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5話 モンスター・アタック

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 非常事態を告げる甲高いサイレンが、さして広くもない、夜を迎えた港町に響いている。街から離れろという、設置されている拡声器から響く領主の声と重なり、昨日までとは違う異質な空気感を漂わせている。

 まるで知らない街にきたみたいだ。

 胸を掠めていく恐怖。ぶるりと身を震わせるそれを振り払うように、頭のなかで必死に街の地図を思い描く。

「スレイ。避難にはまだ時間がかかるらしい!」

 先に避難誘導をはじめていた男衆から状況を聞いたおやっさんは、街の中心に指を指している。

「なんとか避難しているのは外苑部だけだ。中央区なんかパニックが起きちまって、身動きが取れない通りもあるらしい。俺たちはまず、中央に向かうぞ」

 人が移り住むことも多い街だったから、継ぎ接ぎのような工事ばかりで、ろくに区画整理してこなかったツケが回ったのだろう。だが、この街が戦火に巻き込まれようとは、誰も想像していなかったに違いない。

(姉さん……。無事だよな)

 すれ違う住民や車両に注意しながら、中央区へと機体を進める。

 どうしても気が急いて注意が疎かになり、建物に機体をひっかけそうになった。今はおやっさんの誘導だけが頼りだ。

「大丈夫だ。落ち着いていけ。お前の操縦技術なら問題ない。リディスはまだ領主の家にいるそうだが、お前なら助けに行ける。そうだろう?」

 そうだ。落ち着け。こういう時こそ、冷静になれ。

 一度操縦桿から手を放し、大きく息を吸う。胸いっぱいに膨らむ空気を吐き出すと、身体の中がまっさらの状態に戻る。

 正面に尖塔が見えてきた。少し離れたところに広い立地を有しているのが、領主の屋敷だ。領主の避難を促す声はまだ続いている。

 その手前の大通りで、貨物車輛を含めた数台が横転している。積み込んでいたのだろう荷物が散乱し、通りを塞いでいた。

 道端には怪我人もいるが、誰にも見向きもされず、ただ茫然と座り込んでいるばかり。なんとか荷をどかそうとしている者もいれば、諦めて迂回する者もいる。

「まず横転した車輛をどかせ。多少乱暴でもかまわんが、人には気をつけろよ」

「わかった」とインカム越しに返答する。おやっさんは車から降り、怪我人へと向かっていく。

 ドールズの手を車輛に伸ばしたその時だった。後方の上空で、何か光った。そのあとに続く、轟音。

 振り返った頭上を、大きな影が通り過ぎた。

「……くそったれめ。悪い目が出たな」

「あれが、ビースト……」

 一機のドールズが、四枚羽で羽ばたくビーストに攻撃を仕掛けながら追っていく。

 あの大きさは、中型種と呼ばれているモノだろうか。ニュース映像で見覚えがある。

 ドールズから何か光るものが発射された。白い煙を吐きながらビーストに迫るそれが、ミサイルだと理解するまで、少し時間がかかった。

「おいおい、市街地なんだぞ。火器を使うやつがあるか!」おやっさんの怒鳴り声が聞こえると、まるで花火か何かのように、空に花が咲く。

「近接信管だ! 降ってくる破片に気をつけろ!」

「おやっさん。こっちに!」

 怪我人に肩を貸すおやっさんを覆うようにして、機体を被せた。「おおっ!?」という驚きとも何ともつかない声を上げて、おやっさんが頭を下げる。

 落下してくる破片が、カン、カンと装甲の表面を叩いていく。音が止んでから、上体を持ち上げると、ドールズが中空に留まり、ライフルを射撃している様が見えた。

 巨大な空気の幕を叩きつけるような、大気を震わせる音を立てて発射される火線は、自在に飛び回るビーストには掠りもしない。逸れた数発の銃弾は、街並みへと着弾し、尖塔を中腹から崩した。

「そこの識別不明のドールズ! パイロットはなぜ応答しない。チャンネルを閉じてるのか!」

 修繕のおり、海水に浸ったコクピット周りの電装品はほぼ取り替えている。軍用通信のチャンネルと繋がるわけもない。この音声は、機体に備えられた外部スピーカーを用いたものだった。

