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【7】④

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「なんか気楽だな〜。叔母さん仕事忙しいっていうし、夏休みに子ども家にいたら面倒だから、や、厄介払い、えっと、そういうのか、ってくらいで。都会の人ってやっぱ違うんだなとか。……あの頃の俺を殴ってやりたい。だって『いろんな事情があるんだ』って、俺は誰よりよく知ってんのに」
 佐野の家庭の件を指しているのだろうか。
 顔を歪めて過去の自分に怒りを禁じ得ないでいる従兄に、その気持ちだけで報われる、と知らせたかった。
 航に告げる気はないが、現に立ち聞いて知ったときの彼の声に蔑みが混じっていたとは感じていない。
「今は言い訳にしか聞こえないかもしれないのもわかってるよ。でもさ、叔母さんの話聞いてホントのこと知る前から、俺は瑛璃ちゃんが来てくれてよかったと思ってた。『なんだかな〜』と感じてたのはホントに最初だけ! あの、浜で話したのは絶対に嘘じゃないから」
「それは別に疑ってないよ。あのときの航くん、本心なんだってわかったし」
 涙はもう止まっていて、ようやく声も震えなくなった。
「瑛璃ちゃん、すごく普通で、いや普通よりずっとしっかりしたいい子で自分が恥ずかしくなったのもホントだし。……会えてよかった、って」
「うん。私も会えて良かった。航くんにはもちろんだけど、伯母さんにも」
 出逢いも含めて、この町に来て良かった。
 今では心からそう考えている。航も同じならそれだけで満足な気さえした。
 全部終わった気になっていた瑛璃に、航は何度か口を開き掛けては閉じてを繰り返し、──覚悟を決めたように話し出した。
「……瑛璃ちゃんは知らないんだよな? 俺の、こと。叔母さんも何も言ってない?」
「な、に?」
 彼の言葉の意味がまったく掴めない。「航のこと」とは一体何なのか。
「俺、この家のホントの子じゃないんだ。養子」
 一瞬、その内容が理解できなかった。そんな、いきなりそんなことを……。
「聞いたことないかな、『子どもできたけどいらない人』から『子ども欲しい人』に渡すルート、っていうか」
「あ、えっと。うん、なんとなく。養子斡旋、とかそういうの?」
 瑛璃がどうにか呟くのに彼が首を縦に振る。
「そうそう。うちの親、父さんと母さんの両方に原因あって子どもできないんだって。だからそういうとこに頼んで、赤ちゃん産んでも育てられないって人から生まれてすぐに引き取ったんだってさ」
 写真を見た時にも、ここに来て初めて会った時にも。
 確かに航は両親のどちらにもあまり似ていない、と感じていた。身長にしても、伯父と伯母は決して長身の部類ではないにも拘らずかなり高い方だ。
「……いつから」
 いつから知っていたというのだろう。瑛璃なら、高校生になった今でさえ聞かされれば平静を保てない気がした。
「小学校入るちょっと前くらいかなあ。中学生になったらちゃんと説明するつもりだったらしいよ。でもその前に、おせっかいな人が母さんに『あんた、他人の子を育てて偉いね。大変ねえ』って言ってるの聞いちゃってさ。それで──」
 みんな知ってるから、周りの人は、と航が苦笑しながら口にするのを瑛璃は黙って聞いているしかできなかった。
 いったい何を言えるというのか。
「大変だったね、でもこの家で良かったね」
 そんな中身のない、ただ心を上滑りするような言葉を、わざわざ表に出す意味があるとは思えなかった。
「最初の、いや次の日かな? 瑛璃ちゃんが『よその家だから、ここは俺の家だから』って言ったとき、なんか……、そんなこと言うなよ! って急に思っちゃって」
「うん。あったね」
 よく覚えている。当時も妙だと感じたからだ。
 どう好意的に解釈しても、瑛璃は邪魔な「余所者」でしかなかった筈なのに何故、と疑問だった。


