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第12話 思わぬ再会

ー/ー



 ジュリアの言葉に、俺は思わず立ち止まる。
 謝るって、何をだ?
 やや間を置いて、ジュリアが続ける。
「たぶん、言いたくなかったことだよね。その……ゴオトが、『遺体』の回収の依頼ばかりしてる理由、とか」
 ジュリアも立ち止まり、少しだけ俯いた。
 こんな風に、一線の前でちゃんと空気を読めるってのは、コイツの美点だとは思う。
「ったくよぉ」
 俺はジュリアの頭を、空いてる方の手でポンポンと軽く叩く。
「ガキが一丁前(いっちょまえ)に気ィ使ってんじゃねぇよ。誰にも言わねぇって約束を守ってくれりゃ、それでいい」
 なんて、ちぃとばかり格好をつけすぎたか。
「……大丈夫、あたし、誰にも言わないから」
 顔を上げたジュリアは、俺を見上げながら微笑む。
 コイツのこういう姿を見ると、年齢の割にしっかりしちゃいるんだが、まだまだガキなんだよなって思っちまう。
「ところでさ、今日はどうしたの? 散歩でもしてたの?」
 どさくさ紛れに半ば強引に奢らせたクセに、よく言いやがるなコイツ。俺は思わず心の中で突っ込みを入れた。
「まだ昨日の帰還報告してなかったんだよ。だから、ギルドに行くついでにブラついてたら以下略、ってな」
「ゴオトって結構几帳面だと思ってたんだけど、忘れることもあるんだ」
「るっせぇ。たまたま忘れただけだろうが。一々ガタガタぬかすんじゃねぇよ」
 憎まれ口を叩いてみるが、ジュリアは生暖かい笑顔を向けてくる。
 止めろっての、その微笑み。
「あたしも付いていっていい? ヴォルガがまだ全然動ける状態じゃないからさ、あたし一人でも受けられるような依頼があるか、見ておきたいし」
 そう言や、診療所に入院したままだったか。探しに行って助け出したのが一昨日のことだ。なのに、随分と昔のように感じるな。
「他の連中はどうなんだ?」
 ジュリアは、少し驚いたように俺を見る。助けたって立場な以上、多少なりとも気になるだろうが。
「あ、えっと、ギル──大怪我してなかった方の戦士はね、今は武器屋で臨時雇いの手伝いしてる。メイはヴォルガに付きっきり。もしかしたら、メイはこのまま冒険者を引退しちゃうかも……」
「まあ、向いてねぇと思ってんなら、さっさと引退しちまうのが、自分と周りの人間のためだ」
 俺の言葉に、思わず眉をひそめるジュリア。
「それって、ちょっと冷たくない?」
「むしろ親切心で言ってるんだがな。見切りをつけるってんなら、早い方が良いに決まってら。向いてねぇのにズルズル続けちまって、別の道に進もうにも潰しが効かなくなって手詰まりになるよか、よっぽどマシだろうが」
 ジュリアは俺を見つめる。反論したそうだが、言葉が出てこねぇみてぇだ。
「……それって、ゴオト自身のこと?」
 ようやく吐き出したのがそれか。
「どうだかな。まあ、テメェよりは長生きしてるオッサンの、有難い助言と思ってくれりゃいい」
 わざとおどけたように言ってみせる。
 指に付いている肉桂(シナモン)の粉を舐めりゃ、少し苦い味がした。
「……そ、そういえば、ゴオトって『奇蹟』、使えたんだね。あたし、てっきり使えないと思ってた」
 強引に話題を変えた先が、よりにもよってそれかよ。
 俺は大袈裟に息を吐いてみせる。
「そのことも、誰にも言うなよ? 表沙汰になったら色々面倒なんだよ」
 教会の審問官様々に消されちまうかも知れねぇからな、ってのは言えなかった。
 コイツみてぇな夢も希望もあるような若者に、一々教会の暗部を見せつけるような真似をする必要はねぇだろ。知らねぇなら、一生知らねぇままでいた方がいいことだ。
「うん。約束する。でもね、これだけはもう一度言わせて」
 俺を見上げながら、俺の目を真っ直ぐ見ながら、ジュリアはこう言った。
「ゴオト、ヴォルガのこと助けてくれて、本当にありがとう」
 思わず泣きそうになるのを、何とか堪える。
 フューネやレオン、遺体回収の依頼主に感謝されることなら日常的にある。だが、『奇蹟』を使って感謝されるのなんざ……一体、何年振りなんだろうな。
「はんっ! べ、別に俺は……神官として当たり前のことをしただけだろうが」
 顔を思いきり横に逸らしながら言うが、ジュリアは面白がるようにこちらを覗き込もうとしてきやがる。
「あ、もしかして……泣いてる? 泣くほど嬉しかった?」
