? 三脚出しといて!」
こんな最後の最後に言い出すことか、と迷いながらも頼んだ瑛璃に、伯母が真っ先に反応する。
伯父と航が勢いに押されたかのように開き掛けた口を噤むのがわかった。
「そうだな、せっかくだからそれがいいよ。だったらカメラも充電しておかないと」
わざわざカメラを用意してもらわなくとも、瑛璃のスマートフォンで十分ではないか。
しかし、全員で撮るならその方がいいかもしれない、と瑛璃は甘えることにした。
最後の夜は、伯母が瑛璃の好みも訊いて作ってくれた心尽くしのご馳走が並ぶ食卓を全員で囲んだ。
美味しかった。本当に美味しかった、けれど、味だけではなく、この家の雰囲気が大きい気がする。
まるで家族の一員であるかのように、団欒の中に交ぜてもらえたことが瑛璃にとってはとても幸せな経験だった。
綺麗に空になった皿を前にした会話の最中に、航が突然立ち上がる。
「父さん、母さん! 俺、東京の大学に行きたいんだ。だから学費だけじゃなくて他にもいろいろお金掛かるけど、俺もバイトしたり奨学金借りたりするから行かせてください!」
彼はそう宣言するなり、深々と頭を下げた。
いきなりどうしたというのか。そういった複雑なことは、家族だけでゆっくり話した方がいいのでは──。
「あんた、何言ってんの!? あたしもお父さんも最初からそういう話してたじゃない。なんかまるであたしたちに反対されてるみたいな言い方よしてよね。お金はちゃんと用意してるから、遊ぶ分だけはバイトして」
現実はドラマのように盛り上がる流れには行かなかった。
伯母の白けた声に、航は一気に脱力したかのように椅子に腰を下ろす。
「もしかして瑛璃ちゃんが来たから? あたしがいくら勧めても無視してたのに──」
続ける伯母に、従兄が勢い良く言葉を被せた。
「母さんは! そうやって何でも口に出すとこが無神経なんだよ! 瑛璃ちゃんにも余計なこと言わなかっただろうな。田舎のおばちゃんの空気読まないジョークなんて下手すりゃイジメだぞ」
航の反応に瑛璃は声を上げそうになり、慌てて唇を引き結んだ。
伯母の台詞の意味はそういうことではない気がする。
単に東京から初めて会う従妹が来て、その瑛璃がごく普通だったことで「東京など畏怖するような場所ではない」と憂えていた気持ちがなくなった、あるいは逆に憧れた、といったことではないのか。
「はあ!? 誰に向かって言ってんのよ。確かにあたしは山育ちで今も『田舎のおばちゃん』だけど、大学は東京だしお父さんと結婚するまでは丸の内のOLだったのよ。受付よ! 会社の顔だったんだから!」
けれど、伯母は伯母で違うポイントに食いついたようだ。どちらも的外れな気はするものの、結果的には話が逸れてよかった、のかもしれない。
「受付は初めて聞いたけど他は知ってるよ! 当たり前だろ。あと『OL』なんて、もう古すぎて誰も使わないから」
母子の掛け合いに思わず頬が緩んだ。
この二人は、本人たちが否定するだろうことは想像に難くないが似ているのだ。外見や血の問題ではなく。
実際に、伯母も航も最初は瑛璃のことを「東京の子は~」と思っていた、しかし違った、と同じようなことを口にしていた。
親子だ。
普通がどういうものを指すのか瑛璃にはよくわからないけれど、伯父と伯母と航は紛れもなく親子だった。瑛璃と父よりよほど心が近いではないか。
そう。だからこそ、瑛璃もこの一家と離れたくはないのだ。
「あの、明日帰る前、でもいつでもいいんですけど。家族みんなで写真撮って欲しいんです」
「もちろんよ! じゃあ明日、家の前で撮ろうか? ねえ、お父さん。いま夜の家の中でよりお陽さまの下がいいよね!? 三脚出しといて!」
こんな最後の最後に言い出すことか、と迷いながらも頼んだ瑛璃に、伯母が真っ先に反応する。
伯父と航が勢いに押されたかのように開き掛けた口を噤むのがわかった。
「そうだな、せっかくだからそれがいいよ。だったらカメラも充電しておかないと」
わざわざカメラを用意してもらわなくとも、瑛璃のスマートフォンで十分ではないか。
しかし、全員で撮るならその方がいいかもしれない、と瑛璃は甘えることにした。
みんなのリアクション
まだリアクションはありません。最初の一歩を踏み出しましょう!
