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第18話 とある日の昼下がり

ー/ー



『なるほどねぇ。そんなバカなことする魔女がいるなんてね。……信じたくないことだけど』
「そうだね。私も許せないよ」
 
 大森林での戦闘と救出劇から数日後。イヴリンは自身の邸宅の一室で事の経緯を話していた。
 
 艷やかな黒い羽を持つ猛禽類の姿をした大型の鳥の魔物。すらりと伸びた首には革紐とそれに括り付けられた琥珀色の魔石。
 
『屍石を魔石に、って考えたこともないわ。あれは害しか撒き散らさないじゃない』
 
 鳥型の魔物の首から提げられた琥珀色の魔石が明滅して、そしてそこから声が発せられる。年若い少女特有の高い声。早口にまくし立てるような話し方だが、これは彼女の常の話し方。
 
『その魔石、浄化したって話だったけど……どこのバカの仕業かはわかったの?イヴ』
 
 イヴ。イヴリンのことをそう呼ぶのはこのアルドゥイン王国の中でたった一人。
 
 アルドゥイン王国の南を守る獣の魔女ヴィエラ。常に明るく快活で、太陽や活気といったものが服を着て歩いているような少女。
 少女とは言うものの、それはあくまで外見の見た目の話。ヴィエラはイヴリンとは比較にもならないほど長い時間をこの国の魔女として生きてきている。 
 獣の魔女の名の通り多くの魔物を使い魔として使役し、他の魔女には困難な使い魔との直接の視覚情報や聴覚情報の共有が可能なため、情報収集・伝達役として優秀な能力を持っている。そのためにアルドゥイン王国国王から絶大な信頼を寄せられている。
 
 尤も、四魔女は国王の信を受けて指名されるものなのだから、信頼されていないはずがないのだけれど。
 
 そして今イヴリンの目の前で止まり木に止まっている鳥の魔物もまた、ヴィエラの使役する使い魔だった。
 
「魔石は砕いたし、屍石として抱え込んでいた魔素もしっかりと浄化したよ。けれどどこの魔女のものかははっきりとしなかった。どこから流れてきたものかもね」
『うまく隠されてたってことねぇ。めんどくさいわね』
 
 狼型の魔物を解放した後に額から取り出した魔石の浄化をすぐさま行った。屍石を核とした魔石は何重にも魔力で保護をかけられており、だからこそ巨木が揺れるほどの力で頭突きをしても傷一つ入っていなかったのかとイヴリンは顔をしかめたのも記憶に新しい。
 
「とはいえ人的な被害が出る前になんとかできてよかったよ。放置していてはいろいろとまずかっただろうし……気付いてくれた冒険者の子達には感謝しないとね」
『お手当てくらいは出してあげなさいよ〜?』
「あはは……」
 
 重苦しくて息が詰まってしまいそうな話題でも、こうして軽口を挟んでくれるヴィエラの性格には正直に助かっているとイヴリンは思う。どうしてもこういう話題は最悪のことを想定して話をしてしまう癖があるから、こうして少しでも気分を切り替えてくれる話題を振ってくれるのはありがたいのだ。
 
『んで?魔石を介した通話じゃなくてうちの子をわざわざ寄越してくれって連絡をしてきたのはどういう用事?急ぎのこと?』
 
 その言葉に呼応するようにイヴリンの眼前の魔物が首を傾げる。
 
「急ぎ……というわけではないんだけれど。その子の種類がわからなくてね。もしかしたら知っているかもと思って」
『あたしは別に魔物博士じゃないわよ〜』
「少なくとも私よりは詳しいでしょ?」
『そりゃそうだけど〜。……まあ、見るだけ見てみるから。どんな子?』
「ありがとう。……おいで、」
 
 イヴリンの言葉に答えるように、イヴリンの背後の扉がそっと開かれる。その奥からコリンがおおずおずと顔を出し、大きく扉を開くと大きな茶色の塊が勢いよく部屋に飛び込んできた。
 
 椅子に腰掛けているイヴリンに勢いそのままに飛びかかり、イヴリンの太ももに前足をかけて尻尾をはち切れんばかりに振っている。イヴリンのローブの匂いをそこかしこ嗅ぎ周り、顎や首元を舐めてはふんふんと鼻息が荒い。
 
