最接近4日後 脱出
ー/ーどれ程の時間が経ったろうか。
昏睡と覚醒の狭間で、ユウゴは何度か大地の揺れを感じていた。その度に周囲の世界が歪むような、そんな悪夢を見ていた気がする。
やがて、暗闇の中でユウゴはゆっくりと意識を取り戻した。
最初に感じたのは、冷たさだった。
仰向けの背に触れる感触は硬く、湿った土とコンクリートの匂いが鼻を衝く。
頭がズキズキと痛み、喉も砂を飲み込んだような痛みを感じる。
「…っ」
声を出そうとすると、喉がひりついて咳が出た。
その咳の振動で、顔の近くで瓦礫がカラカラと音を立てる。
狭く、暗い。
ユウゴは自分の右側に、何か温かいものが寄り添っていることに気付いた。
ゆっくりと顔を向ける。
暗闇でよく見えないが、人のような輪郭と、微かな呼吸の気配。
霧がかかった頭で、必死に記憶を手繰り、思い出す。
立っていられないほどの大地の揺れ。
覆いかぶさるように崩れ落ちてくる建物。
その時、誰かが一緒にいた気がする―
「…貝塚…?」
かすれた声で呼ぶと、その温もりがわずかに動いた。
ユウゴは痺れた右腕をそっと動かし、触れているものを確かめる。
冷たいけれど、確かに温かい。自分もユズも、生きている。
その瞬間、胸の奥が安堵でじんわりと温かくなった。
「…よかった…」
涙が出そうになったが、喉の痛みで引き戻される。
「貝塚…起きて…」
しばらく反応はなかった。
だが、やがて―
「…ん…」
小さな声が返って来た。
ユウゴは安心で小さくため息をつく。
「貝塚、聞こえる?」
ユズのまぶたがゆっくりと開き、暗闇の中で、かすかに光を反射した。
「佐野くん…?」
その声は弱々しく、夢の中の言葉みたいにぼんやりしていた。
ユウゴはできるだけ大きく頷いた。
「そう…!オレだよ…!
よかった…無事だった…!」
ユズはしばらく何も言わず、ユウゴの顔を見つめていた。
焦点が合っていないようで、しかし確かにユウゴを認識している。
そして、掠れた声で呟いた。
「…あったかかった…
佐野くんが、あったかかったから…」
二人は瓦礫の隙間に閉じ込められ、互いの体温だけで数日間を生き延びたのだ。
どこからともなく、微かに風が吹き抜ける音がした。
ユウゴは小さくだが力を込めて言った。
「…大丈夫、大丈夫だ。
絶対に…ここから出よう…」
ユズが弱々しく頷く気配が返ってくる。
ユウゴが体を起こそうと力を入れた瞬間、肩が硬い何かに押し返された。
左足も、何かの金属フレームに絡め取られたまま動かない。
天井は、顔のすぐ上。
息を吸うたびに胸が瓦礫に触れ、そのたびに砂がパラパラと落ちてきた。
「…っ動けね…」
ユウゴは、ほんの数センチだけ腕を動かした。
それだけで、全身が悲鳴を上げる。
「佐野くん…大丈夫…?」
「…おう…行ける!」
本当は行けない。
それでも、そう言わなければユズが、自分が不安になる。
ユウゴは右肩にのしかかる瓦礫を、力任せに押し上げようとした。
ズズ…と、支えを失いかけたような嫌な重みが伝わる。
ユウゴは動きを止め、息を潜める。
「…ゆっくり、いこう…」
ユズが囁くような声で言った。
ユウゴは小さく頷き、今度は上ではなく、横に押し付けるように力を込めた。
ズリ…と、右肩から顔のすぐ横まで横たわっていた瓦礫がわずかに動いた。
その隙間から、冷たい空気がふっと流れ込んでくる。
「…動いた…!」
ユズが小さく声を上げる。
ユウゴは、その空気の流れを頼りに、隙間を慎重に広げながら、体を少しずつ前へ押し込んだ。
全身が鈍く痛む。
しかし、進んでいる。
ユズも、ユウゴの動きに合わせて体をずらした。
二人は、芋虫のように数センチずつ前へ進む。
やがて、針の穴に通したような細い光が見えてきた。
「出口…!」
二人の声が重なる。
ユウゴは力を振り絞り、その光の方向へ体を押し出した。
肩が瓦礫に擦れ、擦り傷ができた。
そして―
ユウゴの指先が、外の空気に触れた。
冷たくて、乾いていて、だが確かに“外”の匂いがした。
「貝塚…あと少しだ…!」
ユウゴは瓦礫を押し広げ、体をねじりながら外へ這い出した。
ユズも続く。
二人は瓦礫の上にうつぶせに倒れ、しばらく動けなかった。
息が荒い。
喉が痛い。
体が震える。
でも、生きている。
外に出られた。
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