遠い星の宇宙人
ー/ー「おーい、一匹くらいは掛かってるか?」
舟の上から網を引きながら、舟の後ろに座る妹、リタに声を掛けた。
「ぜーんぜん!」
リタは元気いっぱいに否定する。
……ダメじゃねぇか。
小さく溜息を吐く。
俺たちは兄妹で網漁をしながら食い繋いでいた。
だが最近はあまり魚も取れず、生活はギリギリだった。
まぁ、小さな島の小さな漁村の小さな家族だから仕方ないとは思うが。
「お兄ちゃん、あれは何?」
「ん?」
リタが遠くの空を指さしていた。
目を凝らすと、大きな白い塊が空を飛んでいるのが見える。
「あれはな……えっと、何だ?」
恰好つけて、教えてやろうと威張ってみたが首を傾げてしまった。
鳥にしては大きすぎるし、飛び方も不自然だ。
兄妹揃って首を傾けていると、白い塊はみるみると近付いてきた。
白い塊は小さな家くらいはあったらしい。
近くの海に軽く接触しながら、浜辺を少し滑って森の近くで停止した。
「わぁ! お兄ちゃん、見てみようよ!」
「バカ! あんな怪しいモノに近づくなよ、さっさと村に帰るぞ」
リタは白い塊に興味津々だったが、俺は巻き込まれたくなかった。
急いで舟を戻すと妹の手を握り締めて村へと歩き出した。
俺とリタは村に戻ると、村長であるばぁちゃんの家にやってきた。
村は木で作った家が等間隔で円形に並ぶ造りになっている。
ばぁちゃんの家はその中心にあるのだった。
他の家よりは立派だが大差はない。水害や嵐で建て直すことが多いからだ。
「ばぁちゃん? いるかー?」
返事は待たずに中へ入る。
ばぁちゃんは部屋の中央に座っていた。
「どうした? カイ」
俺たちは先ほど見た光景を伝える。
関わりたくはないが、ばぁちゃんには話しておくべきだと思ったのだ。
「……なんと」
話を聞き終えると、ばぁちゃんは目を丸くして驚いているようだった。
「それは宇宙人じゃな」
「宇宙人!?」
ばぁちゃんの言葉に俺は眉を顰めたが、リタは目を輝かせて声を上げた。
「ああ、島に言い伝えがある。宇宙人はおよそ百年に一度やってくるのじゃ」
「何のために?」
「それは分からん。ただし宇宙人は高い技術力を持ち、戦っても勝ち目はないと強く言い伝えられている」
俺とリタが、ごくりと唾を飲み込んだ。
ばぁちゃんがここまで言うのだから本当に勝ち目はないのだろう。
「しばらく経てば宇宙人は去って行くらしい。
良いか、絶対に刺激してはならんぞ」
「ただいまー」
声を掛けながら自分の家に入る。お母さんはまだ眠っているようだった。
最近は漁で魚が獲れなくなったので体を壊してしまったのだ。
「まったく、この大変な時に宇宙人なんて……」
「あたしは面白かったよ! 滅多に見れないだろうし」
「余計なものを見せられて、運が悪かったってことだろ」
笑顔のリタに言うと、頬を膨らませてそっぽを向いてしまった。
元気なのは良いが好奇心が強くて怖いもの知らずなのだ。
「宇宙人かぁ……見てみたいなぁ」
心配していると、やはりそんなことを口にした。
「何を言ってるんだ! 絶対ダメだぞ。殺される」
「分かんないじゃん! 良い宇宙人かも知れないよ」
「悪い宇宙人だったら殺されるって言ってるんだ」
「でも!」
「ダメったらダメだ。ばぁちゃんからも言われただろ」
俺はリタに背を向けて台所へと歩き出す。
「……良い宇宙人だったら、お母さんを助けてくれるかも知れないのに」
「ほら、晩飯の準備を始めるぞ」
リタの呟きは聞こえなかったことにした。
「リタ! 晩飯できたぞー」
台所から料理を運ぶが、なかなか出てこない。
それどころか家の中を探しても見当たらなかった。
「まさかアイツ……」
