第8話【高校デビュー】
ー/ー 桜が舞う4月。
緋と蒼は肩をくっつけて、高校の校門前まで歩いてきた。
夢にまで見たお揃いの制服。
暗いネイビーのブレザーに暗いグレーのプリーツスカートという何の変哲もない制服だが、緋は心底気に入っていた。
「蒼。写真撮ろ」
「ええ」
『入学式』と大きく書かれた看板の前に立つと緋は携帯を構え内カメラにすると精一杯手を伸ばし、自分と蒼の姿を画面に収める。顔を近づけ、頭がこつんとぶつかり、緋色と蒼色の髪が重なる。
シャッターのボタンをタップ。ほんの少しのラグから読み込み中の円が回り『撮影中です。そのままお待ちください』の文字。
「……よしおっけ」
「緋。あとで写真送って」
「もちろん」
他の人の邪魔にならないよう、ふたりは看板の前をどいて校門を通過。人が多く集まっている玄関前へと向かう。
「クラスもここで分かっちゃうんだよね」
「そうね。……緋と一緒がいい緋と一緒がいい緋と一緒じゃなきゃ中退緋と一緒じゃなきゃ中退……」
「中退……!?」
クラスが別でも会いに行くのに、と思いながらも、もちろん一緒のクラスがいいという気持ちは緋も同じだった。
「蒼と同じでお願いしますっ!」
神には祈らない。ここは自分自身が持つ運命力を信じて自分に祈る。
そして徐々に人が流れ始め、緋と蒼もクラス分けが書かれたボードの前まで行くことができた。
「……」
緋は目を凝らして名前を確認していった。1組にはふたりの名前は見当たらないので2組へ。
──1年2組
14番 霜夜蒼
20番 終緋
「やったよっしゃ!最っ高!」
「勝ったわ!」
緋と蒼はお互いに飛びついて飛び跳ねた。
そしてふと我に返って、はしゃぎすぎかと思って少し恥ずかしくなり、逃げるように玄関の中へと入った。
かなり端っこの1年2組の下駄箱前で、持ってきた新品の上履きに履き替える。
1年生教室は4階。階段からいちばん遠い所が1組で、2組はその手前。駄弁る同級生たちの脇をすり抜けながら進んでたどり着く。
扉は開け放たれていた。
1クラス40人。教室の席は横6列。黒板に対して窓側が左。窓側4列が縦7席で、廊下側が縦6席。
そして緋と蒼席はといえば、まず蒼が窓側2列目の最後尾。そして緋はその右斜め前。
「近いけど隣じゃなかったかぁ……」
「あと1だけ違えば……」
緋と蒼は、ふたりの机の間で落胆していた。
「──いや贅沢言うなし」
──と、ふたりの後ろを碧緑色のポニーテールが通り過ぎた。
蒼の左隣。出席番号7番の席に、故村碧が座った。
「碧……」
「貴女……」
緋はテンションを落とした。そして蒼に睨まれた碧はため息を付いた。
「はぁ……。あたしだってあんたたちと同じクラスだとか思ってなかったし7番だとも思ってなかったし」
碧は横髪を弄りながら、「いつもは9番とかなのに」とぼやく。
「……」
蒼は緋を守るように前に出た。
「緋に何かしたら絶対に許さないわよ」
「なんもしないし。小中の時はとりあえず緋虐めとけば安心だったってだけで」
「最低……」
「あたしだって本当は虐めとかやりたくなかったし。でも緋ってなんかちょっと変じゃん。暗いしやる気ないし空気読まないし、なんかムカつくから緋は虐めていい、むしろ虐めろって空気になっちゃってたのよ。踏み絵なわけ。緋虐めないとグループ入れなかったの」
「貴女に緋の何が分かるのよ。そんな言い訳どうだっていいのよ」
「虐められたくなかったら人に好かれる努力くらいしろって言ってんの。これ厚意だから。この話はおしまい。緋虐めるのがトレンドになったりしない限りあたし緋になんもしないし」
「……反省はしてないみたいね」
「あたしヒーローじゃないし」
「……こんなやつと席隣とか最悪」
「あたしは誰でもいいけど」
「死ねばいいのに」
蒼はドストレートに暴言を吐いた。
「ぁ……蒼。私、高校こそは虐められないように頑張るから」
「あんなやつの言うこと聞く必要無いのに……」
