62.少女に恋した、小さな魔王
ー/ー 火球出現2時間前――。
「ふむ……やはり前線が優秀なおかげか、ここまで辿り着く魔物の数は少ないようだな」
簡易的に建てられた物見やぐらの上から見渡し、遠くから歩みを進める魔物姿を確認するアダルヘルム。
「油断、禁物……お顔ゆるゆる、ダメだよ」
「ぬ……そんなにか?ギルド長として、冒険者たちが強くあることは喜ばしいものでな……」
「ふふ、前線……クロ、いるもん、ね?」
「う……ああ、まぁ……それも確かに、彼女はなんでも出来て当たり前だからな……」
隣でニマッとするミウ。クロエに対する自分の気持ちを話したことはないのに、女の勘で、伝わってしまっているらしい。
「しかし、見ているだけなのはもどかしい……」
アダルヘルムには立場がある。
ギルド長であるということ……この戦いが戦争という位置づけになるとするなら、アダルヘルムは総大将。その存在の大きさは計り知れないものとなっていた。
「ミウ、ちょっとみてこようか?」
「退屈なだけなのだろう?……ここから見えるところなら……っておい!最後まで聞け……はぁ」
聞いた意味がない早さで櫓から飛び出し、屋根を伝って町の外へと軽快に去っていくミウ。あっという間にその姿は小さくなっていった。
「ハーフェンの時も……ミウとファイン殿は血気盛んだったな……」
ため息をつくものの、また表情を緩ませ、アダルヘルムはミウが向かった先を見つめた。
「ミウも」
魔物の群れと戦う冒険者達の前に出たミウ。
少し驚いていたものの、『白金のゼン』の仲間であることの認知はされている。
エルフの少女の参戦は、冒険者達を自然と鼓舞し、士気を上げ、魔物を押し戻す速度が上がる。
「よいしょっと……」
ミウは指輪を変化させた。
無数に繋がれた薬莢、銃口の数は……作り出したのは、おおよそ少女が手に持っていいような代物じゃない大きさの、ガトリング砲。
「これ、使うなら……今、楽しそう」
ミウが所持する指輪には、現代にある銃火器の情報が収納されている。その情報を手に入れていたのはゼン。クロエに共有し、ミウの指輪にその情報を伝え『作り』更新する。
「せー……のっ」
ドドドドドと、轟く凄まじい音が響き渡る。暴れ回るガトリングから放たれた銃弾は、群れを成している魔物にはとても有効だった。
「きもち、いい」
基本的にインプットさせた情報は、細やかな内部構造、断面図等にさて保存している訳ではない。
そんなもの、異世界の住人が……まして、自然界との繫がりが深いエルフの少女が、簡単に理解できる訳がない。指輪から得られるのは、全体の形状と簡単な使い方、弾の威力、動作時の5秒程の短い動画の提供。
あとは自由に想像して『作り』出す。
銃弾に関しても同じで、普通の鉛玉であったり、特殊な効果を『作り』出して当たった相手を『破壊』する事が可能。
銃に魅了されているミウは、想像力豊かに、自分が楽しく使える様に指輪を変化させ使いこなしている。
「な、なんだあれは……」
「凄まじい……」
「い、今のうちに負傷者の治療をすすめよう!」
ミウに任せても問題ないと思わせると同時に、巻き添えになるのを避けるために少しずつ前に出ていた冒険者たちが下がっていく。
「人、いなくなった……弾、変えようかな」
通常のガトリングでも十分な威力を持っているが、満足できていない様子のミウ。薬莢を『作り』変えながら撃ち続ける。摩擦で銃口が焼き切れる事を『破壊』している為、休む必要もない。
ドゴゴゴ!!……――ゴォッン!ドォッン!
