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第一話 謎の青年現る

ー/ー



 ......ま......ルト様......ルークフェルト様!

 突然の大声に俺は飛び起きる。
 どうやら眠ってしまっていたようだ。
 ん? 眠っていた? 確かに俺は眠ったがそれは永眠の方だ。
 それにルークフェルトという名も聞き覚えが無い。

 それにここはどこだ? 辺り一面を田畑と草木に囲まれ田舎の二文字が相応しい場所じゃないか。

 岡崎は自分の覚えている限りの記憶と今の風景を照らし合わせる。
 コンクリートと高層ビルが視界を覆う灰色の世界が、
 中世ヨーロッパを彷彿とさせる牧歌的な風景に様変わりしていた。

 「ルークフェルト様、またこのような場所で居眠りなどして。後でお父上様に叱ってもらいますからね」

 銀の瞳が美しく輝く白髪の女性は岡崎に向かって叱りつけた。

 メイド喫茶にでも出てきそうな如何にもメイドといった装いをした彼女はやや怒ったような顔で岡崎を見つめていた。

 「ごめんよリナ。すぐ屋敷に戻るから父上には内緒にしててくれないか?
 この丘は見晴らしが良くてお気に入りなんだ」

 思考を挟む間もなく、すらすらと言葉が出てくる。岡崎は次第にこの世界の記憶が蘇ってきた。

 俺の名前はルークフェルト・ローズロック。16歳だ。
 何故こんな異世界に別人として生きているのかは分からないが、
 どうやら俺は岡崎 透としての人生に幕を閉じ、今度はルークフェルト・ローズロックとして新たな生を受けたらしい。

 俺は自分が小領主の息子である事と、目の前の女性との関係を思い出してきた。

 彼女の名はリナ•オーラント
 訳あってローズロック家に仕えているメイドだ。
 今は俺のお付きとして日々の世話を焼いてくれている。

 「さぁ、ルークフェルト様。そろそろお屋敷の方に戻りましょう。見回りと言ってお屋敷を出てから3時間も経っております。あまり長く戻られないとお父上様も心配なさります」

 西風が心地よく吹いている。寄りかかっていた大樹から暖かな木漏れ日が差し込み、耳を澄ませば鳥のさえずりと川のせせらぎ、慎ましくも活発な人々の声も僅かながら聞こえてくる。

 都会の喧騒から隔絶されたこの世界は、
 タイトな日々を過ごしていた岡崎にとって何よりも心安らぐものだった。

 この時間が永遠であれば良いのに......上司の機嫌を取る必要も、
 部下の失敗の責任を負う必要も無い今を岡崎は噛み締めていた。

 だが、リナはそれを許さなかった。
 領内とはいえ主人が無防備に寝ているのだから心配するのも理解できる。
 会社員岡崎としての感情は一旦押し殺し、ルークとして彼女の思いを汲み取った。

