最接近4日後 中学校
ー/ー「佐野くん、気をつけて。
道、すごく悪い…」
ユズが背中越しに言った。
「おう。
ゆっくり行くよ」
ユウゴは慎重にペダルを踏み込み、瓦礫を避けながら進んだ。
ロングテールは重い。
荷台にユズが乗っている分、バランスも取りづらい。
だが、歩くよりずっと早い。
そして何より、二人の心に前へ進む力をくれた。
アスファルトの割れ目を踏む度に、ロングテールは車体を揺らす。
街は相変わらず静かだった。ユズが小さくつぶやく。
「やっぱり、誰もいないね…」
「おう…
でも隣町に行けば、多分…」
言った後、ユウゴの胸にざらりとした感触が残る。
小学校を目指していた時も、同じ言葉を言っていなかったか。
本当に隣町の避難所は無事なのか。
母さんたちはそこにいるのか。
ユズの記憶を頼りに、二人は隣町へ続く大通りへ向かった。
しかし、その道はもう“道”と呼べる状態ではない。
道という道は大きく割れ、車は横転し、建物は骨組みだけを残して崩れている。
風が吹くたびに、どこかの窓ガラスがカラン…と鳴った。
ユズが震える声で言う。
「なんか…怖いね…」
「大丈夫。
ゆっくり行けば…大丈夫だ」
そう言いながら、ユウゴの手はハンドルを強く握りしめていた。
そうして瓦礫の間を縫うように進み、大きく崩れたビルの前を通りかかった時だった。
ユズが突然、息を呑む。
「佐野くん…あれ…」
瓦礫の隙間に、人の足の様なものが見えた。
砂埃にまみれた革靴は、動かない。
ユウゴは思わずバイクを止めた。
近づくまでもなく分かった。
瓦礫が直撃したのだろう。その足は、ピクリとも動かない。
ユズが震える声で言う。
「…やだ…こんなの…」
ユウゴも背筋が泡立つのを感じた。
「…見ないで、行こう…」
二人は視線をそらし、忍ぶようにその場を離れた。
胸の奥が冷たくなる。
改めて、街全体が“もう終わってしまった世界”のように感じられた。
「この道をまっすぐ行けば、中学校に着くはず…」
ユズはショックが抜けきらない声で言いながらも、変わり果てた街の姿を、必死に記憶と重ね合わせようとしているようだった。
ユウゴは肩越しに聞こえるユズの指示に従って、慎重にロングテールのハンドルを操作する。
途中で道路が陥没していて迂回したり、倒れた看板を押しのけたりと、二人は何度も立ち止まりながら、変わり果てた街を抜けていった。
空が急激に色を失い始めた頃、ユズが前方を指さした。
「見て、あれ…!」
丘の上に、中学校の大きな校舎が見えた。
校庭のフェンスは街路樹の倒木に押し倒され、校舎の壁には大きな亀裂がいくつも走っている。
それでも、自分たちの小学校よりは、まだ形を保っているように見えた。
ユウゴは息を吐いた。
「着いた…
ここが…隣町の避難所…」
二人はロングテールバイクから降りて、押しながら校舎へと歩き出した。
胸の奥で、希望と不安がせめぎ合っていた。
踏み入れた校庭は広い。
だが、あまりにも静かだった。
テントもない。
人影もない。
荷物の一つすらない。
まるで、誰もここに避難してこなかったかのように。
ユズが背中越しに震える声で言う。
「ここも、誰もいない…」
ユウゴは返事ができなかった。
体育館の前で感じたあの冷たい感覚が、胸の中に再び広がっていく。
「そんなはず、ないだろ…
避難所なんだぞ…?」
なんとか絞り出した言葉は、自分でも空虚に響くのを感じていた。
二人は重い足引き摺るように校庭を横切り、中学校の体育館へ向かった。
小学校の体育館ほどではないが、ここも壁が歪み、屋根の一部が落ちている。
ユズがそっと言う。
「佐野くん…
またあの匂いがしたら…」
「分かってる。中には入らない」
二人は入口の前で立ち止まり、耳を澄ませた。
…何も聞こえない。
風の音だけが、体育館の割れた窓から抜けていく。
ユウゴは深く息を吸い、できるだけ大きな声で叫んだ。
「誰かいませんかあ!!」
ユズも続ける。
「誰かあ!!
