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第6話【ファン第1号】

ー/ー



 (つい)(ひいろ)はうきうきで靴音を鳴らしていた。蒼(あおい)はそれを微笑ましく見守りながら、後を追って進む。
 ふたりとも、楽器と機材を載せたキャリーカートを引いている。

 駅周辺、程よく人目につきそうでかつ通行の邪魔にならなそうな広い歩道をステージとし、ふたりはキャリーカートから荷物を下ろして機材の準備に取り掛かる。
 アンプを下ろしマイクスタンドを立て、シールドで繋いでいく。

「はぁぁ……大丈夫かしら」
「大丈夫だよ。いつも通り楽しくやるだけだから。私も頑張るし」
「……ええ」

「ふふっ、じゃ、ツイートしてカメラ用意したらやろっか」

 緋は、<Chandelier>のアカウントへと変更した自分のアカウントで『ここで路上ライブやります!』とツイート。マイクスタンドと同じような高さのスマホスタンドに、カメラを起動した携帯をセット。

 緋はジャズマスターを、蒼は緋の右側に立ち、ジャズベースを構えチューニング。

「あーああ」

 マイクの音量、各アンプの音量をチェック。

「よし……蒼」
「ええ」


 ──Dサス4のひと撫で。それに続いてのアルペジオを少々。冬の寒さもどこかへ消え去り、かじかむことのない指は緋の思い通りに動く。

 そして。

「はじめまして<Chandelier>と言います!今からライブやります!タダなのでよかったら1曲だけでも聴いていってくださいっ!」

 ──つま先で地面を叩く音をバスドラ代わりにし4カウント、ふたりは向き合って体を縦に振った。

 それと同時に鳴らされた一振り。

 息のあった出だしだった。
 下げた頭を上げてアイコンタクト。
 緋が三本指で持つ丸みを帯びた正三角形のピックが、ぽつりぽつりと垂れ落ちる雨音のようなアルペジオからなる柔らかいサウンドのイントロを奏でていく。その後ろでは、蒼の細い指が弾くベースの低く太い音が、確かに曲を支えていた。

「——」

 緋は目を閉じながらそっと口を開く。

 そしてほんの少し、わざとかすれさせた甘い声で、歌を放つ。

 晴れ渡った蒼色(スカイブルー)の空の下で。緋が初めて作った曲『Skyblue』を、蒼とふたりで演奏する。

 三本指で持つ硬めのピックが弦を弾くことで、ジャズマスターからスイートハニーオーバードライブを伝って放たれるほんのりと歪んだ音。かき鳴らしたそのコードに重ねられる低いEの音。直接心臓を揺さぶるような、蒼の音。

 また会いたいと願って作った曲を、会いたかった本人と演奏している。

 改めてかみしめた今という幸せに、緋の感情は昂った。

 ジャズマスターのヘッドを振って、サビへ。ほんの少し声を裏返して、力を込めて歌う緋の声に、蒼のコーラスが重ねられる。温かかった。文字通りの、蒼空のような温かさ。ハモリも絶妙。ここはふたりで考えたアレンジを内心で褒めちぎった。

 気付けば数人。観客(オーディエンス)が集まってきていた。

 ひとりひとりを目に焼き付ける。そしてその中で一人、黒髪のショートカットの少女が、誰よりも真剣な眼差しで緋と蒼を見つめているのが分かった。

 蒼と共にバンドを組み、共に路上ライブで演奏できて、そのうえそれが人にちゃんと届いている。その実感が、緋にさらなる力を与える。

 サビの最後、肺が(カラ)になるまで息を振り絞って伸ばし、マイクから顔を遠ざけ間奏へ。

 カッティングを挟みつつ勢いをつけ隣を見ると蒼と目が合う。

 互いに笑顔だった。

 緋は続けてコードをかき鳴らし、蒼は重たい音を鳴らす。風か雷か。なんとなく、天気の良くない雰囲気のリフを入れる。曲のできた背景としてはこれ以上にない荒々しさだ。

「——」

 緋は再度歌い始める。

 6年前、蒼が消え去ったその日からのことを思い出しながら。

 顔も、声も、匂いも、体温も。何もかもが焼き付いたまま。蒼がいなくなったその日、現実味が無さ過ぎて、ずっと半分夢を見ているような人生が過ぎていった。それほどまでに蒼が人生の大半を占めていたことを思い知って、悪い夢が覚めるのをずっと待ち続けていた。
 今となっては、懐かしいとさえ思う。そんな、スカスカな6年間。

