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#21

ー/ー



 朱理が出ていってすぐに保健室を出たので、大した差はついていないけれど、朱理は体育の授業に参加していない割に足が速く、全力で追いかけても中々差が縮まらなかった。
 人波を掻き分けながら朱理を追いかけ、下駄箱に辿りついた。下駄箱で朱理は上履きから靴に履き替え外に出る。
 少しでも朱理との差を縮めたい私は、走っている勢いそのままに上履きのまま外へ出た。
 良し、大分差が縮まった。
「待って! 朱理!」
 校庭に出た私は、朱理の名を呼んだ。廊下で名を呼んだら廊下を行き交う生徒達の視線が私達に集中し、パニックになってしまう恐れがあるが、校庭にはあまり人がいないので、その心配はなさそうだと判断した。
 名を呼ばれた朱理は、一瞬足を止めそうになったが、心の中で何か葛藤があったのだろう、足を止めずに走り続ける。
 それでも、名を呼びながら追い続けた。犯人に対し待てと叫ぶのではなく、愛しい人を繋ぎ止めておきたいように優しく待ってと呼び続ける。
 朱理は、校舎裏に移動すると足を止めた。
 両膝に手をつき、息を切らしている。
止まってくれたのではなく、体力が限界に達したのだろう。
「朱理」
 私も、朱理ほどではないが息が切れていたが、それでも、強引に声を絞り出す。
「来ないで!」
 近寄る私を、朱理は言葉で制する。
先ほどの事件があるので、そう言われると近づけなくなってしまう。
「私に近寄ったら、駄目なの」
 息切れからなのか、感情の高ぶりからなのか分からないが、声が震えている。
「いつも、ああなの。誰かが近付いてきて、触れられたら怖くなっちゃって、何がなんだか分からなくなっちゃって。
 近付いてきた人を傷つけたら駄目だって分かってるのに、近付かれたら怖くなっちゃって、怖くなったら、何に怖がってるのか分からなくなっちゃって、全てのものが怖くなっちゃって、どうしたらいいか分からなくなっちゃって……
 いつも、こうなの。人を傷つけた後、少しだけ理性を取り戻して、自分が怖くなる。人を傷つけたくないと思ってるのに、平気で人を傷つける自分が怖くなる」
 疲れが取れた朱理は、九月だというのに寒そうに震えながら、誰も寄せ付けないように胎児を思わせる格好でうずくまっている。
「朱理」
「来ないで! 近寄ったら駄目なの!」
 足音で近付いたのが分かったのだろう、顔を上げずに私を制する。


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 朱理が出ていってすぐに保健室を出たので、大した差はついていないけれど、朱理は体育の授業に参加していない割に足が速く、全力で追いかけても中々差が縮まらなかった。
 人波を掻き分けながら朱理を追いかけ、下駄箱に辿りついた。下駄箱で朱理は上履きから靴に履き替え外に出る。
 少しでも朱理との差を縮めたい私は、走っている勢いそのままに上履きのまま外へ出た。
 良し、大分差が縮まった。
「待って! 朱理!」
 校庭に出た私は、朱理の名を呼んだ。廊下で名を呼んだら廊下を行き交う生徒達の視線が私達に集中し、パニックになってしまう恐れがあるが、校庭にはあまり人がいないので、その心配はなさそうだと判断した。
 名を呼ばれた朱理は、一瞬足を止めそうになったが、心の中で何か葛藤があったのだろう、足を止めずに走り続ける。
 それでも、名を呼びながら追い続けた。犯人に対し待てと叫ぶのではなく、愛しい人を繋ぎ止めておきたいように優しく待ってと呼び続ける。
 朱理は、校舎裏に移動すると足を止めた。
 両膝に手をつき、息を切らしている。
止まってくれたのではなく、体力が限界に達したのだろう。
「朱理」
 私も、朱理ほどではないが息が切れていたが、それでも、強引に声を絞り出す。
「来ないで!」
 近寄る私を、朱理は言葉で制する。
先ほどの事件があるので、そう言われると近づけなくなってしまう。
「私に近寄ったら、駄目なの」
 息切れからなのか、感情の高ぶりからなのか分からないが、声が震えている。
「いつも、ああなの。誰かが近付いてきて、触れられたら怖くなっちゃって、何がなんだか分からなくなっちゃって。
 近付いてきた人を傷つけたら駄目だって分かってるのに、近付かれたら怖くなっちゃって、怖くなったら、何に怖がってるのか分からなくなっちゃって、全てのものが怖くなっちゃって、どうしたらいいか分からなくなっちゃって……
 いつも、こうなの。人を傷つけた後、少しだけ理性を取り戻して、自分が怖くなる。人を傷つけたくないと思ってるのに、平気で人を傷つける自分が怖くなる」
 疲れが取れた朱理は、九月だというのに寒そうに震えながら、誰も寄せ付けないように胎児を思わせる格好でうずくまっている。
「朱理」
「来ないで! 近寄ったら駄目なの!」
 足音で近付いたのが分かったのだろう、顔を上げずに私を制する。