不可視の真理
ー/ー「――というわけでだ、助手!」
あの日から三日。
気まずい沈黙が流れるかと思いきや、神代部長はいつにも増してハイテンションで理科準備室のドアを開け放った。
俺はというと、ドアが開いた瞬間、条件反射で前回の「真実」の残像(ピンク色)が脳裏をよぎり、思わず目を逸らしてしまった。
「な、なんですか、部長。今日はもう、変な眼鏡は勘弁ですよ」
「ふふん、甘いな! 私がいつまでも同じ失敗を繰り返すと思うか? 昔日の屈辱は、今日の勝利への糧!」
部長は白衣をバサァと翻し、腰に手を当てて胸を張る。
その自信満々な態度には、ある種の恐怖すら覚える。
「いいか、よく聞け! 前回の『真理の観測者(トゥルー・サイト)』は、確かに私の計算ミスで、少々『真実』を過剰に抽出しすぎてしまった。それは認める」
「少々、どころじゃなかったですけどね。俺の純情が」
「うるさい! だが、天才である私は考えた。眼鏡が『真実(裸)』を見るなら、その『真実』をさらに隠す『絶対的な真実』を用意すればいいのだと!」
部長は勝ち誇った顔で、白衣のポケットから一枚の「布」を取り出した。
それは、何というか……すごく、ピカピカしている。
銀色をベースに、虹色の光沢が混ざった、見るからに怪しいメタリックな生地だ。
「これこそが、我が発明部の粋を集めた新素材――『不可視の真理(アンタッチャブル・トゥルース)』だ!」
「……はあ。何ですか、それは」
「この素材は、あらゆる周波数の電磁波、超音波、そして量子スキャナを完璧に反射・吸収する。つまり、前回の眼鏡をかけても、この布の下にあるものは絶対に『観測』できない! 完全なる防御壁だ!」
先輩は、そのピカピカした布を、自分の胸元に当てて見せた。
「どうだ? これで、私がどれだけ無防備な格好をしていようとも、助手、お前の破廉恥な視線から私の『真実』は守られるというわけだ!」
「……いや、俺のっていうか部長の発明が勝手に」
「バカ者! それでは発明家の名が泣く! 私は技術でねじ伏せるのだ!」
話がとっちらかっていて、ついていけない。
部長は、その『不可視の真理』で作ったという、何だか特撮ヒーローのインナースーツみたいなピチピチした変な服を、白衣の下に着込んできたらしい。
「よし、助手! そこにある予備の『真理の観測者』をかけろ!」
「えぇ……。予備ぃ……?」
「安心しろ! 今回は私の勝利が確定している! さあ、私の完璧な防御機構を、その目に焼き付けるがいい!」
無理やり眼鏡を渡され、俺は渋々それを装着した。
視界がホワイトアウトし、システムが起動する。
『――対象をスキャン中。隠された「真実」を抽出します……』
目の前には、白衣の下に、虹色に光るピチピチスーツを着た部長。
俺の視界の中で、赤いグリッド線が部長を走る。
そして、そのグリッド線が、部長の着ている『不可視の真理』スーツに接触した瞬間――。
『――警告。対象の表面に、強力な「真実隠蔽フィールド」を確認。システムの解析上限を超えています』
おっ、今回はちゃんと機能しているみたいだ。
部長の言う通り、あの変なスーツの下は透過されていない。
……が。
『――緊急プロトコル発動。隠された「真実」を観測するため、システムの出力を最大(MAX)に固定。「概念レベル」でのスキャンを開始します』
「……え?」
無機質な合成音声が、不穏なことを告げた。
概念レベルって、何?