 クソっ。ニヤニヤ笑いすんな。腹立つなコイツ。
「な、泣いてねぇよ! ふざけたこと言ってねぇでさっさとギルドに行くぞ!」
 すぐに調子に乗りやがる。これだから……ガキは嫌いなんだよ。


 この時間にしては珍しく、ギルドはガラ空きだった。まあ、そんなこともあらあな。
「あ、こんにちは」
 俺とジュリアを見るなり、受付嬢のエイミーが挨拶してくる。
 待ち人の居ないカウンターへと真っ先に駆け出したのは、ジュリアの方だった。
「ねえ、エイミー。あたし一人でも受けられるような、簡単な依頼ってないかな?」
「ジュリアちゃん一人だったら……この辺のとかどう? 街の別の地区への配達とか、近場で薬草採取の護衛とか」
 言いながら、エイミーは紙の束をジュリアに手渡す。
 つか、タメ口な上に『ちゃん』付けか。女の友情というか交友関係というか上下関係なんてモンは、俺みてぇなオッサンにはマジで解らん。
「それで、今日はどうされたんですか?」
 カウンターの隅に移動したジュリアからは一旦目を離し、エイミーは俺に聞いてくる。
「なぁに。単に帰還報告してなかったなと思ってな。悪ィが、昨日の夕方に帰還済みって、書いといてくれねぇか?」
 近くの棚から綴じられた紙の束を取り出すと、その一番新しい書類の空欄に、日付と時間を書き込むエイミー。
 ギルドのハンコが押されたのを見届けて、とりあえず俺の用事は終了だ。
「あ、そうそう、そう言えば」
 あーでもない、こーでもないと、悩みながら紙の束を捲り続けていたジュリアを観察していた俺に、エイミーが不意に声を掛けてきた。
「あの、会いたいってお客様が、いらっしゃってるんですけど……」
 ……はい?
「客? 俺に? 何でだ?」
「さ、さあ、そこまでは伺ってませんので、ちょっと分からないんですが……」
 俺の当たらねぇカンが、非常事態宣言してやがる。カンに頼るまでもなく、こういう場合は大抵ロクでもねぇことが起きるんだよ。
「で、客ってのは?」
「あ、あちらにいらっしゃるかと」
 エイミーが手で指し示した方向、ギルド併設の酒場には、妙な緊張感が溢れてやがる。
 で、その緊張感の源を辿っていくと……。
「……んげ」
 思わず声に出ちまった。
 酒場の中央にあるテーブルに座っている男女。そいつらには見覚えがあった。
 切り揃えられ整えられた短い金髪。切れ長の目の中で光る青い瞳。イラついてるのか何なのかは知らねぇが、相変わらず威圧感を周囲に振りまいている兄ちゃん。
 一昨日、17号区画で遭遇した、例の貴族のボンボン騎士サマだ。
 ……あ、目が合っちまった。
 あっちも俺の顔を思い出したのか、女の方が止める間もなく勢いよく立ち上がると、こっちに向かってずかずかと歩いてきやがった。
「……貴様」
 明らかに怒りを含んでる口調。普段なら、あんまり怒ってばかりいるとハゲるぞ、なんて軽口も叩けるんだがな。
 相手が剣の柄に手を掛けてる状況だ。流石にそこまで出来るほど、俺は命知らずじゃねぇ。
「先日は随分と『世話』になったな」
 騎士サマは一応、体面を保つために笑ってはいる。いや、逆に怖ぇだろ、それ。
「おいおい、止めてくれよ? テメェがどんな世界で生きてるかは知らねぇが、冒険者ギルドじゃ刃傷沙汰は厳禁てことになってるんでな」
 あくまで平静を装いながら答えてみるが、内心はバクバクだ。
「で、テメェみてぇな野郎がこんな場所に何の用なんだよ?」
「貴様に態々教えてやる必要は無い。私が用があるのは、ゴオトとか言う神官崩れなのだからな」
 俺かよ!?
「ほ、ほーん……」
 嫌な方向にばかり想像が働いちまう。もしかして、断罪されちまったりすんのか、俺。
 誰も口出し出来ねぇような、イヤな沈黙。それを破ったのは、ジュリアだった。
「ねえねえゴオト、この依頼とかどうかな? これだったら私でも一人でこなせそうだと思うんだけど……」
 あ。
 詰んじまったわ、コレ。
 おまけに俺の名前を暴露した挙げ句、相手を見て固まるんじゃねぇよ。
「……貴様が、ゴオト……ゴオト・マンディアンなのか……?」
 騎士サマの方も騎士サマの方で、穴が開くくれぇに俺をじっと見つめてやがる。
 一体全体どういう状況なんだよ、これは。



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 ジュリアの言葉に、俺は思わず立ち止まる。 謝るって、何をだ?