 Skyblueの歌詞は大して前を向くような内容でもなく、明るいものでもない。

 けれども、今の緋と蒼にとっては、既に笑い話にできそうなものだった。

 今は楽しさと、幸せの感情がなによりも勝る。


 ひとりではできなかったデュエット。
 緋のボーカルに蒼のコーラスが寄り添い、重なることで、過去の切なさも今の温かさも、今までの全てを内包した、柔らかく優しいハーモニーが生まれていた。

 そしてクライマックスへ。

 緋はその長い前髪の奥で目を大きく開き、右手を大きく振り下ろした。蒼もまた、弦を弾く2本の指に力を籠める。

 この空間さえ、熱を帯びていた。
 野外、それも路上で。
 過ぎ去る人もいる中で、確かに足を止めた人がいて、その十数人が、見入り、聴き入っていた。リズムに合わせ、頭も上下に揺れている。
 激しいわけではない。じわりじわりと、体の内側に浸透していく熱。
 密度はそれほどでもライブハウスさながらの、音が持つアルコール分にもにた熱がここにはあった。

 最後、徐々にふたりの声量は消えていく。だがギターとベースの音が、最後までこの場を盛り上げる。

 声を振り絞ったふたりはマイクから互いへと向きを変え、少し歩み寄りながら全力を込めたアウトロをかき鳴らした。
 体を振り、長い髪とコートの裾、ストラップの後ろへと延びるシールドケーブルが一緒になって舞う。

 地面をたたくつま先までも利用し、リズムは乱さず、最後の最後まで息ぴったりの以心伝心を貫き通し、緋と蒼は大きく体を反らして、最後の一音をぶっ放した。


 その残響が消えていくにつれ、それと入れ替わりで拍手がパラパラと鳴り始めた。

「……ありがとうございました!『Skyblue』という曲でしたっ!」

 緋と蒼は軽く頭を下げた。
 緋はピックをジャズマスターの弦に挟むとマイクスタンドの下に置いたペットボトルを拾い上げ、キャップを外して口をつける。

「……改めまして、<Chandelier>という名前のバンドやってます!ボーカルギターの終緋と、こっちがベースコラーラスの霜夜蒼。ツーピースでやってます。ぜひ覚えて帰ってくださいっ!あとYouTubeと、Twitterもやってるので、登録とフォローぜひお願いします!…で、私たち始めたばっかでまだオリジナル曲も少ないので、カバーも混ぜてあと何曲かやって今日は終わろうと思いますっ!」

 緋はつま先で地面を叩きながら、小声で「1(one)2(two)3(three)4(four)」と出だしのリズムをとって、蒼と共に楽器をぶっぱなした。



◇◇◇



「──ありがとうございました!<Chandelier>てした~っ!!」

 ぱちぱちと20人程度の拍手を受けて、路上ライブは終了となった。

「初ライブにしては超良かったんじゃない?」
 緋はジャズマスターを持ち上げストラップを外しながら、蒼に聞いた。
「ええ。ミスもあったし緊張もしっぱなしだったけど……でも楽しかったわ」
「よかった。蒼がライブ楽しんでできたのがいちばん嬉しい。続けられそう?」
「もちろんよ。……聴いてくれる人がいると、凄く力になるような気がして。続けるどころか、やめられないと思う」
「やめらんないよ絶対。私おばあちゃんになっても歌う気でいるから」
「そうね」

 片付けさえ楽しみながら、緋と蒼は笑いあった。
 ギター、ベースをケースに入れ、マイクスタンドを畳み、ポータブル電源とアンプをキャリーカートに積んでいく。

 終了。そう思い立ち上がったその時。

「──あのっ」

 少女の声がふたりを呼んだ。

「ん?」

 緋は振り向いた。するとそこには、ライブ中にも真ん前に見えた、黒髪ショートの女の子の姿があった。身長が緋より10センチは小さく、だいたい小学校高学年くらいの外見。横髪は姫カットにしており、柔らかそうなほっぺたの可愛い顔。小動物のような可愛らしさがある。彼女は緋に向かい、吐息多めの声で話し始める。

