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第二話 初陣

ー/ー



 あれから一ヶ月が経った。

 ジョンの部屋は父の配慮によりルークの隣となった事で、自然とジョンと接する機会は増え、最近は何をするのも一緒という様子だった。

 当初は領民からも警戒されていたが、礼儀正しく立ち振る舞いがスマート、会う者全てが貴族のようなエスコートを受け、ウィットに富んだジョークで周囲を笑わせるので領民からの評価も上々だった。

 暖かな西風吹くこの地で、ルークは庭先で一人考え事をしていた。

 俺はこの一ヶ月でジョンの事がそれなりに分かってきた。
 典型的なエリートだ。何をやらせてもすぐに覚えるし、人付き合いも上手くこなす才色兼備なイケメン。
 だけど、それだけじゃなく腹の中に何かドス黒い物を隠しているような気がする……。

 ジョンの事を分析していたルークだが、突然叫び始める。

 「それにしても、ジョンの奴一体どこに行ったんだよ! もうすぐ正午だぞ!」

 昨日の晩、二人は父の書斎に呼び出され、明日の正午に庭に集まるように言われていた。
 しかし、正午近くになってもジョンはいない。
 屋敷にいないのだから何処かへ出かけたのだろうが、ジョンの世話も担当する事になったリナに話を聞いても行き先を知らないという。

 退屈で身体が溶けそうになっている時、遠くから蹄の音が聞こえてくる。
 振り返るとそこには、猟銃を背負い、大きな野鳥二羽を右手で掴んでこちらに向かってくるジョンの姿があった。

 「遅いぞジョン! もうすぐ正午なのにどこ行ってたんだ! 正午前には庭に待つように父上に言われただろ!」

 用も告げずに家を出たジョンを一人待たされた俺は、この怒りをぶつけようとしたがジョンはきょとんとした顔をしていた。

 「だから正午前に帰ってきただろう? それにこの肥え太った野鳥を見ろ! こんな大物を献上すれば多少遅れても義父上(ちちうえ)もお許しくださるはずだ」

 時間ギリギリに戻ってきておいてこれほどドヤ顔で誇れる神経の図太さが羨ましい。
 俺にこの男のメンタリティが半分でもあったなら前世も早々に諦めたりしなかっただろう。
 だが、俺はこの男のような生き方は出来ない。人間には向き不向きがあるんだ、俺にとってはジョンのような性格になるのは向いてない事だ。

 「集まっているな二人とも」

 屋敷の扉から出てきたアーネントは二人に向かって語りかけるが、その声音はいつも以上に重い。

 歴戦の勇士というのは言葉の端々から潜り抜けた戦場の凄絶さを物語るものだ。
 隆起した筋骨を覆うように、全身を鋼鉄の鎧が包みこみ、いかにも古強者の風格を漂わせる。

 武人としてのアーネントを初めて見たルークは、この平和な領地にあって一人だけ異様な装いをする父に対し疑問を呈せざるをえなかった。

 「父上、此度はどのようなお呼び出しでしょうか?
 それに、その鎧姿は……? この辺りで戦でもあるのでしょうか?」

 アーネントの眼光は鋭い。息子に対してさえこの威圧感である。敵からすれば余程恐ろしい存在だろう。
 何かとても大きな脅威が迫っていると直感した二人はアーネントの次の言葉を待っていた。

 「ルーク、そしてジョンよ。お主らは我が息子として日々過ごしている。なればいずれは人の上に立たねばならん。人の上に立つものが武功の一つも挙げず、親より譲り受けた権力に甘えるなど言語道断である」

 その言葉にルークは冷や汗を流し、ジョンは胸の高鳴りが抑えられないといった様子で次の言葉を待ち望んでいる。
 そして、次にアーネントが放つ言葉に二人は驚きを隠せなかった。

 「ルークフェルト•ローズロック! ジョン•ブラウン! そなたらは我が兵十人を率いて、街道を封鎖するゴブリン共を殲滅せよ!」

 黙々と武具の手入れをするルークと、小声で文句を呟くジョンが武器庫の中でゴブリン討伐の支度を進めていた

 「なぁ、ゴブリン退治の何が不満なんだ? 腕に多少の覚えがあれば何とかなるようなモンスターなんだから初陣としてはうってつけじゃないか」

 そう、俺たちはこれから初めての実戦に向かう。いわば初陣(ういじん)ってやつだ。
 毎日稽古は積んできたし、最近はジョンと二人で試合をする事も増えたから間合いの置き方や動きを観察するといった事を学んできたから下地は十分だ。