俺の視界の中。
部長の姿が、一瞬、ぐにゃりと歪んだ。
そして。
「……あ、あれ?」
「どうだ、助手! 見えないだろ? 私の完璧な防御壁に、ひれ伏すがいい!」
「いや、部長……。見えないっていうか……」
俺の視界。
そこには、部長の姿はなかった。
代わりに、そこには。
【美少女】
【天才(自称)】
【残念】
【巨乳】
【恥ずかしがり屋】
【失敗すると三日間凹む】
という、彼女の「構成要素(概念)」を記したテキストデータが、空中にプカプカと浮いていた。
「……な、なんだ? その、私の内面を暴くような、気持ちの悪い視線は……」
「いや、部長。見えてないです。体は、一切見えてないんですけど……」
「えっ、じゃあ成功……」
「その代わりに、部長の『概念』が丸裸になってます」
俺は、視界に浮かぶテキストの一つ、【失敗すると三日間凹む】という項目を、じっと見つめた。
「……概念? 何を言っている……」
「えーと、この3日間来なかったのは凹んでた……から?」
「えぁ! ?あー! あーーー!! おい! 読むな! 見るなーー!!」
部長は、顔をこれ以上ないほど真っ赤にして、自分の体を抱え込んだ。
物理的な裸よりも、精神的な裸を見られる方が、彼女にとっては致命的だったらしい。
「この、バカ変態助手ーー!! 内面まで覗き見るとは、最低だ!!」
再び、理科準備室に快音(ビンタ)が響き渡る。
眼鏡が吹っ飛んだ瞬間、視界には「概念」ではなく、真っ赤な顔で涙目になっている部長が戻ってきた。
「違うんです! これは眼鏡が『服で隠せないなら、概念を暴けばいい』と判断しただけであって!」
「やかましい! もう、その眼鏡は廃棄だ! 永久封印だ!」
「……でも部長、これやっぱりすごい発明なのでは……?」
「うるさい! 三日間! 出入り禁止だーー!!」
結局、その日の活動は、前回の倍の気まずさで終了した。
夕暮れの帰り道。
俺は、物理的な「真実」よりも、精神的な「真実」の方が、色んな意味で破壊力が高いことを知った。
……ちなみに、部長。
明日からの三連休はカウントに入れて良いんですよね?
あの日から三日。
気まずい沈黙が流れるかと思いきや、神代部長はいつにも増してハイテンションで理科準備室のドアを開け放った。
俺はというと、ドアが開いた瞬間、条件反射で前回の「真実」の残像(ピンク色)が脳裏をよぎり、思わず目を逸らしてしまった。
「な、なんですか、部長。今日はもう、変な眼鏡は勘弁ですよ」
「ふふん、甘いな! 私がいつまでも同じ失敗を繰り返すと思うか? 昔日の屈辱は、今日の勝利への糧!」
部長は白衣をバサァと翻し、腰に手を当てて胸を張る。
その自信満々な態度には、ある種の恐怖すら覚える。
「いいか、よく聞け! 前回の『真理の観測者(トゥルー・サイト)』は、確かに私の計算ミスで、少々『真実』を過剰に抽出しすぎてしまった。それは認める」
「少々、どころじゃなかったですけどね。俺の純情が」
「うるさい! だが、天才である私は考えた。眼鏡が『真実(裸)』を見るなら、その『真実』をさらに隠す『絶対的な真実』を用意すればいいのだと!」
部長は勝ち誇った顔で、白衣のポケットから一枚の「布」を取り出した。
それは、何というか……すごく、ピカピカしている。
銀色をベースに、虹色の光沢が混ざった、見るからに怪しいメタリックな生地だ。
「これこそが、我が発明部の粋を集めた新素材――『不可視の真理(アンタッチャブル・トゥルース)』だ!」
「……はあ。何ですか、それは」
「この素材は、あらゆる周波数の電磁波、超音波、そして量子スキャナを完璧に反射・吸収する。つまり、前回の眼鏡をかけても、この布の下にあるものは絶対に『観測』できない! 完全なる防御壁だ!」
先輩は、そのピカピカした布を、自分の胸元に当てて見せた。
