第2話【同棲】
ー/ー 抱きしめ合った腕をほどき、緋は彼女『霜夜蒼』と改めて目を合わせた。
「お互い背伸びたね」
「ええ。すっかり大人っぽくなって」
「6年ぶりになるのかな。蒼が転校してった日から」
「そうね。6年と半年くらいかしら」
「小3だったもんね」
「ええ。……あの頃の緋も可愛かったけど、今はもっと可愛い」
「やだなぁ、蒼こそ」
「ふふっ」
ふたりで笑い合う。気付けば雨も止んでいた。
「……あ、立ち話もなんだし……すぐ片付けるからちょっと待ってて」
「あ、ええ。手伝えることはあるかしら」
「あ、じゃあ、シールド纏めてくれる?」
「わかったわ」
蒼に手伝ってもらいながら機材を片付け、緋はキャリーカートの持ち手を握った。
「よし!片付け終了っと」
「手馴れてるのね」
「まぁね。路上ライブ初めて2ヶ月くらいだし」
「そう。……凄いわね、緋は。もうすっかりアーティストって感じ」
「全然、まだまだだよ。2ヶ月やっても全然人こないし、YouTubeも伸びないし。スターには程遠い所にいる」
「緋なら大丈夫よ。私は惹き付けられたわ。貴女の歌に」
「ありがと。……それじゃあ、これからどうしよっか。せっかく会えたんだし、解散なんてしたくないよね」
「ええ。私ももっと緋といたい」
「じゃあ……どうする?どっか行くとこある?」
「じゃあ……家……来る?」
「いいの?」
「ええ。親もいないから、気を使う必要も無いわ」
「あ、うん。じゃあ、お邪魔しちゃおっかな」
──そうして、緋は蒼と共に、蒼の家を目指して歩くことに。
「蒼は、なんであそこにいたの?」
「塾の帰りだったの」
「優等生じゃん」
「別にいい高校入ろうとしてる訳じゃないのよ?ただ、親が『心配だから』って、半ば強制的に行かされただけ。たまにサボってるけど、今日はちゃんと頑張ったわ」
「そっか。偉いね、ちゃんと頑張ったんだ」
「そのご褒美が、こんなに嬉しいものだとは思わなかったけど」
「だね。私も路上ライブ雨天決行の覚悟で来てよかった」
「ええ」
ふたりは靴音のリズムを重ねて、歩き続ける。
「蒼の家って今はこの辺なの?」
「ええ。ちょっと離れたところだけど」
「そっか」
ふたりは静かに歩き続けた。
◇◇◇
街中から外れた、東京の中でも田舎の山の方。周りを木に囲まれた一軒家がぽつんと建っていた。
「ここよ」
「いいね、立派」
「ありがとう」
緋は蒼に案内されるまま、玄関前の屋根の下へ入る。すると、空がタイミングを待ってくれていたのか、雨が降り始めた。
「あぶな……ギリギリ降られなかったね」
「そうね。濡れずにすんでよかったわ」
蒼が鍵を開け、ドアを開ける。
「入って」
「ん。お邪魔します」
蒼に連れられて、中へ入った。
三和土には1足も靴が無い。
入って左側の収納上にも物が何も無くまるで生活感が無い。
淡い照明に照らされたフローリングの床は線キズもほとんど無い。まるで新築。
「いい家だね」
「ありがとう。2年前、中学に上がった時に建てたんだけど、その後お父さんがまた転勤になってしまって。今は私だけ取り残されている状態」
「蒼だけ?」
「ええ。1人暮らし」
「大変だね……」
「そうね。塾には入らされたけど、自由でいいわよ」
蒼に案内され、靴を脱いで上がりすぐ左側に見える扉を開いて居間へ。かなり広いフローリングの部屋で、右側にはダイニングキッチン。左側には1段の段差の上に畳の部屋がある。
「荷物は適当に置いていいわ。なにか飲む?お茶でいい?」
「あ、うん。ありがとう」
蒼はエアコンのリモコンを操作し暖房をつけると、キッチンの方へと歩いていく。
緋は蒼に言われた通り、荷物を下ろして、上着を脱ぎ、畳に座って楽にしていることにした。少し待っていると、蒼が戻ってきた。
「おまたせ」
