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37話 偽りの愛(3)

ー/ー




「その必要ありません」

 そう言い切ったのは、成宮くんだった。

「……分かっていたよ、初めから。ムリしてるって」

 成宮くんが震える三上さんの手をそっと握り、「だから大丈夫だよ」と声をかける。
 予期せぬことだったのか三上さんは顔を上げ、成宮くんを瞬き一つせず眺めていた。

「女子って結構、難しいんだろ? 彼氏がいないと軽く見られたり、グループ内同士で恋愛の話出来ないと付いていけなかったり。翼は愛莉ちゃんと、爽太は紗栄子ちゃんと一年から付き合ってるし。俺達は余り物同士、成り行きでくっつけられたみたいな感じだったしな」

 ははっと眉を下げた成宮くんは、三上さんの左手を手に取ったかと思えば、ためらいもなく死の指輪を抜いた。
 思わず俯いて目を閉じ、両手で耳を塞ぐが、いつまで待ってもあのけたたましい警告音も破裂音もしない。横目で小春と目が合い、互いに頷き顔を上げると、そこには息を切らす三上さんと、爆発はしないと確信していたように表情一つ変えない成宮くんがいた。

『おめでとうございます。三上華さんは死の指輪を外された、最初の生存者です。さあ、三上さん。あなたは恋人の成宮真くんを助けますか?』
「……何故、そんなことわざわざ聞いてくるの?」

 声が裏返ってしまっている三上さんがその疑問を口にすると、待っていたかのように主催者は意気揚々と説明を始めた。

『外さない選択肢もあると言ったら、どうします?』

 ふふっと笑う声はどこまでも邪悪で、憐れな俺達を嘲笑ってきて、こちらをどこまでも試してくる。
 俺達の命を人質に取って。
 そんなことが出来るのは人間ではない。死神だ。

「どこまで私達を弄べば気が済むのっ! 裏切って、無様に死ぬ私を笑うつもりでしょう!」
 はぁはぁと息を切らせ、体をガタガタと震わせる。
 主催者への反抗は、死に繋がるかもしれない。三上さんの震えは、もっともだった。

『この状態で、どうやって? あなたを殺す指輪はなくなりましたよ』
「……あ」

 三上さんは自身の左手をヒラヒラとさせ、薬指を眺める。命を縛り付けていたそれは、あまりにもあっけなく外れていた。

「……私、助かった、の……?」
『それは、あなたの行動次第です』

 淡々と話しているつもりなのだろうが、隠しきれていない残虐さ。裏切りを確信しているであろう声は、どこまでも醜い。
 三上さんを唆し、成宮くんを裏切るように仕組んでいく。
 そしてその姿を後に続く俺達に見せつけて、裏切りの恐怖を植え付けているんだ。俺達が疑心暗鬼になって、醜く争う姿を配信したいが為に。

「主催者さん。カップルの片方が死ねばどうなりますか?」

 そんな確信を突くことを口にしたのも、成宮くんだった。つまりそれは、自分が死んだ後、三上さんを案じての発言なのだろう。

『通常なら、指輪が外せずに死にます。しかし外されている場合は、このまま立会人としてゲーム終了まで校舎内に留まってもらうことになりますね』
「そっか。それなら良かった。華、今度はちゃんと好きな人と付き合わないとダメだからな?」

 教室の端に自ら寄っていき、ニコッ笑う姿は、どこまでも慈悲に満ち溢れている。

「……真……は?」
「さっきの惨劇を見ただろう? せっかく指輪が外れても、相手の指輪を外そうとしたら巻き込まれる。……俺はさ、華が好きだから生きて欲しい。無理矢理くっつけられた関係だったけど、華と一緒に居た八ヶ月間は、本当に楽しかったから」

