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【4】④

ー/ー



    ◇  ◇  ◇
「瑛璃ちゃん、泳ぐの嫌ならそれでいいし、もしその気になったら言ってくれよ。遊泳場いつでも行けるからね」
 数日後、部活の練習から帰って来た航が瑛璃の顔を見るなり話し出す。
 もしかして泳ぎたいのだろうか。
 瑛璃と浜遊びなど面白くなかった? ……それも当然か、と顔には出さないようにして反省する。
「ありがと。一応プールで溺れない程度には泳げるんだけど、海はちょっとまだ……。航くんは私のこと気にしないで泳ぎに行ってね」
 泳ぐにしても、瑛璃と行けばお守りをさせることになるだろう。航の自由時間を奪って悪かったな、とつい俯いてしまう。
「俺はもう海なんて今更だよ。ここで十七年育って毎年泳いでたんだから。海ってさ、やっぱそこそこ泳げる人でも危ないから大人でも普通に浮き輪とか使ってる人いるよ。地元の連中はともかく遊びに来た人たちはさ」
「そうだよね、風や波で流されたりするし。カッコより安全が大事よね~」
 何気ない口調は本心なのか、……それとも瑛璃が気にしないように?
 とりあえず瑛璃も軽く合わせる。
 ここで暗い顔で謝っても航に負担を掛けるだけだ。
「だから『入るだけ』でも楽しめると思うしさあ、いつでも一緒に行くよ。うちにはないけど浮き輪なら買ってもいいし、友達んちは小さい弟いるからイルカボート借りられるんだ」
 瑛璃を何とか退屈させまいと計画してくれているらしい従兄の気持ちを無駄にはしないように、どうすれば上手く伝えられるだろう。
「わかった〜。でも私は足だけ浸かって波が来て~くらいのが楽しいの。子どもっぽいかな?」
 無理に合わせたり合わせてもらうよりも、正直な気持ちを知らせて航の意志で選んでもらう方がいい。
 それで彼が一人で泳ぎに行くならその方が瑛璃も気楽だった。
 とはいえ流石に幼稚だったか? と気になって訊いた瑛璃に、航は首を左右に振っている。
「全然! むしろ子どもの方が無謀なことしたがるんだよなあ。怖いもん知らずだからさ。じゃあまた明日か明後日、浜行こう!」
 従兄との次の約束。
 夏休みはまだ一週間も過ぎてはいない。なのに一日ずつ減って行く中で、つい残りを数えている自分がいた。
 来たくて来たわけではないのに。早く帰りたかった筈なのに。
 その晩、家人に就寝の挨拶を済ませて自室に戻った瑛璃は、友人にメッセージを送った。
朱音(あかね)、元気してる〜? 私もようやく馴染んできたよ。連絡しなくてごめんね。全然知らないところだしさすがに緊張もしちゃってえ。でもここ、海が綺麗なの! 親戚もみんなすごくいい人よ。》
 到着した日に無事着いた報告はしていた。
 本当はその夜にこの町や小野塚(おのづか)家の印象を書いて送るつもりだったのだが、伯母と航の会話を聞いてしまったことで動揺してタイミングを逸していたのだ。
《あたしは元気〜! 瑛璃も大丈夫みたいでよかったよ。でも無理しないようにね。》
 彼女の安堵が滲むような返信に、心配させていたのだろうと感じた。
《あ、私そろそろ寝ないと。朝早いんだ。》
《おお、規則正しい生活! じゃあおやすみ~(-_-)zzz》
 いくつかメッセージをやり取りして、これ以上遅くなってはまずい、と切り出した瑛璃に、朱音もあっさり返して来る。
 これからは些細な一文だけでも毎日送るようにしよう、と「おやすみ」のスタンプだけ送信し、瑛璃はベッドに入った。


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    ◇  ◇  ◇
「瑛璃ちゃん、泳ぐの嫌ならそれでいいし、もしその気になったら言ってくれよ。遊泳場いつでも行けるからね」
 数日後、部活の練習から帰って来た航が瑛璃の顔を見るなり話し出す。
 もしかして泳ぎたいのだろうか。
 瑛璃と浜遊びなど面白くなかった? ……それも当然か、と顔には出さないようにして反省する。
「ありがと。一応プールで溺れない程度には泳げるんだけど、海はちょっとまだ……。航くんは私のこと気にしないで泳ぎに行ってね」
 泳ぐにしても、瑛璃と行けばお守りをさせることになるだろう。航の自由時間を奪って悪かったな、とつい俯いてしまう。
「俺はもう海なんて今更だよ。ここで十七年育って毎年泳いでたんだから。海ってさ、やっぱそこそこ泳げる人でも危ないから大人でも普通に浮き輪とか使ってる人いるよ。地元の連中はともかく遊びに来た人たちはさ」
「そうだよね、風や波で流されたりするし。カッコより安全が大事よね~」
 何気ない口調は本心なのか、……それとも瑛璃が気にしないように?
 とりあえず瑛璃も軽く合わせる。
 ここで暗い顔で謝っても航に負担を掛けるだけだ。
「だから『入るだけ』でも楽しめると思うしさあ、いつでも一緒に行くよ。うちにはないけど浮き輪なら買ってもいいし、友達んちは小さい弟いるからイルカボート借りられるんだ」
 瑛璃を何とか退屈させまいと計画してくれているらしい従兄の気持ちを無駄にはしないように、どうすれば上手く伝えられるだろう。
「わかった〜。でも私は足だけ浸かって波が来て~くらいのが楽しいの。子どもっぽいかな?」
 無理に合わせたり合わせてもらうよりも、正直な気持ちを知らせて航の意志で選んでもらう方がいい。
 それで彼が一人で泳ぎに行くならその方が瑛璃も気楽だった。
 とはいえ流石に幼稚だったか? と気になって訊いた瑛璃に、航は首を左右に振っている。
「全然! むしろ子どもの方が無謀なことしたがるんだよなあ。怖いもん知らずだからさ。じゃあまた明日か明後日、浜行こう!」
 従兄との次の約束。
 夏休みはまだ一週間も過ぎてはいない。なのに一日ずつ減って行く中で、つい残りを数えている自分がいた。
 来たくて来たわけではないのに。早く帰りたかった筈なのに。
 その晩、家人に就寝の挨拶を済ませて自室に戻った瑛璃は、友人にメッセージを送った。
《|朱音《あかね》、元気してる〜? 私もようやく馴染んできたよ。連絡しなくてごめんね。全然知らないところだしさすがに緊張もしちゃってえ。でもここ、海が綺麗なの! 親戚もみんなすごくいい人よ。》
 到着した日に無事着いた報告はしていた。
 本当はその夜にこの町や|小野塚《おのづか》家の印象を書いて送るつもりだったのだが、伯母と航の会話を聞いてしまったことで動揺してタイミングを逸していたのだ。
《あたしは元気〜! 瑛璃も大丈夫みたいでよかったよ。でも無理しないようにね。》
 彼女の安堵が滲むような返信に、心配させていたのだろうと感じた。
《あ、私そろそろ寝ないと。朝早いんだ。》
《おお、規則正しい生活! じゃあおやすみ~(-_-)zzz》
 いくつかメッセージをやり取りして、これ以上遅くなってはまずい、と切り出した瑛璃に、朱音もあっさり返して来る。
 これからは些細な一文だけでも毎日送るようにしよう、と「おやすみ」のスタンプだけ送信し、瑛璃はベッドに入った。