 「分かったよリナ、そろそろ帰ろう」

 そして二人は馬に乗り屋敷へと向かった。

 レンガ造りの屋敷に青い屋根が太陽に照らされて輝いている。
 庭先には色とりどりの花が咲き乱れていた。

 「おぉ戻ったかルークよ。領内の様子はどうだった?」

 威厳のある力強い声が階段の上からルークを呼ぶ。
 声の主は父アーネント・ローズロックだ。

 「ただいま戻りました父上。
 領内は今日も平和そのものといった感じで、仕事に精を出す者ばかりでしたよ」

 父上は勇猛果敢で知られ、多くの戦場でその名を轟かせた豪傑だ。
 そのせいか顔には無数の傷があり、古強者の風貌で実の息子である俺も委縮しがちになる。

 ちなみに、ルークというのは俺の愛称の事だ。家族や友人からはそう呼ばれている。

 ルークは軽い挨拶と報告を済ませ、早々に立ち去ろうとするが、アーネントが呼び止める。

 「待てルーク、お主今日が何の日か覚えているか?」

 「もちろん覚えています。今日は超討試合(えっとうじあい)の日ですよね。
 午後から行うと聞いていたので少し長めに領内を見回っていたのですが、何かありましたか?」

 超討試合とは、16歳になった男子が父親と一騎打ちを行い勝利する成人式の事。
 子が父を超え、より優秀な人物を一族から輩出する事を祝う儀式だ。

 「超討試合の件だがな、とある来客が来たため日を改めようと思う。
 いつかは執り行う予定だが、それもいつになるか定かでは無くなってしまった」

 父の申し訳なさそうな顔から、自分よりもむしろ楽しみにしていたのは父の方ではないかと内心苦笑いをしていた。

 「父上が予定を変更するとは......よほど大事な来客と思いますが、まさか連合会長のフォントル様ですか?」

 領主達は隣接する領主と連合を作り、互いの安全を確保する。
 フォントルというのはその連合の長だ。

 「ふん、フォントル如きの為にわざわざお前の超討試合を延期するなどありえん。

 だが、誰が客かはまだ言えんな。後ほど紹介するゆえ暫し待つが良い」

 アーネントはそう言い残して応接室へと向かっていった。

 ルークは突然空いた時間をどう過ごそうか思案する。

 (予定が急に消えるとなるとこの後は暇だな......。
 そうだ、まだこの世界の事を完全に思い出せてないから勉強するか。
 書庫に行けばこの世界の事とかより詳しく分かるだろう)

 リナに書庫に向かう事を伝え、ルークは書庫へと足を運んだ。

 書庫で学びなおす内に様々なことを思い出してきた。
 この世界には魔法と個性(スキル)がある事、魔法も個性も生まれ持った魔力を消費する事。

 魔法は誰でも扱う事ができるが、危険性の高い魔法は魔法使いやエルフしか扱えない事。
 個性は限られた才能のある人間にしか発現しない事。

 この世界はディッチ大陸という広大な大陸と様々な島があり、自分はディッチ大陸南端の地にいる事。

 ルークは書庫の情報と記憶を照らし合わせ、自分の状況を理解することができた。

 (RPGみたいな世界だが、ゲームとは違ってちゃんとした別世界って感じだな。
 元の世界に未練は無いし、この世界で田舎の領主として安寧に暮らすっていうのも悪くないかもな)

 苦労しなくても領主という地位が確約されている今世の境遇に岡崎は満足を覚えていた。
 ただ一つの不満を除けばだが......。

 「はぁ~俺にも何かしら個性があれば良かったんだけどなぁ......どうせ転生させるなら特別凄いスキルをくれよ神様さぁ......」

 個性を持つ者はそれだけで特別な存在として歴史に名を刻む。
 前世で読んだ娯楽作品ではそういう特殊能力があるものだが、自分にそれらしい能力は見つからなかった。

 何も持ち得ない凡人は非凡な才を持つ者に憧れを抱くのが世の常。
 岡崎は転生した今世においても自分が誰かを羨んで生きなくてはいけないのかと肩を落としていた。

 そんな事を考えながら読書に耽っていると、背後からルークを呼ぶ声が聞こえ、振り返るとそこにリナが控えていた。

 「ルークフェルト様、お父上様がお呼びです。
 応接室に来るようにとの事ですのでご準備を」

 後ほど会わせると言った客人の事だろう。
 ルークは前世の経験と父親の態度から余程偉い立場の人間だと予想し気を引き締める。

 (偉い奴は最初に値踏みをしてくる。
 ファーストインプレッションで失敗すれば俺が領主となった時に俺だけでなく領民も冷遇される。気を引き締めないとな。)

 自分が優秀であると認めてもらわねばならない。
 プレゼンの時にも似た緊張を胸に秘め、ルークは読んでいた本を閉じ応接室へと向かった。

 コンッコンッコンッ

 「父上、ルークフェルトでございます」

 入れ。と一言が聞こえ、応接室のドアを開ける。
 そこには父アーネントと見慣れない青年が一人。
 ブロンドの綺麗な髪に澄んだ海のような青い瞳。
 服装こそみすぼらしさを感じる麻の服だが、その出で立ちから隠しきれない気品を感じる。

 俺は父上に促されるまま青年の目の前に座り、軽く挨拶をした。

 「アーネント•ローズロックの息子ルークフェルト•ローズロックでございます。
 このような僻地までお越しいただき大変感謝申し上げます。どうぞお見知りおきください」

 青年は何も答えない。気品を感じる客人とはいえ服装は平民そのものだ。

 見たままの立場で言えば自分の方が上だろうか?
 わざわざ超討試合を延期してまで会わなければならない客にしては貧相な見た目をしている。
 なぜ父上はこのような者を俺に紹介したんだ?

