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第5話【始動】

ー/ー



 霜夜(しもよ)家、リビング横の畳の部屋の丸テーブルは炬燵に進化していた。そのテーブル上には、ふたり分の教材とノートが広げられていた。向かい合わせではなく、隣に。
 緋と蒼も隣り合わせで、ふたりはシャーペンをノートに滑らせていた。
 ふたりとも歯を食いしばりながら、問題を解きまくっていた。

 携帯がタイマーを鳴らす。

「はぁぁぁ……」
 緋は息を吐きながら隣にいる蒼の肩にもたれかかった。
「お疲れ様。あとは答え合わせして終わりにしましょ」
「うん」

 ふたりは同じ答えを見ながら、自分の回答にマルバツを付けていく。採点は面倒なのでやらないが、正答率としては8割くらいだった。

「よし、今日の勉強はおしまいっ!蒼、バンド練習やろっ!」
「ええ」

 ふたりは絶対に同じ高校に入るために毎日2時間くらいの勉強をノルマとし、そして将来バンドで生きていくためのバンド練習を残りの時間でする、そんな毎日を送っていた。



◇◇◇



 ──試験当日。

 緋と蒼は、一番乗りで試験会場に足を踏み入れた。

「私たちだけの世界だ。幸先良いね」
「ええ」

 他に誰もいない教室。この場の支配権を手に入れたような優越感に浸れる。
 暖房がきいており温かい。いい気分で試験を受ける準備は整ったといっても過言ではなかった。

 しかしそんな時間も長くは続かず、教室のドアは開かれる。

 侵入者と目が合った。

「あ――」

 ——緋は、彼女を知っている。

 明るい碧緑色の髪。長いのでポニーテールに纏めている。乳白色の肌に、校則のギリギリを攻めた短いスカート。
 いじめっ子グループの中の一人、『故村(こむら)(みどり)』だ。

 碧は緋を見て、ぼそりと吐き捨てるように呟いた。

「……なんであんたがいるわけ?」

 ──碧のその言葉に、緋より先に蒼が嚙みついた。

「誰よ貴女」
「いや、あたしあんたじゃなくて横のに……」

 碧はそこまで言って、一瞬何かを思い出したかのように蒼の方へと視線を戻した。

「あんたもしかして(あおい)……?」
「そうだけど。貴女は誰なのよ」
「故村(こむら)(みどり)。保育所から小3まで一緒だったでしょ」
「記憶にないわね。で?私の緋に何言おうとしたのかしら」
「……別に何も。会えて良かったじゃん」

 碧はそう言うと、自分の受験番号の席へと向かっていった。

「ありがとう」
「いいのよ」

 そしてふたりも、席につくのだった。



◇◇◇



 受験の手応えは上々だった。

 2日間の試験を終えた緋と蒼は、リビング横の畳の部屋にて炬燵を囲み、第1回となるバンド会議を開いていた。

「受験も終わったし、これで心置き無くバンドできる!」
「ええ。私もこの時を楽しみに待ってたわ」
「でさ、バンド名決めてなかったなって思って」
「確かにそうね。何か案はあるの?」

「うん。私が考えたのでよかったら……どうかな」

 そう言って、緋は蒼にノートを見せた。
 メンバーとして緋と蒼の名前があり、その上には『バンド名:<Chandelier>』と書かれていた。

「シャンデリア……綺麗でいいと思う」
「でしょ。この<>(小なり大なり)もね。ほかの何よりも偉大に。って感じでカッコついてていいでしょ」
「ええ。文句なしのバンド名よ」
「やった!じゃあバンド名決定!」

 蒼の同意もあり、バンドの名前は『<Chandelier>』に決定。

「それじゃ、<Chandelier>の活動方針なんだけどね。とにかく当面の目標としては、『ライブハウスでライブする』、これを目指して頑張ろうと思う」
「そうね。バンドだもの。ライブは絶対したいわ」
「うん。だからまあ、まずはライブに来てくれるファンを作るために活動することになるかな。路上ライブとか、YouTube配信とか」
「そうね。今まで緋がやってた感じのことを、今後も続けていくって感じよね」
「そうそう。蒼はそれでいい?」
「ええ。けど、人前で演奏するのにも慣れないといけないわね」
「大丈夫。私もついてるし。すぐ慣れるよ」
「ありがとう、緋」

