真理の観測者
ー/ー「……いいか、よく聞けよ。これが我が発明部の、いや、人類の歴史を塗り替える至高の逸品――『真理の観測者(トゥルー・サイト)』だ!」
放課後の理科準備室。
自称・天才発明家の部長、神代(かみしろ)先輩は、誇らしげに鼻を鳴らして一本の眼鏡を掲げた。
見た目はただの黒縁眼鏡だが、レンズの奥で怪しげな電子回路が明滅している。
「真理の観測者、ですか?」
「そうだ! この世のあらゆる偽装、隠蔽、虚飾を見抜き、隠された『真実』を網膜に直接投影する。例えば、この壁の向こうに何があるか、このブラックボックスの中に何が隠されているか……。全てが丸裸になるというわけだ!」
先輩は相変わらず自信満々だ。
スタイル抜群で、黙っていれば絶世の美少女。だが、その中身は「マッドサイエンティスト」を自称する残念な変人である。
「よし、助手! お前に最初の被験者になる権利を授けよう」
「え、嫌ですよ。このあいだ爆発したし」
「安心しろ、今回は非破壊検査用の超音波と量子スキャナを応用しているだけだ。さあ、装着(インストール)!」
無理やり眼鏡を押し付けられ、俺は渋々それをかけた。
視界が一度ホワイトアウトし、システムが起動する。
『――対象をスキャン中。隠された「真実」を抽出します……』
無機質な合成音声が脳内に響く。
目の前には、白衣を羽織り、偉そうに腕を組んでいる部長。
「どうだ? 何が見える? 壁の裏の配線か? それとも私のポケットの中にある予備のネジか?」
俺の視界の中で、部長の姿に赤いグリッド線が走った。
そして。
「……あ」
「ん? なんだ、そのマヌケな声は。驚きすぎて声も出ないか?」
違う。
驚きすぎて声が出ないのは確かだが、理由が違う。
俺の視界。
そこに映る部長の姿から、白衣が消えた。
続いて、制服のブレザーが透過した。
さらに、ブラウスとスカートが粒子のように霧散した。
「おい、助手。黙りこくって私の顔をじっと見て……。そんなに私の発明が凄かったか?」
そこにあるのは、瑞々しい肌。
しなやかな手足。
そして、あまりに無防備で、あまりに扇情的な――生まれたままの姿の部長だった。
「……部長」
「なんだ?」
「この眼鏡、『隠された真実』を……その、物理的な意味で解釈してませんか?」
「物理的? 当たり前だ。物質の裏側にあるものを映し出すのが……」
部長はそこで言葉を切り、自分の格好と、俺の「視線」が固定されている位置を確認した。
俺の視線は、今、彼女の胸元の「一点」に釘付けになっている。
『――警告。対象の「真実」が多すぎます。更なる詳細を表示しますか?』
脳内の声が追い打ちをかける。やめろ、これ以上詳しく見せなくていい。
「…………助手」
「はい」
「今、何が見えている?」
「……ピンクです。あと、意外と発育が良いんだなっていう、揺るぎない真実が」
一瞬の沈黙。
次の瞬間、部長の顔は、彼女が着けているはずの(俺には見えない)下着よりも真っ赤に染まった。
「この、バカ変態助手ーーーーーー!!」
理科準備室に、快音(ビンタ)が響き渡る。
眼鏡が吹っ飛んだ瞬間、俺の視界には「服を着た怒髪天の部長」が戻ってきた。
「違うんです! これは眼鏡のアルゴリズムが勝手に『服は真実を隠すための偽装である』と判断しただけであって!」
「やかましい! 私の計算式にミスがあったと言いたいのか!?」
「いや、むしろ正確すぎて困るっていうか……」
部長は顔を真っ赤にしながら、必死に胸元を隠すように抱え込んだ。
「没収だ! この発明は封印……いや、破棄する! 恥死(ちし)レベルの発明なんて、学会に発表できるか!」
「……でも部長、それ、特許を取れば億万長者ですよ?」
「うるさい! さっさと壊せーーーーーー!」
結局、その日の活動は強制終了となった。
夕暮れの帰り道。
俺は、眼鏡越しに焼き付いてしまった「世界の真理」を思い出し、少しだけ遠い目をした。
……ちなみに、部長。
明日からどんな顔をして部室に行けばいいのか、それだけ教えてくれませんかね?
