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第八話 個性持ち同士の戦い

ー/ー



 ルークは疲れ果てていた。
 アリアの無尽蔵とも思える体力と好奇心に振り回され市場のあちこちを回っていたからである。

「アリアさん......ごめん、ちょっと休もう...流石に限界だ......」

 鍛えてきた自負が打ち砕かれ、ルークは休憩を懇願する。
 流石にアリアもずっと連れ回したのを申し訳なく感じ、二人は近くのベンチで休む事にした。

 市場で買った珍品をそれぞれ見せ合う二人、そこには春の陽気を思わせる暖かく穏やかな時間が流れていた。

 そんな時間も束の間、二人のもとにレオが息を切らしながら現れ、これまでの経緯を話した。

「という訳だ。何としてもあの盗人を捕まえて剣を取り返したい! 二人とも、力を貸してくれ!」

 二人は頷き了承する。
 だが、問題はどうやって探し出すかだ。大勢が行きかうこの市場でたった一人を見つけ出すのは困難を極める。

 何か策はあるのか聞くルークに、レオは自身の作戦を話す。

「ここにあの盗人のフードがある。
 先程の戦闘で、このフードにも奴の魔力が付着しているから探知魔法で奴の魔力と同調し居場所を突き止める。

 三方からゆっくりと追い詰めて奴の逃げ場を無くし剣を取り返す。
 抵抗するならその時はやむなしだ」

 レオは盗賊の魔力と同調を開始する。
 市場の外れにある小路にいる事を突き止め行動を開始した。

「う~ん? 変な武器なのは分かるけど値打ちのある物とは思えないなぁ?
 盗った坊ちゃんはトンデモな個性持ちだったし、今回は失敗したかも?」

 盗賊は一人で悶々とする。
 金ならいくらでも出すと交渉をしていたレオの様子から、余程価値の高い代物と踏んだのだが、
 目立った装飾も無ければ、見るからに怪しそうな物でもない。

 フラーに謎の文字が刻まれている事を除けばただの直剣にしか見えなかった。
 実際の所、盗賊には教養が無い。だからルーン武器とは何なのかを理解していなかった。

「ま、いつも通り闇商人が買い取ってくれるでしょ~。
 どれだけの値段か分からないとぼられそうで怖いけど、10万Gとか言っとけば多少低く見積もられてお釣りは来るかな」

「見識が浅いな盗人。その剣は1000万Gでも到底届かん名品だ」

 突然の声に盗賊は振り返ると、そこにはレオ達の姿があった。

(しまった~! 変な武器に夢中で気づかなかった......! こんなんじゃプロ失格だよ~!)

 盗賊は内心の焦りをなるべく表に出すまいと平静を装う。

「よくアタイの場所が分かったね? なるべく痕跡は残さないようにしてたつもりなんだけど?」

「力を使いすぎたな。貴様から奪ったフードに魔力が付着していたのだ。
 おかげで簡単に居場所を突き止められたぞ」

 盗賊は驚き自分の衣服を見る。だが、魔力の放出を最小限にしていた為、付着しているのは微量だった。
 僅かな魔力の付着からここまで正確に居場所を割り出すレオは自分よりも格上だと悟る。

「はぁ~...分かった! アタイの負け! 降参!
 剣も返すから! こんなちんけな盗賊を相手にしたって王子様に箔なんてつかないよ! だから見逃して!」

 レオの手元にルーン武器が返された。
 これで万事解決かと思われたが、レオはこれで終わらせる気が無かった。

「お前を見逃すことは出来ないな。
 なぜ、俺を"王子様"と呼ぶ? 初対面の俺にそんな呼び方をする必要なんてないはずだ。

 ......言え、貴様は俺をどこまで知っている?」

 レオの殺気に盗賊はたじろぐ。
 隣で見ていたルークは、なぜレオの正体がバレているのか不思議に思い、アリアは何の話をしているのか分からないでいた。

「はぁ......やっぱり噂は本当か。オルディア王朝の王子様がここで身を潜めてるってのは。

 アタイらの業界じゃあんたは10年前からずっと有名人だよ。
 ガキ一人殺せば700億Gの報酬が手に入る、最近はオルドーレが金額を上乗せしてね。

 今のあんたは1000億Gの超高額賞金首だよ......レオ・オルディアさん」

 やはりバレていたか......。レオの疑念は確信に変わる。
 ここでこの女を逃がせばどうなるか分からない。

 手遅れになる前に殺すべきだと判断し、レオはルーン武器の切っ先を盗賊に向ける。

「貴様に二つ問う。

 貴様の名は何だ?

