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61-③.再臨する異形、戯れの果てに

ー/ー



「お前の執着も中々のもんだったが、新生魔族の本能とタオゼントの執着の相性のが勝った。フースお前、自滅大好きじゃねぇか?」

 自分の背中にあるタオゼントの感触を愛しく感じることに、唇を噛みながら耐えるも、尻尾が勝手に彼女を抱こうとする。

「い、まいましい!!」
「あはっ!豪快だネ?!」
「無駄に……捨てたと、思うな!!」

 切り落とされた尻尾は動き出す。ウネウネと意志を持って森の中に向かっている。

「チッ!」

 それを追うのはゼン。どこに落ちるのか、分かっていたからだ。

「ははははは!!やはり大事か!ゼンッ!!」
「まっずい……!」

 ゼンがティオにダメージの『破壊』を施していないはずはない。だが、それでもゼンは、彼に向かう攻撃を直接防ごうと意識がティオに集中する。

「ホントに……優しいんだからさ……」

 ファインが知っていることはもうひとつある。

 ゼンが自分に施すダメージの『破壊』は、ゼン自身がその場で判断して、選んでいるということ。

 つまり……

「……英雄を助ける元魔王なんて……超がつくほどおかしな話だと思わない?」
「ファイン……貴様ッ!!」

 フースの突撃をその身を呈して防いだファイン。衝撃で変身魔法が解けてしまったが、冷静に自分の腹を貫通しているフースの腕をグッと掴む。

「ね、覚えてる?ボクが君にした痛いこと」
「っ!離せ!」
「ダメ。ヘマばっかしてるからさ、いい加減、ボクもボクの執着捨てなきゃいけない」

 あの時と同じように、先程尻尾を落としたように、腕をきり離そうとするフース。それを逃すまいと、体を近づけさらに深く腕を飲ませた。

「お腹の穴、お揃いだと思わないでよネ?ご愁傷、ゼンにダメージゼロのままだ?……死ね」
「クソ!こんな……こんなぁああっ!タオゼントォォォ!!」

 フースの体が内側から沸騰していく。

「最後に名前を呼ぶなんて、よっぽど……っぁぁ」

 バチュッ!と体液をぶちまけながら弾け飛ぶフース。その体液を浴びながら、ファインはゼンを追いかけるように、落下していく。

「……さすがに痛すぎ」

 ドクドクと過剰に脈打っているのが分かる。
 ドクドクと流れていく自分の血液が分かる。

「そっか……そりゃこんな痛みが続けば簡単に死ぬよネ……治癒……は……うぅん、やめとこ……」

 ガサガサと草をかき分ける音がする。

「ファインさん!」
「ティオくん〜……無事でよかった〜」

 駆け寄り心配するティオ、その後ろにゼンの姿。

「同じような戦い方をするんじゃねぇよ」
「あはは……それしか知らないから、勝手にそうなっちゃった……フースと同じだね」

 治癒をかけようとするティオを止め、ファインはゼンと話したいと言った。

「でもさ、かっこよかったデショ?仲間を守って死ぬって言うの。あってもいいと思うんだけど」
「余計なことだ」
「言うと思った……ごめんね、そんな顔させちゃって……せっかく最後の為に自分を……ゲボォッ」

 しゃがみ込み、ファインの顔に手を添えるゼン。

「死にかけの……かつての宿敵だけど、ここで……決着つける?」
「それをお前が望むなら」
「じゃあ、そうしよ?本当なら60年前にボクは殺されてた。それを、お互いに利用しようと企んで共闘を選んだ……それも終わりなのなら」

 本来、この世界の正史でなければならなかった結末を。

「さあ……ゼン……」
「じゃあな、魔王ファイン・ゾンダーリング、俺に遊ばれた事を悔い、死ぬがいい」
「ああ……なんてことだ……そんなことがぁ……あはは……っ?」

 ファインの胸に手を置き、『破壊』を願うゼン。

「ダメじゃん……もっと無惨にしなきゃ……こんな……」
「お前の力を『破壊』する時の条件だ……お前は魔族として魔王としては死なせない」
「……バカだなぁ……人間ってホントに……優しくて愚か……ねぇ?ゼン」