「ありがとう」
緋は蒼から湯のみを受け取る。温かい緑茶だ。
「あったまる……」
「日が落ちて寒くなってきたものね」
「だね」
まだ気温には秋の面影が残り、昼間は温かいが、日が落ちると一気に冷え込むのだ。
「それで、今更だけど、緋はその……時間大丈夫?もう暗いけど」
「あー、大丈夫」
「そうなの?」
「うん。……心配とかしてくんないし」
「……なら、緋……」
「ん?」
蒼は恥ずかしそうに目を逸らしながら、呟くように伝えた。
「と……泊まっていかない?」
「……ぇ、いいの?」
「ええ。私も、そのほうが嬉しいんだけど……」
「……じゃあ……お言葉に甘えちゃおっかな」
「本当!?ありがとう!」
蒼の顔が目に見えて明るくなった。
「お風呂沸かしてくるわね。着替えは私のを貸そうと思うけど……ブラのサイズは合いそうにないわね」
「あー……うん。そうかも」
「脱いだらすぐに洗濯機回して乾燥もかけましょうか」
「うん。ありがと、蒼」
蒼は微笑むと、風呂を沸かしに風呂場へ。緋は畳の部屋の座布団にちょこんと座って待っていた。
「おまたせ。15分くらいで沸くと思う」
蒼が戻ってきた。
「そっか。じゃあ、それまで少しお話でもする?」
「ええ。そうしましょ」
緋の隣に、蒼が座る。
「……緋」
「ん?」
「私がいなくなってから……その……友達とか……できたの?」
「ううん。全然。蒼は?」
「1人もできなかった。……緋だけが、私の友達」
「そっか。一緒だね」
「ええ。……我儘かもしれないけど、少し安心したわ。緋も同じで」
「私もだよ。……蒼が誰のものにもなってなくてよかった」
「……」
蒼は無言で距離を詰めた。それに気付いた緋も、距離を詰め、肩を寄せた。
◇◇◇
蒼との時間を静かに過ごしていると、「お風呂が湧きました」のチャイムが鳴った。
「……入りましょうか」
「うん」
蒼に誘われるまま、緋は脱衣所へと向かう。
「……一緒に?」
「そのつもりだったんだけど、嫌だった?」
「ううん。でもちょっと恥ずかしいね」
昔は、よく蒼の家で一緒にお風呂に入っていた。あの頃は2人とも同じような体型だったが、今はお互い身長も伸びて体の凹凸も大きくなった。
緋は蒼の体をあまりまじまじと見ないように気を付けながら、自分のブラウスのボタンをはずしていく。しかしながら、綺麗に成長した蒼の姿にどうしても目線を引っ張られてしまい、ついついチラ見してしまっていた。そしてそれは蒼も同じだった。ふたりとも服を脱げずにいた。
「なんかやっぱり恥ずかしいね」
「そうね。……昔はなんとも思わなかったはずなのに」
「ね」
しかし、このままもじもじしていても埒が明かないので、緋は思い切ってスカートとブラウスを脱ぎ捨てる。
「蒼も脱いで」
そう言って下着も脱いだ。
「え、ええ……。わ、私は洗濯回してくるから、先入ってて」
「うん、わかった。早く来てよ」
「ええ」
蒼も恥ずかしそうにしながら服を脱いで、緋の脱いだ服を持って脱衣所から出て行く。
「……見られなくてよかった」
緋は脇腹のあたりにあるアザを見て呟いた。
「……じゃ、寒いし先入らせてもらおっと」
緋は風呂場の扉を開ける。ごく普通の家庭の風呂場だ。ふたりで入るには少し狭そうだが、まあ無理はない程度。
続けて、湯船の蓋を開けた。白い湯けむりが一気に舞い上がる。
シャワーを使ってみると、最初は冷たい水が出てきたが、すぐに熱いお湯へと変わる。
シャワーを浴びていると、扉が開いて蒼が入ってきた。
「待たせてごめんなさい」
「ううん。大丈夫」
「……緋、座って。髪を洗ってあげるわ」
「え?あ、うん。じゃあ……お願いしようかな」
緋は蒼に言われたように椅子に座り、シャワーヘッドを蒼に渡す。
蒼は緋の髪を濡らし、優しく撫で始める。
「綺麗な髪」
