3話 朝の会
ー/ー 九時過ぎ。少し遅れて遊戯室に行くと二十畳ほどと思われる正方形の部屋に、横一列に並べた椅子にみんな座っている。
プレイルームと同様に室内は太陽の光りで明るく、そのひだまりに導かれるように凛ちゃんもうさぎの絵が描かれてある空席にちょこんと座る。
学齢期前であることから字が読めない子が大半であり、名前の代わりに番号や色、動物などを一人ひとりに割り振ってある。それを靴箱やロッカー、席などの個人の場所や物に貼り、子供達に自分の場所が分かるようにしている。
一般的な保育園や幼稚園は、年少は動物。年中は花や虫。年長は番号。
そう決めているけど、ここは療育園。子供自身が理解出来るように年齢ではなく、発達段階で毎年決めている。
「みなさん、おはようございます。朝の会を始めます」
着席している子供達の前方に向かい合うように座るのは、進行役の小林先生。明るくハキハキとした声により、子供八人で形成されたパンダ組の朝の会が始まる。
本来は九時からなのでもう始まっているけど、他の子が「凛ちゃん。まだ来ていない」と心配してくれ、少しだけ待ちたいと申し出があったらしい。
だから小林先生が五分だけ待とうと話をまとめてくれ、時計型タイマーを使用しながら絵本を読んで待っていてくれる。今日は間に合ったみたいで、一緒に朝の会に参加出来るのが心より嬉しい。
「今日は、十月十五日。水曜日。晴れです」
まずは今日の日付から。遊戯室の右前方に置いてあるのは簡易に捲れる手作りのカレンダーで、一月から十二月まで、一日から三十一日まで、月曜日から金曜日まで作ってある。
今日の日付通りに数字と曜日を事前に合わせており、その数字と文字を指差しながら日付と曜日を声に出し、次にお日様の絵を見てもらいながら天気を伝える。
勿論、曇り、雨、雪のカードもあり、その日に合わせて事前にカードを変えている。
こうして日にちと曜日、天気という概念があるのだと子供達に説明していく。これを繰り返すうちに療育園に来る曜日を認知出来たり、天気の認識から雨が降るとカッパを着るとか、月日が変わると季節も変わっていくとか、色々な認識に繋がっていく。
「順番にお名前を呼ぶので返事をしてください」
次にするのは出席確認。
小林先生が一人ずつ名前を呼び、返事が出来る子は手を挙げて「はい」と返し、恥ずかしがり屋さんは声を出さずに小さく手を挙げ、それが難しい子は……。
「青柳凛さん」
「……」
凛ちゃんは名前を呼んでもらうもそれに一切の反応をせず、体を左右に動かし名前を呼んだ小林先生をチラリとも見ない。
斜め後ろに座っているお母さんに肩をトントンと叩かれ、「呼ばれているよ」と小林先生の方に指を差される。耳元でハッキリとした声を掛けられているが視線はそっちはいかず、何もない壁や天井に向き全く気付いていないようだった。
そんな凛ちゃんに小林先生は椅子から立ち上がり、目の前まで歩いて来てしゃがむ。
「青柳凛さん」
凛ちゃんがあちこちに動かす視線が一瞬小林先生に向いた時に先生はすかさず声をかけ、小さな手を取ってハイタッチをする。
すると普段は人と視線が合うことはないけど、この時は三秒ぐらい小林先生の顔をじっと見つめることが多い。まるでこの瞬間、凛ちゃんと小林先生の心が繋がっているみたいに。
だからパニックにより朝の会に参加出来なかった時でも、次の活動前に一人だけの朝の会を小林先生にしてもらうようにしている。
自分の名前を認識してもらう目的があるのと、物と人との差が分かっていない凛ちゃんに人の温かみを知ってもらう為に。
「今日の活動は、1.朝の会。2.体を元気良く動かす体操。3.甘いおやつ。4.楽しい園庭遊び。5.美味しいご飯。6.柔らかいボールプール。7.終わりの会です」
前方右側に設置してあった先程の日めくりカレンダーは既に他の先生により廊下に出されていて、それは子供達の注意力が散漫にならないように配慮しているから。
カレンダーを片付けたことにより今は黒板が見えるようになり、そこには1.2.3.と縦に番号が並べられている。
1の横には椅子に座った子供の絵。2の横には体操する子供の絵。3の横にはクッキーの絵。それは4.5.6.7と続いている。
これも視覚支援で、言葉を聞き取るのが苦手な子にとって大切なコミュニケーションの取り方であり、狙いはもう一つある。
先の予定や、いつ帰れるのかが分からないことで不安になってしまわないように、事前に予定を伝えることだ。
大人でもこれから何をするのか、いつ帰れるのか分からないと言い知れぬ不安が襲ってくる。私達は言葉というツールにより解決出来るけど、話せない子は不安なことを聞くことも言葉で理解することも出来ず、不安が積み重なりパニックに繋がってしまうことがある。
特にここに通っている子達は、「先の見通しが立たないこと」に不安を抱くことも多い。
だからこそ先に予定を伝えていて、また予定を詰め込んで空き時間を作らないようにしているのも、今何をして良いのかが分からないと不安を与えないようにする為だ。