 白い粒子になって消えていくファイン。死は冷たく恐ろしいはずなのに、温かく穏やかな光りに包まれ、幸せを与えられている。

「大好き」

 光は天に昇る。果てのある空に……風に流され世界に浸透し、見えなくなる。

「はっ!なんだよ、魔族のままじゃねぇかよ……」

 ファインの望みは、単純に死ねない自分を『破壊』して欲しかっただけ。ゼンを知り、人を知り、心を知ってしまった最後の言葉……人を蝕む、愛のこもった最後の告白。

 ファインだった光が完全にその場から消えるのを待って、その場を去るゼンとティオ。

 時間で言うと昼のはずなのに、薄暗く肌寒い。冷えた風を浴びながら、移動を始める。

「本当によかったのかい……?」
「余計なことを聞くな」
「ごめんよ……でも、僕が『見せ』てしまったせいもあるのかと思って……少し、心を痛めてしまってね……」

 余計なことをしたのは自分ではと、ティオは表情を曇らせている。

「ここで終わらせるつもりは無かった事だけが事実だ。理由なんか、関係ない」
「そう……ゼクスがそう言うなら……」

 無表情で話すゼン。なにも感じ取れるはずがないのに、どこか寂しげに見えるのは――……例え問いただしても、ゼンは語らないだろう。今はただ、『破壊』を進行させるだけなのだから。

「アダルヘルム」
「あ、ああ!あの聡明なガタイのいい男性だね?……見えるかな?」

 グリゼルダにも、アダルヘルムにも伝えていた最後の敵の存在。それを早々に片付けてしまったことで筋書きが崩れたゼン。

「あの裸の……いや、隠してはいるから違う……ええと」
「クロエのことか?あいつは別にほっといていい」
「信頼してるのだね?」
「そんな綺麗なもんじゃねぇよ、あいつとの関係は」

 冷めた声で、常に傍らに置いている女性のことを笑うゼン。男女の関係である事はわかるものの、その心の内まではわからない。わかったところで……かつて慕った女性を貶めた自分がどうこう口を出せる立場ではない。

「僕には関係なかったね、失礼したよ……さて、そろそろ……おや」
「火の海、か」
「予定通りと言うわけにはいかないものだねゼクス」
「はっ!腹立たしいことに、これは、生きているってことなんだぜ?ティオ」

 どんよりとした曇り空に燃え移りそうなほどに大きな火柱を上げて、燃えている……最後に滞在した、あの鍛冶の町が、燃えている。

「この火は消せるものではない!!水をかぶり、町の外へ避難しろ!!」
「あにぃ……」

 避難誘導をしているのはアダルヘルムとミウだった。

 重要な補給の拠点としているこの町を守る為、奮闘していたものの、赤い火球の到来で事態が一変していた。

「くっ……魔王グリゼルダめ……」
「あにぃ……ね……」

 拳を作り、あり得ない言葉を口にするアダルヘルムを心配そうに見つめるミウ。そしてその視線を空に……赤く燃える巨大な火球、少し目に入れただけで眼球が焼かれそうになる程の熱を感じる。