急いで家を出ると、隣の家に飛び込んだ。
「おじさん! リタが来なかった?」
「いや、来てない」
「急にいなくなったんだ」
「ああ、そういうことか。俺が帰ってきた時にすれ違ったけど」
「どこに行ったか分かる?」
「さぁ……いつもお前らが網漁をやってる方だよ」
「くそっ!」
俺は全力で走り出した。
おじさんが「忘れ物か?」なんて暢気な声を掛けてくる。
余裕のない俺は後ろ手に礼を言いながら村を出た。
「アイツ、宇宙人に会いに行きやがった!」
「おい、リタ? いるか?」
乗っていた舟の近くを探して回る。
さらに小声で呼びかけてみたがリタは見つからなかった。
しかし、昼にはなかった小さな足跡が多く残っている。
……間違いない。
「やっぱり、森に入ったな」
右手奥に見える森を睨みつける。
森に面した浜辺には白い塊も見えた。
ばぁちゃんの話によると、アレに宇宙人が乗っていたのだろう。
一瞬だけ引き返そうかと迷う。結局は覚悟を決めて、森へと入ることにした。
「もう帰りたい……」
半ベソなのか泣き笑いなのか、自分でも良く分からない顔をしながら、俺は日が沈み始めた森を進んで行く。
「?」
遠くに動く影が見えた。
リタだと思って目を凝らすと、急いで自分の口を塞いだ。
遠くの影は白い服で全身を覆っていたのだ。
――あれが宇宙人だ。
幸い、ここからは距離がある。
俺はゆっくりとその場を離れていく。
最後にちらりと見れば、宇宙人は下を見て何かを調べているようだった。
リタはきっと白い塊の方へ向かったはず。
早く連れ戻さないと……。
白い塊のある浜辺を目指して歩く。
歩き慣れた森だが、緊張のせいで酷く疲れていた。
「うわ」
「お兄ちゃん?」
目の前に誰か飛び出したと思えば――リタだった。
宇宙人の方に意識を割いていた俺はリタと鉢合わせてしまったらしい。
急いでリタの腕を引くと大きな木の陰に引っ張る。
「おい、リタ! 勝手に村を出やがって……!」
「うぅ」
俺はリタの鼻先に人差し指をくっつけて問い詰める。
ただし小声だったから威厳はちょっと足りなかったかも知れない。
リタは俺に詰め寄られて目を左右に泳がせていた。
悪いことをしたという自覚はあるらしい。
「ほら、さっさと帰るぞ」
「それはイヤ! 宇宙人と会う」
「あんな化物と会ったら殺されるだろ」
「化物?」
「そうだよ。あんな真っ白な服を着て、中に何が入ってるのか……」
「お兄ちゃん、宇宙人と会ったの?」
「あー……」
完全に藪蛇である。
リタは不満そうに俺を見上げながら、今度は逆に詰め寄ってきた。
「お兄ちゃんだけずるい!」
「ずるくねーんだよ、俺は会いたくないんだから……」
どうにかリタを宥めようとするが、不満そうに顔を膨らませたままだ。
「――――」
その時、すぐ後ろから声が聞こえてきた。
不思議な言葉で何を言っているのか、さっぱり分からなかった。
俺とリタがゆっくり後ろを振り返る。
いつの間にか宇宙人がすぐ近くに立っていた。
「――――」
宇宙人がまた何かを言った。
やはり何を言っているのかはさっぱり分からない。
俺はリタの手を引いて逃げるタイミングを窺った。
「あの……」
「おい!」
しかし、リタは逆に宇宙人へと歩み寄る。
「お母さんを助けて下さい」
リタが頭を下げると、宇宙人は考えるように少し黙った。
それからゆっくりとリタへ腕を伸ばす。
「あぁもう無理だ!」
俺はリタを連れて村へと走り出す。
何をされるか分かったもんじゃないし、言葉が通じないのにどうやって助けてもらうんだよ。
宇宙人を振り切ろうと我武者羅に走る。
ちらりと振り向けば宇宙人は遠くなっていた。
……どうやら足は速くないようだ。