「こちらは州軍防空隊所機。援護を求む!」

 どうする……。どう答えたらいい? 民間人だとはバレていないようだが、戦おうにもこっちには射撃武器がなく、空中の敵には攻撃の手段がない。

 モニターで見えるおやっさんの横顔も、返答に迷っているようだった。

「どうしたんだ。手負いとはいえ、こちらだけでは仕留めきれない。援護を!」

 焦りが感じられる声色に、なにか返答しなくてはいけないと、急かされるような気がしてくる。

「はやく、援護を———うっ」

 速度を落とさず、低空で突っ込んできたビーストの嘴が、ドールズの胸部に突き刺さる。長く鋭い槍の穂先のような嘴は、ドールズの装甲を簡単に貫き、そのまま機体を上空へと連れ去っていく。

 そのまま上空で激しく首を振り、機体を落下させる。地上に激突した機体は、瓦礫と土埃を巻き上げた。

 落下した先は、領主の屋敷……。いつのまにか、領主の声は聞こえなくなっていた。

「———姉さん? ……姉さんっ!」

 胴体に大穴をあけて、不自然な動きを止めたドールズが圧し潰しているのは、姉がいた場所。屋敷は倒壊し、仰々しいと思っていたその様相は見る影もない。

 チカと光が走ったかと思った途端、機体は爆発、その場で炎上した。

「……弾薬に火が回ったのか。おい、スレイ!」

 おやっさんが何か叫んだが、それが何であるか分からなかった。

 白熱し焼き切れたような頭で、ただ機体を走らせる。轟々と黒煙を上げ続ける炎を掻き分けさせるが、灼け焦げた何かしか、掌上には見つからなかった。

(死んだ……? リディス姉さんが死んだ? 結婚式だって、近かったんだぞ)

 姉の笑顔が、その言葉が、一緒に過ごした日々の思い出が、濁流のように押し寄せては胸を溢れ返させる。頭の先のほうが痺れ、熱が渦巻いて、涙があふれた。

 いつだったか、玄関先で見送ってくれた、姉の姿が浮かんだ。「———またね、スレイ」そう笑顔で、小さく手を振ってくれたその姿が、閉じる扉の向こうへと消えた。

 中腹から崩れた尖塔のうえで、ビーストが鋭い鳴き声を上げている。

 ぎょろぎょろと動く目玉は忙しなく、鋭い嘴を鳴らして飛び上がる。四枚ある翼膜の半分は裂かれ、紫色をした体表からは、赤黒い体液が流れ出ている。

 ぐうんと高度を取ってから、弧を描くようにして低空に入り、その嘴で刺し貫こうと突っ込んでくる。

 胴を狙った一撃は、左の肩部を抉り貫き、勢いにそのままに、もつれるようにして倒れこむ。激しい振動がコクピットを揺さぶり、眩暈に視界がぶれる。

 ディスプレイ上では、機体損傷の警告が赤字で表示されているが、そんなことはどうでもいい。

 ———今はただ、この生き物が憎くてたまらなかった。

 右腕にマウントされているワイヤーを少しだけ垂らし、先端に装着されているフックを握らせると、容赦なく叩きつける。

 横倒しになった姿勢を起こしながら、暴れる胴と翼を、そして頭部を打ち据える。肉に刺さったフックを無理やり引き抜き、また喰い込ませる。

 肩部から抜き出された嘴を、首を鞭のようにしならせ、鋭く突き出される。モニターいっぱいに広がる先端が、右に逸れて装甲を切り裂いていく。増える警告と、抉られた装甲の隙間から覗く、ビーストの眼。

