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65-①.異彩色の、バージンロード

ー/ー



 一歩ずつ、ゆっくりと……真っすぐに。

「……」

 ザッ!ドシャ!

「…………っ!」

 ベチャ!グシャッ……

「……だから、邪魔だって言ってるだろ!!!」

 蒼き閃光を走らせ、剣を振りながら進んでいるのは勇者ソウゴ……と、

「ごめんねセリハ、怖かったよね?大丈夫、僕の手を離しちゃだめだよ?」

 肩から千切れたセリハの腕。
 長い距離を引きずられ、すりおろされ……ベロベロになった皮膚が、まるでウェディングドレスのフリルのように揺れていた。

 握り返されることはない……その腕を頬に寄せ、手の甲にキスをし、また前に進む。

 目指すは神官の御前……誓いを立てるために。

「ま、待ってください!この町の中は危険です!いくら勇者であろうとも、進むべきではありません!」

 イーリカはソウゴの前に立ち塞がり、歩みを止めさせた。

「ねぇ」
「……っえ」
「邪魔だって、言ったよ、ね」

 容赦なく。

「あ……」

 力なく倒れるイーリカ。

「あのさぁ……バージンロードに入っちゃだめだよねえ?!セリハが通れないだろう!!」

 そう……今、ソウゴが歩いている道は、セリハの為のバージンロード。

「イーリカ……?イーリカっ!!」
「待てミウ!!」
「あにぃ?!」
「見ていたろう?!お前まで斬られる……あいつは……何者なのだ」
「え、な、あ、あにぃ……なに言って……覚えて、ないの?」

 ソウゴ・シヅキがこの世界に来て、勇者になったことも、旅路の途中で顔を合わせ、話もしたはずだ。
 なのに、目の前いるソウゴが誰なのか理解出来ていない……覚えが無い様子で、アダルヘルムはソウゴを見つめ、警戒している。

 ミウは困惑しながらも、少しずつ理解し始めた。アダルヘルムに、なにが起きているのかを。

「だから、イーリカも……わからないんだ、ね」
「ミウ……?ミウっ!!」

 アダルヘルムから無理やり離れ、倒れたイーリカに駆け寄るミウ。

「また……あれ、君は……あぁ!僕たちを祝福しに来てくれたんだね?エルフの祝福……なんて幸せなんだろう、ねえ?セリハ」
「……っ!」

 イーリカを抱き起こした……だが、すでに事切れていた。首に綺麗な斬り口……流れる血は、バージンロードに新たな色を加えていた。

「ねえ」
「あ……ゆうしゃ……」

 首筋に冷たい感触。振り返らずとも、その声の主が誰なのかわかる。

「祝福……してくれるんだよね?」
「はっ……はっ……」

 ゼンにも負けないほどの重圧で、動くことも、声を出すこともできず、ただ黒く濁り、沈んだソウゴの目をみているしかできないミウ。

「貴様!!ミウを離せ!!」

 仲間を守るため……アダルヘルムは大斧を構えソウゴに向かって走る。

「なんだ、頭よさそうな言いぶりで偉そうに話ししてたくせに、脳筋なんだ」
「意味のわからないことを……!!」
「不思議なんだよな……」
「ぐうっ……あ……」
「動きが見えるんだ」

 大きく、分かりやすい動作を笑い、異様な低さを保ちながら高速で移動したソウゴ。アダルヘルムの下腹部から斜め上に向かって剣を突き刺した。

「どいててよ」
「ぐふっ!」

 ズッと素早く引き抜き、切り口を足で突き、力強く蹴り飛ばし、建物の外壁にアダルヘルムの体をめり込ませていた。

「もう……やだ……やだよぅ……」

 地面に顔をうずめ、泣き出してしまうミウ。
 やっと剣を収めたソウゴはミウの頭に手をかけた。

「行くよ?なにしてんの?」
「あ……イタッ……ゆうしゃ……っ!やだ……やだぁ!」
「うるさい」
「ひぅっ……」

 髪を掴み、無理やり顔や上げさせ……立ち上がろうとしないことに腹を立て、そのまま髪を引っ張り、引きずり町の中へ入っていく。

「あにぃ……」

 引きずられながら、ミウは気絶しているアダルヘルムを見た。閉じられた目から……涙が流れているのを……その涙に釣られるように、ミウもまた、大粒の涙を流し続けていた。

「……少し熱いね……でも、見てよ、赤い花みたいだ」

 まだ町にくすぶる火……そこで舞う火の粉は、まるで花びらのシャワー。

「っ……くっ、フフフ……もうすぐだよ」
「んっ!……つめたっ……」

 水飛沫が飛んできたことに驚くミウと、その出どころを見て、大きく口角を上げ、口を開けて笑顔を作りながら歩みを速めるソウゴ。

「この辺りはだいぶ良さそうだね!次は向こう側をしょっ――」
「み、つけ……た」
「きゃっ!!」

 髪をむしられながら、放り投げられたミウ。
 くるくると回りながら、楽しげに水を撒いている視界の端に、ソウゴを見てしまったティオ。
 ティオと目が合ったことをしっかりと確認し、剣を抜き、姿勢を低くして瞬歩するソウゴ。