 ルークは青年の見た目から様々な疑問を浮かべたが、続く父の紹介にルークは驚きを隠せなくなった。

 「こちらの青年はジョン•ブラウン殿。
 故あって我が屋敷で世話をする事になった。そして、今日からお主達は義兄弟として暮らしてもらう事になる」

 義兄弟、その言葉を理解した時、ルークは思考するよりも先に言葉が出ていた。

 「お待ちください父上! 突然の事で何が何だか分かりません! いきなりやってきたこの人といきなり義兄弟だと言われても......。せめてこの人の出自とかどういう事情でうちで世話をする事になったとか説明してくれませんか!?」

 しかし、父はその疑問に答えようとはしなかった。

 「その事については今はまだ何も言えん。いずれ時期がくれば話すかもしれんが、今は何を聞かれても答えるつもりはない。

 そうだ、ジョン殿は確か18歳だからお前の義兄(あに)という事になるな。あとは若者同士で語り打ち解けるが良い。儂は政務がある故失礼する」

 アーネントはそのまま応接室から出ていき、二人の間を重い沈黙が包み込む。

 混乱するばかりのルークであったが、家主の息子として客人を丁重に相手しない訳にはいかない。
 気まずい雰囲気の中なにを言うべきか迷っていると、その沈黙を終わらせたのはジョンだった。

