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【ジョージ・クラーケン】

ー/ー




 船の上に上げられた三人は、乱暴に網から出され、縛られた。
 レオールは抵抗しようとしたが、数人の船員に押さえつけられ、何もできなかった。

 船員たちは皆タコのような顔をしていて、四本の腕と四本の足を持っている。
 一応服は着ているが、服の下で手足がうねりと動いているのが分かった。

 船員たちはレオールたち三人を囲んでいる。

「うーん、弱っちそうな奴と、子どもと有翼人かぁ……子どもと有翼人は売れそうだけどなぁ」

 船員の一人がレオールを見て、頭の色を赤茶色から青に変えた。
 他の船員たちはレオールをじろじろと見ながら、吸盤のついた腕を迷い気味に動かす。

「この縄を解け」

 エルキデスが船員たちを睨み、船員たちは動きを止める。
 そして、全員が体の色を紫色に変えた。

 見た目は子どもと言えど、姿からは想像できない、威圧感がある。

「……どうする?」
「解く?」
「カシラに伝える?」

 船員たちがこそこそと話す。
 明らかに彼らはエルキデスの圧に負けていた。

(なるほど、子どもになってもやはり魔王は魔王か)

 レオールはそう思い、口角を持ち上げる。

 船員たちが話し合っていると。

「どーうしたお前たちぃ」

 と、太い男の声がした。
 しかも、弦楽器の音もする。

 その声の主は、楽器を弾きながらレオールたちの方へと歩いて来た。
 船員たちは道をあけ、声の主の姿が明らかになる。

 黒い服に派手な装飾を身に着け、帽子をかぶっている。
 指には大きな青色の宝石がついた指輪をつけていて、レオールは妙にその指輪が気になった。
 そして、顔には四つの目があり、長いひげのような白い触手が口もとに生えている。

 また、彼が持っている楽器はリュートのようだった。

「カシラ!」

 先ほどまでエルキデスに怯えていた船員たちが、カシラと呼ばれたリュートを持つ者の出現で活気づく。

「お前が船長か」

 レオールが聞くと、男はリュートを鳴らして口もとの触手を動かす。
 ねっとりとした粘り気のある音がして、男は頷いた。

「その通りぃ〜、私が、私こそがぁ、この船の船長おぉーにして、海の支配者ぁ、ジョージ・クラーケンさぁ〜」

 リュートを弾きながら、船長、ジョージが歌うように返す。

 いちいち面倒くさい奴だと、レオールは思う。

 こんなふざけた相手に、エルキデスはかなりご立腹だろうとレオールがエルキデスの方を見ると、エルキデスは無言でジョージを睨んでいた。

 しかし、先ほど船長たちに向けていたような、威圧感は無い。

 むしろ、エルキデスの方が怯んでいるようにも見えた。

「大丈夫か?」

 レオールが小声でエルキデスに言うと、エルキデスはハッとしてレオールを見上げる。

「当然だ」

 エルキデスはぎこちない笑みを向けた。

(大丈夫じゃなさそうだな)

 心の中でレオールは呟き、ジョージの方に視線を戻す。
 ジョージは三人の近くに来て、リュートの弦を指で弾く。

「あー可哀想にぃ、怯えているじゃあーないかぁー」

 ジョージは歌うと、その場でくるりと回転する。

「カシラ、こいつらどうしますか?」

 ジョージの不快な歌声を気にする様子もなく、船員の一人が聞く。
 するとジョージは一度咳払いをして、それから船員たちの方を見た。

「この人間と鬼神族の子どもは貨物室へ、有翼人の女はこちらで使わせてもらおう」

 いきなり歌を止めて素になったジョージが返すと、船員たちは「ラジャー!」と声を揃える。
 その時だった。

「ワシを、鬼神族などと間違えるな」

 エルキデスが声を低くして言う。
 一気に空気が凍てつき、ジョージは振り向いた。
 四つの目を見開き、エルキデスを見る。

 エルキデスは殺意のこもった眼差しでジョージを睨んでいた。

「は、早くこの子どもを貨物室へ!」

 ジョージが言うと、船員たちがレオールとエルキデスを捕まえる。

「レオール様!」

 サリーは叫び、レオールの方に行こうとするが、船員がサリーを縛っている縄を掴み、妨害した。

「サリー! 必ず助ける! 必ずだ!」

 レオールが言うと、船員がレオールの口を塞ぎ、引きずって行く。
 エルキデスを捕まえた船員がエルキデスを持ち上げようとすると、エルキデスは「ワシに触れるな」と言って船員を睨んだ。

