63.裂かれる絆、炎に焼かれて
ー/ー「あでる!!!!」
ミウは叫ぶ。
アダルヘルムに抱きかかえられながら、自分と逆方向に、やぐらと共に落ちるアデル王子に手を伸ばしながら。
「ミウ!ケガは!」
「あにぃ!!なにしてるの?!あでるだよ!!あにぃの子供でしょ?!なんで!!」
「こ……ども……?……あ……ぅぐっ」
「あ……にぃ?」
ミウを庇って背中から落ちたアダルヘルム。ミウに強く責められ、強く殴られ、額を抱えて苦しんでいる。
「……アデル……グリゼルダ……があっ?!」
「あにぃ?!」
どうしたらいいのか分からず、その場から動くことができないミウだったが、やぐらが崩れた事態に気付いた周辺を警戒していた冒険者が集まり始め、落とされたアデル王子を見つけ騒ぎ出した。
「魔族だ!!」
「瀕死……?ギルド長がやったのか?さすがだ……」
「近づくなよ?!まだ息はあるんだ!構えろ!」
アダルヘルムのおかしな様子も気にはなるが、このままだとアデル王子の方が危ないと、ミウは判断し、駆け寄った。
「ダメ!」
「エルフの……どいてください!」
「前線からも確か……こいつのことか!」
「だから、ダメ!!ちがうの!!」
必死に訴えるミウ。
その声は、届いているようで届いていない。アデル王子に覆いかぶさり、身を呈して守ろうとする。
「……こんなかたちで……抱きつかれるなんて……」
「あでる、しゃべらないで、ミウが守るから」
「……ミウ……さん……とうさ……まは……どうして……」
アデル王子は泣いていた。
痛かった……傷のせいだけではない、心を抉る痛みがアデル王子を苦しめている。
「どいて下さい!危険です!」
「いやっ!」
頑なに動かないミウ。冒険者は手を出すことができずオロオロし始めた。
「どくのだ……」
ゆらりと……ミウの背後にアダルヘルムが立ち、冒険者たちを鎮めた。
その姿が目に入ったのか、アデル王子は力を振り絞り、手を伸ばす。
「と……さま……ゼンさんと……僕……とッ――」
ドボッ!!
「〜〜〜っ!!!!」
アデル王子の頭を潰した大斧は地面に深く突き刺さり、血飛沫を上げる。ビクビクと体が痙攣し、その動きに合わせてピューピューと吹き上がる。
まるで、まだ、息があるかのように。
「あ……あ……あで……あでる……」
「ミウ、離れなさい」
「あにぃ!!おかしいよ!なにしてるの?!あに……っ?!」
アダルヘルムを見た……泣いている。大粒の涙を流しているのに、それなのに、感情を持っていない無機質な表情をしている。
「どうし……泣いてるのに……あにぃ……なにをされたの……」
「ミウ?汚れてしまうから、さあ、おいで」
「……うぅっ」
その瞳の色の異常さに恐怖を感じるミウ。
平然と手を差し伸べるアダルヘルム。
何度も助けられた、何度も握った……大きくて、たくましい、本当の兄の様に思い、頼ったアダルヘルムの手……。
「その手は……あでるの手を、とらなきゃいけなかったんだよ、あにぃ……」
「ミウ……?」
ミウは自分で立ち上がった。
「……無事であるなら良い」
アデル王子に突き刺さったままの大斧……アダルヘルムは、冒険者からの賞賛を浴びながら、引き抜こうとした。
ドチャッ……と。
空から焼け焦げた死体が降ってきた。
「あ……なんで、今……」
突然のことに、冒険者たちは静かになり、息を呑む。空からの重圧で、動けなくなっていた。
「は……え?なにを……している、の……?」
見知った顔、見知った姿……何度も体を重ねた、魔王グリゼルダがそこにいた。
「魔族か……っ!」
それなのに、わからない。
乱暴に引き抜いた大斧を構えるアダルヘルム。
「あ……あぁ……アデル……アデル!!!」
抜かれた勢いで、ただ体が揺れただけ。だが、グリゼルダには、それが、まだ、生きていると勘違いさせた。
「どきな……さいっ!!!」
グリゼルダは大きく腕を振るう。その衝撃波は炎の刃となり、アデル王子を囲む冒険者に向かって飛んでいく。
「散れ!!」
「は、はい!みんな!はしって!」
回避の号令を飛ばし、アダルヘルムは大斧を構えて向かい撃とうしている。