プレイルームと同様に室内は太陽の光りで明るく、そのひだまりに導かれるように凛ちゃんもうさぎの絵が描かれてある空席にちょこんと座る。
学齢期前であることから字が読めない子が大半であり、名前の代わりに番号や色、動物などを一人ひとりに割り振ってある。それを靴箱やロッカー、席などの個人の場所や物に貼り、子供達に自分の場所が分かるようにしている。
一般的な保育園や幼稚園は、年少は動物。年中は花や虫。年長は番号。
そう決めているけど、ここは療育園。子供自身が理解出来るように年齢ではなく、発達段階で毎年決めている。
「みなさん、おはようございます。朝の会を始めます」
着席している子供達の前方に向かい合うように座るのは、進行役の小林先生。明るくハキハキとした声により、子供八人で形成されたパンダ組の朝の会が始まる。
本来は九時からなのでもう始まっているけど、他の子が「凛ちゃん。まだ来ていない」と心配してくれ、少しだけ待ちたいと申し出があったらしい。
だから小林先生が五分だけ待とうと話をまとめてくれ、時計型タイマーを使用しながら絵本を読んで待っていてくれる。今日は間に合ったみたいで、一緒に朝の会に参加出来るのが心より嬉しい。
「今日は、十月十五日。水曜日。晴れです」
まずは今日の日付から。遊戯室の右前方に置いてあるのは簡易に捲れる手作りのカレンダーで、一月から十二月まで、一日から三十一日まで、月曜日から金曜日まで作ってある。
今日の日付通りに数字と曜日を事前に合わせており、その数字と文字を指差しながら日付と曜日を声に出し、次にお日様の絵を見てもらいながら天気を伝える。
勿論、曇り、雨、雪のカードもあり、その日に合わせて事前にカードを変えている。
こうして日にちと曜日、天気という概念があるのだと子供達に説明していく。これを繰り返すうちに療育園に来る曜日を認知出来たり、天気の認識から雨が降るとカッパを着るとか、月日が変わると季節も変わっていくとか、色々な認識に繋がっていく。
「順番にお名前を呼ぶので返事をしてください」
次にするのは出席確認。
小林先生が一人ずつ名前を呼び、返事が出来る子は手を挙げて「はい」と返し、恥ずかしがり屋さんは声を出さずに小さく手を挙げ、それが難しい子は……。
「青柳凛さん」
「……」
凛ちゃんは名前を呼んでもらうもそれに一切の反応をせず、体を左右に動かし名前を呼んだ小林先生をチラリとも見ない。
斜め後ろに座っているお母さんに肩をトントンと叩かれ、「呼ばれているよ」と小林先生の方に指を差される。耳元でハッキリとした声を掛けられているが視線はそっちはいかず、何もない壁や天井に向き全く気付いていないようだった。
そんな凛ちゃんに小林先生は椅子から立ち上がり、目の前まで歩いて来てしゃがむ。
「青柳凛さん」
凛ちゃんがあちこちに動かす視線が一瞬小林先生に向いた時に先生はすかさず声をかけ、小さな手を取ってハイタッチをする。
すると普段は人と視線が合うことはないけど、この時は三秒ぐらい小林先生の顔をじっと見つめることが多い。まるでこの瞬間、凛ちゃんと小林先生の心が繋がっているみたいに。
だからパニックにより朝の会に参加出来なかった時でも、次の活動前に一人だけの朝の会を小林先生にしてもらうようにしている。
自分の名前を認識してもらう目的があるのと、物と人との差が分かっていない凛ちゃんに人の温かみを知ってもらう為に。
「今日の活動は、1.朝の会。2.体を元気良く動かす体操。3.甘いおやつ。4.楽しい園庭遊び。5.美味しいご飯。6.柔らかいボールプール。7.終わりの会です」
前方右側に設置してあった先程の日めくりカレンダーは既に他の先生により廊下に出されていて、それは子供達の注意力が散漫にならないように配慮しているから。
カレンダーを片付けたことにより今は黒板が見えるようになり、そこには1.2.3.と縦に番号が並べられている。
1の横には椅子に座った子供の絵。2の横には体操する子供の絵。3の横にはクッキーの絵。それは4.5.6.7と続いている。
これも視覚支援で、言葉を聞き取るのが苦手な子にとって大切なコミュニケーションの取り方であり、狙いはもう一つある。
先の予定や、いつ帰れるのかが分からないことで不安になってしまわないように、事前に予定を伝えることだ。
大人でもこれから何をするのか、いつ帰れるのか分からないと言い知れぬ不安が襲ってくる。私達は言葉というツールにより解決出来るけど、話せない子は不安なことを聞くことも言葉で理解することも出来ず、不安が積み重なりパニックに繋がってしまうことがある。
特にここに通っている子達は、「先の見通しが立たないこと」に不安を抱くことも多い。
だからこそ先に予定を伝えていて、また予定を詰め込んで空き時間を作らないようにしているのも、今何をして良いのかが分からないと不安を与えないようにする為だ。
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