「っ……ソ……ウゴ」
「さぁ、誓いを立てよう……セリハ」
「……僕が……そんなこと、するわけが、無い……うがっあっ!?」
「余計なことしゃべらず、神官は口上したらいいんだよっ!!」

 腹を横にかっ裂かれ……足に力を入れられなくなったティオは倒れ、横たわり荒く息を上げている。

「なに寝てんだよ、立てよ……立てよティオ!!」
「はは……寝かせたのは君のくせに……やかましいな?」
「このっ!!」
「グッ……うっ!あがっ!!」

 両手で……セリハの手も重ね剣を握り、ティオの手足に何度も剣を突きすソウゴ。怒りに満ちた表情が、徐々に喜びに満ちた笑顔に変わっていく。

「あは……は……アハハハハハ!!」

 ソウゴの笑い声を真上から浴びながら、抵抗せず、その痛みを受け入れるティオ。

「その誓いは、神に誓うんだよなあ?」

 その声に、剣を刺す手が止まる。

「止めるのが遅いんじゃないか、英雄」
「遅いくらいがちょうどいいんだよ、勇者」

 ゼンとソウゴが、お互いをしっかりと見つめ合う。

「ゼ――……は……僕のことを……わかってくれて……いるからね……遅いなんて、ことは、ないのだよ」
「……なんで、そんなやつかばうんだ」
「おや……まだ希望、を……もっているの、かい?はは!……残念、だけど、僕は、君たちのこと……大嫌いだからね」
「この……っ!!」

 剣の先の向きを変え、ティオの顔に狙いを定め振り下ろそうとしたソウゴだったが、腕が弾け、その反動で後ろに吹き飛ぶ転がってしまう。

「顔はやめろ、使えなくなる」
「うっ……いたい……あっ……あ……」
「ふっ……はは……ザマァないねソウゴ……」
「まだ死ぬなよ」
「わかってるいるよゼクス……」

 弾け飛んだのは右腕。幸い、セリハの手は残っていたが、剣を握る為の右手はもう無い。

「ミウ、動けんなら下がってろ」

 ソウゴが転がった先に、ミウがいた。ゼンが声をかけたせいで、ソウゴに気付かれ、しがみつかれてしまったミウ。

「ね……君は祝福してくれるよね……?」
「ミウ、は……」

 ゼンとソウゴの両方の顔を、交互に見るミウ。

「ミウに触るな」
「ゼン、うん……ごめん、ゆうしゃ……いっ!!」
「あ〜……そ〜……」

 ぎゅうっと強く……ビチビチと、ミウの皮膚に爪痕を残し、その手を素早く首に……。

「かっ……ぁっ」
「あいつのなにがいいんだ?!あいつは僕達のなにもかもを奪っていった悪魔だろ?!あんなやつを愛するなよ!僕ならもっと上手くやって……やれて……いたはずだ……間違えない……救える……救えた……――」

 グイグイと力を入れ、半笑いで苦しむミウを見ながらブツブツ言っているソウゴ。

「触るなっつったろーが」
「うぐっ?!」

 簡単な『破壊』はしなかった。直接ソウゴの心臓を掴み、直接苦しみを与えているゼン。

「はっ!はぁ……はぁ……」

 首からソウゴの手が外れ、息を吸えるようになったミウはへたり込み、首を押さえながら咳込んでいる。

「苦しそうだなあ、ソウゴ」

 仰け反りながら、ガクガクと震えるソウゴ。それでも、地面にあるセリハに手を伸ばそうとしている。

「お前がどんなにこの世界を救うために動いても無駄だったんだ、悪いな?」
「わかっていて……わかっていて近づいて……英雄らしく、僕に助言を、したの?」
「なんだ?死にそうになってしおらしくなったな?」
「どうなんだよ、ゼン……ふっう!」