 だが、ゴブリンは狡猾だ。ある小国ではゴブリン討伐に手を焼いた結果、ゴブリン達がゲリラ戦を展開し国を滅ぼすという事件もあった。

 だからスライムではなく、ゴブリンが初戦闘になるのはむしろ俺達の実力を父上が高く評価しているという事なのだが……。

 「何が不満か?不満に決まってるだろう! あのように仰々しい出で立ちで目の前に現れたのだから、大軍勢を相手にするのだとばかり思っていたのだ! それをゴブリンだと!? 肩透かしも良いところではないか!」

 ジョンは激昂している。実績も無い二人に大軍の相手を任せるはずも無いのだが、アーネントの威圧感はそれほど気に迫るものだった。

 ルークもジョンの気持ちが幾らか分かる為、フォローに入る。

 「まぁお前の気持ちも分かるよ。でも、おかげで無駄な緊張は消えたろ?
 それに占拠された街道は物流の大動脈であるリシン街道だ。それだけ重要な街道の制圧を任されたんだから俺達は期待されてる。気落ちせずに頑張ろうぜ?」

 ルークの説得にジョンも渋々了承し準備を進める。
 二人の間に不安は無い。適度な緊張と高揚感が全身を包み込んでいた。

 (さぁ、転生して最初の戦闘だ。絶対に勝ち星を挙げてやる!)

 ローズロック邸から東に700m、リシン街道前

 「よし、ここで一旦止まろう。この先が目標の占領地点だ」

 ルークは指示を出し簡易的な拠点を作る。
 陣の中でルークは全員に今回の作戦を伝える。

 「標的はゴブリン、目的はリシン街道の安全の確保だ。
 リシン街道は隣町の大市場に向かう最短のルートだから、ここが封鎖されると物流の大動脈を失って領内の経済活動は大幅に冷え込む。
 だから早急にゴブリンを討伐して安全を確保する必要がある。ここまでは大丈夫だな?」

 その場にいた全員がうんと頷く。そのまま作戦に移ろうとした時、ジョンが疑問を投げかけた。

 「一ついいか? この街道、それほど重要ならば、なぜ今まで厳重に警備をしてこなかった?
 道というのはまさに国家の血管だ。しかもこの領地の大動脈と言うのであれば相応の守りは必要ではないのか?」

 当然の疑問だ。俺もジョンの立場なら同じように質問しただろう。

 「理由は二つある。一つはゴブリンという危険が存在していなかった。
 ゴブリンが人里で目撃されるようになったのは一週間前、そして街道を封鎖し始めたのが三日前だ。存在しない驚異に対処する事はできないから対応が遅れてしまった」

 この地は比較的平和な地域だ。モンスターとの接触が少ないため、ゴブリンをはじめとしたモンスター達は人間を警戒してそのテリトリーに中々近づこうとしない。このような事態は初めてだったのだ。

 「第二に、これは連合内の掟により街道に関所を設けられない。
 連合全体で自由な経済活動を推奨しているからな。
 だから、経済活動を阻害していると勘違いされる事を避ける為に警備も検問所も用意していないんだ」

 ジョンは理由を聞くと納得した様子で頷き、それ以上喋ることは無かった。
 俺は気を取り直して、全員に今回の作戦を伝えた。

 「今回は囮を使った挟撃作戦だ。
 ゴブリン達は森の中の街道を封鎖していて見晴らしが悪く奇襲の可能性が高い。だから正面からは行かない…だからこういう段取りで行く」

 ルークの作戦は囮を使った釣り出しだった。
 挟撃の為に先行する挟撃隊が6人、入口にて敵を待ち伏せる潜伏隊が5人、そして敵を引き付ける囮だ。
 囮が敵を引き付けて入口まで退却し、潜伏隊と合流して交戦。
 手薄になった街道のゴブリンを挟撃隊が迅速に排除し、ゴブリンの後を追いかけるように潜伏隊と合流し挟撃を仕掛けるというのが作戦の内容だ。

 一通りの説明が済んだ後、ルークは懸念事項を伝えた。

 「物見に寄れば敵は10体だ。数自体はこちらが若干有利だが、気がかりなのは敵の数が昼夜問わず変わらないという事だ。
 書物によれば、ゴブリンは夜行性だから本来昼間はいないはずだが、今回はイレギュラーが多い。
 特殊な個体で形成されているかもしれないから、ゴブリンとはいえ油断するな」