「ううん。私はスターになるの。だったらクラスメイトくらい手中に収めて見せなきゃって思ったり。……でもそれ以上にさ。蒼がいてくれるから、頑張ろうって思える」
「……そう。なら、私も頑張るわ。貴女を1番近くで支えるのが私の生きる意味だから」
「ふふっ、ありがと、蒼」
「……イチャイチャすんなし」
碧は頬杖をつきながら、すぐ側で笑い合う緋と蒼にため息をついていた。
◇◇◇
──入学式から1夜明け、高校生活2日目。緋と蒼が在籍する1年2組にも、こういう時期ではおきまりの自己紹介の時間が訪れていた。
「──故村碧です。趣味は音楽。中学ではジャズ部でドラムやってました。『SKYSHIPS』っていうインディーズバンド推してます。よろしくお願いします!」
パチパチと雑な拍手と、各々の簡単な自己紹介を交互に繰り返し、蒼へと順番が回ってくる。
「霜夜蒼です。……えっと……」
しかし、立ち上がって名前を言ったはいいものの、話すことを決めていなかった蒼は言葉に詰まってしまった。
「蒼、がんば!」
見かねた緋はエールを送った。
「……!」
緋の言葉を受け取った蒼は1度深呼吸し、目を開いてクラスメイトに言い放つ。
「……バンドが好きで……えっと、そこにいる、緋と一緒に<Chandelier>というバンドを組んでいて、ベースコーラスをやってます。将来もバンドで……いや、必ず、バンドで天下取ります」
「おぉぉ…!」
感嘆の声が多少上がった。拍手を受けながら、蒼は大きなため息をついて着席。
「はぁぁぁ……緊張したわ……」
「良かったよ蒼。天下とろ!」
「ええ……!」
そして、その後も順番が進んで、緋の番へ。
「ふぅぅぅ……」
緋は目を閉じて息を吐く。そして目を開き、立ち上がった。
「終緋です。蒼と一緒にバンドやってて、私はボーカルギターと作詞作曲を担当してます。いつか必ず世界に名を轟かせる大スターになります。今のうちに応援してくださいよろしくお願いします!」
緋は拍手を受けながら着席した。
……To be continued
緋と蒼は肩をくっつけて、高校の校門前まで歩いてきた。
夢にまで見たお揃いの制服。
暗いネイビーのブレザーに暗いグレーのプリーツスカートという何の変哲もない制服だが、緋は心底気に入っていた。
「蒼。写真撮ろ」
「ええ」
『入学式』と大きく書かれた看板の前に立つと緋は携帯を構え内カメラにすると精一杯手を伸ばし、自分と蒼の姿を画面に収める。顔を近づけ、頭がこつんとぶつかり、緋色と蒼色の髪が重なる。
シャッターのボタンをタップ。ほんの少しのラグから読み込み中の円が回り『撮影中です。そのままお待ちください』の文字。
「……よしおっけ」
「緋。あとで写真送って」
「もちろん」
他の人の邪魔にならないよう、ふたりは看板の前をどいて校門を通過。人が多く集まっている玄関前へと向かう。
「クラスもここで分かっちゃうんだよね」
「そうね。……緋と一緒がいい緋と一緒がいい緋と一緒じゃなきゃ中退緋と一緒じゃなきゃ中退……」
「中退……!?」
クラスが別でも会いに行くのに、と思いながらも、もちろん一緒のクラスがいいという気持ちは緋も同じだった。
「蒼と同じでお願いしますっ!」
神には祈らない。ここは自分自身が持つ運命力を信じて自分に祈る。
そして徐々に人が流れ始め、緋と蒼もクラス分けが書かれたボードの前まで行くことができた。
「……」
緋は目を凝らして名前を確認していった。1組にはふたりの名前は見当たらないので2組へ。
──1年2組
14番 霜夜蒼
20番 終緋
「やったよっしゃ!最っ高!」
「勝ったわ!」
緋と蒼はお互いに飛びついて飛び跳ねた。
そしてふと我に返って、はしゃぎすぎかと思って少し恥ずかしくなり、逃げるように玄関の中へと入った。
かなり端っこの1年2組の下駄箱前で、持ってきた新品の上履きに履き替える。
1年生教室は4階。階段からいちばん遠い所が1組で、2組はその手前。駄弁る同級生たちの脇をすり抜けながら進んでたどり着く。
扉は開け放たれていた。
1クラス40人。教室の席は横6列。黒板に対して窓側が左。窓側4列が縦7席で、廊下側が縦6席。