 そして選べ、俺に忠誠を誓い生きるか。俺に刃を向け死ぬか。

 貴様はどちらを選択する?」

「アタイの名はエストリヤ。そして答えは決まってるっしょ......刃を向けて生きるんだよ!」

 エストリヤは姿勢を低くし、そのまま直進してくる。
 猫のようにしなやかに間合いを詰めレオに攻撃するかと思われたが、
 エストリヤはレオを素通りし、アリアの目の前まで迫った。

「お嬢ちゃんが一番弱そうだね。少しだけ眠ってもらおうか?」

 アリアの急所を瞬時に突く。アリアは一瞬の出来事に理解が追いつかないまま体中が痙攣し倒れ込む。

「アリア!」

 ルークは叫びながら剣を抜きエストリヤに駆け寄って剣を振る。

「そう怒らないでよフィアンセ君。
 お嬢ちゃんはな~んも知らない可哀想な子だから眠ってもらってるだけだって」

 エストリヤの言葉に嘘はない。
 痙攣こそしているものの命に別状がある感じでは無さそうだ。

「う~ん......王子様はアタイよりも格上、フィアンセ君は癖が強いよね。
 ちょっと分が悪いんだよねぇ。ねぇ? 本当に見逃してくれないの?

 アタイはお金には興味あるけど、好き好んで人を殺したりしない主義なんだよね~。
 それに、王子様が気になるなら今日はお互い出会わなかったって事で、どう?」

 レオは表情を崩さない。
 エストリヤの言葉を信用する気がないようだ。

「盗人の言葉を信じるほど俺はお人好しじゃないのでな」

 エストリヤは、だよね~と呟き再び戦闘態勢に入る。

「個性発動、盗賊神(アウトリュコス)......潜伏形態(ステルスモード)

 エストリヤの姿が消え、二人は警戒を強める。
 盗賊神は俊足、潜伏、消音の能力を持つ個性だ。

 正面戦闘を想定した訓練をしてきた二人にとって、エストリヤの対処は難しく潜伏と強襲を繰り返すヒット&アウェイの戦闘に苦戦していた。

(動きが掴めない......!このままじゃ俺もレオもジリ貧だ......!

 何とかして打開策を見つけないと......!)

 焦るルークと対照的に相手の動きを見切ろうとするレオ、だが、動きを悟らせない事に関してエストリヤは二人を凌駕していた。

(そろそろ終わらせようかな......とすると、あのフィアンセ君が何かしら動いてくるよね)

 エストリヤは狙いをレオに定め、喉元めがけて飛び込む。

 《演算開始 作戦経路(シミュレーション)実行

 対象:エストリヤ

 目標:レオの防衛

 警告:目標の前方に対象の気配あり》

 ルークの脳に再び声が聞こえてくる。
 咄嗟に声に従いレオの前へ飛び出し剣を構えた直後、姿を現したダリアと鍔迫り合った。

「やっぱりフィアンセ君はクセが強いね......」

 レオは間髪入れずにエストリヤに切り込む。
 素早く避けるエストリヤに二人は息を合わせて戦う。

 搦手に対応出来ないなら正面戦闘に持ち込んで有利を作る。

 それが二人が咄嗟に下した選択だった。

 エストリヤも応戦を続けるが、状況の不利は明白だった。

(アタイ、こういうの得意じゃないんだけどなぁ......王子様は盗賊神(アウトリュコス)で逃げるとして、フィアンセ君は見逃さないよね......。

 先に潰すしかないか)

 戦闘の最中、エストリヤはポケットから袋を取り出し、中に入っていた粉を振りまいた。

 《警告:感覚麻痺の成分を確認

 推奨:息を止める事をお勧めします》

 ルークは咄嗟に息を止め口を手で覆ったが、レオは痺れ粉を少量吸い込んでしまい、その場で崩れ落ちてしまう。

(レオ......!)