避難してる人…いませんかあ!!」
声は体育館の中に吸い込まれ、
何の反応も返ってこなかった。
ユズが小さく呟く。
「やっぱり、誰もいない…」
ユウゴは体育館の壁に手をつき、ゆっくりと目を閉じた。
胸の奥が、ずしりと重く沈んでいく。
「…なんで、どこにも…誰もいないんだよ…」
気を抜くとへたり込んでしまいそうだった。
「どうしよう…私…もう、どうすればいいか…」
ユズの声が震え、涙がこぼれそうになっている。
ユウゴは唇を噛み、必死に気持ちを立て直そうとした。
「…まだ、諦めない。
絶対に…どこかにいる。
みんな…どこかに避難したんだ…」
そう言いながら、自分の声が震えているのを感じた。
二人は校庭の真ん中で立ち尽くし、暗くなった空を見上げた。
低い雲が細長く裂いたように並ぶ合間に、うっすらとぼやけた月が浮かんでいる。
二人は、完全に途方に暮れていた。
道、すごく悪い…」
ユズが背中越しに言った。
「おう。
ゆっくり行くよ」
ユウゴは慎重にペダルを踏み込み、瓦礫を避けながら進んだ。
ロングテールは重い。
荷台にユズが乗っている分、バランスも取りづらい。
だが、歩くよりずっと早い。
そして何より、二人の心に前へ進む力をくれた。
アスファルトの割れ目を踏む度に、ロングテールは車体を揺らす。
街は相変わらず静かだった。ユズが小さくつぶやく。
「やっぱり、誰もいないね…」
「おう…
でも隣町に行けば、多分…」
言った後、ユウゴの胸にざらりとした感触が残る。
小学校を目指していた時も、同じ言葉を言っていなかったか。
本当に隣町の避難所は無事なのか。
母さんたちはそこにいるのか。
ユズの記憶を頼りに、二人は隣町へ続く大通りへ向かった。
しかし、その道はもう“道”と呼べる状態ではない。
道という道は大きく割れ、車は横転し、建物は骨組みだけを残して崩れている。
風が吹くたびに、どこかの窓ガラスがカラン…と鳴った。
ユズが震える声で言う。
「なんか…怖いね…」
「大丈夫。
ゆっくり行けば…大丈夫だ」
そう言いながら、ユウゴの手はハンドルを強く握りしめていた。
そうして瓦礫の間を縫うように進み、大きく崩れたビルの前を通りかかった時だった。
ユズが突然、息を呑む。
「佐野くん…あれ…」
瓦礫の隙間に、人の足の様なものが見えた。
砂埃にまみれた革靴は、動かない。
ユウゴは思わずバイクを止めた。
近づくまでもなく分かった。
瓦礫が直撃したのだろう。その足は、ピクリとも動かない。
ユズが震える声で言う。
「…やだ…こんなの…」
ユウゴも背筋が泡立つのを感じた。
「…見ないで、行こう…」
二人は視線をそらし、忍ぶようにその場を離れた。
胸の奥が冷たくなる。
改めて、街全体が“もう終わってしまった世界”のように感じられた。
「この道をまっすぐ行けば、中学校に着くはず…」
ユズはショックが抜けきらない声で言いながらも、変わり果てた街の姿を、必死に記憶と重ね合わせようとしているようだった。
ユウゴは肩越しに聞こえるユズの指示に従って、慎重にロングテールのハンドルを操作する。
途中で道路が陥没していて迂回したり、倒れた看板を押しのけたりと、二人は何度も立ち止まりながら、変わり果てた街を抜けていった。
空が急激に色を失い始めた頃、ユズが前方を指さした。
「見て、あれ…!」
丘の上に、中学校の大きな校舎が見えた。
校庭のフェンスは街路樹の倒木に押し倒され、校舎の壁には大きな亀裂がいくつも走っている。
それでも、自分たちの小学校よりは、まだ形を保っているように見えた。
ユウゴは息を吐いた。
「着いた…
ここが…隣町の避難所…」
二人はロングテールバイクから降りて、押しながら校舎へと歩き出した。
胸の奥で、希望と不安がせめぎ合っていた。
踏み入れた校庭は広い。
だが、あまりにも静かだった。
テントもない。
人影もない。
荷物の一つすらない。
まるで、誰もここに避難してこなかったかのように。
ユズが背中越しに震える声で言う。
「ここも、誰もいない…」
ユウゴは返事ができなかった。
体育館の前で感じたあの冷たい感覚が、胸の中に再び広がっていく。
「そんなはず、ないだろ…
避難所なんだぞ…?」
なんとか絞り出した言葉は、自分でも空虚に響くのを感じていた。
二人は重い足引き摺るように校庭を横切り、中学校の体育館へ向かった。
小学校の体育館ほどではないが、ここも壁が歪み、屋根の一部が落ちている。
ユズがそっと言う。
「佐野くん…
またあの匂いがしたら…」
「分かってる。中には入らない」
二人は入口の前で立ち止まり、耳を澄ませた。
…何も聞こえない。
風の音だけが、体育館の割れた窓から抜けていく。
ユウゴは深く息を吸い、できるだけ大きな声で叫んだ。
「誰かいませんかあ!!」
ユズも続ける。
「誰かあ!!
避難してる人…いませんかあ!!」
声は体育館の中に吸い込まれ、
何の反応も返ってこなかった。
ユズが小さく呟く。
「やっぱり、誰もいない…」
ユウゴは体育館の壁に手をつき、ゆっくりと目を閉じた。
胸の奥が、ずしりと重く沈んでいく。
「…なんで、どこにも…誰もいないんだよ…」
気を抜くとへたり込んでしまいそうだった。
「どうしよう…私…もう、どうすればいいか…」
ユズの声が震え、涙がこぼれそうになっている。
ユウゴは唇を噛み、必死に気持ちを立て直そうとした。
「…まだ、諦めない。
絶対に…どこかにいる。
みんな…どこかに避難したんだ…」
そう言いながら、自分の声が震えているのを感じた。
二人は校庭の真ん中で立ち尽くし、暗くなった空を見上げた。
低い雲が細長く裂いたように並ぶ合間に、うっすらとぼやけた月が浮かんでいる。
二人は、完全に途方に暮れていた。
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