「ファイン殿を呼び戻して魔法でどうにか……クロエ嬢でも……くっ!」
「あにぃ、お願い……きいて?」
「どうした、ミウ」
「あのね、ミウ……感じたの」

 アダルヘルムの袖を握り、伝えたのは、感じ取れなくなった魔力のこと。

「たぶん、たぶんね……あくま、死んだ」
「ファイン殿が……死ぬ?なにをバカなことを」
「あくま、身近だったから……すうって、無くなったの……わかるの、いないの」

 ミウはアダルヘルムに抱きついて、涙を流しているようだった。

「さっき、ほんとに……あくま、好きじゃなかったけど……こんな、無くなるの、嫌なんだね……寂しいって、思っちゃうんだね」
「ミウ……」

 慌ただしく、逃げ惑う冒険者や町の住人たちが行き交う大通りで立ち止まり、再び近しい存在を失った事に胸を痛めるミウを慰めるアダルヘルム。

「くっ……」

 アダルヘルムの瞳にある異常な光……瞳孔を侵食する、桃色の光がキュルリと揺れた。

「(あくまが死んだんだよ?あにぃ……ねぇ?それを知っても、ダメなの……?)」

 火球から悲痛な叫び声がこだまする……更に多くの火の玉が降り注ぎ、町を焼いていく。


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次のエピソードへ進む 62.少女に恋した、小さな魔王


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「い、まいましい!!」
「あはっ!豪快だネ?!」
「無駄に……捨てたと、思うな!!」
 切り落とされた尻尾は動き出す。ウネウネと意志を持って森の中に向かっている。
「チッ!」
 それを追うのはゼン。どこに落ちるのか、分かっていたからだ。
「ははははは!!やはり大事か!ゼンッ!!」
「まっずい……!」
 ゼンがティオにダメージの『破壊』を施していないはずはない。だが、それでもゼンは、彼に向かう攻撃を直接防ごうと意識がティオに集中する。
「ホントに……優しいんだからさ……」
 ファインが知っていることはもうひとつある。
 ゼンが自分に施すダメージの『破壊』は、ゼン自身がその場で判断して、選んでいるということ。
 つまり……
「……英雄を助ける元魔王なんて……超がつくほどおかしな話だと思わない?」
「ファイン……貴様ッ!!」
 フースの突撃をその身を呈して防いだファイン。衝撃で変身魔法が解けてしまったが、冷静に自分の腹を貫通しているフースの腕をグッと掴む。
「ね、覚えてる?ボクが君にした痛いこと」
「っ!離せ!」
「ダメ。ヘマばっかしてるからさ、いい加減、ボクもボクの執着捨てなきゃいけない」
 あの時と同じように、先程尻尾を落としたように、腕をきり離そうとするフース。それを逃すまいと、体を近づけさらに深く腕を飲ませた。
「お腹の穴、お揃いだと思わないでよネ?ご愁傷、ゼンにダメージゼロのままだ?……死ね」
「クソ!こんな……こんなぁああっ!タオゼントォォォ!!」
 フースの体が内側から沸騰していく。
「最後に名前を呼ぶなんて、よっぽど……っぁぁ」
 バチュッ!と体液をぶちまけながら弾け飛ぶフース。その体液を浴びながら、ファインはゼンを追いかけるように、落下していく。
「……さすがに痛すぎ」
 ドクドクと過剰に脈打っているのが分かる。
 ドクドクと流れていく自分の血液が分かる。
「そっか……そりゃこんな痛みが続けば簡単に死ぬよネ……治癒……は……うぅん、やめとこ……」
 ガサガサと草をかき分ける音がする。
「ファインさん!」
「ティオくん〜……無事でよかった〜」
 駆け寄り心配するティオ、その後ろにゼンの姿。
「同じような戦い方をするんじゃねぇよ」
「あはは……それしか知らないから、勝手にそうなっちゃった……フースと同じだね」
 治癒をかけようとするティオを止め、ファインはゼンと話したいと言った。
「でもさ、かっこよかったデショ?仲間を守って死ぬって言うの。あってもいいと思うんだけど」
「余計なことだ」
「言うと思った……ごめんね、そんな顔させちゃって……せっかく最後の為に自分を……ゲボォッ」
 しゃがみ込み、ファインの顔に手を添えるゼン。
「死にかけの……かつての宿敵だけど、ここで……決着つける?」
「それをお前が望むなら」
「じゃあ、そうしよ?本当なら60年前にボクは殺されてた。それを、お互いに利用しようと企んで共闘を選んだ……それも終わりなのなら」
 本来、この世界の正史でなければならなかった結末を。
「さあ……ゼン……」