そして緋と蒼席はといえば、まず蒼が窓側2列目の最後尾。そして緋はその右斜め前。
「近いけど隣じゃなかったかぁ……」
「あと1だけ違えば……」
緋と蒼は、ふたりの机の間で落胆していた。
「──いや贅沢言うなし」
──と、ふたりの後ろを碧緑色のポニーテールが通り過ぎた。
蒼の左隣。出席番号7番の席に、故村碧が座った。
「碧……」
「貴女……」
緋はテンションを落とした。そして蒼に睨まれた碧はため息を付いた。
「はぁ……。あたしだってあんたたちと同じクラスだとか思ってなかったし7番だとも思ってなかったし」
碧は横髪を弄りながら、「いつもは9番とかなのに」とぼやく。
「……」
蒼は緋を守るように前に出た。
「緋に何かしたら絶対に許さないわよ」
「なんもしないし。小中の時はとりあえず緋虐めとけば安心だったってだけで」
「最低……」
「あたしだって本当は虐めとかやりたくなかったし。でも緋ってなんかちょっと変じゃん。暗いしやる気ないし空気読まないし、なんかムカつくから緋は虐めていい、むしろ虐めろって空気になっちゃってたのよ。踏み絵なわけ。緋虐めないとグループ入れなかったの」
「貴女に緋の何が分かるのよ。そんな言い訳どうだっていいのよ」
「虐められたくなかったら人に好かれる努力くらいしろって言ってんの。これ厚意だから。この話はおしまい。緋虐めるのがトレンドになったりしない限りあたし緋になんもしないし」
「……反省はしてないみたいね」
「あたしヒーローじゃないし」
「……こんなやつと席隣とか最悪」
「あたしは誰でもいいけど」
「死ねばいいのに」
蒼はドストレートに暴言を吐いた。
「ぁ……蒼。私、高校こそは虐められないように頑張るから」
「あんなやつの言うこと聞く必要無いのに……」
「ううん。私はスターになるの。だったらクラスメイトくらい手中に収めて見せなきゃって思ったり。……でもそれ以上にさ。蒼がいてくれるから、頑張ろうって思える」
「……そう。なら、私も頑張るわ。貴女を1番近くで支えるのが私の生きる意味だから」
「ふふっ、ありがと、蒼」
「……イチャイチャすんなし」
碧は頬杖をつきながら、すぐ側で笑い合う緋と蒼にため息をついていた。
◇◇◇
──入学式から1夜明け、高校生活2日目。緋と蒼が在籍する1年2組にも、こういう時期ではおきまりの自己紹介の時間が訪れていた。
「──故村碧です。趣味は音楽。中学ではジャズ部でドラムやってました。『SKYSHIPS』っていうインディーズバンド推してます。よろしくお願いします!」
パチパチと雑な拍手と、各々の簡単な自己紹介を交互に繰り返し、蒼へと順番が回ってくる。
「霜夜蒼です。……えっと……」
しかし、立ち上がって名前を言ったはいいものの、話すことを決めていなかった蒼は言葉に詰まってしまった。
「蒼、がんば!」
見かねた緋はエールを送った。
「……!」
緋の言葉を受け取った蒼は1度深呼吸し、目を開いてクラスメイトに言い放つ。
「……バンドが好きで……えっと、そこにいる、緋と一緒に<Chandelier>というバンドを組んでいて、ベースコーラスをやってます。将来もバンドで……いや、必ず、バンドで天下取ります」
「おぉぉ…!」
感嘆の声が多少上がった。拍手を受けながら、蒼は大きなため息をついて着席。
「はぁぁぁ……緊張したわ……」
「良かったよ蒼。天下とろ!」
「ええ……!」
そして、その後も順番が進んで、緋の番へ。
「ふぅぅぅ……」
緋は目を閉じて息を吐く。そして目を開き、立ち上がった。
「終緋です。蒼と一緒にバンドやってて、私はボーカルギターと作詞作曲を担当してます。いつか必ず世界に名を轟かせる大スターになります。今のうちに応援してくださいよろしくお願いします!」
緋は拍手を受けながら着席した。
……To be continued
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