第2話 未成熟ゴーレム

ー/ー



「なぜこんな事に…?」

 俺は目の前の惨状に口元を押さえた。
 視界一面に鮮赤が広がる。

 ツンと鼻を突く刺激臭が嗅覚を壊し、胃の内容物がひっくり返りそうになる。

 あぁ、本当に——

「何やってんだトーカぁ!!」

 俺はすぐに荒れ果てたキッチンに突撃すると、放心するトーカの手からケチャップを取り上げた。
 くっっっさ!!何だこの臭い!?

 謎の刺激臭の元凶を探すとコンロの上に怪しい鍋を見つけた。紫掛かった煙が昇り、ジュクジュクと異音を発しながら劇物が垂れている。
 中を覗き込んでみる。

「——っ!!?ぃってぇぇぇ!!」

 その瞬間、俺の目に激痛が走る。
 やばい。これはやばい。一体何を混ぜたらの最中にこんな物が出来上がるんだ!?

 とりあえず未だ放心するトーカを引っ張り、キッチンから救い出す。彼女はゴーレムなので害は受けないだろうが、このまま放置しておくとゴーレムすら侵蝕しそうだ、アレは。

「トーカ?トーカ!」

 トーカの肩を揺さぶって正気に戻してみる。マスターとして何があったのか聞かなければ。
 …聞きたくねぇ。てか何でトーカが料理してるんだ?

「——はっ。私は一体なにを…」
「君は錬金術をしていた所だ。そう言う事にさせてくれ」
「マスター、申し訳ありません。ケチャップを無駄にしてしまいました」
「謝るとこそっちじゃ無いよ!?何あの劇物は!」
「お味噌汁なのですが…」
「味噌汁にケチャップ入れる人いないよ!?…レシピとか調べたの?」
「もちろんです。ちゃんとレシピ本も…ほら」
「じゃあそのレシピ本が悪いわ。ポイっしなさいポイっ」
「ポイー」
「良く出来ました」

 まあそんな訳無くて、十中八九ゴーレムのトーカには味が分からないだけなんだろうけど。

 味見が出来ないから色々入れ過ぎて爆弾になってしまうんだろう。多分美味しい物を全部入れれば更に美味しくなると思ってるからケチャップ入れようとしたとか、そんな感じだろう。

 トーカが心を持ったのは想定外だったし、想定外故にまだまだ問題があるな。味覚の問題は早急に対応しなければ…。

「さて、キッチンを片付けようか」
「お任せ下さい。すぐに掃除致します」
「待て待て待て!何故剣を出す!?」
「掃除…ですので」
「ですので、じゃないよ!」

 倫理観を教える、も追加だな。
 そんな感じでトーカを抑えつつ掃除を済ませ、何とか俺が夕食を作れた。ゴーレムとは言え人間そっくりだ。必要は無いが、一応2人分作ってある。いつも通りだ。

 夕食を終えればお風呂で疲れた体をゆっくり休める。ちなみに何も言わずに入るとトーカが背中を流そうと押し入ってくるため、事前に警告してある。

 以前お風呂に入っていると服を全部脱いで突撃して来た事がある。人間そっくりとは言えゴーレムだし、ゴーレムとは言え人間そっくりだ。
 トーカは美人だし全裸を見るのが嫌な訳では無いが、生殖器官を持たないゴーレムに発情するのもなぁ…と思う。

 だからもし無理矢理入って来たら、滅多に使わないを使うと言っている。
 トーカも元はゴーレムであるため、命令すれば俺の言う事を聞く。俺は人を操っている様だから全く使わないが。入って来たら最悪使うもの吝かではない。

 トーカは奉仕精神が強すぎるんだよな。
 俺の家事を積極的に代わろうとしてくるし、お風呂の件だってそうだ。

 心自体は芽生えても、これでは自由と言えないのでは無いか?今のトーカは子供の精神状態に近い…と思う。
 だからこそ冒険者に登録して自立出来ればトーカも人間としての自由を感じられると考えている。