 体が痺れて動けないレオにルークは気を取られ、目の前に迫るエストリヤに一瞬反応が遅れた。

 反応が遅れた自分ではダリアの攻撃を躱せない。
 ルークの脳に諦めの感情が浮かぶ。

 《警告:生命の危機を感知。至急対応してください。

 エラー:防御が間に合いません。

 危険:死亡率97%に到達。至急対応してください。

 エラー:防御が間に合いません。

 強制実行:自動迎撃モードに移行します。》

 瞬間、胸元まで届いた刃を素早く躱したルークは、エストリヤの腕を掴み背負い投げる。
 体勢が崩れたエストリヤに近づき、馬乗りになって服に剣を突き刺し体の自由を奪う。

 常人の動きを遥かに超えるスピードでルークはあっという間にエストリヤを無力化した。

「それが君の能力......フィアンセ君、恐ろしいね」

 軽口を叩きながらもエストリヤの顔に冷や汗が浮かぶ。

 近くでその様子を見ていたレオも、普段と違うルークの動きを驚きの目で見ていた。

 《報告:脅威無力化

 自動迎撃モードを終了します》

 ルークは糸が切れたようにその場で倒れ込む。

 やっと体の自由が利くようになったレオは立ち上がる。

「さて、これで貴様の負けとなった訳だが、何か言いたい事はあるか?」

「ん〜......とりあえず、この二人どこかに運ばない?
 ここの裏通りは危ないから動けない人間が2人もいると格好の餌食だと思うよ?

 逃げる気なんて無いから手を貸してよ?」

 レオは承諾し、エストリヤから剣を引き抜くと倒れている二人をエストリヤのアジトまで運んだ。

(あれ......? 私、確か盗賊を追って......それに......ここは?)

 先に意識が戻ったのはアリアだった。
 状況が飲み込めていないアリアは周囲を見渡す。

「フィアンセ君の髪はサラサラだねぇ。
 お姉さん羨ましいよ〜」

 背後から聞こえる声に振り向くと、そこには仰向けで寝ているルークを膝枕しながら頭を撫でるエストリヤがいた。

「っ!? 今すぐルーク様から離れなさい! このケダモノ!!」

 アリアは剣を抜き、エストリヤに突きを入れる。
 咄嗟に躱したエストリヤはケラケラ笑う。

 その騒ぎでルークは目が覚める。
 アリアを見ると先ほどの戦闘の記憶が甦り、急いで駆け寄る。

「アリアさん無事!? 怪我は!? 体調は!? 
 ごめん......! 君の事を守れなかった......!」

「浮気者......」

「なんで!?」

 二人のやりとりにエストリヤはさらに大笑いする。

 そこにレオがバケツいっぱいの水を抱えて帰ってきた。

「二人とも目覚めたか。
 では簡単に、ここに来るまでの経緯を話そう」

 レオはこのアジトに来た経緯を説明する。

 そして戦闘の中で自身の正体を暴露されたレオは、アリアに自分の正体を告げ、他言無用である事を念押しした。

 アリアは驚いた様子だったが納得し、誰にも話さない事を約束した。

「さて、これで俺の秘密を知る者が増えてしまったな。
 それも全て貴様のせいだが......」

「アタイ、エストリヤって名前があるんですけどー?」

 エストリヤの訴えは意に介さずレオは話を進めていく。

「結論から言うぞ。
 俺は貴様を臣下に加えるつもりだ。

 先ほどの戦闘で貴様は敵意を向けなかった。
 そして金のために俺を狙おうともしなかったな。

 貴様にどんな思惑があるか知らんが、俺を殺す気が無い以上、貴様の個性と身のこなしは今後役に立つ。
 どうだ?俺の家臣にならないか?」

「え? マジ無理しんどい」

 エストリヤは一蹴する。
 だが、この三人といると退屈しなさそうと感じたエストリヤは代替案を提案する。

「家来はガラじゃないんだよねぇ。
 でも、雇い主様って事なら受け入れるよ?