 全員が防護魔法を付与し行動を開始する。ルークの指揮のもとゴブリン討伐作戦が決行される。


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 ジョンの部屋は父の配慮によりルークの隣となった事で、自然とジョンと接する機会は増え、最近は何をするのも一緒という様子だった。
 当初は領民からも警戒されていたが、礼儀正しく立ち振る舞いがスマート、会う者全てが貴族のようなエスコートを受け、ウィットに富んだジョークで周囲を笑わせるので領民からの評価も上々だった。
 暖かな西風吹くこの地で、ルークは庭先で一人考え事をしていた。
 俺はこの一ヶ月でジョンの事がそれなりに分かってきた。
 典型的なエリートだ。何をやらせてもすぐに覚えるし、人付き合いも上手くこなす才色兼備なイケメン。
 だけど、それだけじゃなく腹の中に何かドス黒い物を隠しているような気がする……。
 ジョンの事を分析していたルークだが、突然叫び始める。
 「それにしても、ジョンの奴一体どこに行ったんだよ! もうすぐ正午だぞ!」
 昨日の晩、二人は父の書斎に呼び出され、明日の正午に庭に集まるように言われていた。
 しかし、正午近くになってもジョンはいない。
 屋敷にいないのだから何処かへ出かけたのだろうが、ジョンの世話も担当する事になったリナに話を聞いても行き先を知らないという。
 退屈で身体が溶けそうになっている時、遠くから蹄の音が聞こえてくる。
 振り返るとそこには、猟銃を背負い、大きな野鳥二羽を右手で掴んでこちらに向かってくるジョンの姿があった。
 「遅いぞジョン! もうすぐ正午なのにどこ行ってたんだ! 正午前には庭に待つように父上に言われただろ!」
 用も告げずに家を出たジョンを一人待たされた俺は、この怒りをぶつけようとしたがジョンはきょとんとした顔をしていた。
 「だから正午前に帰ってきただろう? それにこの肥え太った野鳥を見ろ! こんな大物を献上すれば多少遅れても|義父上《ちちうえ》もお許しくださるはずだ」
 時間ギリギリに戻ってきておいてこれほどドヤ顔で誇れる神経の図太さが羨ましい。
 俺にこの男のメンタリティが半分でもあったなら前世も早々に諦めたりしなかっただろう。
 だが、俺はこの男のような生き方は出来ない。人間には向き不向きがあるんだ、俺にとってはジョンのような性格になるのは向いてない事だ。
 「集まっているな二人とも」
 屋敷の扉から出てきたアーネントは二人に向かって語りかけるが、その声音はいつも以上に重い。
 歴戦の勇士というのは言葉の端々から潜り抜けた戦場の凄絶さを物語るものだ。
 隆起した筋骨を覆うように、全身を鋼鉄の鎧が包みこみ、いかにも古強者の風格を漂わせる。
 武人としてのアーネントを初めて見たルークは、この平和な領地にあって一人だけ異様な装いをする父に対し疑問を呈せざるをえなかった。
 「父上、此度はどのようなお呼び出しでしょうか?
 それに、その鎧姿は……? この辺りで戦でもあるのでしょうか?」
 アーネントの眼光は鋭い。息子に対してさえこの威圧感である。敵からすれば余程恐ろしい存在だろう。
 何かとても大きな脅威が迫っていると直感した二人はアーネントの次の言葉を待っていた。
 「ルーク、そしてジョンよ。お主らは我が息子として日々過ごしている。なればいずれは人の上に立たねばならん。人の上に立つものが武功の一つも挙げず、親より譲り受けた権力に甘えるなど言語道断である」
 その言葉にルークは冷や汗を流し、ジョンは胸の高鳴りが抑えられないといった様子で次の言葉を待ち望んでいる。
 そして、次にアーネントが放つ言葉に二人は驚きを隠せなかった。
 「ルークフェルト•ローズロック! ジョン•ブラウン! そなたらは我が兵十人を率いて、街道を封鎖するゴブリン共を殲滅せよ!」
 黙々と武具の手入れをするルークと、小声で文句を呟くジョンが武器庫の中でゴブリン討伐の支度を進めていた
 「なぁ、ゴブリン退治の何が不満なんだ? 腕に多少の覚えがあれば何とかなるようなモンスターなんだから初陣としてはうってつけじゃないか」
 そう、俺たちはこれから初めての実戦に向かう。いわば|初陣《ういじん》ってやつだ。