「ありがと。蒼も綺麗だよ」
「ありがとう」
緋はシャンプーが目に入らないように目を瞑る。蒼は優しく髪を洗ってくれていた。
「次は私が洗ってあげる、蒼」
「あ、え、ええ……」
緋は慣れない手つきで、できるだけ優しく洗ってあげる。蒼の綺麗な髪を傷めないように。
そして、髪を長く触っていたい気持ちから、トリートメントは無駄に長い間馴染ませていた。
シャワーで流すのが少し名残惜しいが、我慢するしかない。
「ありがとう、緋」
「どういたしまして」
「次は体かしら」
「かっ……体は流石に自分で洗う」
◇◇◇
「ふぅ……」
ふたりで温かいお湯に浸かる。浴槽があまり大きくもないので、ふたり身を寄せ合って入ることになった。
ふたりの肌と肌が触れ、その柔らかさに緋の心臓は大きく跳ねていた。
「……」
ただ、もうすこし触れたい欲求に逆らえず、緋は蒼に体を預けに行く。
「蒼……」
「……緋……」
「……あのさ」
「なに?」
「……約束……覚えてる?」
「覚えてるわ。忘れたことなんて一瞬たりともない。……中学も高校も、その先も。ずっと一緒にいようって約束した」
「ちゃんと覚えててくれたんだね……。嬉しい」
「……でも、破ってしまったのは私なのよね」
「小学生だもん。仕方なかったと思う。…でも、もう一度会えたんだからさ。もう一回約束しない?」
「……ええ。約束しましょう」
「まず、高校。同じ高校にしようよ」
「わかったわ。同じ高校にしましょ」
「やった。……もう少ししたら上がろっか」
「ええ」
十分に体を温めて風呂から上がり、体を拭いて、お互いの髪を乾かす。
まずは緋が蒼に髪を乾かしてもらい、その後で緋が蒼の髪を乾かしてあげる。
「蒼の髪すごくきれい。柔らかい……」
ドライヤーの音で掻き消されたので、この言葉が蒼に届くことは無かった。
……To be continued
「お互い背伸びたね」
「ええ。すっかり大人っぽくなって」
「6年ぶりになるのかな。蒼が転校してった日から」
「そうね。6年と半年くらいかしら」
「小3だったもんね」
「ええ。……あの頃の緋も可愛かったけど、今はもっと可愛い」
「やだなぁ、蒼こそ」
「ふふっ」
ふたりで笑い合う。気付けば雨も止んでいた。
「……あ、立ち話もなんだし……すぐ片付けるからちょっと待ってて」
「あ、ええ。手伝えることはあるかしら」
「あ、じゃあ、シールド纏めてくれる?」
「わかったわ」
蒼に手伝ってもらいながら機材を片付け、緋はキャリーカートの持ち手を握った。
「よし!片付け終了っと」
「手馴れてるのね」
「まぁね。路上ライブ初めて2ヶ月くらいだし」
「そう。……凄いわね、緋は。もうすっかりアーティストって感じ」
「全然、まだまだだよ。2ヶ月やっても全然人こないし、YouTubeも伸びないし。スターには程遠い所にいる」
「緋なら大丈夫よ。私は惹き付けられたわ。貴女の歌に」
「ありがと。……それじゃあ、これからどうしよっか。せっかく会えたんだし、解散なんてしたくないよね」
「ええ。私ももっと緋といたい」
「じゃあ……どうする?どっか行くとこある?」
「じゃあ……家……来る?」
「いいの?」
「ええ。親もいないから、気を使う必要も無いわ」
「あ、うん。じゃあ、お邪魔しちゃおっかな」
──そうして、緋は蒼と共に、蒼の家を目指して歩くことに。
「蒼は、なんであそこにいたの?」
「塾の帰りだったの」
「優等生じゃん」
「別にいい高校入ろうとしてる訳じゃないのよ?ただ、親が『心配だから』って、半ば強制的に行かされただけ。たまにサボってるけど、今日はちゃんと頑張ったわ」
「そっか。偉いね、ちゃんと頑張ったんだ」
「そのご褒美が、こんなに嬉しいものだとは思わなかったけど」
「だね。私も路上ライブ雨天決行の覚悟で来てよかった」