 やや間を置いて、ジュリアが続ける。
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 ジュリアも立ち止まり、少しだけ俯いた。
 こんな風に、一線の前でちゃんと空気を読めるってのは、コイツの美点だとは思う。
「ったくよぉ」
 俺はジュリアの頭を、空いてる方の手でポンポンと軽く叩く。
「ガキが|一丁前《いっちょまえ》に気ィ使ってんじゃねぇよ。誰にも言わねぇって約束を守ってくれりゃ、それでいい」
 なんて、ちぃとばかり格好をつけすぎたか。
「……大丈夫、あたし、誰にも言わないから」
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 どさくさ紛れに半ば強引に奢らせたクセに、よく言いやがるなコイツ。俺は思わず心の中で突っ込みを入れた。
「まだ昨日の帰還報告してなかったんだよ。だから、ギルドに行くついでにブラついてたら以下略、ってな」
「ゴオトって結構几帳面だと思ってたんだけど、忘れることもあるんだ」
「るっせぇ。たまたま忘れただけだろうが。一々ガタガタぬかすんじゃねぇよ」
 憎まれ口を叩いてみるが、ジュリアは生暖かい笑顔を向けてくる。
 止めろっての、その微笑み。
「あたしも付いていっていい? ヴォルガがまだ全然動ける状態じゃないからさ、あたし一人でも受けられるような依頼があるか、見ておきたいし」
 そう言や、診療所に入院したままだったか。探しに行って助け出したのが一昨日のことだ。なのに、随分と昔のように感じるな。
「他の連中はどうなんだ?」
 ジュリアは、少し驚いたように俺を見る。助けたって立場な以上、多少なりとも気になるだろうが。
「あ、えっと、ギル──大怪我してなかった方の戦士はね、今は武器屋で臨時雇いの手伝いしてる。メイはヴォルガに付きっきり。もしかしたら、メイはこのまま冒険者を引退しちゃうかも……」
「まあ、向いてねぇと思ってんなら、さっさと引退しちまうのが、自分と周りの人間のためだ」
 俺の言葉に、思わず眉をひそめるジュリア。
「それって、ちょっと冷たくない?」
「むしろ親切心で言ってるんだがな。見切りをつけるってんなら、早い方が良いに決まってら。向いてねぇのにズルズル続けちまって、別の道に進もうにも潰しが効かなくなって手詰まりになるよか、よっぽどマシだろうが」
 ジュリアは俺を見つめる。反論したそうだが、言葉が出てこねぇみてぇだ。
「……それって、ゴオト自身のこと?」
 ようやく吐き出したのがそれか。
「どうだかな。まあ、テメェよりは長生きしてるオッサンの、有難い助言と思ってくれりゃいい」
 わざとおどけたように言ってみせる。
 指に付いている肉桂《シナモン》の粉を舐めりゃ、少し苦い味がした。
「……そ、そういえば、ゴオトって『奇蹟』、使えたんだね。あたし、てっきり使えないと思ってた」
 強引に話題を変えた先が、よりにもよってそれかよ。
 俺は大袈裟に息を吐いてみせる。
「そのことも、誰にも言うなよ? 表沙汰になったら色々面倒なんだよ」
 教会の審問官様々に消されちまうかも知れねぇからな、ってのは言えなかった。
 コイツみてぇな夢も希望もあるような若者に、一々教会の暗部を見せつけるような真似をする必要はねぇだろ。知らねぇなら、一生知らねぇままでいた方がいいことだ。
「うん。約束する。でもね、これだけはもう一度言わせて」
 俺を見上げながら、俺の目を真っ直ぐ見ながら、ジュリアはこう言った。
「ゴオト、ヴォルガのこと助けてくれて、本当にありがとう」
 思わず泣きそうになるのを、何とか堪える。
 フューネやレオン、遺体回収の依頼主に感謝されることなら日常的にある。だが、『奇蹟』を使って感謝されるのなんざ……一体、何年振りなんだろうな。
「はんっ! べ、別に俺は……神官として当たり前のことをしただけだろうが」
 顔を思いきり横に逸らしながら言うが、ジュリアは面白がるようにこちらを覗き込もうとしてきやがる。
「あ、もしかして……泣いてる? 泣くほど嬉しかった?」
 クソっ。ニヤニヤ笑いすんな。腹立つなコイツ。
