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第三話 正体

ー/ー



 あれか。森の中に潜みゴブリンの姿を見たジョンはそう呟いた。
 挟撃隊は囮より先に敵に見つかってはいけない。味方と離れている為、見つかっても単独で危険に対処しなくてはいけない危険な役目だ。

 ジョンは自らその役に志願した。心配するルークを笑い飛ばし自信に満ちた笑顔で任せろと言った。
 自分がこの程度で怯む男ではないとジョンは知っている……自分の境遇に比べれば大した事はない。
 この程度の危険を乗り越えられなくては悲願を果たせないということをジョンは知っている。
 思考を巡らせている内にジョンの率いる先行部隊は所定の位置、ゴブリン達の背後に到着した。

 潜伏隊を森の入り口に隠したルークは囮として森に足を踏み入れる。
 囮は相手に警戒心を抱かせてはならない。獲物にしか見えないように振る舞う必要があるので、非力で弱そうという不名誉な理由でルークは囮に選ばれたのだった。

 しばらく森の中を進むと、そこにはゴブリンがいた。
 奥にまだいるのだろう、ざっと見た感じでは5体程しかいない。
 まだゴブリンはこちらに気付いていないので、一歩一歩確実にゴブリンに近付いていく。
 囮は気付かれなければ意味がない。ゴブリンがこちらに気付き様子を窺うがまだ近づいていく。

 そしてあと一歩でゴブリンの間合いという所まで近づき足を止めた。
 ゴブリン達はルークを凝視しながらゆっくりと取り囲みはじめた。
 危険な状態なのは分かっている。だが、引きつけなくてはならない。
 ゴブリン達が完全に俺達を囲み終わる直前、ルークは一気に振り向いて入り口の方まで駆け出した。

 生前ならこんな危険に飛び込まなかっただろう。
 岡崎透として生きていた頃は保身に逃げ危険から遠ざかっていた。
 確実に成果を挙げられる事しかやらない。そうしなければ評価されないから危険から逃げていた。

 だがルークフェルトとして人生を歩むようになり、若い肉体と新しい境遇を得た岡崎にとって、
 この世界は生前とは真逆の人生を歩むのに絶好の機会だった。
 必死に走るその顔には密やかな笑みが浮かんでいた。

 (体が軽い! 作戦も順調に進んでる! 最高の気分だ!
 怖くないと言ったら嘘になる......だけどそれ以上に、失敗を恐れる必要がない今が幸せだ!

 何があっても領主という地位が確定しているこの人生! 死なない程度に好きなだけ挑戦してやる!)

 高揚したルークとは裏腹に、ゴブリンは取り逃した獲物に激昂(げきこう)した。
 ルークがギリギリまで引きつける胆力を見せた事で、釣り出せたゴブリンは10体全てだ。
 その様子を背後から確認していたジョンはすかさず部隊に指示を出しゴブリンの後を追った。

 「はぁ……はぁ……よし! 全員釣り出せたな!」

 俺は内心ガッツポーズしていた。
 体が軽いおかげで思うように動ける、それに作戦が上手く決まった事で挟撃隊は無傷で合流できる
 あとは入り口の伏兵と合流し、ジョンの挟撃隊を待つだけだ。

 「伏兵! 今だ!」

 草むらに隠れていた伏兵が姿を現す。突然の登場にゴブリン達は驚きを隠せない。が、人数差を理解してからは不敵な笑みを浮かべてにじり寄ってくる。
 ルークも息を整え戦闘に参加する。もう少しでジョンも戻るはずだと自分を鼓舞する。

 挟撃部隊が到着する前に交戦が開始される。
 本来この作戦は、ゴブリン全員を相手にする想定ではない。
 作戦が上手くいき過ぎた結果、挟撃隊が到着するまで想定以上の戦力差に苦戦する事となった。

 一振りを確実にゴブリンに当てていく。ルークは3体のゴブリンを相手にしている。
 目の前から突撃するゴブリンをいなし、背後に回って斬る。その隙に振り下ろされた棍棒を籠手で受け止め、脇腹に突き刺していく。

 2体のゴブリンとの交戦に一瞬気を取られ、背後に回ったゴブリンに背中を殴打される。
 あまりの激痛にルークは息が出来ず剣を支えに膝をつく。
 周りの兵士もまだゴブリンを相手に交戦しており救援の見込みは薄い。
 挟撃隊が戻るまで耐えなくては……気力で立ち上がるもさっきの一撃が思ったよりも効いていたらしく立ち上がるので精一杯だ。
 途中まで上手くいったんだけどな…諦めかけていたその時、遠くから号令が聞こえる。

