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お客様のご要望でサロン公式SNSアカウントを作ったら刺し殺されました

ー/ー



 俺の名は相原亮二。
 去年『背後霊美容室・霊美(れいび)』を開業した個人事業主だ。

 この店は、客に憑いている背後霊へ美容施術をする完全予約制のサロンである。
 ユニークなコンセプトが話題になり、運もよかったのか固定客も付き、経営は順調だった。
 ただ最近、時代の流れなのか、

「この店、SNSは無いんですか?」
「ネットで予約が取れるとありがたいです」
「スマホで予約を取りたいです」

 という、サロン公式SNSを望む声をもらうことが多くなっていた。
 そこで、作ることにした。



 手順などは特に難しくもなく、無事にアカウントを作成できた。
 朝にホームページにその旨を記し、店内にも貼り紙をした。

 午前中の施術が終わり、客を見送ると、俺のスマホが鳴った。
 サロン公式SNSからの通知だった。メッセージを受信したらしい。
 まだ開設初日なのにもう反応があった。これが公式SNSの威力。素晴らしい――と思いながら、内容を確認した。

 【背後霊美容室 霊美】
 ようこそ背後霊美容室・霊美へ!
 あなたの背後霊も今日からもっと輝けます!
 ご予約やご質問はお気軽にメッセージで♪ 店主の相原亮二がお返事します。
 [10:12]

 これは公式SNS登録者に自動送信されるシステムメッセージ。10:12に登録してくれたようだ。
 その次が、客から今もらったメッセージだ。

【上杉謙信】
 今日このあとできる?
 [11:50]

 ふむ。上杉謙信さんという人からか。歴史好きな人かな? 既存客にはない名前なので、新規客だ。ありがたいことだ。
 今日は平日ということもあり、まだ空き枠はある。ただ、「このあと」とは何時を指しているのだろう。

【背後霊美容室 霊美】
 何時ご希望でしょうか?
 [11:51]

 送信、と。
 うちは昼休みは時間を決めておらず、予約の隙間で昼食を取るようにしている。
 もしこの客がすぐの希望であれば、昼食を取るのはまだ待ったほうがよさそうだ。
 さあて、何時希望かな? と思いながら返事を待ったが、来ない。既読も付かない。

 スマホの前にいないのかな? と思いながらしばらく待ち続け、それでも返信が来ないので、あきらめて昼食を取ろうかなと思い始めたときにメッセージが来た。

【上杉謙信】
 何時が空いてるの?
 [12:27]

【背後霊美容室 霊美】
 早いほうがよろしければ13:00からできますよ。
 [12:28]

 いちおうサロンとしては最低でも30分前には予約してくれということにしており、ホームページにも明記している。この案内で問題ないはずだ。
 これで決まりかな、と思って待ったが、返事が来ない。

 やっぱり食事を取っておいたほうがいいかな? と思い始めたときに、スマホが鳴った。

【上杉謙信】
 13:30とか14:00とかは?
 [12:56]

 俺はまた、すぐに返事をした。

【背後霊美容室 霊美】
 どちらでも大丈夫ですよ。どちらが御都合がよろしいですか?
 [12:56]

 またしばらく返事を待った。

【上杉謙信】
 13:30で
 [13:23]

【背後霊美容室 霊美】
 今からですともう13:30は間に合いませんので、14:00ではいかがでしょうか?
 [13:25]

【上杉謙信】
 その時間は用事があるので16:00は?
 [13:54]

【背後霊美容室 霊美】
 あいにく16:00開始ですと他の予約と被ります。今のところ15:00までに来ていただければ施術できるのですが。いかがでしょう?
 [13:55]

 なんとなく15:00でも大丈夫そうな感じだよな? と思いながら返信を待った。
 しかしすぐ、サロンの電話が鳴った。慌てて固定電話機へと向かう。

「はい、背後霊美容室・霊美です」
『こんにちは佐藤ですぅ~。今日15:00いけます?』
「はい。お取りできますよ」
『じゃあそれでぇ~』
「ありがとうございます。お待ちしております」

 ああ、これはSNSでやり取り中の人へ速やかに伝えなければ――と、またスマホへと走る。
 ところが。

【上杉謙信】
 じゃあ15:00で
 [13:57]

 すでに返信が来ていた。
 俺は慌ててメッセージを返した。

【背後霊美容室 霊美】
 申し訳ございません。あいにく15:00につきましては今、入れ違いで電話予約が入ってしまいました。17:00ならお取りできますがいかがでしょう?
 [13:58]

 時間が過ぎるのは早い。
 返事を待ちながら店内を掃除し、準備を整えたらあっという間に佐藤さんが来てしまった。

「こんにちはぁ~。いつも急な予約でごめんねぇ~」

 佐藤さんはいつも10分前に来てくださる。遅刻は困るのでありがたい。
 SNSでやり取り中の人のことは気になったが、俺は目の前の施術に集中した。

「ありがとぉ~。またお願いねぇ~」

 彼女と、彼女と一緒に何度も律義にお辞儀するおばあちゃん背後霊を見送り終えると、俺はすぐにスマホを見た。
 SNSでやり取り中の上杉謙信さんからはまだ返信がなかった。
 俺はすぐに頭を切り替え、次の16:00予約の鷹司(たかつかさ)さんの来店の準備に入った。

