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第四話 王子の野望

ー/ー



 「レオ•オルディアだって......なんで、なんで王子様がこんな田舎に......」

 あまりにも衝撃的な内容にルークは絶句した。

 「開いた口が塞がらないなルーク。だが無理もない。本来俺は王子としてこの大陸を背負う存在。
 両手で足りる程度の村を治める田舎の領主とは本来目を合わせる事すらない」

 ゆっくりと近づく足取りは実に優雅で風格があり、見慣れた一室が、この瞬間だけ王に拝謁する空間へと様変わりしていた。

 レオはルークの肩に手を置き不敵な笑みを浮かべながら顔を近づけ、
 鋭い眼光で見つめて語りかけてくる。

 「俺はお前を高く買っている。
 ギリギリまでゴブリンを引きつけた胆力、突然の増援にも迅速に対処する頭脳。

 初陣したばかりの若者が、あの状況下であれだけ冷静でいられるだろうか? 少なくともそう多くはないはずだ。

 なぁルーク、お前の人生を俺に預けてくれ。

 その才覚はもっと広い世界でこそ輝くんだ、俺ならお前をもっと活かせる。
 誰よりもお前の実力を俺は知っている。お前はこんな所で終わる男じゃない」

 レオの評価にルークは胸が熱くなる。

 前世じゃ俺を認めてくれる人はいなかった。
 誰かに認めてもらう事で、自分の価値を証明したかった。
 だけど成果を挙げるほど俺に用意されるのは賞賛と期待ではなく更なるノルマと重圧だった。

 思わず目頭が熱くなるルークを見て、レオはふっと笑い肩をぽんと叩く。
 そして一歩下がって続けてこう言った。

 「俺の首には懸賞金が懸けられていてな......。
 俺という存在は今のディッチ大陸において不都合なのだ。
 今はまだここまで捜索の手は及んでいないが、いずれ俺の命を狙う輩が現れるのも時間の問題だ。

 だが、誰にも俺は殺させない。
 いずれは挙兵し、オルディア王朝を超える国を作る。その為にはお前のように知恵と度胸を兼ね備えた男が必要なのだ」

 レオの口から放たれる一言はどれも壮大で、ルークは頭が追いつかない。
 寄せられる期待に応えたいが、自分にそれだけの才能があるのかという迷いと、
 ローズロック家次期当主として領民を危険に晒したくない思いが思考を鈍らせる。

 (よし、レオには悪いけどここは断ろう)

 レオの夢は、己の身の安全、領民の安全と引き換える事は出来ない。前世の自分から考えれば産まれながらに地位が安定している今の境遇以上に満足するものは無かった。

 (レオのように優秀な人間には俺以上に優秀な奴が付いてくる。

 今の地位も充足感も前世とは比べ物にならない、俺は安定した地位が欲しいだけでそれ以上望んじゃいない)

 「なぁ、レオ......でいいのか?
 俺の事をこんなに認めてくれて本当に嬉しいけど、俺は力になれそうもない。

 都市に行けば俺より優秀な奴は沢山いるし、俺にそこまでの才能があるとは思えない。
 それに今の生活にも満足してるんだ。だから俺の事は諦めてくれ」

 どうにか諦めてもらうよう説得してみるが、レオはそれで?とでも言いたげな態度でルークを見つめる。

 「お前がどう思おうとお前は俺と共に来るしかない。
 アーネントは俺を匿い、然るべき時に兵を挙げると確約している。領主の息子であるお前が父に背けまい。

 それに俺がここから立ち去ったとしても、いずれはここで匿っていた事実は敵の耳に入る。そうなればどの道お前の一族は皆殺しだ。

 なにせ今の大陸の大部分はオルディア王朝で重臣を務め、王を葬った者達が治めている。
 俺が生きていると知ればどんな犠牲を払っても始末してくるだろう。

 渋々従っている者達が俺を担ぎ上げ、燻っている火種が各地で噴き上げる可能性は十分高い。

 俺という存在は世の不都合であり、その不都合を受け入れたお前達は俺の臣下となる道しか無いという事だ」

 ルークに逃げ道は用意されていなかった。
 出会ったあの日から、こうなる事は運命づけられていた。

 「本当ならこんな事を言いたくは無かった。
 お前には自分の意思で俺を支えてほしかったが、良心に従って生きられるほど今の俺は恵まれていない。

 許せとは言わんが、再起した暁には確固たる地位をお前に約束する」

 家族と領民を危険に晒すだけの値打ちがレオにあるのか分からない。
 レオの作る国が自分達にどういう恩恵があるのかも分からない。
 だが、従う以外に道は無い。理不尽な要求は前世で何度も味わってきた。
 ルークは気を取り直し、レオに問う。



