【3】③
ー/ー「──の頭、あんな色だと思わなかったからちょっとびっくりした。写真は光の加減とかでイメージ変わることあるし、実物より暗く写ってたってことなんだよな。父さんは生まれつきすごく明るい色なんだって言ってたけど、さすがにあれほどだと思わないだろー」
「まあたしかにあの色はね。お父さんも赤っぽいけどまた全然違うし」
「うん。聞いてなかったら『高校生なのにこんな目立つ色に染めるんだ!』って思っちゃったかも。あ、だからわざわざ教えてくれたのかな?」
「お父さんは実際瑛璃ちゃんと何度も会ってるからね。写真が本当の色と違うのも気づいたからでしょ」
「そうだよな。俺と母さんは初めてだけど、父さんは知ってるんだもんな」
「でもさ、染めたり色抜いたりだったらあんなむらなく自然にはならないんじゃない? ……ここ来る人の中にも、中高生くらいで派手なカラーにしてる子もいるけどひと目でわかるでしょ。傷んだ感じもだし、『プリン』とかいうあれも」
送った写真は、母が室内でスマートフォンのカメラで撮影したものだ。
瑛璃の髪も陽の光の下とは確かに違う色味に見えるため、航の驚きも理解はできる。
色素の薄い髪は紛れもなく天然であるにも拘らず、これまでにも「染めているのでは」と疑われたことはあった。
今通っている高校は結構自由なためそういった心配もないが、中学時代はわざわざ「地毛証明」を提出していたのだ。
「まあたしかにあの色はね。お父さんも赤っぽいけどまた全然違うし」
「うん。聞いてなかったら『高校生なのにこんな目立つ色に染めるんだ!』って思っちゃったかも。あ、だからわざわざ教えてくれたのかな?」
「お父さんは実際瑛璃ちゃんと何度も会ってるからね。写真が本当の色と違うのも気づいたからでしょ」
「そうだよな。俺と母さんは初めてだけど、父さんは知ってるんだもんな」
「でもさ、染めたり色抜いたりだったらあんなむらなく自然にはならないんじゃない? ……ここ来る人の中にも、中高生くらいで派手なカラーにしてる子もいるけどひと目でわかるでしょ。傷んだ感じもだし、『プリン』とかいうあれも」
送った写真は、母が室内でスマートフォンのカメラで撮影したものだ。
瑛璃の髪も陽の光の下とは確かに違う色味に見えるため、航の驚きも理解はできる。
色素の薄い髪は紛れもなく天然であるにも拘らず、これまでにも「染めているのでは」と疑われたことはあった。
今通っている高校は結構自由なためそういった心配もないが、中学時代はわざわざ「地毛証明」を提出していたのだ。
「それにしてもさあ、夏中遊びにってすごいよな。いや、来るのがただの田舎町なのはどうなんだと思うけど。一か月も旅行とか普通はないじゃん?」
「……どこのお家にも事情があるのよ。それはあんたにもわかってるんじゃないの?」
「それはそう、だけど」
伯母の咎めるような声音に、航が言葉を詰まらせる気配がした。
「まあでも、思ったよりはよさそうな子って感じ? エラソーなとこもないみたいだし、ちょっと安心したかな。明日は浜行くんだ」
「そういうの、瑛璃ちゃんにわからないように気をつけなさいよ。考えてることって態度や表情とかに出るんだから」
「それくらい俺だって知ってるよ。つーか俺、結構頑張ってただろ?」
「そうね〜。意外とやればできるじゃない、ってそこは見直したわ」
二人の会話は、悪意のある陰口でもなんでもない。むしろそれだけ瑛璃に神経を遣ってくれている証だ。
それでも、自分の立ち位置を改めて突き付けられた気がした。
このまま身を翻して部屋に戻りたかったが、そういうわけにはいかない。
最初に入浴させてもらったからには、待たせた彼らのためにも「空きました」と知らせて礼を述べるのは義務だ。
瑛璃は少し考えて、浴室に繋がる洗面所のドアをそっと開けると故意に音を立てて閉めた。
「お風呂、先にいただきました。すみませんでした」
何食わぬ顔でリビングのドアを開け、精一杯繕った笑顔で中の伯母と従兄に告げる。
「そんなのいいのよ〜」
温かな伯母の笑みの裏側さえ勘繰ってしまうのが苦しかった。
「あ、私ドライヤー持って来てるんですけど、部屋で髪乾かしてもいいでしょうか」