「お兄ちゃん! はなしてー!」
「ダメだ! 逃げるんだよ!」
そう言った直後、目の前に白い姿が現れた。宇宙人だ。
さっきの奴は引き離したはずだから、別の奴か。
考えてみれば仲間がいても不思議じゃない。
この宇宙人も俺たちに手を伸ばそうとしてきた。
「この……!」
俺は咄嗟に宇宙人へと体当たりする。
宇宙人が転んだ隙に体へとしがみ付いた。
「おいリタ、逃げろ!」
リタに叫んだが、急なことでリタは足を止めてしまっていた。
宇宙人の方は変わらず何かを言っているが分からない。
「あ、やめろ!?」
それどころか体を起こした宇宙人に、俺は地面へと組み伏せられてしまった。
「放せ、ふざけるな! 何を企んでいるんだ!?」
押さえつけられながら、思い付く限りの罵詈雑言を撒き散らす。
「――――」
やがて最初に俺たちを見つけた宇宙人も追い付いてきた。
こうなってはもう逃げられないだろう。
「――ん、えっと? あ、これこれ。私の言ってることが分かるかな?」
「え? う、うん……」
さっきまで理解出来なかった言葉が急に知っている言葉に変わった。
リタが戸惑った声を出すと、追い付いた方の宇宙人は続ける。女の人のようだ。
「さっきはごめんねー。何を言ってるのか分からなかったんだけど、やっと自動翻訳が出来るようになったよ。危害を加えるつもりはないの」
思っていたよりもずっと気さくな様子で声を掛けられて戸惑ってしまう。
「隊長、怖がらせるようなことをしたんじゃないですか?」
「悪気は無かったのよ、私たちの故郷と似てるから舞い上がっちゃって……」
俺を上から押さえていた宇宙人が手を離した。
もう落ち着いたと判断した……そういうことか?
「少しお話をしましょう? 少し前から私たちはこの星の定期調査に来てるのよ。
遠くにある私たちの星と良く似てるから。少し資源も分けてもらってるけどね」
宇宙人は楽しそうに話し続けている。俺たち兄妹は立ち尽くすばかりだった。
しかしリタは思い出したように顔を上げた。
「あの、お母さんを助けて下さい!」
「まだ言ってるのか!」
今でも警戒している俺はリタを庇うように前へと出る。
しかし宇宙人は興味を持ったようにリタを見るだけだった。
「実は……」
リタは早口で事情を説明していった。
「なるほど」
お母さんの症状を一通り確認すると、宇宙人は何度も頷いていた。
「軽い栄養失調みたいね。はいこれ」
宇宙人は良く分からない入れ物を良く分からないところから出して、リタに手渡した。
「このお薬を飲ませてあげたら良くなると思うわ」
「ほんと!?」
「…………」
宇宙人の言葉にリタは目を輝かせるが、俺は疑いの目を向けていた。
親切だが、何か嫌な感じがするのだ。
「ありがとうございます!」
素直なリタは宇宙人二人へと大きく頭を下げると、俺の手をぐいぐいと引いていく。宇宙人はのんびりと手を振っていた。二人の会話が聞こえてくる。
「隊長、栄養剤なんて渡して大丈夫なんですか?」
「問題ないわよ。山ほどあるんだから……ちょっと味気ないけどね」
「ホントにな……地球に帰って美味しいご飯が食べたいもんだ」
どうやら宇宙人は地球という星から来たらしい。
「もう少しで終わるから我慢しなさい」
「それにしても海洋資源をあんなに採っても大丈夫なんですか?」
「仕方ないでしょ、足りないんだから。それに影響は大きくないわ」
宇宙人との距離が開いて、声が聞こえなくなってきた。
それでも最後にこう言ったような気がした。
――せいぜい海の生態系が少し変わる程度よ。
――生息する魚の数がちょっと増えるか減るくらいはあるかもね。