 「レオ、お前の作る国ってどういう国なんだ?
 協力する以上、お前の理念を聞きたい。お前がただ王座に返り咲きたいだけなら俺も保身のためにお前を売る。

 父上が何と言おうと俺は領民と自分の立場を守る。
 だから聞かせてくれ、お前の目指す世界を」

 レオは神妙な面持ちで語り出す。

 「俺が目指す世界は、大陸全土に安寧をもたらす統一国家を作る事。
 圧倒的な武力で外敵をねじ伏せ反乱の芽を摘み、
 絶対的な法の力で砂一粒すら徹底的に管理する盤石なシステムを作る。

 法の力の下で女子供も夜道を安心して歩けるような秩序を築き、
 これを破る者あれば武力をもって断罪する。

 大陸全土の万民を等しく安んずる為に安寧を脅かす者は誰であれ徹底的に潰す」

 レオは続けてかつての王朝について語り出す。

 「オルディア王朝は大陸の3分の1を支配する巨大な王国でな。
 一人の君主ではまとめきれず、重臣達を各方面に配備して王に等しい権限を与えて統治していた。

 だが、次第に王の命令や国の法に従わぬ者が出てきてな。
 父はその現状を何とかしようと中央集権化を急いだ。
 建国当時と同じく、王という絶対的なカリスマの下に皆が集う世界に戻そうとした矢先に殺された」

 「俺はかつての王朝と同じ国を作る気はない。
 オルディア王朝は初代のカリスマ性によって生まれ、カリスマ性の失墜と共に滅んだ国だ。

 才は何代も続かない、だから俺は法の支配を強くする。
 属人的な国家運営ではなく、凡庸な君主でも統治が可能な国を作る。

 法の下に王も領民も平等に裁く、恒久的な平和を維持する法治国家こそが俺の理想だ」

 ルークは驚きを隠せなかった。法による統治、王すらも従わなくてはいけない絶対的な法の支配。
 それは、絶対王政が当たり前のこの世界においてあまりに異質であった。

 (こんな野望を持ってたなんて......。
 ただの支配欲や権力欲の王子様じゃない、信念と覚悟を持っている!

 危ない賭けだけど乗るしかない。
 どの道従うしかないのなら、譜代の功臣として働いて一生安泰の生活を確実に掴み取る!)

 覚悟を決めるしかない。ルークはそう思い、頬を叩くと決意に満ちた顔でレオを見つめる。

 「いいぜ、お前の家来になってやる。
 だけどこれは忠誠を誓ったからじゃない。

 俺は今の地位と暮らしに満足してる。だけどお前のせいでそれも消える事になる..だから取引をしろ!