「じゃあな、魔王ファイン・ゾンダーリング、俺に遊ばれた事を悔い、死ぬがいい」
「ああ……なんてことだ……そんなことがぁ……あはは……っ?」
 ファインの胸に手を置き、『破壊』を願うゼン。
「ダメじゃん……もっと無惨にしなきゃ……こんな……」
「お前の力を『破壊』する時の条件だ……お前は魔族として魔王としては死なせない」
「……バカだなぁ……人間ってホントに……優しくて愚か……ねぇ?ゼン」
 白い粒子になって消えていくファイン。死は冷たく恐ろしいはずなのに、温かく穏やかな光りに包まれ、幸せを与えられている。
「大好き」
 光は天に昇る。果てのある空に……風に流され世界に浸透し、見えなくなる。
「はっ!なんだよ、魔族のままじゃねぇかよ……」
 ファインの望みは、単純に死ねない自分を『破壊』して欲しかっただけ。ゼンを知り、人を知り、心を知ってしまった最後の言葉……人を蝕む、愛のこもった最後の告白。
 ファインだった光が完全にその場から消えるのを待って、その場を去るゼンとティオ。
 時間で言うと昼のはずなのに、薄暗く肌寒い。冷えた風を浴びながら、移動を始める。
「本当によかったのかい……?」
「余計なことを聞くな」
「ごめんよ……でも、僕が『見せ』てしまったせいもあるのかと思って……少し、心を痛めてしまってね……」
 余計なことをしたのは自分ではと、ティオは表情を曇らせている。
「ここで終わらせるつもりは無かった事だけが事実だ。理由なんか、関係ない」
「そう……ゼクスがそう言うなら……」
 無表情で話すゼン。なにも感じ取れるはずがないのに、どこか寂しげに見えるのは――……例え問いただしても、ゼンは語らないだろう。今はただ、『破壊』を進行させるだけなのだから。
「アダルヘルム」
「あ、ああ!あの聡明なガタイのいい男性だね?……見えるかな?」
 グリゼルダにも、アダルヘルムにも伝えていた最後の敵の存在。それを早々に片付けてしまったことで筋書きが崩れたゼン。
「あの裸の……いや、隠してはいるから違う……ええと」
「クロエのことか?あいつは別にほっといていい」
「信頼してるのだね?」
「そんな綺麗なもんじゃねぇよ、あいつとの関係は」
 冷めた声で、常に傍らに置いている女性のことを笑うゼン。男女の関係である事はわかるものの、その心の内まではわからない。わかったところで……かつて慕った女性を貶めた自分がどうこう口を出せる立場ではない。
「僕には関係なかったね、失礼したよ……さて、そろそろ……おや」
「火の海、か」
「予定通りと言うわけにはいかないものだねゼクス」
「はっ!腹立たしいことに、これは、生きているってことなんだぜ?ティオ」
 どんよりとした曇り空に燃え移りそうなほどに大きな火柱を上げて、燃えている……最後に滞在した、あの鍛冶の町が、燃えている。
「この火は消せるものではない!!水をかぶり、町の外へ避難しろ!!」
「あにぃ……」
 避難誘導をしているのはアダルヘルムとミウだった。
 重要な補給の拠点としているこの町を守る為、奮闘していたものの、赤い火球の到来で事態が一変していた。
「くっ……魔王グリゼルダめ……」
「あにぃ……ね……」
 拳を作り、あり得ない言葉を口にするアダルヘルムを心配そうに見つめるミウ。そしてその視線を空に……赤く燃える巨大な火球、少し目に入れただけで眼球が焼かれそうになる程の熱を感じる。
「ファイン殿を呼び戻して魔法でどうにか……クロエ嬢でも……くっ!」
「あにぃ、お願い……きいて?」
「どうした、ミウ」
「あのね、ミウ……感じたの」
 アダルヘルムの袖を握り、伝えたのは、感じ取れなくなった魔力のこと。
「たぶん、たぶんね……あくま、死んだ」
「ファイン殿が……死ぬ?なにをバカなことを」
「あくま、身近だったから……すうって、無くなったの……わかるの、いないの」
 ミウはアダルヘルムに抱きついて、涙を流しているようだった。
「さっき、ほんとに……あくま、好きじゃなかったけど……こんな、無くなるの、嫌なんだね……寂しいって、思っちゃうんだね」
「ミウ……」
 慌ただしく、逃げ惑う冒険者や町の住人たちが行き交う大通りで立ち止まり、再び近しい存在を失った事に胸を痛めるミウを慰めるアダルヘルム。
「くっ……」
 アダルヘルムの瞳にある異常な光……瞳孔を侵食する、桃色の光がキュルリと揺れた。
「(あくまが死んだんだよ?あにぃ……ねぇ?それを知っても、ダメなの……?)」
 火球から悲痛な叫び声がこだまする……更に多くの火の玉が降り注ぎ、町を焼いていく。