「どうだ? これで、私がどれだけ無防備な格好をしていようとも、助手、お前の破廉恥な視線から私の『真実』は守られるというわけだ!」
「……いや、俺のっていうか部長の発明が勝手に」
「バカ者! それでは発明家の名が泣く! 私は技術でねじ伏せるのだ!」
話がとっちらかっていて、ついていけない。
部長は、その『不可視の真理』で作ったという、何だか特撮ヒーローのインナースーツみたいなピチピチした変な服を、白衣の下に着込んできたらしい。
「よし、助手! そこにある予備の『真理の観測者』をかけろ!」
「えぇ……。予備ぃ……?」
「安心しろ! 今回は私の勝利が確定している! さあ、私の完璧な防御機構を、その目に焼き付けるがいい!」
無理やり眼鏡を渡され、俺は渋々それを装着した。
視界がホワイトアウトし、システムが起動する。
『――対象をスキャン中。隠された「真実」を抽出します……』
目の前には、白衣の下に、虹色に光るピチピチスーツを着た部長。
俺の視界の中で、赤いグリッド線が部長を走る。
そして、そのグリッド線が、部長の着ている『不可視の真理』スーツに接触した瞬間――。
『――警告。対象の表面に、強力な「真実隠蔽フィールド」を確認。システムの解析上限を超えています』
おっ、今回はちゃんと機能しているみたいだ。
部長の言う通り、あの変なスーツの下は透過されていない。
……が。
『――緊急プロトコル発動。隠された「真実」を観測するため、システムの出力を最大(MAX)に固定。「概念レベル」でのスキャンを開始します』
「……え?」
無機質な合成音声が、不穏なことを告げた。
概念レベルって、何?
俺の視界の中。
部長の姿が、一瞬、ぐにゃりと歪んだ。
そして。
「……あ、あれ?」
「どうだ、助手! 見えないだろ? 私の完璧な防御壁に、ひれ伏すがいい!」
「いや、部長……。見えないっていうか……」
俺の視界。
そこには、部長の姿はなかった。
代わりに、そこには。
【美少女】
【天才(自称)】
【残念】
【巨乳】
【恥ずかしがり屋】
【失敗すると三日間凹む】
という、彼女の「構成要素(概念)」を記したテキストデータが、空中にプカプカと浮いていた。
「……な、なんだ? その、私の内面を暴くような、気持ちの悪い視線は……」
「いや、部長。見えてないです。体は、一切見えてないんですけど……」
「えっ、じゃあ成功……」
「その代わりに、部長の『概念』が丸裸になってます」
俺は、視界に浮かぶテキストの一つ、【失敗すると三日間凹む】という項目を、じっと見つめた。
「……概念? 何を言っている……」
「えーと、この3日間来なかったのは凹んでた……から?」
「えぁ! ?あー! あーーー!! おい! 読むな! 見るなーー!!」
部長は、顔をこれ以上ないほど真っ赤にして、自分の体を抱え込んだ。
物理的な裸よりも、精神的な裸を見られる方が、彼女にとっては致命的だったらしい。
「この、バカ変態助手ーー!! 内面まで覗き見るとは、最低だ!!」
再び、理科準備室に快音(ビンタ)が響き渡る。
眼鏡が吹っ飛んだ瞬間、視界には「概念」ではなく、真っ赤な顔で涙目になっている部長が戻ってきた。
「違うんです! これは眼鏡が『服で隠せないなら、概念を暴けばいい』と判断しただけであって!」
「やかましい! もう、その眼鏡は廃棄だ! 永久封印だ!」
「……でも部長、これやっぱりすごい発明なのでは……?」
「うるさい! 三日間! 出入り禁止だーー!!」
結局、その日の活動は、前回の倍の気まずさで終了した。
夕暮れの帰り道。
俺は、物理的な「真実」よりも、精神的な「真実」の方が、色んな意味で破壊力が高いことを知った。
……ちなみに、部長。
明日からの三連休はカウントに入れて良いんですよね?
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