舟の上から網を引きながら、舟の後ろに座る妹、リタに声を掛けた。
「ぜーんぜん!」
リタは元気いっぱいに否定する。
……ダメじゃねぇか。
小さく溜息を吐く。
俺たちは兄妹で網漁をしながら食い繋いでいた。
だが最近はあまり魚も取れず、生活はギリギリだった。
まぁ、小さな島の小さな漁村の小さな家族だから仕方ないとは思うが。
「お兄ちゃん、あれは何?」
「ん?」
リタが遠くの空を指さしていた。
目を凝らすと、大きな白い塊が空を飛んでいるのが見える。
「あれはな……えっと、何だ?」
恰好つけて、教えてやろうと威張ってみたが首を傾げてしまった。
鳥にしては大きすぎるし、飛び方も不自然だ。
兄妹揃って首を傾けていると、白い塊はみるみると近付いてきた。
白い塊は小さな家くらいはあったらしい。
近くの海に軽く接触しながら、浜辺を少し滑って森の近くで停止した。
「わぁ! お兄ちゃん、見てみようよ!」
「バカ! あんな怪しいモノに近づくなよ、さっさと村に帰るぞ」
リタは白い塊に興味津々だったが、俺は巻き込まれたくなかった。
急いで舟を戻すと妹の手を握り締めて村へと歩き出した。
俺とリタは村に戻ると、村長であるばぁちゃんの家にやってきた。
村は木で作った家が等間隔で円形に並ぶ造りになっている。
ばぁちゃんの家はその中心にあるのだった。
他の家よりは立派だが大差はない。水害や嵐で建て直すことが多いからだ。
「ばぁちゃん? いるかー?」
返事は待たずに中へ入る。
ばぁちゃんは部屋の中央に座っていた。
「どうした? カイ」
俺たちは先ほど見た光景を伝える。
関わりたくはないが、ばぁちゃんには話しておくべきだと思ったのだ。
「……なんと」
話を聞き終えると、ばぁちゃんは目を丸くして驚いているようだった。
「それは宇宙人じゃな」
「宇宙人!?」
ばぁちゃんの言葉に俺は眉を顰めたが、リタは目を輝かせて声を上げた。
「ああ、島に言い伝えがある。宇宙人はおよそ百年に一度やってくるのじゃ」
「何のために?」
「それは分からん。ただし宇宙人は高い技術力を持ち、戦っても勝ち目はないと強く言い伝えられている」
俺とリタが、ごくりと唾を飲み込んだ。
ばぁちゃんがここまで言うのだから本当に勝ち目はないのだろう。
「しばらく経てば宇宙人は去って行くらしい。
良いか、絶対に刺激してはならんぞ」
「ただいまー」
声を掛けながら自分の家に入る。お母さんはまだ眠っているようだった。
最近は漁で魚が獲れなくなったので体を壊してしまったのだ。
「まったく、この大変な時に宇宙人なんて……」
「あたしは面白かったよ! 滅多に見れないだろうし」
「余計なものを見せられて、運が悪かったってことだろ」
笑顔のリタに言うと、頬を膨らませてそっぽを向いてしまった。
元気なのは良いが好奇心が強くて怖いもの知らずなのだ。
「宇宙人かぁ……見てみたいなぁ」
心配していると、やはりそんなことを口にした。
「何を言ってるんだ! 絶対ダメだぞ。殺される」
「分かんないじゃん! 良い宇宙人かも知れないよ」
「悪い宇宙人だったら殺されるって言ってるんだ」
「でも!」
「ダメったらダメだ。ばぁちゃんからも言われただろ」
俺はリタに背を向けて台所へと歩き出す。
「……良い宇宙人だったら、お母さんを助けてくれるかも知れないのに」
「ほら、晩飯の準備を始めるぞ」
リタの呟きは聞こえなかったことにした。
「リタ! 晩飯できたぞー」
台所から料理を運ぶが、なかなか出てこない。
それどころか家の中を探しても見当たらなかった。
「まさかアイツ……」
急いで家を出ると、隣の家に飛び込んだ。
「おじさん! リタが来なかった?」
「いや、来てない」
