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#20

ー/ー



 カオルが朱理に近づくと、朱理は机から身を起こし振り向いた。
 朱理が振り向いた瞬間、少量の血が飛び散る。
 苦痛に顔を歪めながら腕を抑えるカオル。
血が滴り落ちるハサミを持っている朱理。
二人が向き合うようにして立っている。
 朱理が振り向いた勢いのまま、カオルの腕を切ったらしい。
 朱理の手が、激しく震えていた。
 前髪が全て覆いかぶさり、目元まで隠してしまっているので表情ははっきりと伺えないが、口元だけで動揺しているのが分かる。
「そんなつもりじゃなかったの……本当に……そんなつもりじゃ……」
 呪文のように何度も『そんなつもりじゃ』と唱えている。
聞き取るのがやっとなぐらい、声はか細い。
 私がいけないんだ。カオルが朱理に近づいた時、私がカオルを止めてあげなくてはならなかったんだ。
 事情を説明して、互いの性格や環境を多少考慮させてから、顔を合わせなくてはいけなかったんだ。
「そこに座って」
 塚本先生が、椅子を用意しカオルに命ずる。
 塚本先生はいつの間にか、包帯などを手に持ち、傷の処置をする準備を整えていた。
 惨状を目の当たりにして放心状態になっていた間、塚本先生は冷静に治療の準備を進めていたらしい。
 カオルは命じられた通り、椅子に腰をかける。
「大丈夫、カオル?」
 さっきまで腰を抜かしていたるんが、頼りない足取りでカオルに近付く。
「大丈夫、これぐらいじゃ死なないよ。私の腕が心配をして貰いたくて、大げさに血を流してるだけ」
 カオルは顔を顰めながらも、無理に笑顔を作り答える。
 みんなの視線が、カオルに集中していた。
どんな状況でも笑顔を絶やさないカオルの魅力に引き込まれるように、みんながカオルを見つめている。
 視線の独占を面白くないと思ったのか、室内に『カラン、カラン』と金属音が鳴り響く。
 床の上に、ハサミが落ちていた。
朱理がカオルを切りつけたハサミである。
「ごめんなさい……本当に……ごめんなさい!」
 朱理は、自分を包み込むように腕を組みながら叫び、保健室を出て走り去った。
「カオル、ごめん。朱理を追いかけていいかな?」
「追いかけなかったら、絶交だよ」
 カオルの傍を離れ、朱理を追う。その行動を許してくれるカオルに感謝しながら、私は保健室を出た。


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みんなのリアクション



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 カオルが朱理に近づくと、朱理は机から身を起こし振り向いた。
 朱理が振り向いた瞬間、少量の血が飛び散る。
 苦痛に顔を歪めながら腕を抑えるカオル。
血が滴り落ちるハサミを持っている朱理。
二人が向き合うようにして立っている。
 朱理が振り向いた勢いのまま、カオルの腕を切ったらしい。
 朱理の手が、激しく震えていた。
 前髪が全て覆いかぶさり、目元まで隠してしまっているので表情ははっきりと伺えないが、口元だけで動揺しているのが分かる。
「そんなつもりじゃなかったの……本当に……そんなつもりじゃ……」
 呪文のように何度も『そんなつもりじゃ』と唱えている。
聞き取るのがやっとなぐらい、声はか細い。
 私がいけないんだ。カオルが朱理に近づいた時、私がカオルを止めてあげなくてはならなかったんだ。
 事情を説明して、互いの性格や環境を多少考慮させてから、顔を合わせなくてはいけなかったんだ。
「そこに座って」
 塚本先生が、椅子を用意しカオルに命ずる。
 塚本先生はいつの間にか、包帯などを手に持ち、傷の処置をする準備を整えていた。
 惨状を目の当たりにして放心状態になっていた間、塚本先生は冷静に治療の準備を進めていたらしい。
 カオルは命じられた通り、椅子に腰をかける。
「大丈夫、カオル?」
 さっきまで腰を抜かしていたるんが、頼りない足取りでカオルに近付く。
「大丈夫、これぐらいじゃ死なないよ。私の腕が心配をして貰いたくて、大げさに血を流してるだけ」
 カオルは顔を顰めながらも、無理に笑顔を作り答える。
 みんなの視線が、カオルに集中していた。
どんな状況でも笑顔を絶やさないカオルの魅力に引き込まれるように、みんながカオルを見つめている。
 視線の独占を面白くないと思ったのか、室内に『カラン、カラン』と金属音が鳴り響く。
 床の上に、ハサミが落ちていた。
朱理がカオルを切りつけたハサミである。
「ごめんなさい……本当に……ごめんなさい!」
 朱理は、自分を包み込むように腕を組みながら叫び、保健室を出て走り去った。
「カオル、ごめん。朱理を追いかけていいかな?」
「追いかけなかったら、絶交だよ」
 カオルの傍を離れ、朱理を追う。その行動を許してくれるカオルに感謝しながら、私は保健室を出た。