平静を装いつつ、それだけは忘れずに確認する。
「もちろんよ。うちのを使ってくれてもいいけど、自分のがあるならその方がいいわよね。女の子で髪も長いし」
「すみません。本当にありがとうございました。それじゃおやすみなさい」
口々におやすみ、と返してくれる二人に頭を下げて、ドアを閉めた途端に歯を食いしばり小走りで廊下を進み階段を駆け上がる。
自室に入った途端に気力が尽きてしまい、ドライヤーを取り出す前に瑛璃はベッドにうつ伏せに寝転んだ。
可哀想な子だから優しくしてあげないと。面倒だけれど、姪だから、従妹だから仕方がない。
きっとそれが彼らの本音。
いや、母の兄である伯父でさえ、頼まれて不本意ながら止むを得ず、かもしれないのだ。
スマートフォンに目をやり朱音に電話を、と一瞬頭を過ぎった思いを押さえつける。
まだ初日。
いや、初日だからこそかもしれないが、ここで安易に友人を頼ったら足元から崩れて行くような気がした。もう二度と、立ち上がれなくなりそうで怖い。
どうにか気合いを入れて髪を乾かしたあと。
眠気もなく、このまま一晩中悲観的な気分で過ごすのか、と諦めの心地で床に入る。
しかし自覚する以上に疲労が溜まっていたらしく、瑛璃はいつの間にか眠りの淵に落ちていた。
「……どこのお家にも事情があるのよ。それはあんたにもわかってるんじゃないの?」
「それはそう、だけど」
伯母の咎めるような声音に、航が言葉を詰まらせる気配がした。
「まあでも、思ったよりはよさそうな子って感じ? エラソーなとこもないみたいだし、ちょっと安心したかな。明日は浜行くんだ」
「そういうの、瑛璃ちゃんにわからないように気をつけなさいよ。考えてることって態度や表情とかに出るんだから」
「それくらい俺だって知ってるよ。つーか俺、結構頑張ってただろ?」
「そうね〜。意外とやればできるじゃない、ってそこは見直したわ」
二人の会話は、悪意のある陰口でもなんでもない。むしろそれだけ瑛璃に神経を遣ってくれている証だ。
それでも、自分の立ち位置を改めて突き付けられた気がした。
このまま身を翻して部屋に戻りたかったが、そういうわけにはいかない。
最初に入浴させてもらったからには、待たせた彼らのためにも「空きました」と知らせて礼を述べるのは義務だ。
瑛璃は少し考えて、浴室に繋がる洗面所のドアをそっと開けると故意に音を立てて閉めた。
「お風呂、先にいただきました。すみませんでした」
何食わぬ顔でリビングのドアを開け、精一杯繕った笑顔で中の伯母と従兄に告げる。
「そんなのいいのよ〜」
温かな伯母の笑みの裏側さえ勘繰ってしまうのが苦しかった。
「あ、私ドライヤー持って来てるんですけど、部屋で髪乾かしてもいいでしょうか」
平静を装いつつ、それだけは忘れずに確認する。
「もちろんよ。うちのを使ってくれてもいいけど、自分のがあるならその方がいいわよね。女の子で髪も長いし」
「すみません。本当にありがとうございました。それじゃおやすみなさい」
口々におやすみ、と返してくれる二人に頭を下げて、ドアを閉めた途端に歯を食いしばり小走りで廊下を進み階段を駆け上がる。
自室に入った途端に気力が尽きてしまい、ドライヤーを取り出す前に瑛璃はベッドにうつ伏せに寝転んだ。
可哀想な子だから優しくしてあげないと。面倒だけれど、姪だから、従妹だから仕方がない。
きっとそれが彼らの本音。
いや、母の兄である伯父でさえ、頼まれて不本意ながら止むを得ず、かもしれないのだ。
スマートフォンに目をやり朱音に電話を、と一瞬頭を過ぎった思いを押さえつける。
まだ初日。
いや、初日だからこそかもしれないが、ここで安易に友人を頼ったら足元から崩れて行くような気がした。もう二度と、立ち上がれなくなりそうで怖い。
どうにか気合いを入れて髪を乾かしたあと。
眠気もなく、このまま一晩中悲観的な気分で過ごすのか、と諦めの心地で床に入る。
しかし自覚する以上に疲労が溜まっていたらしく、瑛璃はいつの間にか眠りの淵に落ちていた。
みんなのリアクション
まだリアクションはありません。最初の一歩を踏み出しましょう!