 あの時、イヴリンが救った狼型の魔物だった。
 
『元気ねぇ。助けてからまだ何日も経ってないんじゃなかった?』
「そうなんだけどね……なんだか回復も早いし、体は大きいけれどこの仕草的にもまだ子供かな?って思って」
 
 イヴリンがべちゃべちゃに舐め回されているのをコリンはあわあわと眺めることしかできない。白いローブには茶色の毛も付きたい放題、イヴリンの髪もぐしゃぐしゃにされていて、この後は客人を迎えることになっているのにと予定までの残り時間の逆算と身だしなみを整えるのにかかる時間の計算を始める。
 
 大丈夫。これ以上ぐちゃぐちゃにならなければ間に合うはず。たぶん。
 
「どうかな、この子。この辺りでは見ない子だけれど」
『上位種の仔狼ね〜。王国の周辺では確かに見ない種類の子だけど……グリム・フェンリルって知らない?』


 あっけらかんと言い放つヴィエラにイヴリンは仔狼を撫で回しながら疑問符を浮かべる。
 
「グリム・フェンリル。聞いたことないかも。それにフェンリルは幻獣種じゃ……」
『フェンリルって名前が付いてるけど、姿が似てるからそう呼ばれているってだけ。フェンリルは氷の魔力を操るけど、その子の種が得意としてるのは土の魔力操作。まだ仔狼だから魔法を使うところまではいかないかもだけど』
「そうなんだね。知らなかった」
『イヴの魔力とは相性ががっちり噛み合ってるから必要以上に元気になってるのね。まだ怪我も完治してないでしょうし、少し落ち着かせてあげたほうがいいわよ〜』
 
 その言葉にイヴリンは頷く。仔狼の猛攻はまだ止んでいない。コリンがいよいよまずいとでも言いたげな表情を浮かべているのを横目で確認したイヴリンは鳥の魔物に向かって微笑む。
 
「うん、わかった。ありがとう。……呼びつけておいて申し訳ないんだけれど、この後人と会う予定があって」
『陛下への報告のためにいろいろと纏めておかないとでしょうしね。とはいえ急に呼びつけられたんだからお駄賃くらいはその子にあげてちょうだいよ?』
「もちろん。新鮮なイルグニールのお肉でどうかな」
 