放課後の理科準備室。
自称・天才発明家の部長、神代(かみしろ)先輩は、誇らしげに鼻を鳴らして一本の眼鏡を掲げた。
見た目はただの黒縁眼鏡だが、レンズの奥で怪しげな電子回路が明滅している。
「真理の観測者、ですか?」
「そうだ! この世のあらゆる偽装、隠蔽、虚飾を見抜き、隠された『真実』を網膜に直接投影する。例えば、この壁の向こうに何があるか、このブラックボックスの中に何が隠されているか……。全てが丸裸になるというわけだ!」
先輩は相変わらず自信満々だ。
スタイル抜群で、黙っていれば絶世の美少女。だが、その中身は「マッドサイエンティスト」を自称する残念な変人である。
「よし、助手! お前に最初の被験者になる権利を授けよう」
「え、嫌ですよ。このあいだ爆発したし」
「安心しろ、今回は非破壊検査用の超音波と量子スキャナを応用しているだけだ。さあ、装着(インストール)!」
無理やり眼鏡を押し付けられ、俺は渋々それをかけた。
視界が一度ホワイトアウトし、システムが起動する。
『――対象をスキャン中。隠された「真実」を抽出します……』
無機質な合成音声が脳内に響く。
目の前には、白衣を羽織り、偉そうに腕を組んでいる部長。
「どうだ? 何が見える? 壁の裏の配線か? それとも私のポケットの中にある予備のネジか?」
俺の視界の中で、部長の姿に赤いグリッド線が走った。
そして。
「……あ」
「ん? なんだ、そのマヌケな声は。驚きすぎて声も出ないか?」
違う。
驚きすぎて声が出ないのは確かだが、理由が違う。
俺の視界。
そこに映る部長の姿から、白衣が消えた。
続いて、制服のブレザーが透過した。
さらに、ブラウスとスカートが粒子のように霧散した。
「おい、助手。黙りこくって私の顔をじっと見て……。そんなに私の発明が凄かったか?」
そこにあるのは、瑞々しい肌。
しなやかな手足。
そして、あまりに無防備で、あまりに扇情的な――生まれたままの姿の部長だった。
「……部長」
「なんだ?」
「この眼鏡、『隠された真実』を……その、物理的な意味で解釈してませんか?」
「物理的? 当たり前だ。物質の裏側にあるものを映し出すのが……」
部長はそこで言葉を切り、自分の格好と、俺の「視線」が固定されている位置を確認した。
俺の視線は、今、彼女の胸元の「一点」に釘付けになっている。
『――警告。対象の「真実」が多すぎます。更なる詳細を表示しますか?』
脳内の声が追い打ちをかける。やめろ、これ以上詳しく見せなくていい。
「…………助手」
「はい」
「今、何が見えている?」
「……ピンクです。あと、意外と発育が良いんだなっていう、揺るぎない真実が」
一瞬の沈黙。
次の瞬間、部長の顔は、彼女が着けているはずの(俺には見えない)下着よりも真っ赤に染まった。
「この、バカ変態助手ーーーーーー!!」
理科準備室に、快音(ビンタ)が響き渡る。
眼鏡が吹っ飛んだ瞬間、俺の視界には「服を着た怒髪天の部長」が戻ってきた。
「違うんです! これは眼鏡のアルゴリズムが勝手に『服は真実を隠すための偽装である』と判断しただけであって!」
「やかましい! 私の計算式にミスがあったと言いたいのか!?」
「いや、むしろ正確すぎて困るっていうか……」
部長は顔を真っ赤にしながら、必死に胸元を隠すように抱え込んだ。
「没収だ! この発明は封印……いや、破棄する! 恥死(ちし)レベルの発明なんて、学会に発表できるか!」
「……でも部長、それ、特許を取れば億万長者ですよ?」
「うるさい! さっさと壊せーーーーーー!」
結局、その日の活動は強制終了となった。
夕暮れの帰り道。
俺は、眼鏡越しに焼き付いてしまった「世界の真理」を思い出し、少しだけ遠い目をした。
……ちなみに、部長。
明日からどんな顔をして部室に行けばいいのか、それだけ教えてくれませんかね?
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