「あにぃ!だからダメなの!!」
「うるさい!!」
「いっ……!」
ミウは突き飛ばされた。
こんな事、今までされたことがない。
こらえていた涙が溢れたミウ……受け身を取ることなく、やぐらの瓦礫に突っ込み、埋もれてしまった。
直後に、ものすごい風と熱さが襲った。
グリゼルダの炎を刃と、アダルヘルムの大斧を振るった風圧がぶつかり、周辺の建物を半壊させていた。
「くっ……っは!どこだ?!」
目に塵が入り、一瞬視界を奪われたアダルヘルムの隙をつき……その手に抱いた。
「どうしたのアデル……?顔がないわ……どうして……どうして……」
建物の影ですすり泣く。
「お父さんに似て、優しすぎたのね……?ダメよ……まずは自分を守らなきゃ……あぁ……」
ぬるぬると我が子の血を体にまとわす。まだ温かい人間と同じ色をした血は、グリゼルダの赤い竜の鱗の皮膚に染み込んでいく。
「一緒に、生きましょうね……」
アデル王子の体が燃える……その炎は大きく広がり始め、建物に燃え移っていく。
「あれがアダルヘルム……ゼンの手に落ちたアダルヘルム……利用されるだけになったアダルヘルム……」
ブツブツと呟きながらふらりと立ち上がり、飛び上がろうとした。
「ぐりぜるだ……まって……」
「なにを、待てと?」
瓦礫からこっそりと抜け出したミウは、グリゼルダを探し、見つけた。
「あにぃ……おかしいの……目が……おかしいの……あれは、あにぃがしたいことじゃない」
「だから?」
「泣いてたの……泣いてたから!違うの!……だから、ダメなの!」
「なにがダメなのか、ちゃんと説明もできないのか?そんなことで、私の意思は変えられないぞ」
元々、流暢に話ができるわけではないミウ。そこに焦りも加わり、伝えたいことを伝えるべき言葉にして伝えられない。
「あの色は……あにぃを……ク――」
「……知っている」
「なら!」
「それすら、ゼンが望んだことなのだろう?信じていたわけではないが、本当に愚かな協力をしたわ……ははは……魔族であり、魔王として私は……もう、するべきことはひとつなのよ」
「……っ!!」
舞い上がる、赤い軌跡を目で追うミウ。
「聞こえるか人間ども!!我が名は魔王グリゼルダ!貴様らが無惨に殺した王子アデルの母にして、今世界を死に至らしめようと蠢く新生魔族の母である!!」
頭上から響き渡る声は、町の外にまで届いている。
アデル王子の死を、魔物たちに聞かせるための雄叫びだ。
「遊びは終わりよ……止まらず進め……殺せ……殺せぇぇ!!」
町の外から聞いたことのない地響きと鳴き声、続けて悲鳴が聞こえ始める。
「愛なんて……知らなければよかった」
グリゼルダを中心に、火球が空に生まれた。
徐々に大きさを増し、外側の渦巻く炎から火の玉が作られ、振り注ぎ始める。
それは、涙が絶え間なく溢れ続けているように……ミウは、感じた。
「このままじゃダメ……あにぃをどうにかしなきゃ……怒ってもダメ……泣いてもダメ……うう」
ぷるぷると頭を横に振り、走り出す。探しているのはアダルヘルム。
路地から大通りに出ようとしたが、たくさんの人々が逃げ惑い、行き場を塞がれた。タイミングをみて飛び出そうとキョロキョロした時、アダルヘルムの姿が目に入った。
火に飲まれていく町から、逃げ遅れた町民の避難させている。その姿は、いつも見ているアダルヘルムの姿……少しだけホッとした。
「……あ」
なにかが、無くなった。
なにかは、すぐにわかった。
「あくま……?」
締め付けられる胸の痛み。アデル王子が目の前で死んだ時と同じ、痛み。
「ミウ!」
「あにぃ……」
壁に手を添えてふらりと姿を現したミウをすぐに見つけたアダルヘルム。その心配の仕方は、優しいミウのあにぃだった。
「ケガは?!どこに行っていた?!あぁ……大丈夫そうだな……」
ミウの肩を、もう、どこにも行かせないと強くつかみ自身の身体に引き寄せ、町民への声がけを再開した。
「あにぃ、ね……きいて、お願い……」
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