「な、泣いてねぇよ! ふざけたこと言ってねぇでさっさとギルドに行くぞ!」
 すぐに調子に乗りやがる。これだから……ガキは嫌いなんだよ。
 この時間にしては珍しく、ギルドはガラ空きだった。まあ、そんなこともあらあな。
「あ、こんにちは」
 俺とジュリアを見るなり、受付嬢のエイミーが挨拶してくる。
 待ち人の居ないカウンターへと真っ先に駆け出したのは、ジュリアの方だった。
「ねえ、エイミー。あたし一人でも受けられるような、簡単な依頼ってないかな?」
「ジュリアちゃん一人だったら……この辺のとかどう? 街の別の地区への配達とか、近場で薬草採取の護衛とか」
 言いながら、エイミーは紙の束をジュリアに手渡す。
 つか、タメ口な上に『ちゃん』付けか。女の友情というか交友関係というか上下関係なんてモンは、俺みてぇなオッサンにはマジで解らん。
「それで、今日はどうされたんですか?」
 カウンターの隅に移動したジュリアからは一旦目を離し、エイミーは俺に聞いてくる。
「なぁに。単に帰還報告してなかったなと思ってな。悪ィが、昨日の夕方に帰還済みって、書いといてくれねぇか?」
 近くの棚から綴じられた紙の束を取り出すと、その一番新しい書類の空欄に、日付と時間を書き込むエイミー。
 ギルドのハンコが押されたのを見届けて、とりあえず俺の用事は終了だ。
「あ、そうそう、そう言えば」
 あーでもない、こーでもないと、悩みながら紙の束を捲り続けていたジュリアを観察していた俺に、エイミーが不意に声を掛けてきた。
「あの、会いたいってお客様が、いらっしゃってるんですけど……」
 ……はい?
「客? 俺に? 何でだ?」
「さ、さあ、そこまでは伺ってませんので、ちょっと分からないんですが……」
 俺の当たらねぇカンが、非常事態宣言してやがる。カンに頼るまでもなく、こういう場合は大抵ロクでもねぇことが起きるんだよ。
「で、客ってのは?」
「あ、あちらにいらっしゃるかと」
 エイミーが手で指し示した方向、ギルド併設の酒場には、妙な緊張感が溢れてやがる。
 で、その緊張感の源を辿っていくと……。
「……んげ」
 思わず声に出ちまった。
 酒場の中央にあるテーブルに座っている男女。そいつらには見覚えがあった。
 切り揃えられ整えられた短い金髪。切れ長の目の中で光る青い瞳。イラついてるのか何なのかは知らねぇが、相変わらず威圧感を周囲に振りまいている兄ちゃん。
 一昨日、17号区画で遭遇した、例の貴族のボンボン騎士サマだ。
 ……あ、目が合っちまった。
 あっちも俺の顔を思い出したのか、女の方が止める間もなく勢いよく立ち上がると、こっちに向かってずかずかと歩いてきやがった。
「……貴様」
 明らかに怒りを含んでる口調。普段なら、あんまり怒ってばかりいるとハゲるぞ、なんて軽口も叩けるんだがな。
 相手が剣の柄に手を掛けてる状況だ。流石にそこまで出来るほど、俺は命知らずじゃねぇ。
「先日は随分と『世話』になったな」
 騎士サマは一応、体面を保つために笑ってはいる。いや、逆に怖ぇだろ、それ。
「おいおい、止めてくれよ? テメェがどんな世界で生きてるかは知らねぇが、冒険者ギルドじゃ刃傷沙汰は厳禁てことになってるんでな」
 あくまで平静を装いながら答えてみるが、内心はバクバクだ。
「で、テメェみてぇな野郎がこんな場所に何の用なんだよ?」
「貴様に態々教えてやる必要は無い。私が用があるのは、ゴオトとか言う神官崩れなのだからな」
 俺かよ!?
「ほ、ほーん……」
 嫌な方向にばかり想像が働いちまう。もしかして、断罪されちまったりすんのか、俺。
 誰も口出し出来ねぇような、イヤな沈黙。それを破ったのは、ジュリアだった。
「ねえねえゴオト、この依頼とかどうかな? これだったら私でも一人でこなせそうだと思うんだけど……」
 あ。
 詰んじまったわ、コレ。
 おまけに俺の名前を暴露した挙げ句、相手を見て固まるんじゃねぇよ。
「……貴様が、ゴオト……ゴオト・マンディアンなのか……?」
 騎士サマの方も騎士サマの方で、穴が開くくれぇに俺をじっと見つめてやがる。
 一体全体どういう状況なんだよ、これは。