 「ルークフェルトと言ったな。改めて、俺の名はジョン・ブラウン。ジョンで良い、俺もお前の事はルークと呼ぶぞ。これからよろしく頼む我が義弟(おとうと)よ」

 退屈だけど平和な毎日が終わる予感がした。
 間違いなく、この先の人生を大きく狂わせる出会いだと俺の直感は告げていた。


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 ......ま......ルト様......ルークフェルト様!
 突然の大声に俺は飛び起きる。
 どうやら眠ってしまっていたようだ。
 ん? 眠っていた? 確かに俺は眠ったがそれは永眠の方だ。
 それにルークフェルトという名も聞き覚えが無い。
 それにここはどこだ? 辺り一面を田畑と草木に囲まれ田舎の二文字が相応しい場所じゃないか。
 岡崎は自分の覚えている限りの記憶と今の風景を照らし合わせる。
 コンクリートと高層ビルが視界を覆う灰色の世界が、
 中世ヨーロッパを彷彿とさせる牧歌的な風景に様変わりしていた。
 「ルークフェルト様、またこのような場所で居眠りなどして。後でお父上様に叱ってもらいますからね」
 銀の瞳が美しく輝く白髪の女性は岡崎に向かって叱りつけた。
 メイド喫茶にでも出てきそうな如何にもメイドといった装いをした彼女はやや怒ったような顔で岡崎を見つめていた。
 「ごめんよリナ。すぐ屋敷に戻るから父上には内緒にしててくれないか?
 この丘は見晴らしが良くてお気に入りなんだ」
 思考を挟む間もなく、すらすらと言葉が出てくる。岡崎は次第にこの世界の記憶が蘇ってきた。
 俺の名前はルークフェルト・ローズロック。16歳だ。
 何故こんな異世界に別人として生きているのかは分からないが、
 どうやら俺は岡崎 透としての人生に幕を閉じ、今度はルークフェルト・ローズロックとして新たな生を受けたらしい。
 俺は自分が小領主の息子である事と、目の前の女性との関係を思い出してきた。
 彼女の名はリナ•オーラント
 訳あってローズロック家に仕えているメイドだ。
 今は俺のお付きとして日々の世話を焼いてくれている。
 「さぁ、ルークフェルト様。そろそろお屋敷の方に戻りましょう。見回りと言ってお屋敷を出てから3時間も経っております。あまり長く戻られないとお父上様も心配なさります」
 西風が心地よく吹いている。寄りかかっていた大樹から暖かな木漏れ日が差し込み、耳を澄ませば鳥のさえずりと川のせせらぎ、慎ましくも活発な人々の声も僅かながら聞こえてくる。
 都会の喧騒から隔絶されたこの世界は、
 タイトな日々を過ごしていた岡崎にとって何よりも心安らぐものだった。
 この時間が永遠であれば良いのに......上司の機嫌を取る必要も、
 部下の失敗の責任を負う必要も無い今を岡崎は噛み締めていた。
 だが、リナはそれを許さなかった。
 領内とはいえ主人が無防備に寝ているのだから心配するのも理解できる。
 会社員岡崎としての感情は一旦押し殺し、ルークとして彼女の思いを汲み取った。
 「分かったよリナ、そろそろ帰ろう」
 そして二人は馬に乗り屋敷へと向かった。
 レンガ造りの屋敷に青い屋根が太陽に照らされて輝いている。
 庭先には色とりどりの花が咲き乱れていた。
 「おぉ戻ったかルークよ。領内の様子はどうだった?」
 威厳のある力強い声が階段の上からルークを呼ぶ。
 声の主は父アーネント・ローズロックだ。
 「ただいま戻りました父上。
 領内は今日も平和そのものといった感じで、仕事に精を出す者ばかりでしたよ」
 父上は勇猛果敢で知られ、多くの戦場でその名を轟かせた豪傑だ。
 そのせいか顔には無数の傷があり、古強者の風貌で実の息子である俺も委縮しがちになる。
 ちなみに、ルークというのは俺の愛称の事だ。家族や友人からはそう呼ばれている。
 ルークは軽い挨拶と報告を済ませ、早々に立ち去ろうとするが、アーネントが呼び止める。
 「待てルーク、お主今日が何の日か覚えているか?」
 「もちろん覚えています。今日は|超討試合《えっとうじあい》の日ですよね。
 午後から行うと聞いていたので少し長めに領内を見回っていたのですが、何かありましたか?」
 超討試合とは、16歳になった男子が父親と一騎打ちを行い勝利する成人式の事。
 子が父を超え、より優秀な人物を一族から輩出する事を祝う儀式だ。
 「超討試合の件だがな、とある来客が来たため日を改めようと思う。
 いつかは執り行う予定だが、それもいつになるか定かでは無くなってしまった」
 父の申し訳なさそうな顔から、自分よりもむしろ楽しみにしていたのは父の方ではないかと内心苦笑いをしていた。
 「父上が予定を変更するとは......よほど大事な来客と思いますが、まさか連合会長のフォントル様ですか?」
 領主達は隣接する領主と連合を作り、互いの安全を確保する。
 フォントルというのはその連合の長だ。
 「ふん、フォントル如きの為にわざわざお前の超討試合を延期するなどありえん。
 だが、誰が客かはまだ言えんな。後ほど紹介するゆえ暫し待つが良い」
