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第184話 それを知るのは先の話

ー/ー



「そういうことなら早く言ってくれればいいのに」

「仕方ないだろ、部長様が沈黙は金って言うんだから」

 部活終わりの帰り道。俺が横で一緒に歩く樫田に文句を言う。
 すまし顔で答える樫田、そして後ろから大槻と山路が笑う。

「まぁ、なったものは仕方ないだろ」

「だねー、杉野自身もやるって言ったんだしー」

 他人事だと思って。
 俺は納得いっていないところもあるが、それでも口に出したことを曲げる気もない。

「分かっているよ。腹はくくってる」

「じゃあ、いいだろ」

「良くはない。シンプルに何で俺なんだろうっていう疑問はある」

 こういうのは、やっぱり椎名か増倉の仕事だろ。
 そんな視線を送ると、樫田は少し黙り込んでからゆっくりと口を開いた。

「俺も理由を聞いたわけじゃない。じゃないが……想像はつく」

 その言葉に、俺たち三人は樫田に注目する。
 樫田は真剣な表情で語りだす。

「きっと、いくつか理由があるんだとは思う。それは部長についてだったり現状についてだったりで、それを考慮した上でも杉野が言う通り、本来なら椎名か増倉が適任だ……けど、そうだな。誤解を恐れずに言うなら、今あの二人の評価はそこまで高くないだろう」

『……』

 俺たち三人はその言葉を否定できなかった。
 どことなく……そう。どことなく思っていたことを言語化された気分だった。
 そんな俺たちの心情を察したか、樫田は穏やかな声で話を続ける。

「いつから……いや、明確なのはきっと稽古中に椎名と増倉が喧嘩した時だろうな」

 忘れやしない。山路が辞めようとしていた時に起きたことだった。
 脳裏に、あの時の怒った轟先輩の表情がよぎる。

「そして椎名も増倉もここ最近で大きな変化をしている。まぁ、説明するまでもないか」

 沈黙する俺たちの反応から察したのだろう。樫田はそれ以上何も言わなかった。
 少しだけ重い空気が流れる中で、大槻が誰となく尋ねた。

「部長、誰になるんだろうな……?」

 その言葉に、俺は一人静かに胸が高鳴った。
 俺としては椎名を推さなきゃいけないはずなのに、上手く言葉が出なかった。
 後ろから山路が尋ねる。

「樫田はどう思うー?」

「さぁな。誰でもいい」

「んなことないだろ。お前が部長になる可能性だってあるんだから」

 樫田の答えに、すかさず大槻が突っかかる。
 確かにそうだ。男子の中で部長になることが出来るのは樫田だけだろう。
 困ったように「うーん」と唸りつつ樫田は歩みを止めなかった。

「俺はもう演出家という立場があるからな。誰が部長になっても、俺がすべきことはもう決まっている。それが例え俺自身が部長になったとしても、だ。俺の話より、杉野はどうなんだ?」

 横目でこっちを見ながら、樫田が聞いてきた。
 心を見透かされている気がした。
 逃げるように前を向きながら、それでも俺は正直に答えた。

「……俺は、椎名を部長にする」

「そうか」

 俺の答えに、樫田は満足げに一言そう頷いた。
 ただ、後ろの二人からどこか不安そうな雰囲気が漂ってきた。

「椎名。椎名ねぇ」

「……なるほどねー」

「なんだよ?」

 思わず振り返り二人を見る。
 大槻と山路は言いにくそうに口淀む。

「いや、さ。なんだ。俺がこういうこと言うの変かもしれないが……さっき樫田が言ってた通り最近の椎名は変わったきたじゃん? けど……」

「その、なんていうかさー。大人しい―? いや、悪い意味じゃなくてねー」

 ああ、そうか。
 二人が言いたいのはきっと、前に夏村から託されたことと一緒なのだろう。
 俺は素直に認める。

「いや、分かるよ。最近の椎名は、良くないな」

 そう断言すると三人は驚いた表情をした。
 自然と俺たちは立ち止まった。
 すぐそこが駅だというのに、ここでは終われないという感じだった。

「杉野がはっきりと言うとは思ってなかったな」

「まぁ、さすがに俺でも気づいているよ」

「そうか……どうするつもりなんだ?」

 樫田が率直に聞いてきた。
 その瞳には心配と同時に、演出家としての警戒を宿していた。
 大槻と山路は、俺の次の言葉を息呑んで見守る。
 俺は少し躊躇いを覚えながらも、はっきりと言う。

「何とかなる」

「なる? するじゃなくてか?」

「ああ、椎名の変化はきっと迷いの表れで、春大会で答えが出るだろうから」

「そうか……」

 樫田は難しい顔で考え込んだ。
 俺には言葉の意味をかみ砕いているように見えた。
 そして――。

「杉野。お前が言うならそれは合っているだろうが……分かっているのか? 春大会で答えが出るというのは田島も同じなんだぞ?」

「? ああ、そうだな?」

 いまいち樫田の言っていることが分からなかった。
 そんな俺の表情を見て、樫田は溜息をつく。

「……はぁ、まぁいい。お前自身もやってみないと分からないってことか」

「相変わらず、すげぇな」

「出たとこ勝負ってやつだー」

 大槻と山路は、意味が分かったのか樫田の側につく。
 訳も分からず不思議に思っていたが、誰も詳しく説明してくれなかった。
 そして、俺がその言葉の意味を理解したのは春大会当日のことだった。


