【1】
ー/ー
「彰人さんの部屋で、終電まで一緒に居たいです」
あれはちょうど二年前。
付き合い出して初めて迎えた、彼女の二十四歳の誕生日だった。
「平日だからあんまり時間ないけど。できる限り、舞ちゃんの希望通りにするよ」
プレゼントは渡すとしても、当日に特別な食事は無理だ。彼女はともかく、俺は時期的に定時ではまず帰れなかった。
翌日も仕事なので、泊まるわけにも行かない。まさか一緒に出勤はできないだろう。
それにしても、彼女の『希望』は、あまりにもささやかなものだったのだ。
「夕食、簡単なものでよかったらわたしが作りましょうか?」
普段通りの彼女を慌てて止める。誕生日の相手に、俺が作ってもらってどうするんだ。
「いや、もうテイクアウトでいいだろ。ケーキくらい、……あ、夜遅くは食べたくないかな? ディナーの日に一緒にする?」
「ディナー?」
不思議そうに訊き返す彼女。まさか、当日ほんの数時間過ごすだけで済ませるわけないだろうに。
「別の日にちゃんとしたお祝いの食事に行こう。誕生日当日じゃなくて悪いけど」
「え、いいです。要らない。さっき言ったじゃないですか。その日、二人で過ごせたらそれだけで」
彼女の答えに、こちらが言葉を失った。
特に気を遣っている風にも見えない。素の状態だ。──少し他の女の子とは違うなとは感じていたが。
「……えーと、俺もたまには豪華なもの食べたいかなって。どうせなら舞ちゃんと二人で行きたいんだ」
「そうなんですか? わかりました」
納得したかどうかはともかく、逆らわずに頷く彼女に安心した。
あの頃は「近くにいるからこそ」だと思っていた。毎日、職場で顔を合わせる。プライベートでも、その気になればいつでも会える。触れ合える。
……それこそが大事なんだって。
まだリアクションはありません。最初の一歩を踏み出しましょう!
おすすめ作品を読み込み中です…
この作品と似た作品
似た傾向の作品は見つかりませんでした。
この作品を読んだ人が読んでいる作品
読者の傾向からおすすめできる作品がありませんでした。
おすすめ作品は現在準備中です。
おすすめ作品の取得に失敗しました。時間をおいて再度お試しください。
「|彰人《あきひと》さんの部屋で、終電まで一緒に居たいです」
あれはちょうど二年前。
付き合い出して初めて迎えた、彼女の二十四歳の誕生日だった。
「平日だからあんまり時間ないけど。できる限り、|舞《まい》ちゃんの希望通りにするよ」
プレゼントは渡すとしても、当日に特別な食事は無理だ。彼女はともかく、俺は時期的に定時ではまず帰れなかった。
翌日も仕事なので、泊まるわけにも行かない。まさか一緒に出勤はできないだろう。
それにしても、彼女の『希望』は、あまりにもささやかなものだったのだ。
「夕食、簡単なものでよかったらわたしが作りましょうか?」
普段通りの彼女を慌てて止める。誕生日の相手に、俺が作ってもらってどうするんだ。
「いや、もうテイクアウトでいいだろ。ケーキくらい、……あ、夜遅くは食べたくないかな? ディナーの日に一緒にする?」
「ディナー?」
不思議そうに訊き返す彼女。まさか、当日ほんの数時間過ごすだけで済ませるわけないだろうに。
「別の日にちゃんとしたお祝いの食事に行こう。誕生日当日じゃなくて悪いけど」
「え、いいです。要らない。さっき言ったじゃないですか。その日、二人で過ごせたらそれだけで」
彼女の答えに、こちらが言葉を失った。
特に気を遣っている風にも見えない。素の状態だ。──少し他の女の子とは違うなとは感じていたが。
「……えーと、俺もたまには豪華なもの食べたいかなって。どうせなら舞ちゃんと二人で行きたいんだ」
「そうなんですか? わかりました」
納得したかどうかはともかく、逆らわずに頷く彼女に安心した。
あの頃は「近くにいるからこそ」だと思っていた。毎日、職場で顔を合わせる。プライベートでも、その気になればいつでも会える。触れ合える。
……それこそが大事なんだって。