「──の頭、あんな色だと思わなかったからちょっとびっくりした。写真は光の加減とかでイメージ変わることあるし、実物より暗く写ってたってことなんだよな。父さんは生まれつきすごく明るい色なんだって言ってたけど、さすがにあれほどだと思わないだろー」
「まあたしかにあの色はね。お父さんも赤っぽいけどまた全然違うし」
「うん。聞いてなかったら『高校生なのにこんな目立つ色に染めるんだ!』って思っちゃったかも。あ、だからわざわざ教えてくれたのかな?」
「お父さんは実際瑛璃ちゃんと何度も会ってるからね。写真が本当の色と違うのも気づいたからでしょ」
「そうだよな。俺と母さんは初めてだけど、父さんは知ってるんだもんな」
「でもさ、染めたり色抜いたりだったらあんなむらなく自然にはならないんじゃない? ……ここ来る人の中にも、中高生くらいで派手なカラーにしてる子もいるけどひと目でわかるでしょ。傷んだ感じもだし、『プリン』とかいうあれも」
送った写真は、母が室内でスマートフォンのカメラで撮影したものだ。
瑛璃の髪も陽の光の下とは確かに違う色味に見えるため、航の驚きも理解はできる。
色素の薄い髪は紛れもなく天然であるにも拘らず、これまでにも「染めているのでは」と疑われたことはあった。
今通っている高校は結構自由なためそういった心配もないが、中学時代はわざわざ「地毛証明」を提出していたのだ。
「まあたしかにあの色はね。お父さんも赤っぽいけどまた全然違うし」
「うん。聞いてなかったら『高校生なのにこんな目立つ色に染めるんだ!』って思っちゃったかも。あ、だからわざわざ教えてくれたのかな?」
「お父さんは実際瑛璃ちゃんと何度も会ってるからね。写真が本当の色と違うのも気づいたからでしょ」
「そうだよな。俺と母さんは初めてだけど、父さんは知ってるんだもんな」
「でもさ、染めたり色抜いたりだったらあんなむらなく自然にはならないんじゃない? ……ここ来る人の中にも、中高生くらいで派手なカラーにしてる子もいるけどひと目でわかるでしょ。傷んだ感じもだし、『プリン』とかいうあれも」
送った写真は、母が室内でスマートフォンのカメラで撮影したものだ。
瑛璃の髪も陽の光の下とは確かに違う色味に見えるため、航の驚きも理解はできる。
色素の薄い髪は紛れもなく天然であるにも拘らず、これまでにも「染めているのでは」と疑われたことはあった。
今通っている高校は結構自由なためそういった心配もないが、中学時代はわざわざ「地毛証明」を提出していたのだ。
「それにしてもさあ、夏中遊びにってすごいよな。いや、来るのが|ただの田舎町《ここ》なのはどうなんだと思うけど。一か月も旅行とか普通はないじゃん?」
「……どこのお家にも事情があるのよ。それはあんたにもわかってるんじゃないの?」
「それはそう、だけど」
伯母の咎めるような声音に、航が言葉を詰まらせる気配がした。
「まあでも、思ったよりはよさそうな子って感じ? エラソーなとこもないみたいだし、ちょっと安心したかな。明日は浜行くんだ」
「そういうの、瑛璃ちゃんにわからないように気をつけなさいよ。考えてることって態度や表情とかに出るんだから」
「それくらい俺だって知ってるよ。つーか俺、結構頑張ってただろ?」
「そうね〜。意外とやればできるじゃない、ってそこは見直したわ」
二人の会話は、悪意のある陰口でもなんでもない。むしろそれだけ瑛璃に神経を遣ってくれている証だ。
それでも、自分の立ち位置を改めて突き付けられた気がした。
このまま身を翻して部屋に戻りたかったが、そういうわけにはいかない。
最初に入浴させてもらったからには、待たせた彼らのためにも「空きました」と知らせて礼を述べるのは義務だ。
瑛璃は少し考えて、浴室に繋がる洗面所のドアをそっと開けると故意に音を立てて閉めた。
「お風呂、先にいただきました。すみませんでした」
何食わぬ顔でリビングのドアを開け、精一杯繕った笑顔で中の伯母と従兄に告げる。
「そんなのいいのよ〜」
温かな伯母の笑みの裏側さえ勘繰ってしまうのが苦しかった。