 アタイとあんたはあくまでビジネス上の関係。
 危なくなったらいつでも逃げるし、あんたの為に命は張らない。

 でも、貰った金の分は仕事する。これでどうかな?」

 レオはその条件を了承する。
 ルークとしても密偵として役立つ個性を持つエストリヤが仲間になってくれるのは心強かった。

「よし、じゃあ契約成立ね!
 アタイを雇うなら月500万G! びた一文まけないからね」

 エストリヤの提示した条件にルークとレオは硬直する。
 そんな大金を用意出来るだけの蓄えは無かったのだ。

 そこにアリアが助け舟を出す。

「では、私が雇うというのはどうでしょう?
 我が家なら月500万程度支払うのは容易です」

 今度はエストリヤまでもが硬直する。
 大金持ちとは聞いていたが、そこまでの財力とは思っていなかったのだ。

 こうして、新たな仲間としてエストリヤが加わりルークとレオはまた一歩、王国再建への道を固める。


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 ルークは疲れ果てていた。
 アリアの無尽蔵とも思える体力と好奇心に振り回され市場のあちこちを回っていたからである。
「アリアさん......ごめん、ちょっと休もう...流石に限界だ......」
 鍛えてきた自負が打ち砕かれ、ルークは休憩を懇願する。
 流石にアリアもずっと連れ回したのを申し訳なく感じ、二人は近くのベンチで休む事にした。
 市場で買った珍品をそれぞれ見せ合う二人、そこには春の陽気を思わせる暖かく穏やかな時間が流れていた。
 そんな時間も束の間、二人のもとにレオが息を切らしながら現れ、これまでの経緯を話した。
「という訳だ。何としてもあの盗人を捕まえて剣を取り返したい! 二人とも、力を貸してくれ!」
 二人は頷き了承する。
 だが、問題はどうやって探し出すかだ。大勢が行きかうこの市場でたった一人を見つけ出すのは困難を極める。
 何か策はあるのか聞くルークに、レオは自身の作戦を話す。
「ここにあの盗人のフードがある。
 先程の戦闘で、このフードにも奴の魔力が付着しているから探知魔法で奴の魔力と同調し居場所を突き止める。
 三方からゆっくりと追い詰めて奴の逃げ場を無くし剣を取り返す。
 抵抗するならその時はやむなしだ」
 レオは盗賊の魔力と同調を開始する。
 市場の外れにある小路にいる事を突き止め行動を開始した。
「う~ん? 変な武器なのは分かるけど値打ちのある物とは思えないなぁ?
 盗った坊ちゃんはトンデモな個性持ちだったし、今回は失敗したかも?」
 盗賊は一人で悶々とする。
 金ならいくらでも出すと交渉をしていたレオの様子から、余程価値の高い代物と踏んだのだが、
 目立った装飾も無ければ、見るからに怪しそうな物でもない。
 フラーに謎の文字が刻まれている事を除けばただの直剣にしか見えなかった。
 実際の所、盗賊には教養が無い。だからルーン武器とは何なのかを理解していなかった。
「ま、いつも通り闇商人が買い取ってくれるでしょ~。
 どれだけの値段か分からないとぼられそうで怖いけど、10万Gとか言っとけば多少低く見積もられてお釣りは来るかな」
「見識が浅いな盗人。その剣は1000万Gでも到底届かん名品だ」
 突然の声に盗賊は振り返ると、そこにはレオ達の姿があった。
(しまった~! 変な武器に夢中で気づかなかった......! こんなんじゃプロ失格だよ~!)
 盗賊は内心の焦りをなるべく表に出すまいと平静を装う。
「よくアタイの場所が分かったね? なるべく痕跡は残さないようにしてたつもりなんだけど?」
「力を使いすぎたな。貴様から奪ったフードに魔力が付着していたのだ。
 おかげで簡単に居場所を突き止められたぞ」
 盗賊は驚き自分の衣服を見る。だが、魔力の放出を最小限にしていた為、付着しているのは微量だった。
 僅かな魔力の付着からここまで正確に居場所を割り出すレオは自分よりも格上だと悟る。
「はぁ~...分かった! アタイの負け! 降参!
 剣も返すから! こんなちんけな盗賊を相手にしたって王子様に箔なんてつかないよ! だから見逃して!」
 レオの手元にルーン武器が返された。
 これで万事解決かと思われたが、レオはこれで終わらせる気が無かった。
「お前を見逃すことは出来ないな。
 なぜ、俺を"王子様"と呼ぶ? 初対面の俺にそんな呼び方をする必要なんてないはずだ。
 ......言え、貴様は俺をどこまで知っている?」