「ひぃっ」

 船員が震える。

 その時。

「無駄な抵抗はぁー止めなさぁい〜」

 ジョージがまた歌い出し、リュートを鳴らす。
 エルキデスはジョージを睨み、悔しげに歯を食いしばった。

 エルキデスがおとなしくなったと思った船員は慌ててエルキデスの目を隠しながら抱き上げる。
 そしてレオールとエルキデスを運んで行くと、薄暗い貨物室に放り込んだ。

「おとなしくしてろよ!」

 船員はそう言い残し、貨物室の扉を閉める。
 ガチャリと鍵をかける音がした。

「くそ、最悪だな」

 レオールが吐き捨てる。
 エルキデスは無言で体を起こし、座った。

「急いでここを出なければ、サリーが心配だ」

 なんとか体を起こし、レオールは苦々しげに呟く。
 ふと、レオールは無言のエルキデスに目を向ける。
 薄暗いせいでその表情を細かに理解することはできなかったが、エルキデスの様子がおかしいという事は理解できた。

「どうしたんだ、魔王? さっきから様子がおかしいぞ」

 少し心配になり、レオールが聞くと、エルキデスはゆっくりと顔を上げ、レオールを見る。

「……気付いていないのか?」

 エルキデスに聞かれ、何のことか分からずにレオールは首を傾げた。

「何を……だ?」

 そう返したレオールを見つめ、そしてエルキデスは肩を震わせ、笑う。

「ククク……そうか、なるほどな」

 エルキデスが笑っている理由が分からず、レオールは眉間にシワを寄せる。

「ただ儀式で魔力を使い果たしているのだと思っていたが……レオール、貴様、元々魔力を有していないな?」

 そう言われ、レオールは目を見開いた。

「は……? なぜ、そんな事を」

 冷静に返そうとするが、レオールの声は震えている。

「あのジョージという魔物が弾いていたリュートは、封魔のリュートだ、あのリュートの音は魔力を封じる効果がある……何も感じていないのは、封じられる魔力も持ち得ていないということだ」