◇ ◇ ◇
最後の夜は、伯母が瑛璃の好みも訊いて作ってくれた心尽くしのご馳走が並ぶ食卓を全員で囲んだ。
美味しかった。本当に美味しかった、けれど、味だけではなく、この家の雰囲気が大きい気がする。
まるで家族の一員であるかのように、団欒の中に交ぜてもらえたことが瑛璃にとってはとても幸せな経験だった。
綺麗に空になった皿を前にした会話の最中に、航が突然立ち上がる。
「父さん、母さん! 俺、東京の大学に行きたいんだ。だから学費だけじゃなくて他にもいろいろお金掛かるけど、俺もバイトしたり奨学金借りたりするから行かせてください!」
彼はそう宣言するなり、深々と頭を下げた。
いきなりどうしたというのか。そういった複雑なことは、家族だけでゆっくり話した方がいいのでは──。
「あんた、何言ってんの!? あたしもお父さんも最初からそういう話してたじゃない。なんかまるであたしたちに反対されてるみたいな言い方よしてよね。お金はちゃんと用意してるから、遊ぶ分だけはバイトして」
現実はドラマのように盛り上がる流れには行かなかった。
伯母の白けた声に、航は一気に脱力したかのように椅子に腰を下ろす。
「もしかして瑛璃ちゃんが来たから? あたしがいくら勧めても無視してたのに──」
続ける伯母に、従兄が勢い良く言葉を被せた。
「母さんは! そうやって何でも口に出すとこが無神経なんだよ! 瑛璃ちゃんにも余計なこと言わなかっただろうな。田舎のおばちゃんの空気読まないジョークなんて下手すりゃイジメだぞ」
航の反応に瑛璃は声を上げそうになり、慌てて唇を引き結んだ。
伯母の台詞の意味は《《そういう》》ことではない気がする。
単に東京から初めて会う従妹が来て、その瑛璃がごく普通だったことで「東京など畏怖するような場所ではない」と憂えていた気持ちがなくなった、あるいは逆に憧れた、といったことではないのか。
「はあ!? 誰に向かって言ってんのよ。確かにあたしは山育ちで今も『田舎のおばちゃん』だけど、大学は東京だしお父さんと結婚するまでは丸の内のOLだったのよ。受付よ! 会社の顔だったんだから!」
けれど、伯母は伯母で違うポイントに食いついたようだ。どちらも的外れな気はするものの、結果的には話が逸れてよかった、のかもしれない。
「受付は初めて聞いたけど他は知ってるよ! 当たり前だろ。あと『OL』なんて、もう古すぎて誰も使わないから」
母子の掛け合いに思わず頬が緩んだ。
この二人は、本人たちが否定するだろうことは想像に難くないが似ているのだ。外見や血の問題ではなく。
実際に、伯母も航も最初は瑛璃のことを「東京の子は~」と思っていた、しかし違った、と同じようなことを口にしていた。
親子だ。
普通がどういうものを指すのか瑛璃にはよくわからないけれど、伯父と伯母と航は紛れもなく親子だった。瑛璃と父よりよほど心が近いではないか。
そう。だからこそ、瑛璃もこの一家と離れたくはないのだ。
「あの、明日帰る前、でもいつでもいいんですけど。《《家族みんな》》で写真撮って欲しいんです」
「もちろんよ! じゃあ明日、家の前で撮ろうか? ねえ、お父さん。いま夜の家の中でよりお陽さまの下がいいよね!? 三脚出しといて!」
こんな最後の最後に言い出すことか、と迷いながらも頼んだ瑛璃に、伯母が真っ先に反応する。
伯父と航が勢いに押されたかのように開き掛けた口を噤むのがわかった。
「そうだな、せっかくだからそれがいいよ。だったらカメラも充電しておかないと」
わざわざカメラを用意してもらわなくとも、瑛璃のスマートフォンで十分ではないか。
しかし、全員で撮るならその方がいいかもしれない、と瑛璃は甘えることにした。