「オーッホッホッホ。久しぶりね、相原くん」

 この方はいつも数分遅れて来店する。
 サロンとしては困るが、10分以上の無断遅刻がキャンセルとなるため、それには抵触しない。
 やはりSNSでやり取り中の人のことは気になったが、目の前の施術に集中した。

「キャッハッハッハ! なんか背中が軽くなった気がするわ。ありがとうね」

 鷹司さんは話し好きであるため、施術後のトークも長くなる傾向がある。
 施術が終わり、彼女と、彼女以上に居座っていた中年背後霊を見送り終えたときには、すでにサロンの壁掛け時計は17:03だった。
 俺は慌ててスマホを見に行った。

【上杉謙信】
 じゃあ17:00
 [16:05]

 まずい。と思った。

【背後霊美容室 霊美】
 大変申し訳ございません。
 施術に入っていたため今メッセージを見ました。17:00はもうお取りできません。大変失礼しました。
 [17:05]

 慌ててお詫びのメッセージを送信した。

【上杉謙信】
 何時なら取れるんだ
 [17:28]

【背後霊美容室 霊美】
 大変申し訳ございません。
 ラストの18:00からも予約が入っているため、本日はもうお取りできる時間がありません。明日以降であればまだ空きがありますのでお受けできます。
 [17:29]

【上杉謙信】
 てめぇふざけんなよ
 今から●しに行くから待ってろ
 [17:42]

 どうやら怒らせてしまった。
 と思ったのと同時に、どうやらもう出入り禁止にしたほうがよさそうな客であるようにも思えた。
 メッセージのテンションがどう見ても正常ではない。