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「そういうことなら早く言ってくれればいいのに」
「仕方ないだろ、部長様が沈黙は金って言うんだから」
 部活終わりの帰り道。俺が横で一緒に歩く樫田に文句を言う。
 すまし顔で答える樫田、そして後ろから大槻と山路が笑う。
「まぁ、なったものは仕方ないだろ」
「だねー、杉野自身もやるって言ったんだしー」
 他人事だと思って。
 俺は納得いっていないところもあるが、それでも口に出したことを曲げる気もない。
「分かっているよ。腹はくくってる」
「じゃあ、いいだろ」
「良くはない。シンプルに何で俺なんだろうっていう疑問はある」
 こういうのは、やっぱり椎名か増倉の仕事だろ。
 そんな視線を送ると、樫田は少し黙り込んでからゆっくりと口を開いた。
「俺も理由を聞いたわけじゃない。じゃないが……想像はつく」
 その言葉に、俺たち三人は樫田に注目する。
 樫田は真剣な表情で語りだす。
「きっと、いくつか理由があるんだとは思う。それは部長についてだったり現状についてだったりで、それを考慮した上でも杉野が言う通り、本来なら椎名か増倉が適任だ……けど、そうだな。誤解を恐れずに言うなら、今あの二人の評価はそこまで高くないだろう」
『……』
 俺たち三人はその言葉を否定できなかった。
 どことなく……そう。どことなく思っていたことを言語化された気分だった。
 そんな俺たちの心情を察したか、樫田は穏やかな声で話を続ける。
「いつから……いや、明確なのはきっと稽古中に椎名と増倉が喧嘩した時だろうな」
 忘れやしない。山路が辞めようとしていた時に起きたことだった。
 脳裏に、あの時の怒った轟先輩の表情がよぎる。
「そして椎名も増倉もここ最近で大きな変化をしている。まぁ、説明するまでもないか」
 沈黙する俺たちの反応から察したのだろう。樫田はそれ以上何も言わなかった。
 少しだけ重い空気が流れる中で、大槻が誰となく尋ねた。
「部長、誰になるんだろうな……?」
 その言葉に、俺は一人静かに胸が高鳴った。
 俺としては椎名を推さなきゃいけないはずなのに、上手く言葉が出なかった。
 後ろから山路が尋ねる。
「樫田はどう思うー?」
「さぁな。誰でもいい」
「んなことないだろ。お前が部長になる可能性だってあるんだから」
 樫田の答えに、すかさず大槻が突っかかる。
 確かにそうだ。男子の中で部長になることが出来るのは樫田だけだろう。
 困ったように「うーん」と唸りつつ樫田は歩みを止めなかった。
「俺はもう演出家という立場があるからな。誰が部長になっても、俺がすべきことはもう決まっている。それが例え俺自身が部長になったとしても、だ。俺の話より、杉野はどうなんだ?」
 横目でこっちを見ながら、樫田が聞いてきた。
 心を見透かされている気がした。
 逃げるように前を向きながら、それでも俺は正直に答えた。
「……俺は、椎名を部長にする」
「そうか」
 俺の答えに、樫田は満足げに一言そう頷いた。
 ただ、後ろの二人からどこか不安そうな雰囲気が漂ってきた。
「椎名。椎名ねぇ」
「……なるほどねー」
「なんだよ?」
 思わず振り返り二人を見る。
 大槻と山路は言いにくそうに口淀む。
「いや、さ。なんだ。俺がこういうこと言うの変かもしれないが……さっき樫田が言ってた通り最近の椎名は変わったきたじゃん? けど……」
「その、なんていうかさー。大人しい―? いや、悪い意味じゃなくてねー」
 ああ、そうか。
 二人が言いたいのはきっと、前に夏村から託されたことと一緒なのだろう。
 俺は素直に認める。
「いや、分かるよ。最近の椎名は、良くないな」
 そう断言すると三人は驚いた表情をした。
 自然と俺たちは立ち止まった。
 すぐそこが駅だというのに、ここでは終われないという感じだった。
「杉野がはっきりと言うとは思ってなかったな」
「まぁ、さすがに俺でも気づいているよ」
「そうか……どうするつもりなんだ?」
 樫田が率直に聞いてきた。
 その瞳には心配と同時に、演出家としての警戒を宿していた。
 大槻と山路は、俺の次の言葉を息呑んで見守る。
 俺は少し躊躇いを覚えながらも、はっきりと言う。
「何とかなる」
「なる? するじゃなくてか?」
「ああ、椎名の変化はきっと迷いの表れで、春大会で答えが出るだろうから」
「そうか……」
 樫田は難しい顔で考え込んだ。
 俺には言葉の意味をかみ砕いているように見えた。
 そして――。
「杉野。お前が言うならそれは合っているだろうが……分かっているのか? 春大会で答えが出るというのは田島も同じなんだぞ?」
「? ああ、そうだな?」
 いまいち樫田の言っていることが分からなかった。
 そんな俺の表情を見て、樫田は溜息をつく。
「……はぁ、まぁいい。お前自身もやってみないと分からないってことか」
「相変わらず、すげぇな」
「出たとこ勝負ってやつだー」
 大槻と山路は、意味が分かったのか樫田の側につく。
 訳も分からず不思議に思っていたが、誰も詳しく説明してくれなかった。
 そして、俺がその言葉の意味を理解したのは春大会当日のことだった。