 「進め兵よ! これより眼前のゴブリンを打ち破る!」

 ジョンの掛け声に部隊が呼応し、ゴブリンを背後から攻め立てた。
 突然の伏兵に混乱したゴブリン達は脆かった。
 ジョンが真っ先に切り込み一太刀でゴブリンを斬り伏せていく。稽古でも見せた事が無い優美で、洗練された美しい太刀筋だった。
 形勢逆転により統率を失ったゴブリンを一体ずつ確実に仕留めて全滅させた。

 「よし……これで全部だ……俺達の勝利だ!」

 ルーク達は勝利に沸き立ち、勝利の歓声を上げる。
 だがその直後、おぞましい絶叫が森の奥から聞こえてくる。

 森の方に目をやると、そこには10体のゴブリンがこちらに向かって突撃してきていた。

 (しまった! 物見が見たのは10体のゴブリンじゃない! "昼と夜"それぞれ10体だったのか!)

 本で得ただけの知識、物見の報告、実戦経験の無さが全て裏目に出る。
 勝利の余韻に包まれていた一同は、この突然の襲撃に狼狽していたが、ルークだけは違った。

 「怯むな! 態勢を整える! 
 潜伏隊前へ、槍先を揃えてその場で待機しろ!」

 消耗激しい潜伏隊にこれ以上の継戦能力は期待できない。
 突撃するゴブリンの勢いを殺す為、潜伏隊に槍先を揃えさせ即席の柵を作る。

 「挟撃隊出撃準備!
 潜伏隊の槍で怯んだ隙に突撃しろ!」

 同胞を殺された恨みで何体かは突き刺されながらも前進しようとしたが、潜伏隊が懸命に押し留める。
 その様子を見ていたゴブリン達は僅かに怯み勢いが止まり、
 ルークはジョンに目配せをして挟撃隊が潜伏隊と入れ替わるように突撃を開始する。
 挟撃隊は余力を残していた事もあって、多少の数の差も問題なく対処し、
 ようやく20体全てのゴブリンの討伐を完了した。

 戦果は上々、ルーク達の初陣は華々しい初勝利で終わった。
 屋敷に戻ると、ルークとジョンは父の書斎へ赴き戦勝報告をした。

 「二人とも初陣ご苦労だった! 配下の者より話は聞いている。ルークの作戦とジョンの奮戦が今回の勝利の決め手だとな! いやぁこれで儂も一安心よ! ハッハッハ!」

 よほど初陣で勝利した事が嬉しかったんだろう。
 俺の報告を聞いた父上が大声で笑っている。こんな事は滅多にない。
 それに俺も自分の才能が恐ろしい。まさか初戦でここまで上手くいくなんて、
 ひょっとすると軍略の才能でもあるんじゃないか?

 「ん? 浮かない顔だなジョンよ。お主もルークのように多少浮かれてはどうだ?初陣でこれほど見事に勝つなど滅多に無いぞ」

 顔に出ているとは思っていなかったルークが慌てて真顔に戻る。
 そして横目にジョンを見ると、ジョンは口を固く閉ざし眉一つ動かさないでいた。

 (父上の言う事は最もだ。勝利してからというものずっと何かを考えているように見えるけど、こいつの性格ならもっと勝ち誇ると思ってたから意外だ)

 ジョンは二人の不思議そうな視線に気づくと微笑を浮かべて心配する必要はないと手を振る。

 「勝利に浮かれていない訳ではありませんよ。
 きっと初陣で疲れたのでしょう。今日は想定外のトラブルもありましたしね。
 私は先に休ませていただきますのでこれで失礼します」

 そして立ち去る間際、ルークの耳元で部屋で待つと囁いた。
 ルークは疑問を浮かべながらも書斎を後にし、ジョンの部屋に向かった。

 「わざわざ部屋まで呼び出してどうしたんだよ」

 窓の外を見つめていたジョンはルークの方を振り返る。
 その眼光の鋭さに思わず息を止めた。

 「ルーク、お前も気付いていると思うが、俺はお前に隠し事をしている。
 本当ならこのまま告げずにいた方が良いのだが、お前の才をこのような田舎で眠らせるなど俺には耐えられん。
 ならばいっそ、お前を巻き込もうと思ってな」

 何を言っているのか要領を得ない。だが、何か大事な事を伝えたいのは確かなようだ。

 「俺はジョン•ブラウンなどではない。俺は10年前に滅んだオルディア王朝の正統な後継者……レオ•オルディアだ。
 ルーク、これより俺の軍師となりこの大陸の全てを共に制覇しよう。
 そして大陸を制覇した暁には、宰相として俺の理想国家を共に作ってくれ」