 さすがに殺害予告は本気ではないと思うが……。
 そう思いながら、次の客の来店が迫っているため、準備に入る。

 すると、サロンの出入り口を乱暴に開ける音がした。

「相原亮二はどこだ」

 え、本当に来てしまうのか。
 上杉謙信はがっしりとした体格で、髭を生やした男だった。
 手には……包丁を持っていた。

「あっ、先ほどは――ぅッ」

 腹部に、激痛。
 あらためてお詫びを言うことすらも許されなかった。

 最期に、彼の背後を見た。
 そこにいた背後霊は、本当に――。



 相原亮二 享年三十八





-完-


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 俺の名は相原亮二。
 去年『背後霊美容室・|霊美《れいび》』を開業した個人事業主だ。
 この店は、客に憑いている背後霊へ美容施術をする完全予約制のサロンである。
 ユニークなコンセプトが話題になり、運もよかったのか固定客も付き、経営は順調だった。
 ただ最近、時代の流れなのか、
「この店、SNSは無いんですか?」
「ネットで予約が取れるとありがたいです」
「スマホで予約を取りたいです」
 という、サロン公式SNSを望む声をもらうことが多くなっていた。
 そこで、作ることにした。
 手順などは特に難しくもなく、無事にアカウントを作成できた。
 朝にホームページにその旨を記し、店内にも貼り紙をした。
 午前中の施術が終わり、客を見送ると、俺のスマホが鳴った。
 サロン公式SNSからの通知だった。メッセージを受信したらしい。
 まだ開設初日なのにもう反応があった。これが公式SNSの威力。素晴らしい――と思いながら、内容を確認した。
 【背後霊美容室 霊美】
 ようこそ背後霊美容室・霊美へ!
 あなたの背後霊も今日からもっと輝けます!
 ご予約やご質問はお気軽にメッセージで♪ 店主の相原亮二がお返事します。
 [10:12]
 これは公式SNS登録者に自動送信されるシステムメッセージ。10:12に登録してくれたようだ。
 その次が、客から今もらったメッセージだ。
【上杉謙信】
 今日このあとできる?
 [11:50]
 ふむ。上杉謙信さんという人からか。歴史好きな人かな? 既存客にはない名前なので、新規客だ。ありがたいことだ。
 今日は平日ということもあり、まだ空き枠はある。ただ、「このあと」とは何時を指しているのだろう。
【背後霊美容室 霊美】
 何時ご希望でしょうか?
 [11:51]
 送信、と。
 うちは昼休みは時間を決めておらず、予約の隙間で昼食を取るようにしている。
 もしこの客がすぐの希望であれば、昼食を取るのはまだ待ったほうがよさそうだ。
 さあて、何時希望かな? と思いながら返事を待ったが、来ない。既読も付かない。
 スマホの前にいないのかな? と思いながらしばらく待ち続け、それでも返信が来ないので、あきらめて昼食を取ろうかなと思い始めたときにメッセージが来た。
【上杉謙信】
 何時が空いてるの?
 [12:27]
【背後霊美容室 霊美】
 早いほうがよろしければ13:00からできますよ。
 [12:28]
 いちおうサロンとしては最低でも30分前には予約してくれということにしており、ホームページにも明記している。この案内で問題ないはずだ。
 これで決まりかな、と思って待ったが、返事が来ない。
 やっぱり食事を取っておいたほうがいいかな? と思い始めたときに、スマホが鳴った。
【上杉謙信】
 13:30とか14:00とかは?
 [12:56]
 俺はまた、すぐに返事をした。
【背後霊美容室 霊美】
 どちらでも大丈夫ですよ。どちらが御都合がよろしいですか?
 [12:56]
 またしばらく返事を待った。
【上杉謙信】
 13:30で
 [13:23]
【背後霊美容室 霊美】
 今からですともう13:30は間に合いませんので、14:00ではいかがでしょうか?
 [13:25]
【上杉謙信】
 その時間は用事があるので16:00は?
 [13:54]
【背後霊美容室 霊美】
 あいにく16:00開始ですと他の予約と被ります。今のところ15:00までに来ていただければ施術できるのですが。いかがでしょう?
 [13:55]
 なんとなく15:00でも大丈夫そうな感じだよな? と思いながら返信を待った。
 しかしすぐ、サロンの電話が鳴った。慌てて固定電話機へと向かう。
「はい、背後霊美容室・霊美です」
『こんにちは佐藤ですぅ~。今日15:00いけます?』
「はい。お取りできますよ」
『じゃあそれでぇ~』
「ありがとうございます。お待ちしております」
 ああ、これはSNSでやり取り中の人へ速やかに伝えなければ――と、またスマホへと走る。
 ところが。
【上杉謙信】
 じゃあ15:00で
 [13:57]
 すでに返信が来ていた。
 俺は慌ててメッセージを返した。
【背後霊美容室 霊美】
 申し訳ございません。あいにく15:00につきましては今、入れ違いで電話予約が入ってしまいました。17:00ならお取りできますがいかがでしょう?
 [13:58]
 時間が過ぎるのは早い。
 返事を待ちながら店内を掃除し、準備を整えたらあっという間に佐藤さんが来てしまった。
「こんにちはぁ~。いつも急な予約でごめんねぇ~」
 佐藤さんはいつも10分前に来てくださる。遅刻は困るのでありがたい。
 SNSでやり取り中の人のことは気になったが、俺は目の前の施術に集中した。
「ありがとぉ~。またお願いねぇ~」
 彼女と、彼女と一緒に何度も律義にお辞儀するおばあちゃん背後霊を見送り終えると、俺はすぐにスマホを見た。
 SNSでやり取り中の上杉謙信さんからはまだ返信がなかった。
 俺はすぐに頭を切り替え、次の16:00予約の|鷹司《たかつかさ》さんの来店の準備に入った。
「オーッホッホッホ。久しぶりね、相原くん」
 この方はいつも数分遅れて来店する。
 サロンとしては困るが、10分以上の無断遅刻がキャンセルとなるため、それには抵触しない。
 やはりSNSでやり取り中の人のことは気になったが、目の前の施術に集中した。
「キャッハッハッハ! なんか背中が軽くなった気がするわ。ありがとうね」
 鷹司さんは話し好きであるため、施術後のトークも長くなる傾向がある。
 施術が終わり、彼女と、彼女以上に居座っていた中年背後霊を見送り終えたときには、すでにサロンの壁掛け時計は17:03だった。
 俺は慌ててスマホを見に行った。
【上杉謙信】
 じゃあ17:00
 [16:05]
 まずい。と思った。
【背後霊美容室 霊美】
 大変申し訳ございません。
 施術に入っていたため今メッセージを見ました。17:00はもうお取りできません。大変失礼しました。
 [17:05]
 慌ててお詫びのメッセージを送信した。
【上杉謙信】
 何時なら取れるんだ
 [17:28]
【背後霊美容室 霊美】
 大変申し訳ございません。
 ラストの18:00からも予約が入っているため、本日はもうお取りできる時間がありません。明日以降であればまだ空きがありますのでお受けできます。
 [17:29]
【上杉謙信】
 てめぇふざけんなよ
 今から●しに行くから待ってろ
 [17:42]
 どうやら怒らせてしまった。
 と思ったのと同時に、どうやらもう出入り禁止にしたほうがよさそうな客であるようにも思えた。
 メッセージのテンションがどう見ても正常ではない。
 さすがに殺害予告は本気ではないと思うが……。
 そう思いながら、次の客の来店が迫っているため、準備に入る。
 すると、サロンの出入り口を乱暴に開ける音がした。
「相原亮二はどこだ」
 え、本当に来てしまうのか。
 上杉謙信はがっしりとした体格で、髭を生やした男だった。
 手には……包丁を持っていた。
「あっ、先ほどは――ぅッ」
 腹部に、激痛。
 あらためてお詫びを言うことすらも許されなかった。
 最期に、彼の背後を見た。
 そこにいた背後霊は、本当に――。
 相原亮二 享年三十八
-完-