 イヴリンの問いかけに、鳥型の魔物は一声大きく鳴き声を上げた。


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『なるほどねぇ。そんなバカなことする魔女がいるなんてね。……信じたくないことだけど』
「そうだね。私も許せないよ」
 大森林での戦闘と救出劇から数日後。イヴリンは自身の邸宅の一室で事の経緯を話していた。
 艷やかな黒い羽を持つ猛禽類の姿をした大型の鳥の魔物。すらりと伸びた首には革紐とそれに括り付けられた琥珀色の魔石。
『屍石を魔石に、って考えたこともないわ。あれは害しか撒き散らさないじゃない』
 鳥型の魔物の首から提げられた琥珀色の魔石が明滅して、そしてそこから声が発せられる。年若い少女特有の高い声。早口にまくし立てるような話し方だが、これは彼女の常の話し方。
『その魔石、浄化したって話だったけど……どこのバカの仕業かはわかったの?イヴ』
 イヴ。イヴリンのことをそう呼ぶのはこのアルドゥイン王国の中でたった一人。
 アルドゥイン王国の南を守る獣の魔女ヴィエラ。常に明るく快活で、太陽や活気といったものが服を着て歩いているような少女。
 少女とは言うものの、それはあくまで外見の見た目の話。ヴィエラはイヴリンとは比較にもならないほど長い時間をこの国の魔女として生きてきている。 
 獣の魔女の名の通り多くの魔物を使い魔として使役し、他の魔女には困難な使い魔との直接の視覚情報や聴覚情報の共有が可能なため、情報収集・伝達役として優秀な能力を持っている。そのためにアルドゥイン王国国王から絶大な信頼を寄せられている。
 尤も、四魔女は国王の信を受けて指名されるものなのだから、信頼されていないはずがないのだけれど。
 そして今イヴリンの目の前で止まり木に止まっている鳥の魔物もまた、ヴィエラの使役する使い魔だった。
「魔石は砕いたし、屍石として抱え込んでいた魔素もしっかりと浄化したよ。けれどどこの魔女のものかははっきりとしなかった。どこから流れてきたものかもね」
『うまく隠されてたってことねぇ。めんどくさいわね』
 狼型の魔物を解放した後に額から取り出した魔石の浄化をすぐさま行った。屍石を核とした魔石は何重にも魔力で保護をかけられており、だからこそ巨木が揺れるほどの力で頭突きをしても傷一つ入っていなかったのかとイヴリンは顔をしかめたのも記憶に新しい。
「とはいえ人的な被害が出る前になんとかできてよかったよ。放置していてはいろいろとまずかっただろうし……気付いてくれた冒険者の子達には感謝しないとね」
『お手当てくらいは出してあげなさいよ〜?』
「あはは……」
 重苦しくて息が詰まってしまいそうな話題でも、こうして軽口を挟んでくれるヴィエラの性格には正直に助かっているとイヴリンは思う。どうしてもこういう話題は最悪のことを想定して話をしてしまう癖があるから、こうして少しでも気分を切り替えてくれる話題を振ってくれるのはありがたいのだ。
『んで?魔石を介した通話じゃなくてうちの子をわざわざ寄越してくれって連絡をしてきたのはどういう用事?急ぎのこと?』
 その言葉に呼応するようにイヴリンの眼前の魔物が首を傾げる。
「急ぎ……というわけではないんだけれど。その子の種類がわからなくてね。もしかしたら知っているかもと思って」
『あたしは別に魔物博士じゃないわよ〜』
「少なくとも私よりは詳しいでしょ?」
『そりゃそうだけど〜。……まあ、見るだけ見てみるから。どんな子?』
「ありがとう。……おいで、」
 イヴリンの言葉に答えるように、イヴリンの背後の扉がそっと開かれる。その奥からコリンがおおずおずと顔を出し、大きく扉を開くと大きな茶色の塊が勢いよく部屋に飛び込んできた。
 椅子に腰掛けているイヴリンに勢いそのままに飛びかかり、イヴリンの太ももに前足をかけて尻尾をはち切れんばかりに振っている。イヴリンのローブの匂いをそこかしこ嗅ぎ周り、顎や首元を舐めてはふんふんと鼻息が荒い。
 あの時、イヴリンが救った狼型の魔物だった。
『元気ねぇ。助けてからまだ何日も経ってないんじゃなかった?』
「そうなんだけどね……なんだか回復も早いし、体は大きいけれどこの仕草的にもまだ子供かな?って思って」
 イヴリンがべちゃべちゃに舐め回されているのをコリンはあわあわと眺めることしかできない。白いローブには茶色の毛も付きたい放題、イヴリンの髪もぐしゃぐしゃにされていて、この後は客人を迎えることになっているのにと予定までの残り時間の逆算と身だしなみを整えるのにかかる時間の計算を始める。
 大丈夫。これ以上ぐちゃぐちゃにならなければ間に合うはず。たぶん。
「どうかな、この子。この辺りでは見ない子だけれど」
『上位種の仔狼ね〜。王国の周辺では確かに見ない種類の子だけど……グリム・フェンリルって知らない?』
 あっけらかんと言い放つヴィエラにイヴリンは仔狼を撫で回しながら疑問符を浮かべる。
「グリム・フェンリル。聞いたことないかも。それにフェンリルは幻獣種じゃ……」
『フェンリルって名前が付いてるけど、姿が似てるからそう呼ばれているってだけ。フェンリルは氷の魔力を操るけど、その子の種が得意としてるのは土の魔力操作。まだ仔狼だから魔法を使うところまではいかないかもだけど』
「そうなんだね。知らなかった」
『イヴの魔力とは相性ががっちり噛み合ってるから必要以上に元気になってるのね。まだ怪我も完治してないでしょうし、少し落ち着かせてあげたほうがいいわよ〜』
 その言葉にイヴリンは頷く。仔狼の猛攻はまだ止んでいない。コリンがいよいよまずいとでも言いたげな表情を浮かべているのを横目で確認したイヴリンは鳥の魔物に向かって微笑む。
「うん、わかった。ありがとう。……呼びつけておいて申し訳ないんだけれど、この後人と会う予定があって」
『陛下への報告のためにいろいろと纏めておかないとでしょうしね。とはいえ急に呼びつけられたんだからお駄賃くらいはその子にあげてちょうだいよ?』
「もちろん。新鮮なイルグニールのお肉でどうかな」
 イヴリンの問いかけに、鳥型の魔物は一声大きく鳴き声を上げた。