 …少し長風呂し過ぎたな。そろそろ出るか。

「……何やってるの?」
「申し訳ありません。マスターに代わって食器を洗おうとしたところ…お皿を割ってしまいました!」
「えぇ…怪我は?…ってゴーレムだから無いか」

 脱衣所の扉を開けると、正面にトーカが正座していた。真面目な顔で。
 そして一言目に謝罪が出る。皿を割ってしまったか…。

 うーん、皿が割れたくらいなら別に問題無いんだけど…よし。

「トーカ、しばらくキッチンへの出入りを禁じます」
「そんな!後生でございます!」
「今日だけでキッチンが魔境になったぞ!?罰として、良しと言うまで出入り禁止!」
「そんなぁ…」

 露骨にしょんぼりするトーカ。
 胸が痛むが仕方ないんだ。俺の家のキッチンを守るには。
 味覚の調整が上手く行った時には解除してやるから、それまで我慢してくれ。

 トーカを連れてリビングに戻る。割れた皿はこれか。結構散らばってるな。

「これにゴーレム魔法をかけて…ほら、集まれ」

 落ちた皿の中で一番デカい塊にゴーレム魔法をかける。ゴーレム魔法は数時間までなら分離した物まで効果が及ぶ。

 例えば落石があったとして、それが昨日落ちた物ならゴーレム魔法では石片を操る事しか出来ない。が、目の前に落ちて来た物ならば落石全てを操る事が出来る。

 ゴーレム魔法と名前が付いているが、実際は操作魔法なのだ。一番効率的に使えるのがゴーレムに使う事だったからゴーレム魔法になっただけ。

 と言う事は、この皿も使役し続ければ心が宿るのだろうか?トーカが心を持った原理は完璧に解明出来ている訳ではない。当たりは付いているけどな。

 恐らくこの皿は心を持たない。その条件を満たしていないのだ。
 集めた皿はトーカの買って来たレシピ本に包んで捨てた。地面で踊る皿の破片も見たかったな。


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「なぜこんな事に…?」
 俺は目の前の惨状に口元を押さえた。
 視界一面に鮮赤が広がる。
 ツンと鼻を突く刺激臭が嗅覚を壊し、胃の内容物がひっくり返りそうになる。
 あぁ、本当に——
「何やってんだトーカぁ!!」
 俺はすぐに荒れ果てたキッチンに突撃すると、放心するトーカの手からケチャップを取り上げた。
 くっっっさ!!何だこの臭い!?
 謎の刺激臭の元凶を探すとコンロの上に怪しい鍋を見つけた。紫掛かった煙が昇り、ジュクジュクと異音を発しながら劇物が垂れている。
 中を覗き込んでみる。
「——っ!!?ぃってぇぇぇ!!」
 その瞬間、俺の目に激痛が走る。
 やばい。これはやばい。一体何を混ぜたら《《料理》》の最中にこんな物が出来上がるんだ!?
 とりあえず未だ放心するトーカを引っ張り、キッチンから救い出す。彼女はゴーレムなので害は受けないだろうが、このまま放置しておくとゴーレムすら侵蝕しそうだ、アレは。
「トーカ?トーカ!」
 トーカの肩を揺さぶって正気に戻してみる。マスターとして何があったのか聞かなければ。
 …聞きたくねぇ。てか何でトーカが料理してるんだ?
「——はっ。私は一体なにを…」
「君は錬金術をしていた所だ。そう言う事にさせてくれ」
「マスター、申し訳ありません。ケチャップを無駄にしてしまいました」
「謝るとこそっちじゃ無いよ!?何あの劇物は!」
「お味噌汁なのですが…」
「味噌汁にケチャップ入れる人いないよ!?…レシピとか調べたの?」
「もちろんです。ちゃんとレシピ本も…ほら」
「じゃあそのレシピ本が悪いわ。ポイっしなさいポイっ」
「ポイー」
「良く出来ました」
 まあそんな訳無くて、十中八九ゴーレムのトーカには味が分からないだけなんだろうけど。