 この日の出来事を後のルークフェルトはこう語る。

 これは私の人生を変えただけではない。この世界の運命を大きく変えた告白だったと。


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 あれか。森の中に潜みゴブリンの姿を見たジョンはそう呟いた。
 挟撃隊は囮より先に敵に見つかってはいけない。味方と離れている為、見つかっても単独で危険に対処しなくてはいけない危険な役目だ。
 ジョンは自らその役に志願した。心配するルークを笑い飛ばし自信に満ちた笑顔で任せろと言った。
 自分がこの程度で怯む男ではないとジョンは知っている……自分の境遇に比べれば大した事はない。
 この程度の危険を乗り越えられなくては悲願を果たせないということをジョンは知っている。
 思考を巡らせている内にジョンの率いる先行部隊は所定の位置、ゴブリン達の背後に到着した。
 潜伏隊を森の入り口に隠したルークは囮として森に足を踏み入れる。
 囮は相手に警戒心を抱かせてはならない。獲物にしか見えないように振る舞う必要があるので、非力で弱そうという不名誉な理由でルークは囮に選ばれたのだった。
 しばらく森の中を進むと、そこにはゴブリンがいた。
 奥にまだいるのだろう、ざっと見た感じでは5体程しかいない。
 まだゴブリンはこちらに気付いていないので、一歩一歩確実にゴブリンに近付いていく。
 囮は気付かれなければ意味がない。ゴブリンがこちらに気付き様子を窺うがまだ近づいていく。
 そしてあと一歩でゴブリンの間合いという所まで近づき足を止めた。
 ゴブリン達はルークを凝視しながらゆっくりと取り囲みはじめた。
 危険な状態なのは分かっている。だが、引きつけなくてはならない。
 ゴブリン達が完全に俺達を囲み終わる直前、ルークは一気に振り向いて入り口の方まで駆け出した。
 生前ならこんな危険に飛び込まなかっただろう。
 岡崎透として生きていた頃は保身に逃げ危険から遠ざかっていた。
 確実に成果を挙げられる事しかやらない。そうしなければ評価されないから危険から逃げていた。
 だがルークフェルトとして人生を歩むようになり、若い肉体と新しい境遇を得た岡崎にとって、
 この世界は生前とは真逆の人生を歩むのに絶好の機会だった。
 必死に走るその顔には密やかな笑みが浮かんでいた。
 (体が軽い! 作戦も順調に進んでる! 最高の気分だ!
 怖くないと言ったら嘘になる......だけどそれ以上に、失敗を恐れる必要がない今が幸せだ!
 何があっても領主という地位が確定しているこの人生! 死なない程度に好きなだけ挑戦してやる!)
 高揚したルークとは裏腹に、ゴブリンは取り逃した獲物に激昂(げきこう)した。
 ルークがギリギリまで引きつける胆力を見せた事で、釣り出せたゴブリンは10体全てだ。
 その様子を背後から確認していたジョンはすかさず部隊に指示を出しゴブリンの後を追った。
 「はぁ……はぁ……よし! 全員釣り出せたな!」
 俺は内心ガッツポーズしていた。
 体が軽いおかげで思うように動ける、それに作戦が上手く決まった事で挟撃隊は無傷で合流できる
 あとは入り口の伏兵と合流し、ジョンの挟撃隊を待つだけだ。
 「伏兵! 今だ!」
 草むらに隠れていた伏兵が姿を現す。突然の登場にゴブリン達は驚きを隠せない。が、人数差を理解してからは不敵な笑みを浮かべてにじり寄ってくる。
 ルークも息を整え戦闘に参加する。もう少しでジョンも戻るはずだと自分を鼓舞する。
 挟撃部隊が到着する前に交戦が開始される。
 本来この作戦は、ゴブリン全員を相手にする想定ではない。
 作戦が上手くいき過ぎた結果、挟撃隊が到着するまで想定以上の戦力差に苦戦する事となった。
 一振りを確実にゴブリンに当てていく。ルークは3体のゴブリンを相手にしている。
 目の前から突撃するゴブリンをいなし、背後に回って斬る。その隙に振り下ろされた棍棒を籠手で受け止め、脇腹に突き刺していく。
 2体のゴブリンとの交戦に一瞬気を取られ、背後に回ったゴブリンに背中を殴打される。
 あまりの激痛にルークは息が出来ず剣を支えに膝をつく。
 周りの兵士もまだゴブリンを相手に交戦しており救援の見込みは薄い。
 挟撃隊が戻るまで耐えなくては……気力で立ち上がるもさっきの一撃が思ったよりも効いていたらしく立ち上がるので精一杯だ。