「ええ」
ふたりは靴音のリズムを重ねて、歩き続ける。
「蒼の家って今はこの辺なの?」
「ええ。ちょっと離れたところだけど」
「そっか」
ふたりは静かに歩き続けた。
◇◇◇
街中から外れた、東京の中でも田舎の山の方。周りを木に囲まれた一軒家がぽつんと建っていた。
「ここよ」
「いいね、立派」
「ありがとう」
緋は蒼に案内されるまま、玄関前の屋根の下へ入る。すると、空がタイミングを待ってくれていたのか、雨が降り始めた。
「あぶな……ギリギリ降られなかったね」
「そうね。濡れずにすんでよかったわ」
蒼が鍵を開け、ドアを開ける。
「入って」
「ん。お邪魔します」
蒼に連れられて、中へ入った。
三和土には1足も靴が無い。
入って左側の収納上にも物が何も無くまるで生活感が無い。
淡い照明に照らされたフローリングの床は線キズもほとんど無い。まるで新築。
「いい家だね」
「ありがとう。2年前、中学に上がった時に建てたんだけど、その後お父さんがまた転勤になってしまって。今は私だけ取り残されている状態」
「蒼だけ?」
「ええ。1人暮らし」
「大変だね……」
「そうね。塾には入らされたけど、自由でいいわよ」
蒼に案内され、靴を脱いで上がりすぐ左側に見える扉を開いて居間へ。かなり広いフローリングの部屋で、右側にはダイニングキッチン。左側には1段の段差の上に畳の部屋がある。
「荷物は適当に置いていいわ。なにか飲む?お茶でいい?」
「あ、うん。ありがとう」
蒼はエアコンのリモコンを操作し暖房をつけると、キッチンの方へと歩いていく。
緋は蒼に言われた通り、荷物を下ろして、上着を脱ぎ、畳に座って楽にしていることにした。少し待っていると、蒼が戻ってきた。
「おまたせ」
「ありがとう」
緋は蒼から湯のみを受け取る。温かい緑茶だ。
「あったまる……」
「日が落ちて寒くなってきたものね」
「だね」
まだ気温には秋の面影が残り、昼間は温かいが、日が落ちると一気に冷え込むのだ。
「それで、今更だけど、緋はその……時間大丈夫?もう暗いけど」
「あー、大丈夫」
「そうなの?」
「うん。……心配とかしてくんないし」
「……なら、緋……」
「ん?」
蒼は恥ずかしそうに目を逸らしながら、呟くように伝えた。
「と……泊まっていかない?」
「……ぇ、いいの?」
「ええ。私も、そのほうが嬉しいんだけど……」
「……じゃあ……お言葉に甘えちゃおっかな」
「本当!?ありがとう!」
蒼の顔が目に見えて明るくなった。
「お風呂沸かしてくるわね。着替えは私のを貸そうと思うけど……ブラのサイズは合いそうにないわね」
「あー……うん。そうかも」
「脱いだらすぐに洗濯機回して乾燥もかけましょうか」
「うん。ありがと、蒼」
蒼は微笑むと、風呂を沸かしに風呂場へ。緋は畳の部屋の座布団にちょこんと座って待っていた。
「おまたせ。15分くらいで沸くと思う」
蒼が戻ってきた。
「そっか。じゃあ、それまで少しお話でもする?」
「ええ。そうしましょ」
緋の隣に、蒼が座る。
「……緋」
「ん?」
「私がいなくなってから……その……友達とか……できたの?」
「ううん。全然。蒼は?」
「1人もできなかった。……緋だけが、私の友達」
「そっか。一緒だね」
「ええ。……我儘かもしれないけど、少し安心したわ。緋も同じで」
「私もだよ。……蒼が誰のものにもなってなくてよかった」
「……」
蒼は無言で距離を詰めた。それに気付いた緋も、距離を詰め、肩を寄せた。
◇◇◇
蒼との時間を静かに過ごしていると、「お風呂が湧きました」のチャイムが鳴った。
「……入りましょうか」
「うん」
蒼に誘われるまま、緋は脱衣所へと向かう。
「……一緒に?」
「そのつもりだったんだけど、嫌だった?」