 レオの殺気に盗賊はたじろぐ。
 隣で見ていたルークは、なぜレオの正体がバレているのか不思議に思い、アリアは何の話をしているのか分からないでいた。
「はぁ......やっぱり噂は本当か。オルディア王朝の王子様がここで身を潜めてるってのは。
 アタイらの業界じゃあんたは10年前からずっと有名人だよ。
 ガキ一人殺せば700億Gの報酬が手に入る、最近はオルドーレが金額を上乗せしてね。
 今のあんたは1000億Gの超高額賞金首だよ......レオ・オルディアさん」
 やはりバレていたか......。レオの疑念は確信に変わる。
 ここでこの女を逃がせばどうなるか分からない。
 手遅れになる前に殺すべきだと判断し、レオはルーン武器の切っ先を盗賊に向ける。
「貴様に二つ問う。
 貴様の名は何だ?
 そして選べ、俺に忠誠を誓い生きるか。俺に刃を向け死ぬか。
 貴様はどちらを選択する?」
「アタイの名はエストリヤ。そして答えは決まってるっしょ......刃を向けて生きるんだよ!」
 エストリヤは姿勢を低くし、そのまま直進してくる。
 猫のようにしなやかに間合いを詰めレオに攻撃するかと思われたが、
 エストリヤはレオを素通りし、アリアの目の前まで迫った。
「お嬢ちゃんが一番弱そうだね。少しだけ眠ってもらおうか?」
 アリアの急所を瞬時に突く。アリアは一瞬の出来事に理解が追いつかないまま体中が痙攣し倒れ込む。
「アリア!」
 ルークは叫びながら剣を抜きエストリヤに駆け寄って剣を振る。
「そう怒らないでよフィアンセ君。
 お嬢ちゃんはな~んも知らない可哀想な子だから眠ってもらってるだけだって」
 エストリヤの言葉に嘘はない。
 痙攣こそしているものの命に別状がある感じでは無さそうだ。
「う~ん......王子様はアタイよりも格上、フィアンセ君は癖が強いよね。
 ちょっと分が悪いんだよねぇ。ねぇ? 本当に見逃してくれないの?
 アタイはお金には興味あるけど、好き好んで人を殺したりしない主義なんだよね~。
 それに、王子様が気になるなら今日はお互い出会わなかったって事で、どう?」
 レオは表情を崩さない。
 エストリヤの言葉を信用する気がないようだ。
「盗人の言葉を信じるほど俺はお人好しじゃないのでな」
 エストリヤは、だよね~と呟き再び戦闘態勢に入る。
「個性発動、|盗賊神《アウトリュコス》......|潜伏形態《ステルスモード》」
 エストリヤの姿が消え、二人は警戒を強める。
 盗賊神は俊足、潜伏、消音の能力を持つ個性だ。
 正面戦闘を想定した訓練をしてきた二人にとって、エストリヤの対処は難しく潜伏と強襲を繰り返すヒット&アウェイの戦闘に苦戦していた。
(動きが掴めない......!このままじゃ俺もレオもジリ貧だ......!
 何とかして打開策を見つけないと......!)
 焦るルークと対照的に相手の動きを見切ろうとするレオ、だが、動きを悟らせない事に関してエストリヤは二人を凌駕していた。
(そろそろ終わらせようかな......とすると、あのフィアンセ君が何かしら動いてくるよね)
 エストリヤは狙いをレオに定め、喉元めがけて飛び込む。
 《演算開始 |作戦経路《シミュレーション》実行
 対象:エストリヤ
 目標:レオの防衛
 警告:目標の前方に対象の気配あり》
 ルークの脳に再び声が聞こえてくる。
 咄嗟に声に従いレオの前へ飛び出し剣を構えた直後、姿を現したダリアと鍔迫り合った。
「やっぱりフィアンセ君はクセが強いね......」
 レオは間髪入れずにエストリヤに切り込む。
 素早く避けるエストリヤに二人は息を合わせて戦う。
 搦手に対応出来ないなら正面戦闘に持ち込んで有利を作る。
 それが二人が咄嗟に下した選択だった。
 エストリヤも応戦を続けるが、状況の不利は明白だった。
(アタイ、こういうの得意じゃないんだけどなぁ......王子様は|盗賊神《アウトリュコス》で逃げるとして、フィアンセ君は見逃さないよね......。
 先に潰すしかないか)
 戦闘の最中、エストリヤはポケットから袋を取り出し、中に入っていた粉を振りまいた。
 《警告:感覚麻痺の成分を確認
 推奨:息を止める事をお勧めします》
 ルークは咄嗟に息を止め口を手で覆ったが、レオは痺れ粉を少量吸い込んでしまい、その場で崩れ落ちてしまう。
(レオ......!)
 体が痺れて動けないレオにルークは気を取られ、目の前に迫るエストリヤに一瞬反応が遅れた。
 反応が遅れた自分ではダリアの攻撃を躱せない。