「えっと……ライブ良かったです」
「え、ありがとう!嬉しい」
「なんかすごく楽しそうで、元気貰いました」
「ほんと!?えー凄い嬉しい!嬉しいしか言ってないけど、でも嬉しい。私前まではひとりでやってたんだけど、そこの蒼とバンド組んでからは今日が初ライブでね」
「あ、知ってます。シンガーソングライターやってたんですよね。……私、初めて見た時から……その、緋さんの歌が好きで、聴いてました」
「えー嬉しい!なんか、こう、声かけてもらうとか初めてだからなんかスターになった気分」
「私にとってはスターですよ。……だから、今日ライブ見れてよかったです」
「ありがとう。ねぇ、名前なんて言うの?」
「え?名前ですか?」
「あ、嫌だった?嫌なら別にいいけど」
「あ、いえ……!昏木(くらき)(れい)……です!」
「黎(れい)ちゃんね。……黎ちゃん。うん、覚えとく!」
「えぇ、そんな、私の名前なんかわざわざ……」
「だって数少ない……っていうかなんなら初めてのファンだし。ね、蒼」
「え?……ええ。そうね」
「……で、私たちも駆け出しだからさ。ファンひとりひとり大切にしないとこの先やってけないし。もちろん有名になってもずっと大切にし続けるよ。黎ちゃんのことはずっと覚えとくから」
「あっ……ありがとうございます!!……えっと、あと、蒼さん……の、ベースとコーラスもすごく良かったです」
「えっ、あ……ありがとう……」
 蒼は少し顔を逸らしながら呟いた。

「……で、では。今日はありがとうございました!楽しかったです!またライブ見に来ます!」
「うん!またきて!」
「はい!」

 <Chandelier>のファン第1号、昏木(くらき)(れい)はお辞儀をすると、駆け足で駅の方へ走っていった。

「……よし!私たちも帰ろ!」
「ええ」



……To be continued



──────
おまけ
路上ライブのセトリ

1.Skyblue
2.Oasis/Wonderwall(Cover)
3.ELLEGARDEN/金星(Cover)
4.City night
5.ELLEGARDEN/風の日(Cover)
6.Oasis/Acquiesce(Cover)
7.[Alexandros]/ワタリドリ(Cover)