 不規則に揉まれ、脈を乱され苦しむソウゴ……その問いに、ゼンは――。


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 一歩ずつ、ゆっくりと……真っすぐに。
「……」
 ザッ!ドシャ!
「…………っ!」
 ベチャ!グシャッ……
「……だから、邪魔だって言ってるだろ!!!」
 蒼き閃光を走らせ、剣を振りながら進んでいるのは勇者ソウゴ……と、
「ごめんねセリハ、怖かったよね?大丈夫、僕の手を離しちゃだめだよ?」
 肩から千切れたセリハの腕。
 長い距離を引きずられ、すりおろされ……ベロベロになった皮膚が、まるでウェディングドレスのフリルのように揺れていた。
 握り返されることはない……その腕を頬に寄せ、手の甲にキスをし、また前に進む。
 目指すは神官の御前……誓いを立てるために。
「ま、待ってください!この町の中は危険です!いくら勇者であろうとも、進むべきではありません!」
 イーリカはソウゴの前に立ち塞がり、歩みを止めさせた。
「ねぇ」
「……っえ」
「邪魔だって、言ったよ、ね」
 容赦なく。
「あ……」
 力なく倒れるイーリカ。
「あのさぁ……バージンロードに入っちゃだめだよねえ?!セリハが通れないだろう!!」
 そう……今、ソウゴが歩いている道は、セリハの為のバージンロード。
「イーリカ……?イーリカっ!!」
「待てミウ!!」
「あにぃ?!」
「見ていたろう?!お前まで斬られる……あいつは……何者なのだ」
「え、な、あ、あにぃ……なに言って……覚えて、ないの?」
 ソウゴ・シヅキがこの世界に来て、勇者になったことも、旅路の途中で顔を合わせ、話もしたはずだ。
 なのに、目の前いるソウゴが誰なのか理解出来ていない……覚えが無い様子で、アダルヘルムはソウゴを見つめ、警戒している。
 ミウは困惑しながらも、少しずつ理解し始めた。アダルヘルムに、なにが起きているのかを。
「だから、イーリカも……わからないんだ、ね」
「ミウ……?ミウっ!!」
 アダルヘルムから無理やり離れ、倒れたイーリカに駆け寄るミウ。
「また……あれ、君は……あぁ!僕たちを祝福しに来てくれたんだね?エルフの祝福……なんて幸せなんだろう、ねえ?セリハ」
「……っ!」
 イーリカを抱き起こした……だが、すでに事切れていた。首に綺麗な斬り口……流れる血は、バージンロードに新たな色を加えていた。
「ねえ」
「あ……ゆうしゃ……」
 首筋に冷たい感触。振り返らずとも、その声の主が誰なのかわかる。
「祝福……してくれるんだよね?」
「はっ……はっ……」
 ゼンにも負けないほどの重圧で、動くことも、声を出すこともできず、ただ黒く濁り、沈んだソウゴの目をみているしかできないミウ。
「貴様!!ミウを離せ!!」
 仲間を守るため……アダルヘルムは大斧を構えソウゴに向かって走る。
「なんだ、頭よさそうな言いぶりで偉そうに話ししてたくせに、脳筋なんだ」
「意味のわからないことを……!!」
「不思議なんだよな……」
「ぐうっ……あ……」
「動きが見えるんだ」
 大きく、分かりやすい動作を笑い、異様な低さを保ちながら高速で移動したソウゴ。アダルヘルムの下腹部から斜め上に向かって剣を突き刺した。
「どいててよ」
「ぐふっ!」
 ズッと素早く引き抜き、切り口を足で突き、力強く蹴り飛ばし、建物の外壁にアダルヘルムの体をめり込ませていた。
「もう……やだ……やだよぅ……」
 地面に顔をうずめ、泣き出してしまうミウ。
 やっと剣を収めたソウゴはミウの頭に手をかけた。
「行くよ?なにしてんの?」
「あ……イタッ……ゆうしゃ……っ!やだ……やだぁ!」
「うるさい」
「ひぅっ……」
 髪を掴み、無理やり顔や上げさせ……立ち上がろうとしないことに腹を立て、そのまま髪を引っ張り、引きずり町の中へ入っていく。
「あにぃ……」
 引きずられながら、ミウは気絶しているアダルヘルムを見た。閉じられた目から……涙が流れているのを……その涙に釣られるように、ミウもまた、大粒の涙を流し続けていた。
「……少し熱いね……でも、見てよ、赤い花みたいだ」