 再び上空へと逃れようとするビーストの、大きな目玉にフックが深く刺さる。それでもなお、引き出されていくワイヤーをロックすると、鋼鉄で編まれたワイヤーがぴんと張る。

 悲鳴を上げ始めている機体の出力を一気に上げ、反対側へと放り投げる。

 途中でロックを解除したワイヤーはうねりながらも、フックが刺さったままのビーストを墜落させる。地響きと潰れる肉の音が聞こえた。

 操縦桿を目いっぱい押し込み、機体を走らせる。折れた尖塔を担ぎ、ごく僅かな間しか使用できない背面ブースターを点火させ、まるで競技か何かのように機体を跳躍させた。

 じたばたと足掻くビーストの頭部をめがけて、尖塔をぶつける。

 瓦礫と土煙がモニターを覆うが気にも留めず、馬乗りになるような格好で、ドールズの腕を振り下ろし続けた。……何度も、何度も。

 ———どれくらい時間がったのかも、叫び続けていたことも忘れた頃。聞き馴染みのある声に気がついた。無線から聞こえてきたのは、おやっさんの声だった。

「スレイ! おい、聞こえないのか。スレイ!」

「……おやっさん」

 既に、機体の動きは止まっていた。

 ようやくか、とでも言いたげなため息が吐かれる。そこで、モニターが映す光景に目を見張った。そこにあったのは、骨を覗かせ、肉体を砕かれたビーストの死体だった。

 惨たらしくも、色鮮やかな色。腐ったような、なまあたたかい匂いが装甲の隙間から鼻をつき、思わず胃がひっくり返った。

「おやっさん……俺は……」

「……いい。もう、終わったことだ。お前は、よくやった。まずは街の外へ出よう。ここに居るべきじゃない」

(……街。……姉さん)