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次のエピソードへ進む 第7話【卒業】


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 終《つい》緋《ひいろ》はうきうきで靴音を鳴らしていた。蒼《あおい》はそれを微笑ましく見守りながら、後を追って進む。
 ふたりとも、楽器と機材を載せたキャリーカートを引いている。
 駅周辺、程よく人目につきそうでかつ通行の邪魔にならなそうな広い歩道をステージとし、ふたりはキャリーカートから荷物を下ろして機材の準備に取り掛かる。
 アンプを下ろしマイクスタンドを立て、シールドで繋いでいく。
「はぁぁ……大丈夫かしら」
「大丈夫だよ。いつも通り楽しくやるだけだから。私も頑張るし」
「……ええ」
「ふふっ、じゃ、ツイートしてカメラ用意したらやろっか」
 緋は、<Chandelier>のアカウントへと変更した自分のアカウントで『ここで路上ライブやります!』とツイート。マイクスタンドと同じような高さのスマホスタンドに、カメラを起動した携帯をセット。
 緋はジャズマスターを、蒼は緋の右側に立ち、ジャズベースを構えチューニング。
「あーああ」
 マイクの音量、各アンプの音量をチェック。
「よし……蒼」
「ええ」
 ──Dサス4のひと撫で。それに続いてのアルペジオを少々。冬の寒さもどこかへ消え去り、かじかむことのない指は緋の思い通りに動く。
 そして。
「はじめまして<Chandelier>と言います!今からライブやります!タダなのでよかったら1曲だけでも聴いていってくださいっ!」
 ──つま先で地面を叩く音をバスドラ代わりにし4カウント、ふたりは向き合って体を縦に振った。
 それと同時に鳴らされた一振り。
 息のあった出だしだった。
 下げた頭を上げてアイコンタクト。
 緋が三本指で持つ丸みを帯びた正三角形のピックが、ぽつりぽつりと垂れ落ちる雨音のようなアルペジオからなる柔らかいサウンドのイントロを奏でていく。その後ろでは、蒼の細い指が弾くベースの低く太い音が、確かに曲を支えていた。
「——」
 緋は目を閉じながらそっと口を開く。
 そしてほんの少し、わざとかすれさせた甘い声で、歌を放つ。
 晴れ渡った蒼色《スカイブルー》の空の下で。緋が初めて作った曲『Skyblue』を、蒼とふたりで演奏する。
 三本指で持つ硬めのピックが弦を弾くことで、ジャズマスターからスイートハニーオーバードライブを伝って放たれるほんのりと歪んだ音。かき鳴らしたそのコードに重ねられる低いEの音。直接心臓を揺さぶるような、蒼の音。
 また会いたいと願って作った曲を、会いたかった本人と演奏している。
 改めてかみしめた今という幸せに、緋の感情は昂った。
 ジャズマスターのヘッドを振って、サビへ。ほんの少し声を裏返して、力を込めて歌う緋の声に、蒼のコーラスが重ねられる。温かかった。文字通りの、蒼空のような温かさ。ハモリも絶妙。ここはふたりで考えたアレンジを内心で褒めちぎった。
 気付けば数人。観客《オーディエンス》が集まってきていた。
 ひとりひとりを目に焼き付ける。そしてその中で一人、黒髪のショートカットの少女が、誰よりも真剣な眼差しで緋と蒼を見つめているのが分かった。
 蒼と共にバンドを組み、共に路上ライブで演奏できて、そのうえそれが人にちゃんと届いている。その実感が、緋にさらなる力を与える。
 サビの最後、肺が空《カラ》になるまで息を振り絞って伸ばし、マイクから顔を遠ざけ間奏へ。
 カッティングを挟みつつ勢いをつけ隣を見ると蒼と目が合う。
 互いに笑顔だった。
 緋は続けてコードをかき鳴らし、蒼は重たい音を鳴らす。風か雷か。なんとなく、天気の良くない雰囲気のリフを入れる。曲のできた背景としてはこれ以上にない荒々しさだ。
「——」
 緋は再度歌い始める。
 6年前、蒼が消え去ったその日からのことを思い出しながら。
 顔も、声も、匂いも、体温も。何もかもが焼き付いたまま。蒼がいなくなったその日、現実味が無さ過ぎて、ずっと半分夢を見ているような人生が過ぎていった。それほどまでに蒼が人生の大半を占めていたことを思い知って、悪い夢が覚めるのをずっと待ち続けていた。
 今となっては、懐かしいとさえ思う。そんな、スカスカな6年間。
 Skyblueの歌詞は大して前を向くような内容でもなく、明るいものでもない。
 けれども、今の緋と蒼にとっては、既に笑い話にできそうなものだった。
 今は楽しさと、幸せの感情がなによりも勝る。
 ひとりではできなかったデュエット。
 緋のボーカルに蒼のコーラスが寄り添い、重なることで、過去の切なさも今の温かさも、今までの全てを内包した、柔らかく優しいハーモニーが生まれていた。
 そしてクライマックスへ。
 緋はその長い前髪の奥で目を大きく開き、右手を大きく振り下ろした。蒼もまた、弦を弾く2本の指に力を籠める。
 この空間さえ、熱を帯びていた。
 野外、それも路上で。
 過ぎ去る人もいる中で、確かに足を止めた人がいて、その十数人が、見入り、聴き入っていた。リズムに合わせ、頭も上下に揺れている。
 激しいわけではない。じわりじわりと、体の内側に浸透していく熱。