 まだ町にくすぶる火……そこで舞う火の粉は、まるで花びらのシャワー。
「っ……くっ、フフフ……もうすぐだよ」
「んっ!……つめたっ……」
 水飛沫が飛んできたことに驚くミウと、その出どころを見て、大きく口角を上げ、口を開けて笑顔を作りながら歩みを速めるソウゴ。
「この辺りはだいぶ良さそうだね!次は向こう側をしょっ――」
「み、つけ……た」
「きゃっ!!」
 髪をむしられながら、放り投げられたミウ。
 くるくると回りながら、楽しげに水を撒いている視界の端に、ソウゴを見てしまったティオ。
 ティオと目が合ったことをしっかりと確認し、剣を抜き、姿勢を低くして瞬歩するソウゴ。
「っ……ソ……ウゴ」
「さぁ、誓いを立てよう……セリハ」
「……僕が……そんなこと、するわけが、無い……うがっあっ!?」
「余計なことしゃべらず、神官は口上したらいいんだよっ!!」
 腹を横にかっ裂かれ……足に力を入れられなくなったティオは倒れ、横たわり荒く息を上げている。
「なに寝てんだよ、立てよ……立てよティオ!!」
「はは……寝かせたのは君のくせに……やかましいな?」
「このっ!!」
「グッ……うっ!あがっ!!」
 両手で……セリハの手も重ね剣を握り、ティオの手足に何度も剣を突きすソウゴ。怒りに満ちた表情が、徐々に喜びに満ちた笑顔に変わっていく。
「あは……は……アハハハハハ!!」
 ソウゴの笑い声を真上から浴びながら、抵抗せず、その痛みを受け入れるティオ。
「その誓いは、神に誓うんだよなあ?」
 その声に、剣を刺す手が止まる。
「止めるのが遅いんじゃないか、英雄」
「遅いくらいがちょうどいいんだよ、勇者」
 ゼンとソウゴが、お互いをしっかりと見つめ合う。
「ゼ――……は……僕のことを……わかってくれて……いるからね……遅いなんて、ことは、ないのだよ」
「……なんで、そんなやつかばうんだ」
「おや……まだ希望、を……もっているの、かい?はは!……残念、だけど、僕は、君たちのこと……大嫌いだからね」
「この……っ!!」
 剣の先の向きを変え、ティオの顔に狙いを定め振り下ろそうとしたソウゴだったが、腕が弾け、その反動で後ろに吹き飛ぶ転がってしまう。
「顔はやめろ、使えなくなる」
「うっ……いたい……あっ……あ……」
「ふっ……はは……ザマァないねソウゴ……」
「まだ死ぬなよ」
「わかってるいるよゼクス……」
 弾け飛んだのは右腕。幸い、セリハの手は残っていたが、剣を握る為の右手はもう無い。
「ミウ、動けんなら下がってろ」
 ソウゴが転がった先に、ミウがいた。ゼンが声をかけたせいで、ソウゴに気付かれ、しがみつかれてしまったミウ。
「ね……君は祝福してくれるよね……?」
「ミウ、は……」
 ゼンとソウゴの両方の顔を、交互に見るミウ。
「ミウに触るな」
「ゼン、うん……ごめん、ゆうしゃ……いっ!!」
「あ〜……そ〜……」
 ぎゅうっと強く……ビチビチと、ミウの皮膚に爪痕を残し、その手を素早く首に……。
「かっ……ぁっ」
「あいつのなにがいいんだ?!あいつは僕達のなにもかもを奪っていった悪魔だろ?!あんなやつを愛するなよ!僕ならもっと上手くやって……やれて……いたはずだ……間違えない……救える……救えた……――」
 グイグイと力を入れ、半笑いで苦しむミウを見ながらブツブツ言っているソウゴ。
「触るなっつったろーが」
「うぐっ?!」
 簡単な『破壊』はしなかった。直接ソウゴの心臓を掴み、直接苦しみを与えているゼン。
「はっ!はぁ……はぁ……」
 首からソウゴの手が外れ、息を吸えるようになったミウはへたり込み、首を押さえながら咳込んでいる。
「苦しそうだなあ、ソウゴ」
 仰け反りながら、ガクガクと震えるソウゴ。それでも、地面にあるセリハに手を伸ばそうとしている。
「お前がどんなにこの世界を救うために動いても無駄だったんだ、悪いな?」
「わかっていて……わかっていて近づいて……英雄らしく、僕に助言を、したの?」
「なんだ?死にそうになってしおらしくなったな?」
「どうなんだよ、ゼン……ふっう!」
 不規則に揉まれ、脈を乱され苦しむソウゴ……その問いに、ゼンは――。