 言って、エルキデスは笑う。
 レオールは下を向いた。


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 船の上に上げられた三人は、乱暴に網から出され、縛られた。
 レオールは抵抗しようとしたが、数人の船員に押さえつけられ、何もできなかった。
 船員たちは皆タコのような顔をしていて、四本の腕と四本の足を持っている。
 一応服は着ているが、服の下で手足がうねりと動いているのが分かった。
 船員たちはレオールたち三人を囲んでいる。
「うーん、弱っちそうな奴と、子どもと有翼人かぁ……子どもと有翼人は売れそうだけどなぁ」
 船員の一人がレオールを見て、頭の色を赤茶色から青に変えた。
 他の船員たちはレオールをじろじろと見ながら、吸盤のついた腕を迷い気味に動かす。
「この縄を解け」
 エルキデスが船員たちを睨み、船員たちは動きを止める。
 そして、全員が体の色を紫色に変えた。
 見た目は子どもと言えど、姿からは想像できない、威圧感がある。
「……どうする?」
「解く?」
「カシラに伝える?」
 船員たちがこそこそと話す。
 明らかに彼らはエルキデスの圧に負けていた。
(なるほど、子どもになってもやはり魔王は魔王か)
 レオールはそう思い、口角を持ち上げる。
 船員たちが話し合っていると。
「どーうしたお前たちぃ」
 と、太い男の声がした。
 しかも、弦楽器の音もする。
 その声の主は、楽器を弾きながらレオールたちの方へと歩いて来た。
 船員たちは道をあけ、声の主の姿が明らかになる。
 黒い服に派手な装飾を身に着け、帽子をかぶっている。
 指には大きな青色の宝石がついた指輪をつけていて、レオールは妙にその指輪が気になった。
 そして、顔には四つの目があり、長いひげのような白い触手が口もとに生えている。
 また、彼が持っている楽器はリュートのようだった。
「カシラ!」
 先ほどまでエルキデスに怯えていた船員たちが、カシラと呼ばれたリュートを持つ者の出現で活気づく。
「お前が船長か」
 レオールが聞くと、男はリュートを鳴らして口もとの触手を動かす。
 ねっとりとした粘り気のある音がして、男は頷いた。
「その通りぃ〜、私が、私こそがぁ、この船の船長おぉーにして、海の支配者ぁ、ジョージ・クラーケンさぁ〜」
 リュートを弾きながら、船長、ジョージが歌うように返す。
 いちいち面倒くさい奴だと、レオールは思う。
 こんなふざけた相手に、エルキデスはかなりご立腹だろうとレオールがエルキデスの方を見ると、エルキデスは無言でジョージを睨んでいた。
 しかし、先ほど船長たちに向けていたような、威圧感は無い。
 むしろ、エルキデスの方が怯んでいるようにも見えた。
「大丈夫か?」
 レオールが小声でエルキデスに言うと、エルキデスはハッとしてレオールを見上げる。
「当然だ」
 エルキデスはぎこちない笑みを向けた。
(大丈夫じゃなさそうだな)
 心の中でレオールは呟き、ジョージの方に視線を戻す。
 ジョージは三人の近くに来て、リュートの弦を指で弾く。
「あー可哀想にぃ、怯えているじゃあーないかぁー」
 ジョージは歌うと、その場でくるりと回転する。
「カシラ、こいつらどうしますか?」
 ジョージの不快な歌声を気にする様子もなく、船員の一人が聞く。
 するとジョージは一度咳払いをして、それから船員たちの方を見た。
「この人間と鬼神族の子どもは貨物室へ、有翼人の女はこちらで使わせてもらおう」
 いきなり歌を止めて素になったジョージが返すと、船員たちは「ラジャー!」と声を揃える。
 その時だった。
「ワシを、鬼神族などと間違えるな」
 エルキデスが声を低くして言う。
 一気に空気が凍てつき、ジョージは振り向いた。
 四つの目を見開き、エルキデスを見る。
 エルキデスは殺意のこもった眼差しでジョージを睨んでいた。
「は、早くこの子どもを貨物室へ!」
 ジョージが言うと、船員たちがレオールとエルキデスを捕まえる。
「レオール様!」
 サリーは叫び、レオールの方に行こうとするが、船員がサリーを縛っている縄を掴み、妨害した。
「サリー! 必ず助ける! 必ずだ!」
 レオールが言うと、船員がレオールの口を塞ぎ、引きずって行く。
 エルキデスを捕まえた船員がエルキデスを持ち上げようとすると、エルキデスは「ワシに触れるな」と言って船員を睨んだ。
「ひぃっ」
 船員が震える。
 その時。
「無駄な抵抗はぁー止めなさぁい〜」
 ジョージがまた歌い出し、リュートを鳴らす。
 エルキデスはジョージを睨み、悔しげに歯を食いしばった。
 エルキデスがおとなしくなったと思った船員は慌ててエルキデスの目を隠しながら抱き上げる。
 そしてレオールとエルキデスを運んで行くと、薄暗い貨物室に放り込んだ。
「おとなしくしてろよ!」
 船員はそう言い残し、貨物室の扉を閉める。
 ガチャリと鍵をかける音がした。
「くそ、最悪だな」
 レオールが吐き捨てる。
 エルキデスは無言で体を起こし、座った。
「急いでここを出なければ、サリーが心配だ」
 なんとか体を起こし、レオールは苦々しげに呟く。
 ふと、レオールは無言のエルキデスに目を向ける。
 薄暗いせいでその表情を細かに理解することはできなかったが、エルキデスの様子がおかしいという事は理解できた。
「どうしたんだ、魔王? さっきから様子がおかしいぞ」
 少し心配になり、レオールが聞くと、エルキデスはゆっくりと顔を上げ、レオールを見る。
「……気付いていないのか?」
 エルキデスに聞かれ、何のことか分からずにレオールは首を傾げた。
「何を……だ?」
 そう返したレオールを見つめ、そしてエルキデスは肩を震わせ、笑う。
「ククク……そうか、なるほどな」
 エルキデスが笑っている理由が分からず、レオールは眉間にシワを寄せる。
「ただ儀式で魔力を使い果たしているのだと思っていたが……レオール、貴様、元々魔力を有していないな?」
 そう言われ、レオールは目を見開いた。
「は……? なぜ、そんな事を」
 冷静に返そうとするが、レオールの声は震えている。
「あのジョージという魔物が弾いていたリュートは、封魔のリュートだ、あのリュートの音は魔力を封じる効果がある……何も感じていないのは、封じられる魔力も持ち得ていないということだ」
 言って、エルキデスは笑う。
 レオールは下を向いた。