 密度はそれほどでもライブハウスさながらの、音が持つアルコール分にもにた熱がここにはあった。
 最後、徐々にふたりの声量は消えていく。だがギターとベースの音が、最後までこの場を盛り上げる。
 声を振り絞ったふたりはマイクから互いへと向きを変え、少し歩み寄りながら全力を込めたアウトロをかき鳴らした。
 体を振り、長い髪とコートの裾、ストラップの後ろへと延びるシールドケーブルが一緒になって舞う。
 地面をたたくつま先までも利用し、リズムは乱さず、最後の最後まで息ぴったりの以心伝心を貫き通し、緋と蒼は大きく体を反らして、最後の一音をぶっ放した。
 その残響が消えていくにつれ、それと入れ替わりで拍手がパラパラと鳴り始めた。
「……ありがとうございました!『Skyblue』という曲でしたっ!」
 緋と蒼は軽く頭を下げた。
 緋はピックをジャズマスターの弦に挟むとマイクスタンドの下に置いたペットボトルを拾い上げ、キャップを外して口をつける。
「……改めまして、<Chandelier>という名前のバンドやってます!ボーカルギターの終緋と、こっちがベースコラーラスの霜夜蒼。ツーピースでやってます。ぜひ覚えて帰ってくださいっ!あとYouTubeと、Twitterもやってるので、登録とフォローぜひお願いします!…で、私たち始めたばっかでまだオリジナル曲も少ないので、カバーも混ぜてあと何曲かやって今日は終わろうと思いますっ!」
 緋はつま先で地面を叩きながら、小声で「|1《one》、|2《two》、|3《three》、|4《four》」と出だしのリズムをとって、蒼と共に楽器をぶっぱなした。
◇◇◇
「──ありがとうございました!<Chandelier>てした~っ!!」
 ぱちぱちと20人程度の拍手を受けて、路上ライブは終了となった。
「初ライブにしては超良かったんじゃない?」
 緋はジャズマスターを持ち上げストラップを外しながら、蒼に聞いた。
「ええ。ミスもあったし緊張もしっぱなしだったけど……でも楽しかったわ」
「よかった。蒼がライブ楽しんでできたのがいちばん嬉しい。続けられそう?」
「もちろんよ。……聴いてくれる人がいると、凄く力になるような気がして。続けるどころか、やめられないと思う」
「やめらんないよ絶対。私おばあちゃんになっても歌う気でいるから」
「そうね」
 片付けさえ楽しみながら、緋と蒼は笑いあった。
 ギター、ベースをケースに入れ、マイクスタンドを畳み、ポータブル電源とアンプをキャリーカートに積んでいく。
 終了。そう思い立ち上がったその時。
「──あのっ」
 少女の声がふたりを呼んだ。
「ん?」
 緋は振り向いた。するとそこには、ライブ中にも真ん前に見えた、黒髪ショートの女の子の姿があった。身長が緋より10センチは小さく、だいたい小学校高学年くらいの外見。横髪は姫カットにしており、柔らかそうなほっぺたの可愛い顔。小動物のような可愛らしさがある。彼女は緋に向かい、吐息多めの声で話し始める。
「えっと……ライブ良かったです」
「え、ありがとう!嬉しい」
「なんかすごく楽しそうで、元気貰いました」
「ほんと!?えー凄い嬉しい!嬉しいしか言ってないけど、でも嬉しい。私前まではひとりでやってたんだけど、そこの蒼とバンド組んでからは今日が初ライブでね」
「あ、知ってます。シンガーソングライターやってたんですよね。……私、初めて見た時から……その、緋さんの歌が好きで、聴いてました」
「えー嬉しい!なんか、こう、声かけてもらうとか初めてだからなんかスターになった気分」
「私にとってはスターですよ。……だから、今日ライブ見れてよかったです」
「ありがとう。ねぇ、名前なんて言うの?」
「え?名前ですか?」
「あ、嫌だった?嫌なら別にいいけど」
「あ、いえ……!昏木《くらき》黎《れい》……です!」
「黎《れい》ちゃんね。……黎ちゃん。うん、覚えとく!」
「えぇ、そんな、私の名前なんかわざわざ……」
「だって数少ない……っていうかなんなら初めてのファンだし。ね、蒼」
「え?……ええ。そうね」
「……で、私たちも駆け出しだからさ。ファンひとりひとり大切にしないとこの先やってけないし。もちろん有名になってもずっと大切にし続けるよ。黎ちゃんのことはずっと覚えとくから」
「あっ……ありがとうございます!!……えっと、あと、蒼さん……の、ベースとコーラスもすごく良かったです」
「えっ、あ……ありがとう……」
 蒼は少し顔を逸らしながら呟いた。
「……で、では。今日はありがとうございました!楽しかったです!またライブ見に来ます!」
「うん!またきて!」
「はい!」
 <Chandelier>のファン第1号、昏木《くらき》黎《れい》はお辞儀をすると、駆け足で駅の方へ走っていった。
「……よし!私たちも帰ろ!」
「ええ」
……To be continued
──────
おまけ
路上ライブのセトリ
1.Skyblue
2.Oasis/Wonderwall(Cover)
3.ELLEGARDEN/金星(Cover)
4.City night
5.ELLEGARDEN/風の日(Cover)
6.Oasis/Acquiesce(Cover)
7.[Alexandros]/ワタリドリ(Cover)