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みんなのリアクション

「なんか気楽だな〜。叔母さん仕事忙しいっていうし、夏休みに子ども家にいたら面倒だから、や、厄介払い、えっと、そういうのか、ってくらいで。都会の人ってやっぱ違うんだなとか。……あの頃の俺を殴ってやりたい。だって『いろんな事情があるんだ』って、俺は誰よりよく知ってんのに」
 佐野の家庭の件を指しているのだろうか。
 顔を歪めて過去の自分に怒りを禁じ得ないでいる従兄に、その気持ちだけで報われる、と知らせたかった。
 航に告げる気はないが、現に立ち聞いて知ったときの彼の声に蔑みが混じっていたとは感じていない。
「今は言い訳にしか聞こえないかもしれないのもわかってるよ。でもさ、叔母さんの話聞いてホントのこと知る前から、俺は瑛璃ちゃんが来てくれてよかったと思ってた。『なんだかな〜』と感じてたのはホントに最初だけ! あの、浜で話したのは絶対に嘘じゃないから」
「それは別に疑ってないよ。あのときの航くん、本心なんだってわかったし」
 涙はもう止まっていて、ようやく声も震えなくなった。
「瑛璃ちゃん、すごく普通で、いや普通よりずっとしっかりしたいい子で自分が恥ずかしくなったのもホントだし。……会えてよかった、って」
「うん。私も会えて良かった。航くんにはもちろんだけど、伯母さんにも」
 出逢いも含めて、この町に来て良かった。
 今では心からそう考えている。航も同じならそれだけで満足な気さえした。
 全部終わった気になっていた瑛璃に、航は何度か口を開き掛けては閉じてを繰り返し、──覚悟を決めたように話し出した。
「……瑛璃ちゃんは知らないんだよな? 俺の、こと。叔母さんも何も言ってない?」
「な、に?」
 彼の言葉の意味がまったく掴めない。「航のこと」とは一体何なのか。
「俺、この家のホントの子じゃないんだ。養子」
 一瞬、その内容が理解できなかった。そんな、いきなりそんなことを……。
「聞いたことないかな、『子どもできたけどいらない人』から『子ども欲しい人』に渡すルート、っていうか」
「あ、えっと。うん、なんとなく。養子斡旋、とかそういうの?」
 瑛璃がどうにか呟くのに彼が首を縦に振る。
「そうそう。うちの親、父さんと母さんの両方に原因あって子どもできないんだって。だからそういうとこに頼んで、赤ちゃん産んでも育てられないって人から生まれてすぐに引き取ったんだってさ」
 写真を見た時にも、ここに来て初めて会った時にも。
 確かに航は両親のどちらにもあまり似ていない、と感じていた。身長にしても、伯父と伯母は決して長身の部類ではないにも拘らずかなり高い方だ。
「……いつから」
 いつから知っていたというのだろう。瑛璃なら、高校生になった今でさえ聞かされれば平静を保てない気がした。
「小学校入るちょっと前くらいかなあ。中学生になったらちゃんと説明するつもりだったらしいよ。でもその前に、おせっかいな人が母さんに『あんた、他人の子を育てて偉いね。大変ねえ』って言ってるの聞いちゃってさ。それで──」
 みんな知ってるから、周りの人は、と航が苦笑しながら口にするのを瑛璃は黙って聞いているしかできなかった。
 いったい何を言えるというのか。
「大変だったね、でもこの家で良かったね」
 そんな中身のない、ただ心を上滑りするような言葉を、わざわざ表に出す意味があるとは思えなかった。
「最初の、いや次の日かな? 瑛璃ちゃんが『よその家だから、ここは俺の家だから』って言ったとき、なんか……、そんなこと言うなよ! って急に思っちゃって」
「うん。あったね」
 よく覚えている。当時も妙だと感じたからだ。
 どう好意的に解釈しても、瑛璃は邪魔な「余所者」でしかなかった筈なのに何故、と疑問だった。