 ピッ、ピッ、ピッ。
 成宮くんの指輪が黄色信号のように点滅を始め、穏やかだった表情が僅かに揺れる。

『さあ、決断の時です。一人で助かりますか? それとも爆発のリスクを抱えて、恋人を助けますか?』


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「その必要ありません」
 そう言い切ったのは、成宮くんだった。
「……分かっていたよ、初めから。ムリしてるって」
 成宮くんが震える三上さんの手をそっと握り、「だから大丈夫だよ」と声をかける。
 予期せぬことだったのか三上さんは顔を上げ、成宮くんを瞬き一つせず眺めていた。
「女子って結構、難しいんだろ? 彼氏がいないと軽く見られたり、グループ内同士で恋愛の話出来ないと付いていけなかったり。翼は愛莉ちゃんと、爽太は紗栄子ちゃんと一年から付き合ってるし。俺達は余り物同士、成り行きでくっつけられたみたいな感じだったしな」
 ははっと眉を下げた成宮くんは、三上さんの左手を手に取ったかと思えば、ためらいもなく死の指輪を抜いた。
 思わず俯いて目を閉じ、両手で耳を塞ぐが、いつまで待ってもあのけたたましい警告音も破裂音もしない。横目で小春と目が合い、互いに頷き顔を上げると、そこには息を切らす三上さんと、爆発はしないと確信していたように表情一つ変えない成宮くんがいた。
『おめでとうございます。三上華さんは死の指輪を外された、最初の生存者です。さあ、三上さん。あなたは恋人の成宮真くんを助けますか?』
「……何故、そんなことわざわざ聞いてくるの?」
 声が裏返ってしまっている三上さんがその疑問を口にすると、待っていたかのように主催者は意気揚々と説明を始めた。
『外さない選択肢もあると言ったら、どうします?』
 ふふっと笑う声はどこまでも邪悪で、憐れな俺達を嘲笑ってきて、こちらをどこまでも試してくる。
 俺達の命を人質に取って。
 そんなことが出来るのは人間ではない。死神だ。
「どこまで私達を弄べば気が済むのっ! 裏切って、無様に死ぬ私を笑うつもりでしょう!」
 はぁはぁと息を切らせ、体をガタガタと震わせる。
 主催者への反抗は、死に繋がるかもしれない。三上さんの震えは、もっともだった。
『この状態で、どうやって? あなたを殺す指輪はなくなりましたよ』
「……あ」
 三上さんは自身の左手をヒラヒラとさせ、薬指を眺める。命を縛り付けていたそれは、あまりにもあっけなく外れていた。
「……私、助かった、の……?」
『それは、あなたの行動次第です』
 淡々と話しているつもりなのだろうが、隠しきれていない残虐さ。裏切りを確信しているであろう声は、どこまでも醜い。
 三上さんを唆し、成宮くんを裏切るように仕組んでいく。
 そしてその姿を後に続く俺達に見せつけて、裏切りの恐怖を植え付けているんだ。俺達が疑心暗鬼になって、醜く争う姿を配信したいが為に。
「主催者さん。カップルの片方が死ねばどうなりますか?」
 そんな確信を突くことを口にしたのも、成宮くんだった。つまりそれは、自分が死んだ後、三上さんを案じての発言なのだろう。
『通常なら、指輪が外せずに死にます。しかし外されている場合は、このまま立会人としてゲーム終了まで校舎内に留まってもらうことになりますね』
「そっか。それなら良かった。華、今度はちゃんと好きな人と付き合わないとダメだからな?」
 教室の端に自ら寄っていき、ニコッ笑う姿は、どこまでも慈悲に満ち溢れている。
「……真……は?」
「さっきの惨劇を見ただろう? せっかく指輪が外れても、相手の指輪を外そうとしたら巻き込まれる。……俺はさ、華が好きだから生きて欲しい。無理矢理くっつけられた関係だったけど、華と一緒に居た八ヶ月間は、本当に楽しかったから」
 ピッ、ピッ、ピッ。
 成宮くんの指輪が黄色信号のように点滅を始め、穏やかだった表情が僅かに揺れる。
『さあ、決断の時です。一人で助かりますか? それとも爆発のリスクを抱えて、恋人を助けますか?』