「あ、私ドライヤー持って来てるんですけど、部屋で髪乾かしてもいいでしょうか」
平静を装いつつ、それだけは忘れずに確認する。
「もちろんよ。うちのを使ってくれてもいいけど、自分のがあるならその方がいいわよね。女の子で髪も長いし」
「すみません。本当にありがとうございました。それじゃおやすみなさい」
口々におやすみ、と返してくれる二人に頭を下げて、ドアを閉めた途端に歯を食いしばり小走りで廊下を進み階段を駆け上がる。
自室に入った途端に気力が尽きてしまい、ドライヤーを取り出す前に瑛璃はベッドにうつ伏せに寝転んだ。
可哀想な子だから優しくしてあげないと。面倒だけれど、姪だから、従妹だから仕方がない。
きっとそれが彼らの本音。
いや、母の兄である伯父でさえ、頼まれて不本意ながら止むを得ず、かもしれないのだ。
スマートフォンに目をやり|朱音《あかね》に電話を、と一瞬頭を過ぎった思いを押さえつける。
まだ初日。
いや、初日だからこそかもしれないが、ここで安易に友人を頼ったら足元から崩れて行くような気がした。もう二度と、立ち上がれなくなりそうで怖い。
どうにか気合いを入れて髪を乾かしたあと。
眠気もなく、このまま一晩中悲観的な気分で過ごすのか、と諦めの心地で床に入る。
しかし自覚する以上に疲労が溜まっていたらしく、瑛璃はいつの間にか眠りの淵に落ちていた。
「……どこのお家にも事情があるのよ。それはあんたにもわかってるんじゃないの?」
「それはそう、だけど」
伯母の咎めるような声音に、航が言葉を詰まらせる気配がした。
「まあでも、思ったよりはよさそうな子って感じ? エラソーなとこもないみたいだし、ちょっと安心したかな。明日は浜行くんだ」
「そういうの、瑛璃ちゃんにわからないように気をつけなさいよ。考えてることって態度や表情とかに出るんだから」
「それくらい俺だって知ってるよ。つーか俺、結構頑張ってただろ?」
「そうね〜。意外とやればできるじゃない、ってそこは見直したわ」
二人の会話は、悪意のある陰口でもなんでもない。むしろそれだけ瑛璃に神経を遣ってくれている証だ。
それでも、自分の立ち位置を改めて突き付けられた気がした。
このまま身を翻して部屋に戻りたかったが、そういうわけにはいかない。
最初に入浴させてもらったからには、待たせた彼らのためにも「空きました」と知らせて礼を述べるのは義務だ。
瑛璃は少し考えて、浴室に繋がる洗面所のドアをそっと開けると故意に音を立てて閉めた。
「お風呂、先にいただきました。すみませんでした」
何食わぬ顔でリビングのドアを開け、精一杯繕った笑顔で中の伯母と従兄に告げる。
「そんなのいいのよ〜」
温かな伯母の笑みの裏側さえ勘繰ってしまうのが苦しかった。
「あ、私ドライヤー持って来てるんですけど、部屋で髪乾かしてもいいでしょうか」
平静を装いつつ、それだけは忘れずに確認する。
「もちろんよ。うちのを使ってくれてもいいけど、自分のがあるならその方がいいわよね。女の子で髪も長いし」
「すみません。本当にありがとうございました。それじゃおやすみなさい」
口々におやすみ、と返してくれる二人に頭を下げて、ドアを閉めた途端に歯を食いしばり小走りで廊下を進み階段を駆け上がる。
自室に入った途端に気力が尽きてしまい、ドライヤーを取り出す前に瑛璃はベッドにうつ伏せに寝転んだ。
可哀想な子だから優しくしてあげないと。面倒だけれど、姪だから、従妹だから仕方がない。
きっとそれが彼らの本音。
いや、母の兄である伯父でさえ、頼まれて不本意ながら止むを得ず、かもしれないのだ。
スマートフォンに目をやり|朱音《あかね》に電話を、と一瞬頭を過ぎった思いを押さえつける。
まだ初日。
いや、初日だからこそかもしれないが、ここで安易に友人を頼ったら足元から崩れて行くような気がした。もう二度と、立ち上がれなくなりそうで怖い。
どうにか気合いを入れて髪を乾かしたあと。
眠気もなく、このまま一晩中悲観的な気分で過ごすのか、と諦めの心地で床に入る。
しかし自覚する以上に疲労が溜まっていたらしく、瑛璃はいつの間にか眠りの淵に落ちていた。