「……スレイ。辛いだろうが、泣いている場合じゃない。酷い言い方だが、分かってくれ」

 おやっさんの声に従おうにも、操縦桿を握る力すら、もう残されていなかった。全身から力が抜けていったように、身体が重たい。

 突然、辺りが明るくなった。数機のドールズがサーチライトか何かで照らしたのだと、なんとなく分かった。

「……要請した応援部隊か。今頃きやがって」

 吐き捨てられた言葉を掻き消すように、外部スピーカーによる音声が聞こえる。女性の声だった。

「大尉! ご無事だったんですね。半年間も連絡がなく、心配しました」

 大尉? 連絡? 何のことだろう。鈍く痛む頭で、ぼんやりとそんなことを考えていた。

「形状は若干違いますが、大尉のクルセイダですよね。どうしたんです? はやく声を聞かせてください。私です、クーナです!」

 すぐ隣に、機体が降りた感じがした。少しした後、コクピットハッチが開く。誰かが外側から、強制開放のレバーを操作したのだろう。

「大尉、お怪我をされているのですか?」

 澄んだ声に、ぼうっとしたまま顔を上げる。そこにいたのは、短い揃えた銀髪をした少女。誰かとの再会に、胸を膨らませていただろう彼女の表情が、怪訝に曇る。

「……貴方、何者ですか」

 その言葉を最後に、意識は暗い水底へと沈んでいった。



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 まるで知らない街にきたみたいだ。
 胸を掠めていく恐怖。ぶるりと身を震わせるそれを振り払うように、頭のなかで必死に街の地図を思い描く。
「スレイ。避難にはまだ時間がかかるらしい!」
 先に避難誘導をはじめていた男衆から状況を聞いたおやっさんは、街の中心に指を指している。
「なんとか避難しているのは外苑部だけだ。中央区なんかパニックが起きちまって、身動きが取れない通りもあるらしい。俺たちはまず、中央に向かうぞ」
 人が移り住むことも多い街だったから、継ぎ接ぎのような工事ばかりで、ろくに区画整理してこなかったツケが回ったのだろう。だが、この街が戦火に巻き込まれようとは、誰も想像していなかったに違いない。
(姉さん……。無事だよな)
 すれ違う住民や車両に注意しながら、中央区へと機体を進める。
 どうしても気が急いて注意が疎かになり、建物に機体をひっかけそうになった。今はおやっさんの誘導だけが頼りだ。
「大丈夫だ。落ち着いていけ。お前の操縦技術なら問題ない。リディスはまだ領主の家にいるそうだが、お前なら助けに行ける。そうだろう?」
 そうだ。落ち着け。こういう時こそ、冷静になれ。
 一度操縦桿から手を放し、大きく息を吸う。胸いっぱいに膨らむ空気を吐き出すと、身体の中がまっさらの状態に戻る。
 正面に尖塔が見えてきた。少し離れたところに広い立地を有しているのが、領主の屋敷だ。領主の避難を促す声はまだ続いている。
 その手前の大通りで、貨物車輛を含めた数台が横転している。積み込んでいたのだろう荷物が散乱し、通りを塞いでいた。
 道端には怪我人もいるが、誰にも見向きもされず、ただ茫然と座り込んでいるばかり。なんとか荷をどかそうとしている者もいれば、諦めて迂回する者もいる。
「まず横転した車輛をどかせ。多少乱暴でもかまわんが、人には気をつけろよ」
「わかった」とインカム越しに返答する。おやっさんは車から降り、怪我人へと向かっていく。
 ドールズの手を車輛に伸ばしたその時だった。後方の上空で、何か光った。そのあとに続く、轟音。
 振り返った頭上を、大きな影が通り過ぎた。
「……くそったれめ。悪い目が出たな」
「あれが、ビースト……」
 一機のドールズが、四枚羽で羽ばたくビーストに攻撃を仕掛けながら追っていく。
 あの大きさは、中型種と呼ばれているモノだろうか。ニュース映像で見覚えがある。
 ドールズから何か光るものが発射された。白い煙を吐きながらビーストに迫るそれが、ミサイルだと理解するまで、少し時間がかかった。
「おいおい、市街地なんだぞ。火器を使うやつがあるか!」おやっさんの怒鳴り声が聞こえると、まるで花火か何かのように、空に花が咲く。
「近接信管だ! 降ってくる破片に気をつけろ!」
「おやっさん。こっちに!」
 怪我人に肩を貸すおやっさんを覆うようにして、機体を被せた。「おおっ!?」という驚きとも何ともつかない声を上げて、おやっさんが頭を下げる。
 落下してくる破片が、カン、カンと装甲の表面を叩いていく。音が止んでから、上体を持ち上げると、ドールズが中空に留まり、ライフルを射撃している様が見えた。
 巨大な空気の幕を叩きつけるような、大気を震わせる音を立てて発射される火線は、自在に飛び回るビーストには掠りもしない。逸れた数発の銃弾は、街並みへと着弾し、尖塔を中腹から崩した。
「そこの識別不明のドールズ! パイロットはなぜ応答しない。チャンネルを閉じてるのか!」
 修繕のおり、海水に浸ったコクピット周りの電装品はほぼ取り替えている。軍用通信のチャンネルと繋がるわけもない。この音声は、機体に備えられた外部スピーカーを用いたものだった。
「こちらは州軍防空隊所機。援護を求む!」
 どうする……。どう答えたらいい? 民間人だとはバレていないようだが、戦おうにもこっちには射撃武器がなく、空中の敵には攻撃の手段がない。
 モニターで見えるおやっさんの横顔も、返答に迷っているようだった。
「どうしたんだ。手負いとはいえ、こちらだけでは仕留めきれない。援護を!」
 焦りが感じられる声色に、なにか返答しなくてはいけないと、急かされるような気がしてくる。
「はやく、援護を———うっ」