 途中まで上手くいったんだけどな…諦めかけていたその時、遠くから号令が聞こえる。
 「進め兵よ! これより眼前のゴブリンを打ち破る!」
 ジョンの掛け声に部隊が呼応し、ゴブリンを背後から攻め立てた。
 突然の伏兵に混乱したゴブリン達は脆かった。
 ジョンが真っ先に切り込み一太刀でゴブリンを斬り伏せていく。稽古でも見せた事が無い優美で、洗練された美しい太刀筋だった。
 形勢逆転により統率を失ったゴブリンを一体ずつ確実に仕留めて全滅させた。
 「よし……これで全部だ……俺達の勝利だ!」
 ルーク達は勝利に沸き立ち、勝利の歓声を上げる。
 だがその直後、おぞましい絶叫が森の奥から聞こえてくる。
 森の方に目をやると、そこには10体のゴブリンがこちらに向かって突撃してきていた。
 (しまった! 物見が見たのは10体のゴブリンじゃない! "昼と夜"それぞれ10体だったのか!)
 本で得ただけの知識、物見の報告、実戦経験の無さが全て裏目に出る。
 勝利の余韻に包まれていた一同は、この突然の襲撃に狼狽していたが、ルークだけは違った。
 「怯むな! 態勢を整える! 
 潜伏隊前へ、槍先を揃えてその場で待機しろ!」
 消耗激しい潜伏隊にこれ以上の継戦能力は期待できない。
 突撃するゴブリンの勢いを殺す為、潜伏隊に槍先を揃えさせ即席の柵を作る。
 「挟撃隊出撃準備!
 潜伏隊の槍で怯んだ隙に突撃しろ!」
 同胞を殺された恨みで何体かは突き刺されながらも前進しようとしたが、潜伏隊が懸命に押し留める。
 その様子を見ていたゴブリン達は僅かに怯み勢いが止まり、
 ルークはジョンに目配せをして挟撃隊が潜伏隊と入れ替わるように突撃を開始する。
 挟撃隊は余力を残していた事もあって、多少の数の差も問題なく対処し、
 ようやく20体全てのゴブリンの討伐を完了した。
 戦果は上々、ルーク達の初陣は華々しい初勝利で終わった。
 屋敷に戻ると、ルークとジョンは父の書斎へ赴き戦勝報告をした。
 「二人とも初陣ご苦労だった! 配下の者より話は聞いている。ルークの作戦とジョンの奮戦が今回の勝利の決め手だとな! いやぁこれで儂も一安心よ! ハッハッハ!」
 よほど初陣で勝利した事が嬉しかったんだろう。
 俺の報告を聞いた父上が大声で笑っている。こんな事は滅多にない。
 それに俺も自分の才能が恐ろしい。まさか初戦でここまで上手くいくなんて、
 ひょっとすると軍略の才能でもあるんじゃないか?
 「ん? 浮かない顔だなジョンよ。お主もルークのように多少浮かれてはどうだ?初陣でこれほど見事に勝つなど滅多に無いぞ」
 顔に出ているとは思っていなかったルークが慌てて真顔に戻る。
 そして横目にジョンを見ると、ジョンは口を固く閉ざし眉一つ動かさないでいた。
 (父上の言う事は最もだ。勝利してからというものずっと何かを考えているように見えるけど、こいつの性格ならもっと勝ち誇ると思ってたから意外だ)
 ジョンは二人の不思議そうな視線に気づくと微笑を浮かべて心配する必要はないと手を振る。
 「勝利に浮かれていない訳ではありませんよ。
 きっと初陣で疲れたのでしょう。今日は想定外のトラブルもありましたしね。
 私は先に休ませていただきますのでこれで失礼します」
 そして立ち去る間際、ルークの耳元で部屋で待つと囁いた。
 ルークは疑問を浮かべながらも書斎を後にし、ジョンの部屋に向かった。
 「わざわざ部屋まで呼び出してどうしたんだよ」
 窓の外を見つめていたジョンはルークの方を振り返る。
 その眼光の鋭さに思わず息を止めた。
 「ルーク、お前も気付いていると思うが、俺はお前に隠し事をしている。
 本当ならこのまま告げずにいた方が良いのだが、お前の才をこのような田舎で眠らせるなど俺には耐えられん。
 ならばいっそ、お前を巻き込もうと思ってな」
 何を言っているのか要領を得ない。だが、何か大事な事を伝えたいのは確かなようだ。
 「俺はジョン•ブラウンなどではない。俺は10年前に滅んだオルディア王朝の正統な後継者……レオ•オルディアだ。
 ルーク、これより俺の軍師となりこの大陸の全てを共に制覇しよう。
 そして大陸を制覇した暁には、宰相として俺の理想国家を共に作ってくれ」
 この日の出来事を後のルークフェルトはこう語る。
 これは私の人生を変えただけではない。この世界の運命を大きく変えた告白だったと。