 毎日稽古は積んできたし、最近はジョンと二人で試合をする事も増えたから間合いの置き方や動きを観察するといった事を学んできたから下地は十分だ。
 だが、ゴブリンは狡猾だ。ある小国ではゴブリン討伐に手を焼いた結果、ゴブリン達がゲリラ戦を展開し国を滅ぼすという事件もあった。
 だからスライムではなく、ゴブリンが初戦闘になるのはむしろ俺達の実力を父上が高く評価しているという事なのだが……。
 「何が不満か?不満に決まってるだろう! あのように仰々しい出で立ちで目の前に現れたのだから、大軍勢を相手にするのだとばかり思っていたのだ! それをゴブリンだと!? 肩透かしも良いところではないか!」
 ジョンは激昂している。実績も無い二人に大軍の相手を任せるはずも無いのだが、アーネントの威圧感はそれほど気に迫るものだった。
 ルークもジョンの気持ちが幾らか分かる為、フォローに入る。
 「まぁお前の気持ちも分かるよ。でも、おかげで無駄な緊張は消えたろ?
 それに占拠された街道は物流の大動脈であるリシン街道だ。それだけ重要な街道の制圧を任されたんだから俺達は期待されてる。気落ちせずに頑張ろうぜ?」
 ルークの説得にジョンも渋々了承し準備を進める。
 二人の間に不安は無い。適度な緊張と高揚感が全身を包み込んでいた。
 (さぁ、転生して最初の戦闘だ。絶対に勝ち星を挙げてやる!)
 ローズロック邸から東に700m、リシン街道前
 「よし、ここで一旦止まろう。この先が目標の占領地点だ」
 ルークは指示を出し簡易的な拠点を作る。
 陣の中でルークは全員に今回の作戦を伝える。
 「標的はゴブリン、目的はリシン街道の安全の確保だ。
 リシン街道は隣町の大市場に向かう最短のルートだから、ここが封鎖されると物流の大動脈を失って領内の経済活動は大幅に冷え込む。
 だから早急にゴブリンを討伐して安全を確保する必要がある。ここまでは大丈夫だな?」
 その場にいた全員がうんと頷く。そのまま作戦に移ろうとした時、ジョンが疑問を投げかけた。
 「一ついいか? この街道、それほど重要ならば、なぜ今まで厳重に警備をしてこなかった?
 道というのはまさに国家の血管だ。しかもこの領地の大動脈と言うのであれば相応の守りは必要ではないのか?」
 当然の疑問だ。俺もジョンの立場なら同じように質問しただろう。
 「理由は二つある。一つはゴブリンという危険が存在していなかった。
 ゴブリンが人里で目撃されるようになったのは一週間前、そして街道を封鎖し始めたのが三日前だ。存在しない驚異に対処する事はできないから対応が遅れてしまった」
 この地は比較的平和な地域だ。モンスターとの接触が少ないため、ゴブリンをはじめとしたモンスター達は人間を警戒してそのテリトリーに中々近づこうとしない。このような事態は初めてだったのだ。
 「第二に、これは連合内の掟により街道に関所を設けられない。
 連合全体で自由な経済活動を推奨しているからな。
 だから、経済活動を阻害していると勘違いされる事を避ける為に警備も検問所も用意していないんだ」
 ジョンは理由を聞くと納得した様子で頷き、それ以上喋ることは無かった。
 俺は気を取り直して、全員に今回の作戦を伝えた。
 「今回は囮を使った挟撃作戦だ。
 ゴブリン達は森の中の街道を封鎖していて見晴らしが悪く奇襲の可能性が高い。だから正面からは行かない…だからこういう段取りで行く」
 ルークの作戦は囮を使った釣り出しだった。
 挟撃の為に先行する挟撃隊が6人、入口にて敵を待ち伏せる潜伏隊が5人、そして敵を引き付ける囮だ。
 囮が敵を引き付けて入口まで退却し、潜伏隊と合流して交戦。
 手薄になった街道のゴブリンを挟撃隊が迅速に排除し、ゴブリンの後を追いかけるように潜伏隊と合流し挟撃を仕掛けるというのが作戦の内容だ。
 一通りの説明が済んだ後、ルークは懸念事項を伝えた。
 「物見に寄れば敵は10体だ。数自体はこちらが若干有利だが、気がかりなのは敵の数が昼夜問わず変わらないという事だ。
 書物によれば、ゴブリンは夜行性だから本来昼間はいないはずだが、今回はイレギュラーが多い。
 特殊な個体で形成されているかもしれないから、ゴブリンとはいえ油断するな」
 全員が防護魔法を付与し行動を開始する。ルークの指揮のもとゴブリン討伐作戦が決行される。