「急にいなくなったんだ」
「ああ、そういうことか。俺が帰ってきた時にすれ違ったけど」
「どこに行ったか分かる?」
「さぁ……いつもお前らが網漁をやってる方だよ」
「くそっ!」
俺は全力で走り出した。
おじさんが「忘れ物か?」なんて暢気な声を掛けてくる。
余裕のない俺は後ろ手に礼を言いながら村を出た。
「アイツ、宇宙人に会いに行きやがった!」
「おい、リタ? いるか?」
乗っていた舟の近くを探して回る。
さらに小声で呼びかけてみたがリタは見つからなかった。
しかし、昼にはなかった小さな足跡が多く残っている。
……間違いない。
「やっぱり、森に入ったな」
右手奥に見える森を睨みつける。
森に面した浜辺には白い塊も見えた。
ばぁちゃんの話によると、アレに宇宙人が乗っていたのだろう。
一瞬だけ引き返そうかと迷う。結局は覚悟を決めて、森へと入ることにした。
「もう帰りたい……」
半ベソなのか泣き笑いなのか、自分でも良く分からない顔をしながら、俺は日が沈み始めた森を進んで行く。
「?」
遠くに動く影が見えた。
リタだと思って目を凝らすと、急いで自分の口を塞いだ。
遠くの影は白い服で全身を覆っていたのだ。
――あれが宇宙人だ。
幸い、ここからは距離がある。
俺はゆっくりとその場を離れていく。
最後にちらりと見れば、宇宙人は下を見て何かを調べているようだった。
リタはきっと白い塊の方へ向かったはず。
早く連れ戻さないと……。
白い塊のある浜辺を目指して歩く。
歩き慣れた森だが、緊張のせいで酷く疲れていた。
「うわ」
「お兄ちゃん?」
目の前に誰か飛び出したと思えば――リタだった。
宇宙人の方に意識を割いていた俺はリタと鉢合わせてしまったらしい。
急いでリタの腕を引くと大きな木の陰に引っ張る。
「おい、リタ! 勝手に村を出やがって……!」
「うぅ」
俺はリタの鼻先に人差し指をくっつけて問い詰める。
ただし小声だったから威厳はちょっと足りなかったかも知れない。
リタは俺に詰め寄られて目を左右に泳がせていた。
悪いことをしたという自覚はあるらしい。
「ほら、さっさと帰るぞ」
「それはイヤ! 宇宙人と会う」
「あんな化物と会ったら殺されるだろ」
「化物?」
「そうだよ。あんな真っ白な服を着て、中に何が入ってるのか……」
「お兄ちゃん、宇宙人と会ったの?」
「あー……」
完全に藪蛇である。
リタは不満そうに俺を見上げながら、今度は逆に詰め寄ってきた。
「お兄ちゃんだけずるい!」
「ずるくねーんだよ、俺は会いたくないんだから……」
どうにかリタを宥めようとするが、不満そうに顔を膨らませたままだ。
「――――」
その時、すぐ後ろから声が聞こえてきた。
不思議な言葉で何を言っているのか、さっぱり分からなかった。
俺とリタがゆっくり後ろを振り返る。
いつの間にか宇宙人がすぐ近くに立っていた。
「――――」
宇宙人がまた何かを言った。
やはり何を言っているのかはさっぱり分からない。
俺はリタの手を引いて逃げるタイミングを窺った。
「あの……」
「おい!」
しかし、リタは逆に宇宙人へと歩み寄る。
「お母さんを助けて下さい」
リタが頭を下げると、宇宙人は考えるように少し黙った。
それからゆっくりとリタへ腕を伸ばす。
「あぁもう無理だ!」
俺はリタを連れて村へと走り出す。
何をされるか分かったもんじゃないし、言葉が通じないのにどうやって助けてもらうんだよ。
宇宙人を振り切ろうと我武者羅に走る。
ちらりと振り向けば宇宙人は遠くなっていた。
……どうやら足は速くないようだ。
「お兄ちゃん! はなしてー!」
「ダメだ! 逃げるんだよ!」