 ルークの脳に諦めの感情が浮かぶ。
 《警告:生命の危機を感知。至急対応してください。
 エラー:防御が間に合いません。
 危険:死亡率97%に到達。至急対応してください。
 エラー:防御が間に合いません。
 強制実行:自動迎撃モードに移行します。》
 瞬間、胸元まで届いた刃を素早く躱したルークは、エストリヤの腕を掴み背負い投げる。
 体勢が崩れたエストリヤに近づき、馬乗りになって服に剣を突き刺し体の自由を奪う。
 常人の動きを遥かに超えるスピードでルークはあっという間にエストリヤを無力化した。
「それが君の能力......フィアンセ君、恐ろしいね」
 軽口を叩きながらもエストリヤの顔に冷や汗が浮かぶ。
 近くでその様子を見ていたレオも、普段と違うルークの動きを驚きの目で見ていた。
 《報告:脅威無力化
 自動迎撃モードを終了します》
 ルークは糸が切れたようにその場で倒れ込む。
 やっと体の自由が利くようになったレオは立ち上がる。
「さて、これで貴様の負けとなった訳だが、何か言いたい事はあるか?」
「ん〜......とりあえず、この二人どこかに運ばない?
 ここの裏通りは危ないから動けない人間が2人もいると格好の餌食だと思うよ?
 逃げる気なんて無いから手を貸してよ?」
 レオは承諾し、エストリヤから剣を引き抜くと倒れている二人をエストリヤのアジトまで運んだ。
(あれ......? 私、確か盗賊を追って......それに......ここは?)
 先に意識が戻ったのはアリアだった。
 状況が飲み込めていないアリアは周囲を見渡す。
「フィアンセ君の髪はサラサラだねぇ。
 お姉さん羨ましいよ〜」
 背後から聞こえる声に振り向くと、そこには仰向けで寝ているルークを膝枕しながら頭を撫でるエストリヤがいた。
「っ!? 今すぐルーク様から離れなさい! このケダモノ!!」
 アリアは剣を抜き、エストリヤに突きを入れる。
 咄嗟に躱したエストリヤはケラケラ笑う。
 その騒ぎでルークは目が覚める。
 アリアを見ると先ほどの戦闘の記憶が甦り、急いで駆け寄る。
「アリアさん無事!? 怪我は!? 体調は!? 
 ごめん......! 君の事を守れなかった......!」
「浮気者......」
「なんで!?」
 二人のやりとりにエストリヤはさらに大笑いする。
 そこにレオがバケツいっぱいの水を抱えて帰ってきた。
「二人とも目覚めたか。
 では簡単に、ここに来るまでの経緯を話そう」
 レオはこのアジトに来た経緯を説明する。
 そして戦闘の中で自身の正体を暴露されたレオは、アリアに自分の正体を告げ、他言無用である事を念押しした。
 アリアは驚いた様子だったが納得し、誰にも話さない事を約束した。
「さて、これで俺の秘密を知る者が増えてしまったな。
 それも全て貴様のせいだが......」
「アタイ、エストリヤって名前があるんですけどー?」
 エストリヤの訴えは意に介さずレオは話を進めていく。
「結論から言うぞ。
 俺は貴様を臣下に加えるつもりだ。
 先ほどの戦闘で貴様は敵意を向けなかった。
 そして金のために俺を狙おうともしなかったな。
 貴様にどんな思惑があるか知らんが、俺を殺す気が無い以上、貴様の個性と身のこなしは今後役に立つ。
 どうだ?俺の家臣にならないか?」
「え? マジ無理しんどい」
 エストリヤは一蹴する。
 だが、この三人といると退屈しなさそうと感じたエストリヤは代替案を提案する。
「家来はガラじゃないんだよねぇ。
 でも、雇い主様って事なら受け入れるよ?
 アタイとあんたはあくまでビジネス上の関係。
 危なくなったらいつでも逃げるし、あんたの為に命は張らない。
 でも、貰った金の分は仕事する。これでどうかな?」
 レオはその条件を了承する。
 ルークとしても密偵として役立つ個性を持つエストリヤが仲間になってくれるのは心強かった。
「よし、じゃあ契約成立ね!
 アタイを雇うなら月500万G! びた一文まけないからね」
 エストリヤの提示した条件にルークとレオは硬直する。
 そんな大金を用意出来るだけの蓄えは無かったのだ。
 そこにアリアが助け舟を出す。
「では、私が雇うというのはどうでしょう?
 我が家なら月500万程度支払うのは容易です」
 今度はエストリヤまでもが硬直する。
 大金持ちとは聞いていたが、そこまでの財力とは思っていなかったのだ。
 こうして、新たな仲間としてエストリヤが加わりルークとレオはまた一歩、王国再建への道を固める。