発射される轟音だけでも凄まじかったと言うのに、弾付け加えた爆発も乗っかり、町の外は焼け野原化す。
「ん……あつい、んん」
狙う相手がいなくなり、ガトリングを立てて寄り添うミウ。足をモジモジとさせて、もどかしそうにしている。
「……ん」
ひと休みをしていたところに、降り立つ者がいた。
「ミウさん……その、見てました……」
「あでる……?」
おずおずと、恥ずかしそうにミウに声を掛けたのは小さなアデル王子だった。
「ここ、いて……大丈夫、なの?」
「あ、はい、それは、承知してもらっています……その……僕は、貴女を……」
「ミウを……?」
「貴女を守りたくて……きたのですけど……なんというか……必要なさそう、ですね」
寂しそうに笑うアデル王子に、ピンっときたミウ。
「ミウ、最近……勘が、冴えてるみたい」
「え……あの……」
ツクンとわずかに胸の奥で感じた痛み。なくした何かを刺激するような感覚。
「ありがと、あでる……ミウ、嬉しいよ」
「ッ!!」
「なんで、顔……真っ赤なの?」
「ち、近いので……っ!」
「へぇ、不思議……むずむず、かわいい」
ツンツンとアデル王子のほっぺたをつついて遊んでいるミウ。ほほえましい時間に思えるが……。
「ミウさん!!離れて!!」
そのふたりに、アデル王子に向かって飛んでくる無数の刃。幸い、直撃させる攻撃ではなく、威嚇射撃……放った冒険者を睨んで怒るミウ。
「ねぇ、ダメ……攻撃、ダメ」
「で、でも!魔族ですよ!?」
「味方」
「ミウさん……」
戸惑う冒険者……ミウの言っていることは本当なのか分からずに困惑していると、その迷いを払うように、この町の前線を指揮しているひとりの重戦士の冒険者が声をあげた。
「魔族に騙されてるに違いない!!ミウさんをたすけるんだ!!迷うな!放て!!」
「うぉぉぉ!!!」
戦い続きで興奮している冒険者は、止まらなかった。小型の投射装置を使い、刃を放つ。
ミウがいるのに、と……怒りを覚えるアデル王子。
大きな防護魔法を盾にし、刃を見事に防いだ。だが、特殊なアダマンタイトの刃は防護の薄い膜に突き刺さり破ろうとする。防護の膜がひび割れ始める中で、ミウは叫び、アデル王子はミウに優しく伺いを立てた。
「ダメ、ダメだから……!」
「ミウさん……いいですか?」
「な……に?」
「貴女を拐わせてください」
パリッと嫌な音をさせ始め、防護の膜が砕ける瞬間……アデルはミウの手を取り空に飛び上がる。
「なっ……!逃がすな!まだ届くぞ!」
「うて!うてーー!!」
冒険者の攻撃が止まない中、体を変化させたアデル王子はミウを自分の胸に引き寄せ、大きな腕で抱き上げ飛び去っていく。
「あでる、ずるい……大人、ずるい」
「え、えぇ……?そこ、なんですか?」
「ミウの方が、おねえさん……なのに、ずるい」
「それは永遠にかわらないですから…………変、ですか?」
そう聞かれ、じーーっとミウに見つめられる結果になったアデル王子。その熱視線に耐えれず、フッと顔を横に向けてしまう。
「よく、みせて」
「あぐっ……!」
顔を掴まれ、無理やり顔を戻される。目はもう合わせられないと、瞑ってしまった。
「ん、変じゃない」
「よ、よかった……」
「あにぃ、そっくり……でも、あでる」
「は、はい」
「かっこいいよ」
フニャッっと表情を緩ませてしまうアデル王子。
「その顔も、そっくり……かわいい、あにぃだ」
「か、かわいい?かっこいいじゃないん、ですか?」
「どっちも、だよ……かっこかわいい……?」
「ふふふ……ありがとうございます、ミウさん」
もう攻撃は届かない。雲の上辺りまで高く上っている。
「どうしましょうか……」
「あにぃの、ところ……あでるのこと、教えなきゃ……さっきみたいに、間違われるのダメ」
「なるほど……わかりました。あの辺りでしょうか?」
「うん、そこ……あにぃ、見てたはず……だから、待ってる」
町の物見やぐらに向かって急降下していく。
「あにぃっ!」
「ミウ!」
数秒で到着。アデル王子の腕から離れ、やぐらの中にいるアダルヘルムに飛びつくミウ。
「あにぃ、見て……あでる、きてくれたよ」
「アデル……?」
「あ……父様……その」
青年の姿でアダルヘルムの前に出るのは今日が初めてのアデル王子。少し恥ずかしがりながら、挨拶をしようと一歩前に出た。
「アデル……魔族……魔王の子……っ!」
「え……」
片手でミウを守るように強く抱き、片手で躊躇なく大斧を振り下ろしたアダルヘルム。
「あ……にぃ?」
「父……さ……ぁ」
その強撃は、やぐらごと押し潰す程の威力で、アデル王子の体を肩から縦に押し潰しながら斬り裂いていた。
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