そう言った直後、目の前に白い姿が現れた。宇宙人だ。
さっきの奴は引き離したはずだから、別の奴か。
考えてみれば仲間がいても不思議じゃない。
この宇宙人も俺たちに手を伸ばそうとしてきた。
「この……!」
俺は咄嗟に宇宙人へと体当たりする。
宇宙人が転んだ隙に体へとしがみ付いた。
「おいリタ、逃げろ!」
リタに叫んだが、急なことでリタは足を止めてしまっていた。
宇宙人の方は変わらず何かを言っているが分からない。
「あ、やめろ!?」
それどころか体を起こした宇宙人に、俺は地面へと組み伏せられてしまった。
「放せ、ふざけるな! 何を企んでいるんだ!?」
押さえつけられながら、思い付く限りの罵詈雑言を撒き散らす。
「――――」
やがて最初に俺たちを見つけた宇宙人も追い付いてきた。
こうなってはもう逃げられないだろう。
「――ん、えっと? あ、これこれ。私の言ってることが分かるかな?」
「え? う、うん……」
さっきまで理解出来なかった言葉が急に知っている言葉に変わった。
リタが戸惑った声を出すと、追い付いた方の宇宙人は続ける。女の人のようだ。
「さっきはごめんねー。何を言ってるのか分からなかったんだけど、やっと自動翻訳が出来るようになったよ。危害を加えるつもりはないの」
思っていたよりもずっと気さくな様子で声を掛けられて戸惑ってしまう。
「隊長、怖がらせるようなことをしたんじゃないですか?」
「悪気は無かったのよ、私たちの故郷と似てるから舞い上がっちゃって……」
俺を上から押さえていた宇宙人が手を離した。
もう落ち着いたと判断した……そういうことか?
「少しお話をしましょう? 少し前から私たちはこの星の定期調査に来てるのよ。
遠くにある私たちの星と良く似てるから。少し資源も分けてもらってるけどね」
宇宙人は楽しそうに話し続けている。俺たち兄妹は立ち尽くすばかりだった。
しかしリタは思い出したように顔を上げた。
「あの、お母さんを助けて下さい!」
「まだ言ってるのか!」
今でも警戒している俺はリタを庇うように前へと出る。
しかし宇宙人は興味を持ったようにリタを見るだけだった。
「実は……」
リタは早口で事情を説明していった。
「なるほど」
お母さんの症状を一通り確認すると、宇宙人は何度も頷いていた。
「軽い栄養失調みたいね。はいこれ」
宇宙人は良く分からない入れ物を良く分からないところから出して、リタに手渡した。
「このお薬を飲ませてあげたら良くなると思うわ」
「ほんと!?」
「…………」
宇宙人の言葉にリタは目を輝かせるが、俺は疑いの目を向けていた。
親切だが、何か嫌な感じがするのだ。
「ありがとうございます!」
素直なリタは宇宙人二人へと大きく頭を下げると、俺の手をぐいぐいと引いていく。宇宙人はのんびりと手を振っていた。二人の会話が聞こえてくる。
「隊長、栄養剤なんて渡して大丈夫なんですか?」
「問題ないわよ。山ほどあるんだから……ちょっと味気ないけどね」
「ホントにな……地球に帰って美味しいご飯が食べたいもんだ」
どうやら宇宙人は地球という星から来たらしい。
「もう少しで終わるから我慢しなさい」
「それにしても海洋資源をあんなに採っても大丈夫なんですか?」
「仕方ないでしょ、足りないんだから。それに影響は大きくないわ」
宇宙人との距離が開いて、声が聞こえなくなってきた。
それでも最後にこう言ったような気がした。
――せいぜい海の生態系が少し変わる程度よ。
――生息する魚の数がちょっと増えるか減るくらいはあるかもね。
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