 アーネントはそう言い残して応接室へと向かっていった。
 ルークは突然空いた時間をどう過ごそうか思案する。
 (予定が急に消えるとなるとこの後は暇だな......。
 そうだ、まだこの世界の事を完全に思い出せてないから勉強するか。
 書庫に行けばこの世界の事とかより詳しく分かるだろう)
 リナに書庫に向かう事を伝え、ルークは書庫へと足を運んだ。
 書庫で学びなおす内に様々なことを思い出してきた。
 この世界には魔法と個性(スキル)がある事、魔法も個性も生まれ持った魔力を消費する事。
 魔法は誰でも扱う事ができるが、危険性の高い魔法は魔法使いやエルフしか扱えない事。
 個性は限られた才能のある人間にしか発現しない事。
 この世界はディッチ大陸という広大な大陸と様々な島があり、自分はディッチ大陸南端の地にいる事。
 ルークは書庫の情報と記憶を照らし合わせ、自分の状況を理解することができた。
 (RPGみたいな世界だが、ゲームとは違ってちゃんとした別世界って感じだな。
 元の世界に未練は無いし、この世界で田舎の領主として安寧に暮らすっていうのも悪くないかもな)
 苦労しなくても領主という地位が確約されている今世の境遇に岡崎は満足を覚えていた。
 ただ一つの不満を除けばだが......。
 「はぁ~俺にも何かしら個性があれば良かったんだけどなぁ......どうせ転生させるなら特別凄いスキルをくれよ神様さぁ......」
 個性を持つ者はそれだけで特別な存在として歴史に名を刻む。
 前世で読んだ娯楽作品ではそういう特殊能力があるものだが、自分にそれらしい能力は見つからなかった。
 何も持ち得ない凡人は非凡な才を持つ者に憧れを抱くのが世の常。
 岡崎は転生した今世においても自分が誰かを羨んで生きなくてはいけないのかと肩を落としていた。
 そんな事を考えながら読書に耽っていると、背後からルークを呼ぶ声が聞こえ、振り返るとそこにリナが控えていた。
 「ルークフェルト様、お父上様がお呼びです。
 応接室に来るようにとの事ですのでご準備を」
 後ほど会わせると言った客人の事だろう。
 ルークは前世の経験と父親の態度から余程偉い立場の人間だと予想し気を引き締める。
 (偉い奴は最初に値踏みをしてくる。
 ファーストインプレッションで失敗すれば俺が領主となった時に俺だけでなく領民も冷遇される。気を引き締めないとな。)
 自分が優秀であると認めてもらわねばならない。
 プレゼンの時にも似た緊張を胸に秘め、ルークは読んでいた本を閉じ応接室へと向かった。
 コンッコンッコンッ
 「父上、ルークフェルトでございます」
 入れ。と一言が聞こえ、応接室のドアを開ける。
 そこには父アーネントと見慣れない青年が一人。
 ブロンドの綺麗な髪に澄んだ海のような青い瞳。
 服装こそみすぼらしさを感じる麻の服だが、その出で立ちから隠しきれない気品を感じる。
 俺は父上に促されるまま青年の目の前に座り、軽く挨拶をした。
 「アーネント•ローズロックの息子ルークフェルト•ローズロックでございます。
 このような僻地までお越しいただき大変感謝申し上げます。どうぞお見知りおきください」
 青年は何も答えない。気品を感じる客人とはいえ服装は平民そのものだ。
 見たままの立場で言えば自分の方が上だろうか?
 わざわざ超討試合を延期してまで会わなければならない客にしては貧相な見た目をしている。
 なぜ父上はこのような者を俺に紹介したんだ?
 ルークは青年の見た目から様々な疑問を浮かべたが、続く父の紹介にルークは驚きを隠せなくなった。
 「こちらの青年はジョン•ブラウン殿。
 故あって我が屋敷で世話をする事になった。そして、今日からお主達は義兄弟として暮らしてもらう事になる」
 義兄弟、その言葉を理解した時、ルークは思考するよりも先に言葉が出ていた。
 「お待ちください父上! 突然の事で何が何だか分かりません! いきなりやってきたこの人といきなり義兄弟だと言われても......。せめてこの人の出自とかどういう事情でうちで世話をする事になったとか説明してくれませんか!?」
 しかし、父はその疑問に答えようとはしなかった。
 「その事については今はまだ何も言えん。いずれ時期がくれば話すかもしれんが、今は何を聞かれても答えるつもりはない。
 そうだ、ジョン殿は確か18歳だからお前の|義兄《あに》という事になるな。あとは若者同士で語り打ち解けるが良い。儂は政務がある故失礼する」
 アーネントはそのまま応接室から出ていき、二人の間を重い沈黙が包み込む。
 混乱するばかりのルークであったが、家主の息子として客人を丁重に相手しない訳にはいかない。
 気まずい雰囲気の中なにを言うべきか迷っていると、その沈黙を終わらせたのはジョンだった。
 「ルークフェルトと言ったな。改めて、俺の名はジョン・ブラウン。ジョンで良い、俺もお前の事はルークと呼ぶぞ。これからよろしく頼む我が|義弟《おとうと》よ」
 退屈だけど平和な毎日が終わる予感がした。
 間違いなく、この先の人生を大きく狂わせる出会いだと俺の直感は告げていた。