 俺はお前を世界の王にする。
 その代わり、お前も約束通り俺に絶対的な地位を約束しろ!
 お前の次に権力を握るのはお前の子供じゃない......この俺だ!」

 ルークの決意は決して純粋なものでは無かったが、むしろそれはレオにとって心強かった。

 「くっくっく......王を前にして堂々と次代の主を宣言するか。

 良いだろう、取引成立だ。お前はこの先、誰よりも困難な道を歩む。

 だが、それを乗り越えた先に誰にも脅かされる事の無い安定した地位を与えると約束しよう」

 打算の上に成り立つ奇妙な友情は、ある意味で純情よりも固い絆で結ばれることもある。
 広大な大陸の矮小な領地の一室で、世界制覇を目指す王と配下がここに誕生した。

 その日の夜、ルークとレオは二人で話した事を父に報告した。
 父はルークに家族を危険に晒した事を謝罪しレオを匿う事になった経緯を話した。

 「儂は昔、宮殿で護衛隊長を任されていてな。
 今の儂の地位があるのも王のおかげよ......。

 だがあの日、逆臣共が王を殺し国を滅ぼした!
 儂と仲間達は王子を王都から逃がし、居場所が悟られぬよう代わる代わる匿う事にしたのじゃ。

 黙っていて済まなかった......! こんな父を許してくれ......!」

 ルークは父の事情を汲み取り、許す事にした。
 その後、父から近々決起する事、今は表面上は変わらず義兄弟を続けるように命じられ、その日は各自の部屋へ戻った。

 半年後、変わりない日常を過ごしていたルークの元に一通の手紙が届いた。
 それは隣の領主エーゴン・オスワルドからのものだった。

 『拝啓、ルークフェルト殿。最後に会ったのは貴殿の誕生日だったな。
 また近々顔を見せてもらえるとありがたい。婿殿に会える日を娘のアリアも心待ちにしているぞ』

 ルークはレオと供回りを連れ、許嫁のアリア・オスワルドに渡す土産を買う為、オスワルド領の大市場に足を運ぶ事にした。


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 あまりにも衝撃的な内容にルークは絶句した。
 「開いた口が塞がらないなルーク。だが無理もない。本来俺は王子としてこの大陸を背負う存在。
 両手で足りる程度の村を治める田舎の領主とは本来目を合わせる事すらない」
 ゆっくりと近づく足取りは実に優雅で風格があり、見慣れた一室が、この瞬間だけ王に拝謁する空間へと様変わりしていた。
 レオはルークの肩に手を置き不敵な笑みを浮かべながら顔を近づけ、
 鋭い眼光で見つめて語りかけてくる。
 「俺はお前を高く買っている。
 ギリギリまでゴブリンを引きつけた胆力、突然の増援にも迅速に対処する頭脳。
 初陣したばかりの若者が、あの状況下であれだけ冷静でいられるだろうか? 少なくともそう多くはないはずだ。
 なぁルーク、お前の人生を俺に預けてくれ。
 その才覚はもっと広い世界でこそ輝くんだ、俺ならお前をもっと活かせる。
 誰よりもお前の実力を俺は知っている。お前はこんな所で終わる男じゃない」
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 前世じゃ俺を認めてくれる人はいなかった。
 誰かに認めてもらう事で、自分の価値を証明したかった。
 だけど成果を挙げるほど俺に用意されるのは賞賛と期待ではなく更なるノルマと重圧だった。
 思わず目頭が熱くなるルークを見て、レオはふっと笑い肩をぽんと叩く。
 そして一歩下がって続けてこう言った。
 「俺の首には懸賞金が懸けられていてな......。
 俺という存在は今のディッチ大陸において不都合なのだ。
 今はまだここまで捜索の手は及んでいないが、いずれ俺の命を狙う輩が現れるのも時間の問題だ。
 だが、誰にも俺は殺させない。
 いずれは挙兵し、オルディア王朝を超える国を作る。その為にはお前のように知恵と度胸を兼ね備えた男が必要なのだ」
 レオの口から放たれる一言はどれも壮大で、ルークは頭が追いつかない。
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 ローズロック家次期当主として領民を危険に晒したくない思いが思考を鈍らせる。
 (よし、レオには悪いけどここは断ろう)
 レオの夢は、己の身の安全、領民の安全と引き換える事は出来ない。前世の自分から考えれば産まれながらに地位が安定している今の境遇以上に満足するものは無かった。
 (レオのように優秀な人間には俺以上に優秀な奴が付いてくる。
 今の地位も充足感も前世とは比べ物にならない、俺は安定した地位が欲しいだけでそれ以上望んじゃいない)
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 俺の事をこんなに認めてくれて本当に嬉しいけど、俺は力になれそうもない。
 都市に行けば俺より優秀な奴は沢山いるし、俺にそこまでの才能があるとは思えない。
 それに今の生活にも満足してるんだ。だから俺の事は諦めてくれ」
 どうにか諦めてもらうよう説得してみるが、レオはそれで?とでも言いたげな態度でルークを見つめる。
 「お前がどう思おうとお前は俺と共に来るしかない。
 アーネントは俺を匿い、然るべき時に兵を挙げると確約している。領主の息子であるお前が父に背けまい。