最後の夜は、伯母が瑛璃の好みも訊いて作ってくれた心尽くしのご馳走が並ぶ食卓を全員で囲んだ。
美味しかった。本当に美味しかった、けれど、味だけではなく、この家の雰囲気が大きい気がする。
まるで家族の一員であるかのように、団欒の中に交ぜてもらえたことが瑛璃にとってはとても幸せな経験だった。
綺麗に空になった皿を前にした会話の最中に、航が突然立ち上がる。
「父さん、母さん! 俺、東京の大学に行きたいんだ。だから学費だけじゃなくて他にもいろいろお金掛かるけど、俺もバイトしたり奨学金借りたりするから行かせてください!」
彼はそう宣言するなり、深々と頭を下げた。
いきなりどうしたというのか。そういった複雑なことは、家族だけでゆっくり話した方がいいのでは──。
「あんた、何言ってんの!? あたしもお父さんも最初からそういう話してたじゃない。なんかまるであたしたちに反対されてるみたいな言い方よしてよね。お金はちゃんと用意してるから、遊ぶ分だけはバイトして」
現実はドラマのように盛り上がる流れには行かなかった。
伯母の白けた声に、航は一気に脱力したかのように椅子に腰を下ろす。
「もしかして瑛璃ちゃんが来たから? あたしがいくら勧めても無視してたのに──」
続ける伯母に、従兄が勢い良く言葉を被せた。
「母さんは! そうやって何でも口に出すとこが無神経なんだよ! 瑛璃ちゃんにも余計なこと言わなかっただろうな。田舎のおばちゃんの空気読まないジョークなんて下手すりゃイジメだぞ」
航の反応に瑛璃は声を上げそうになり、慌てて唇を引き結んだ。
伯母の台詞の意味は《《そういう》》ことではない気がする。
単に東京から初めて会う従妹が来て、その瑛璃がごく普通だったことで「東京など畏怖するような場所ではない」と憂えていた気持ちがなくなった、あるいは逆に憧れた、といったことではないのか。
「はあ!? 誰に向かって言ってんのよ。確かにあたしは山育ちで今も『田舎のおばちゃん』だけど、大学は東京だしお父さんと結婚するまでは丸の内のOLだったのよ。受付よ! 会社の顔だったんだから!」
けれど、伯母は伯母で違うポイントに食いついたようだ。どちらも的外れな気はするものの、結果的には話が逸れてよかった、のかもしれない。
「受付は初めて聞いたけど他は知ってるよ! 当たり前だろ。あと『OL』なんて、もう古すぎて誰も使わないから」
母子の掛け合いに思わず頬が緩んだ。
この二人は、本人たちが否定するだろうことは想像に難くないが似ているのだ。外見や血の問題ではなく。
実際に、伯母も航も最初は瑛璃のことを「東京の子は~」と思っていた、しかし違った、と同じようなことを口にしていた。
親子だ。
普通がどういうものを指すのか瑛璃にはよくわからないけれど、伯父と伯母と航は紛れもなく親子だった。瑛璃と父よりよほど心が近いではないか。
そう。だからこそ、瑛璃もこの一家と離れたくはないのだ。
「あの、明日帰る前、でもいつでもいいんですけど。《《家族みんな》》で写真撮って欲しいんです」
「もちろんよ! じゃあ明日、家の前で撮ろうか? ねえ、お父さん。いま夜の家の中でよりお陽さまの下がいいよね!? 三脚出しといて!」
こんな最後の最後に言い出すことか、と迷いながらも頼んだ瑛璃に、伯母が真っ先に反応する。
伯父と航が勢いに押されたかのように開き掛けた口を噤むのがわかった。
「そうだな、せっかくだからそれがいいよ。だったらカメラも充電しておかないと」
わざわざカメラを用意してもらわなくとも、瑛璃のスマートフォンで十分ではないか。
しかし、全員で撮るならその方がいいかもしれない、と瑛璃は甘えることにした。