 ふたりで微笑み、会議にもどる。

「で……YouTubeもTwitterも、私のアカウントをバンド用に改名して使おうと思う」
「そこはお任せするわ」
「ん。で……アー写!アー写も用意しないと。アイコンに使ったり、ライブ出演の時とかにもいるし」
「そうね。…そういえば、写真撮ったりすること無かったわね」
「ね。今ここで撮っちゃってもいいけど……どうしよっか。オシャレな写真撮りにどっか行く?」
「そうね……せっかくだし出かけて撮りましょうか」
「やった、蒼とデートっ」
「デート……」

 その言葉を小さく復唱した蒼は、少し顔を赤くしていた。



◇◇◇



 緋と蒼は家を出て鍵を閉めた。

 風はまだ少し冷たいが、春の訪れを感じる温かい陽射しが降り注いでいる。

 緋の服装は、ピンクブラウンのコートをメインにデニムパンツを合わせた、抜け感もある都会派コーデ。蒼は黒のロングカーディガンを使ったすらっとした印象のスタイル。

「ね、手つなご」
「ええ」

 緋が手を差し出し、蒼がその手をとる。そして、お互いの指を指の間に絡ませて握る。
 お互いの肩も近くなる。少しだけ恥ずかしくなって、それをごまかすようにふたりは笑いあい、足を踏み出した。


 アー写の背景によさげな場所を探しつつも、どちらかと言えば遊ぶことがメインだった。
 ふたりとも大した体力がなく割と直ぐに疲れてしまい、その度にこじんまりとしたカフェで一息ついては、時間が溶けていった。
 そんな中で、ふたりは「ワンチャンアー写に使えるかも?」みたいな理由をつけて、ことある事にツーショットを撮っては、悪ふざけをする子供のように笑った。




──────
<Chandelier> Channel
チャンネル登録者数 10人・20本の動画
──────
東京発ツーピースバンド。
▽Band Members
終緋(Vo.Gt.) Hiiro Tsui
霜夜蒼(Ba.Cho.) Aoi Shimoyo
リンク
Twitter
──────