「ううん。でもちょっと恥ずかしいね」
昔は、よく蒼の家で一緒にお風呂に入っていた。あの頃は2人とも同じような体型だったが、今はお互い身長も伸びて体の凹凸も大きくなった。
緋は蒼の体をあまりまじまじと見ないように気を付けながら、自分のブラウスのボタンをはずしていく。しかしながら、綺麗に成長した蒼の姿にどうしても目線を引っ張られてしまい、ついついチラ見してしまっていた。そしてそれは蒼も同じだった。ふたりとも服を脱げずにいた。
「なんかやっぱり恥ずかしいね」
「そうね。……昔はなんとも思わなかったはずなのに」
「ね」
しかし、このままもじもじしていても埒が明かないので、緋は思い切ってスカートとブラウスを脱ぎ捨てる。
「蒼も脱いで」
そう言って下着も脱いだ。
「え、ええ……。わ、私は洗濯回してくるから、先入ってて」
「うん、わかった。早く来てよ」
「ええ」
蒼も恥ずかしそうにしながら服を脱いで、緋の脱いだ服を持って脱衣所から出て行く。
「……見られなくてよかった」
緋は脇腹のあたりにあるアザを見て呟いた。
「……じゃ、寒いし先入らせてもらおっと」
緋は風呂場の扉を開ける。ごく普通の家庭の風呂場だ。ふたりで入るには少し狭そうだが、まあ無理はない程度。
続けて、湯船の蓋を開けた。白い湯けむりが一気に舞い上がる。
シャワーを使ってみると、最初は冷たい水が出てきたが、すぐに熱いお湯へと変わる。
シャワーを浴びていると、扉が開いて蒼が入ってきた。
「待たせてごめんなさい」
「ううん。大丈夫」
「……緋、座って。髪を洗ってあげるわ」
「え?あ、うん。じゃあ……お願いしようかな」
緋は蒼に言われたように椅子に座り、シャワーヘッドを蒼に渡す。
蒼は緋の髪を濡らし、優しく撫で始める。
「綺麗な髪」
「ありがと。蒼も綺麗だよ」
「ありがとう」
緋はシャンプーが目に入らないように目を瞑る。蒼は優しく髪を洗ってくれていた。
「次は私が洗ってあげる、蒼」
「あ、え、ええ……」
緋は慣れない手つきで、できるだけ優しく洗ってあげる。蒼の綺麗な髪を傷めないように。
そして、髪を長く触っていたい気持ちから、トリートメントは無駄に長い間馴染ませていた。
シャワーで流すのが少し名残惜しいが、我慢するしかない。
「ありがとう、緋」
「どういたしまして」
「次は体かしら」
「かっ……体は流石に自分で洗う」
◇◇◇
「ふぅ……」
ふたりで温かいお湯に浸かる。浴槽があまり大きくもないので、ふたり身を寄せ合って入ることになった。
ふたりの肌と肌が触れ、その柔らかさに緋の心臓は大きく跳ねていた。
「……」
ただ、もうすこし触れたい欲求に逆らえず、緋は蒼に体を預けに行く。
「蒼……」
「……緋……」
「……あのさ」
「なに?」
「……約束……覚えてる?」
「覚えてるわ。忘れたことなんて一瞬たりともない。……中学も高校も、その先も。ずっと一緒にいようって約束した」
「ちゃんと覚えててくれたんだね……。嬉しい」
「……でも、破ってしまったのは私なのよね」
「小学生だもん。仕方なかったと思う。…でも、もう一度会えたんだからさ。もう一回約束しない?」
「……ええ。約束しましょう」
「まず、高校。同じ高校にしようよ」
「わかったわ。同じ高校にしましょ」
「やった。……もう少ししたら上がろっか」
「ええ」
十分に体を温めて風呂から上がり、体を拭いて、お互いの髪を乾かす。
まずは緋が蒼に髪を乾かしてもらい、その後で緋が蒼の髪を乾かしてあげる。
「蒼の髪すごくきれい。柔らかい……」
ドライヤーの音で掻き消されたので、この言葉が蒼に届くことは無かった。
……To be continued
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