 それに俺がここから立ち去ったとしても、いずれはここで匿っていた事実は敵の耳に入る。そうなればどの道お前の一族は皆殺しだ。
 なにせ今の大陸の大部分はオルディア王朝で重臣を務め、王を葬った者達が治めている。
 俺が生きていると知ればどんな犠牲を払っても始末してくるだろう。
 渋々従っている者達が俺を担ぎ上げ、燻っている火種が各地で噴き上げる可能性は十分高い。
 俺という存在は世の不都合であり、その不都合を受け入れたお前達は俺の臣下となる道しか無いという事だ」
 ルークに逃げ道は用意されていなかった。
 出会ったあの日から、こうなる事は運命づけられていた。
 「本当ならこんな事を言いたくは無かった。
 お前には自分の意思で俺を支えてほしかったが、良心に従って生きられるほど今の俺は恵まれていない。
 許せとは言わんが、再起した暁には確固たる地位をお前に約束する」
 家族と領民を危険に晒すだけの値打ちがレオにあるのか分からない。
 レオの作る国が自分達にどういう恩恵があるのかも分からない。
 だが、従う以外に道は無い。理不尽な要求は前世で何度も味わってきた。
 ルークは気を取り直し、レオに問う。
 「レオ、お前の作る国ってどういう国なんだ?
 協力する以上、お前の理念を聞きたい。お前がただ王座に返り咲きたいだけなら俺も保身のためにお前を売る。
 父上が何と言おうと俺は領民と自分の立場を守る。
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 レオは神妙な面持ちで語り出す。
 「俺が目指す世界は、大陸全土に安寧をもたらす統一国家を作る事。
 圧倒的な武力で外敵をねじ伏せ反乱の芽を摘み、
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 法の力の下で女子供も夜道を安心して歩けるような秩序を築き、
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 だが、次第に王の命令や国の法に従わぬ者が出てきてな。
 父はその現状を何とかしようと中央集権化を急いだ。
 建国当時と同じく、王という絶対的なカリスマの下に皆が集う世界に戻そうとした矢先に殺された」
 「俺はかつての王朝と同じ国を作る気はない。
 オルディア王朝は初代のカリスマ性によって生まれ、カリスマ性の失墜と共に滅んだ国だ。
 才は何代も続かない、だから俺は法の支配を強くする。
 属人的な国家運営ではなく、凡庸な君主でも統治が可能な国を作る。
 法の下に王も領民も平等に裁く、恒久的な平和を維持する法治国家こそが俺の理想だ」
 ルークは驚きを隠せなかった。法による統治、王すらも従わなくてはいけない絶対的な法の支配。
 それは、絶対王政が当たり前のこの世界においてあまりに異質であった。
 (こんな野望を持ってたなんて......。
 ただの支配欲や権力欲の王子様じゃない、信念と覚悟を持っている!
 危ない賭けだけど乗るしかない。
 どの道従うしかないのなら、譜代の功臣として働いて一生安泰の生活を確実に掴み取る!)
 覚悟を決めるしかない。ルークはそう思い、頬を叩くと決意に満ちた顔でレオを見つめる。
 「いいぜ、お前の家来になってやる。
 だけどこれは忠誠を誓ったからじゃない。
 俺は今の地位と暮らしに満足してる。だけどお前のせいでそれも消える事になる..だから取引をしろ!
 俺はお前を世界の王にする。
 その代わり、お前も約束通り俺に絶対的な地位を約束しろ!
 お前の次に権力を握るのはお前の子供じゃない......この俺だ!」
 ルークの決意は決して純粋なものでは無かったが、むしろそれはレオにとって心強かった。
 「くっくっく......王を前にして堂々と次代の主を宣言するか。
 良いだろう、取引成立だ。お前はこの先、誰よりも困難な道を歩む。
 だが、それを乗り越えた先に誰にも脅かされる事の無い安定した地位を与えると約束しよう」
 打算の上に成り立つ奇妙な友情は、ある意味で純情よりも固い絆で結ばれることもある。
 広大な大陸の矮小な領地の一室で、世界制覇を目指す王と配下がここに誕生した。
 その日の夜、ルークとレオは二人で話した事を父に報告した。
 父はルークに家族を危険に晒した事を謝罪しレオを匿う事になった経緯を話した。
 「儂は昔、宮殿で護衛隊長を任されていてな。
 今の儂の地位があるのも王のおかげよ......。
 だがあの日、逆臣共が王を殺し国を滅ぼした!
 儂と仲間達は王子を王都から逃がし、居場所が悟られぬよう代わる代わる匿う事にしたのじゃ。
 黙っていて済まなかった......! こんな父を許してくれ......!」
 ルークは父の事情を汲み取り、許す事にした。
 その後、父から近々決起する事、今は表面上は変わらず義兄弟を続けるように命じられ、その日は各自の部屋へ戻った。
 半年後、変わりない日常を過ごしていたルークの元に一通の手紙が届いた。
 それは隣の領主エーゴン・オスワルドからのものだった。
 『拝啓、ルークフェルト殿。最後に会ったのは貴殿の誕生日だったな。
 また近々顔を見せてもらえるとありがたい。婿殿に会える日を娘のアリアも心待ちにしているぞ』
 ルークはレオと供回りを連れ、許嫁のアリア・オスワルドに渡す土産を買う為、オスワルド領の大市場に足を運ぶ事にした。