……To be continued


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 霜夜《しもよ》家、リビング横の畳の部屋の丸テーブルは炬燵に進化していた。そのテーブル上には、ふたり分の教材とノートが広げられていた。向かい合わせではなく、隣に。 緋と蒼も隣り合わせで、ふたりはシャーペンをノートに滑らせていた。
 ふたりとも歯を食いしばりながら、問題を解きまくっていた。
 携帯がタイマーを鳴らす。
「はぁぁぁ……」
 緋は息を吐きながら隣にいる蒼の肩にもたれかかった。
「お疲れ様。あとは答え合わせして終わりにしましょ」
「うん」
 ふたりは同じ答えを見ながら、自分の回答にマルバツを付けていく。採点は面倒なのでやらないが、正答率としては8割くらいだった。
「よし、今日の勉強はおしまいっ!蒼、バンド練習やろっ!」
「ええ」
 ふたりは絶対に同じ高校に入るために毎日2時間くらいの勉強をノルマとし、そして将来バンドで生きていくためのバンド練習を残りの時間でする、そんな毎日を送っていた。
◇◇◇
 ──試験当日。
 緋と蒼は、一番乗りで試験会場に足を踏み入れた。
「私たちだけの世界だ。幸先良いね」
「ええ」
 他に誰もいない教室。この場の支配権を手に入れたような優越感に浸れる。
 暖房がきいており温かい。いい気分で試験を受ける準備は整ったといっても過言ではなかった。
 しかしそんな時間も長くは続かず、教室のドアは開かれる。
 侵入者と目が合った。
「あ――」
 ——緋は、彼女を知っている。
 明るい碧緑色の髪。長いのでポニーテールに纏めている。乳白色の肌に、校則のギリギリを攻めた短いスカート。
 いじめっ子グループの中の一人、『故村《こむら》碧《みどり》』だ。
 碧は緋を見て、ぼそりと吐き捨てるように呟いた。
「……なんであんたがいるわけ?」
 ──碧のその言葉に、緋より先に蒼が嚙みついた。
「誰よ貴女」
「いや、あたしあんたじゃなくて横のに……」
 碧はそこまで言って、一瞬何かを思い出したかのように蒼の方へと視線を戻した。
「あんたもしかして蒼《あおい》……?」
「そうだけど。貴女は誰なのよ」
「故村《こむら》碧《みどり》。保育所から小3まで一緒だったでしょ」
「記憶にないわね。で?私の緋に何言おうとしたのかしら」
「……別に何も。会えて良かったじゃん」
 碧はそう言うと、自分の受験番号の席へと向かっていった。
「ありがとう」
「いいのよ」
 そしてふたりも、席につくのだった。
◇◇◇
 受験の手応えは上々だった。
 2日間の試験を終えた緋と蒼は、リビング横の畳の部屋にて炬燵を囲み、第1回となるバンド会議を開いていた。
「受験も終わったし、これで心置き無くバンドできる!」
「ええ。私もこの時を楽しみに待ってたわ」
「でさ、バンド名決めてなかったなって思って」
「確かにそうね。何か案はあるの?」
「うん。私が考えたのでよかったら……どうかな」
 そう言って、緋は蒼にノートを見せた。
 メンバーとして緋と蒼の名前があり、その上には『バンド名:<Chandelier>』と書かれていた。
「シャンデリア……綺麗でいいと思う」
「でしょ。この|<>《小なり大なり》もね。ほかの何よりも偉大に。って感じでカッコついてていいでしょ」
「ええ。文句なしのバンド名よ」
「やった!じゃあバンド名決定!」
 蒼の同意もあり、バンドの名前は『<Chandelier>』に決定。
「それじゃ、<Chandelier>の活動方針なんだけどね。とにかく当面の目標としては、『ライブハウスでライブする』、これを目指して頑張ろうと思う」
「そうね。バンドだもの。ライブは絶対したいわ」
「うん。だからまあ、まずはライブに来てくれるファンを作るために活動することになるかな。路上ライブとか、YouTube配信とか」
「そうね。今まで緋がやってた感じのことを、今後も続けていくって感じよね」
「そうそう。蒼はそれでいい?」
「ええ。けど、人前で演奏するのにも慣れないといけないわね」
「大丈夫。私もついてるし。すぐ慣れるよ」
「ありがとう、緋」
 ふたりで微笑み、会議にもどる。
「で……YouTubeもTwitterも、私のアカウントをバンド用に改名して使おうと思う」
「そこはお任せするわ」
「ん。で……アー写!アー写も用意しないと。アイコンに使ったり、ライブ出演の時とかにもいるし」
「そうね。…そういえば、写真撮ったりすること無かったわね」
「ね。今ここで撮っちゃってもいいけど……どうしよっか。オシャレな写真撮りにどっか行く?」
「そうね……せっかくだし出かけて撮りましょうか」
「やった、蒼とデートっ」
「デート……」
 その言葉を小さく復唱した蒼は、少し顔を赤くしていた。
◇◇◇
 緋と蒼は家を出て鍵を閉めた。
 風はまだ少し冷たいが、春の訪れを感じる温かい陽射しが降り注いでいる。
 緋の服装は、ピンクブラウンのコートをメインにデニムパンツを合わせた、抜け感もある都会派コーデ。蒼は黒のロングカーディガンを使ったすらっとした印象のスタイル。
「ね、手つなご」
「ええ」
 緋が手を差し出し、蒼がその手をとる。そして、お互いの指を指の間に絡ませて握る。
 お互いの肩も近くなる。少しだけ恥ずかしくなって、それをごまかすようにふたりは笑いあい、足を踏み出した。
 アー写の背景によさげな場所を探しつつも、どちらかと言えば遊ぶことがメインだった。
 ふたりとも大した体力がなく割と直ぐに疲れてしまい、その度にこじんまりとしたカフェで一息ついては、時間が溶けていった。
 そんな中で、ふたりは「ワンチャンアー写に使えるかも?」みたいな理由をつけて、ことある事にツーショットを撮っては、悪ふざけをする子供のように笑った。
──────
<Chandelier> Channel
チャンネル登録者数 10人・20本の動画
──────
東京発ツーピースバンド。
▽Band Members
終緋(Vo.Gt.) Hiiro Tsui
霜夜蒼(Ba.Cho.) Aoi Shimoyo
リンク
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