 速度を落とさず、低空で突っ込んできたビーストの嘴が、ドールズの胸部に突き刺さる。長く鋭い槍の穂先のような嘴は、ドールズの装甲を簡単に貫き、そのまま機体を上空へと連れ去っていく。
 そのまま上空で激しく首を振り、機体を落下させる。地上に激突した機体は、瓦礫と土埃を巻き上げた。
 落下した先は、領主の屋敷……。いつのまにか、領主の声は聞こえなくなっていた。
「———姉さん? ……姉さんっ!」
 胴体に大穴をあけて、不自然な動きを止めたドールズが圧し潰しているのは、姉がいた場所。屋敷は倒壊し、仰々しいと思っていたその様相は見る影もない。
 チカと光が走ったかと思った途端、機体は爆発、その場で炎上した。
「……弾薬に火が回ったのか。おい、スレイ!」
 おやっさんが何か叫んだが、それが何であるか分からなかった。
 白熱し焼き切れたような頭で、ただ機体を走らせる。轟々と黒煙を上げ続ける炎を掻き分けさせるが、灼け焦げた何かしか、掌上には見つからなかった。
(死んだ……? リディス姉さんが死んだ? 結婚式だって、近かったんだぞ)
 姉の笑顔が、その言葉が、一緒に過ごした日々の思い出が、濁流のように押し寄せては胸を溢れ返させる。頭の先のほうが痺れ、熱が渦巻いて、涙があふれた。
 いつだったか、玄関先で見送ってくれた、姉の姿が浮かんだ。「———またね、スレイ」そう笑顔で、小さく手を振ってくれたその姿が、閉じる扉の向こうへと消えた。
 中腹から崩れた尖塔のうえで、ビーストが鋭い鳴き声を上げている。
 ぎょろぎょろと動く目玉は忙しなく、鋭い嘴を鳴らして飛び上がる。四枚ある翼膜の半分は裂かれ、紫色をした体表からは、赤黒い体液が流れ出ている。
 ぐうんと高度を取ってから、弧を描くようにして低空に入り、その嘴で刺し貫こうと突っ込んでくる。
 胴を狙った一撃は、左の肩部を抉り貫き、勢いにそのままに、もつれるようにして倒れこむ。激しい振動がコクピットを揺さぶり、眩暈に視界がぶれる。
 ディスプレイ上では、機体損傷の警告が赤字で表示されているが、そんなことはどうでもいい。
 ———今はただ、この生き物が憎くてたまらなかった。
 右腕にマウントされているワイヤーを少しだけ垂らし、先端に装着されているフックを握らせると、容赦なく叩きつける。
 横倒しになった姿勢を起こしながら、暴れる胴と翼を、そして頭部を打ち据える。肉に刺さったフックを無理やり引き抜き、また喰い込ませる。
 肩部から抜き出された嘴を、首を鞭のようにしならせ、鋭く突き出される。モニターいっぱいに広がる先端が、右に逸れて装甲を切り裂いていく。増える警告と、抉られた装甲の隙間から覗く、ビーストの眼。
 再び上空へと逃れようとするビーストの、大きな目玉にフックが深く刺さる。それでもなお、引き出されていくワイヤーをロックすると、鋼鉄で編まれたワイヤーがぴんと張る。
 悲鳴を上げ始めている機体の出力を一気に上げ、反対側へと放り投げる。
 途中でロックを解除したワイヤーはうねりながらも、フックが刺さったままのビーストを墜落させる。地響きと潰れる肉の音が聞こえた。
 操縦桿を目いっぱい押し込み、機体を走らせる。折れた尖塔を担ぎ、ごく僅かな間しか使用できない背面ブースターを点火させ、まるで競技か何かのように機体を跳躍させた。
 じたばたと足掻くビーストの頭部をめがけて、尖塔をぶつける。
 瓦礫と土煙がモニターを覆うが気にも留めず、馬乗りになるような格好で、ドールズの腕を振り下ろし続けた。……何度も、何度も。
 ———どれくらい時間がったのかも、叫び続けていたことも忘れた頃。聞き馴染みのある声に気がついた。無線から聞こえてきたのは、おやっさんの声だった。
「スレイ! おい、聞こえないのか。スレイ!」
「……おやっさん」
 既に、機体の動きは止まっていた。
 ようやくか、とでも言いたげなため息が吐かれる。そこで、モニターが映す光景に目を見張った。そこにあったのは、骨を覗かせ、肉体を砕かれたビーストの死体だった。
 惨たらしくも、色鮮やかな色。腐ったような、なまあたたかい匂いが装甲の隙間から鼻をつき、思わず胃がひっくり返った。
「おやっさん……俺は……」
「……いい。もう、終わったことだ。お前は、よくやった。まずは街の外へ出よう。ここに居るべきじゃない」
(……街。……姉さん)
「……スレイ。辛いだろうが、泣いている場合じゃない。酷い言い方だが、分かってくれ」
 おやっさんの声に従おうにも、操縦桿を握る力すら、もう残されていなかった。全身から力が抜けていったように、身体が重たい。
 突然、辺りが明るくなった。数機のドールズがサーチライトか何かで照らしたのだと、なんとなく分かった。
「……要請した応援部隊か。今頃きやがって」
 吐き捨てられた言葉を掻き消すように、外部スピーカーによる音声が聞こえる。女性の声だった。
「大尉! ご無事だったんですね。半年間も連絡がなく、心配しました」
 大尉? 連絡? 何のことだろう。鈍く痛む頭で、ぼんやりとそんなことを考えていた。
「形状は若干違いますが、大尉のクルセイダですよね。どうしたんです? はやく声を聞かせてください。私です、クーナです!」
 すぐ隣に、機体が降りた感じがした。少しした後、コクピットハッチが開く。誰かが外側から、強制開放のレバーを操作したのだろう。
「大尉、お怪我をされているのですか?」
 澄んだ声に、ぼうっとしたまま顔を上げる。そこにいたのは、短い揃えた銀髪をした少女。誰かとの再会に、胸を膨らませていただろう彼女の表情が、怪訝に曇る。
「……貴方、何者ですか」
 その言葉を最後に、意識は暗い水底へと沈んでいった。