 味見が出来ないから色々入れ過ぎて爆弾になってしまうんだろう。多分美味しい物を全部入れれば更に美味しくなると思ってるからケチャップ入れようとしたとか、そんな感じだろう。
 トーカが心を持ったのは想定外だったし、想定外故にまだまだ問題があるな。味覚の問題は早急に対応しなければ…。
「さて、キッチンを片付けようか」
「お任せ下さい。すぐに掃除致します」
「待て待て待て!何故剣を出す!?」
「掃除…ですので」
「ですので、じゃないよ!」
 倫理観を教える、も追加だな。
 そんな感じでトーカを抑えつつ掃除を済ませ、何とか俺が夕食を作れた。ゴーレムとは言え人間そっくりだ。必要は無いが、一応2人分作ってある。いつも通りだ。
 夕食を終えればお風呂で疲れた体をゆっくり休める。ちなみに何も言わずに入るとトーカが背中を流そうと押し入ってくるため、事前に警告してある。
 以前お風呂に入っていると服を全部脱いで突撃して来た事がある。人間そっくりとは言えゴーレムだし、ゴーレムとは言え人間そっくりだ。
 トーカは美人だし全裸を見るのが嫌な訳では無いが、生殖器官を持たないゴーレムに発情するのもなぁ…と思う。
 だからもし無理矢理入って来たら、滅多に使わない《《命令》》を使うと言っている。
 トーカも元はゴーレムであるため、命令すれば俺の言う事を聞く。俺は人を操っている様だから全く使わないが。入って来たら最悪使うもの吝かではない。
 トーカは奉仕精神が強すぎるんだよな。
 俺の家事を積極的に代わろうとしてくるし、お風呂の件だってそうだ。
 心自体は芽生えても、これでは自由と言えないのでは無いか?今のトーカは子供の精神状態に近い…と思う。
 だからこそ冒険者に登録して自立出来ればトーカも人間としての自由を感じられると考えている。
 …少し長風呂し過ぎたな。そろそろ出るか。
「……何やってるの?」
「申し訳ありません。マスターに代わって食器を洗おうとしたところ…お皿を割ってしまいました!」
「えぇ…怪我は?…ってゴーレムだから無いか」
 脱衣所の扉を開けると、正面にトーカが正座していた。真面目な顔で。
 そして一言目に謝罪が出る。皿を割ってしまったか…。
 うーん、皿が割れたくらいなら別に問題無いんだけど…よし。
「トーカ、しばらくキッチンへの出入りを禁じます」
「そんな!後生でございます!」
「今日だけでキッチンが魔境になったぞ!?罰として、良しと言うまで出入り禁止!」
「そんなぁ…」
 露骨にしょんぼりするトーカ。
 胸が痛むが仕方ないんだ。俺の家のキッチンを守るには。
 味覚の調整が上手く行った時には解除してやるから、それまで我慢してくれ。
 トーカを連れてリビングに戻る。割れた皿はこれか。結構散らばってるな。
「これにゴーレム魔法をかけて…ほら、集まれ」
 落ちた皿の中で一番デカい塊にゴーレム魔法をかける。ゴーレム魔法は数時間までなら分離した物まで効果が及ぶ。
 例えば落石があったとして、それが昨日落ちた物ならゴーレム魔法では石片を操る事しか出来ない。が、目の前に落ちて来た物ならば落石全てを操る事が出来る。
 ゴーレム魔法と名前が付いているが、実際は操作魔法なのだ。一番効率的に使えるのがゴーレムに使う事だったからゴーレム魔法になっただけ。
 と言う事は、この皿も使役し続ければ心が宿るのだろうか?トーカが心を持った原理は完璧に解明出来ている訳ではない。当たりは付いているけどな。
 恐らくこの皿は心を持たない。その条件を満たしていないのだ。
 集めた皿はトーカの買って来たレシピ本に包んで捨てた。地面で踊る皿の破片も見たかったな。
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